a flood of circle デビュー15周年記念公演!序盤からクライマックス級の熱狂空間を生み出した、日比谷野音ワンマンをレポート
Photo:Viola Kam(V’z Twinkle)
Text:高橋智樹Photo:Viola Kam(V’z Twinkle)
デビュー15周年を迎えたa flood of circleが8月12日、東京・日比谷野外大音楽堂でワンマンライブ『a flood of circleデビュー15周年記念公演 “LIVE AT 日比谷野外大音楽堂”』を開催した。約10年ぶりに臨んだ自身2度目の日比谷野音ワンマンのステージは、音楽シーンの「常識」や「正解」に目もくれず己のロックンロールを研ぎ澄ませるAFOCの存在証明のような、灼熱のアクトだった。
「“どこまでも行ける”っていう言葉が、全然染み込んでこなくて、最近は。“どこまでも行けない”ことが分かってきてるから。でも、だから人生面白くなってきたんだよね。分かる?どこまでも行く必要ない。行けるところまで行くだけなんですよね」……日比谷野音満場のオーディエンスに佐々木亮介(vo/g)が語りかけた言葉が、肌と心に焼きつくようなこの日のライブの凄味を何よりも明快に象徴していた。そこにあったのは、「デビュー15周年記念ライブ」という言葉から想起される祝祭感よりもむしろ、現実に打ちのめされ転がり回る己の姿さえも爆発的なロックンロールへと昇華してきたバンド=a flood of circleの生き様、そして「その先」へのリアルな闘争精神そのものだった。
今年4月から7月まで実施してきた全国ツアーのタイトル『CANDLE SONGS -日比谷野外大音楽堂への道-』にも表れている通り、並々ならぬ決意とともに満場の日比谷野音の舞台に立ったa flood of circle。開演時刻の17:00を過ぎても30度近い気温と高い湿度、という過酷なコンディションでも革ジャンを着てステージに登場した佐々木に、そして気迫十分の渡邊一丘(ds)・HISAYO(b)・アオキテツ(g)の姿に、惜しみない拍手喝采が降り注ぐ。「おはようございます!a flood of circleです。Are you ready?」という佐々木のコールとともに、2009年のデビューシングルから響かせた「Buffalo Dance」でいきなり客席一面のクラップを呼び起こし、野音を歓喜と狂騒のレッドゾーンへと導いてみせる。そこへ「博士の異常な愛情」、さらに「Human License」「Blood Red Shoes」……とキラーナンバーが立て続けに披露され、序盤からクライマックス級の熱狂空間へと突入していった。
じっとしているだけでも汗が吹き出るほどの熱気の中、終始革ジャンを脱ぐことなくギターをかき鳴らし、ワイルドな絶唱を轟かせる佐々木の鬼気迫る佇まい。デビュー以降のキャリアを高純度で総括した、本編だけで30曲に及ぶ長尺のセットリスト。そして、道半ばの自分たちもロックシーンの現状もシビアに射抜いてみせる、MCでの批評的な視線……。
ロックというジャンルがすっかり表舞台のエンタテインメントとして市民権を得た2024年という時代にあって、a flood of circleのライブには今もなお、獰猛なまでに燃え盛る反骨心と問題意識とが渦巻いているし、その揺るぎないアティテュードには15年分の強度と硬度が刻み込まれている。その在り方は、音楽シーンにおけるサクセスストーリーの「常識」や「正解」からは遠い在り方かもしれない。しかし、時折マイクスタンドごと舞台下手や上手に移動しながら佐々木が叫び上げる歌も、4人が一丸となって繰り出すロックンロールの激走感も、観る者すべての魂とせめぎ合い高め合うスリリングな生命力を確かに備えていた。
高らかなクラップをHISAYOがさらに煽ってみせた「Dancing Zombies」。都心の夏空をオーディエンスの《Ready, Steady, GO》のシンガロングが貫いた「GO」。ギターを置いた佐々木が右手にマイク、左手に緑茶割りを携えて渾身の歌を突き上げた「Black Eye Blues」。《なけなしの命賭けて 全速力で進んでいけ》の部分を《なけなしの命賭けて 野音までやってきた》にアレンジして、大歓声&大合唱を巻き起こした荒馬ロックンロール「ベストライド」……。開演からここまで12曲ほぼノンストップで駆け抜けたところで、佐々木がポツリと「暑いですので……アルコール分を忘れずに」。
客席がどっと沸き返る。
ライブ中盤、アコギに持ち替えた佐々木が「月面のプール」のイントロをオフマイクで披露した歌声が、周囲の木々から響く蝉の声と共鳴していたのも、野音ならではの印象的な名場面のひとつだった。「青臭くなくて面白い人って、これまで見たことないんだよね、ひとりも。みんな、すごく真っ青で……すてきですよ」という言葉とともに、佐々木アコギ編成でもう1曲演奏したのは「BLUE」。《選んだ道のりが 正しかったのかは 最期に分かるさ》……AFOCの核心を決然と言い当てた一節が、ひときわ深く強く心に迫ってきた。
「“俺たちはどこに行くのか?”とか“バンドいつまでやるのか?”とか、ふと思った時に……俺たち結局、死んだ時に“この人なりに成長しました”みたいな弔辞を読まれるだけなんだ、って思って。どうせ“成長しました”なのか俺、と思って。だったら、生きてる内ぐらいは成長したくないなと思って」
MCでそんなふうに語った佐々木の「OK、行けるところまで行こう!」という呼びかけに応えて、「花」では観客の熱い歌声と拳が野音一面に突き上がり、「New Tribe」「ミッドナイトクローラー」「Blood & Bones」と連射されるアンセムの数々に、まだ暑い野音の夕景がなおも熱を帯びていく。
渡邊・HISAYO・アオキ3人セッションのコーナーで「10年ぶりに野音に帰ってきたわけですけど……暑いよ!」と感慨を叫んでいた渡邊。「今日はお前ら野音で、月曜日だ!最高だな!」と喜びを露わにしていたのは、4人の中で唯一「AFOC野音」初体験となるアオキテツ。そんなメンバーの奮い立つ情熱と、「白状」の渇いた歌詞をさらにアレンジして《愛も 夢も 平和も ロックンロールも 続くもんだと思ってたなんてね》と生ピアノ弾き語りで演奏する佐々木の歌声とが、まったく矛盾なく存在しているのも、波乱に満ちた歴史の果てに“今”を迎えているAFOCの連帯感の形なのだろう。日が落ちてようやく涼しい風が吹き始めた野音に《くたばるとこまで/行こうぜ》という佐々木の切実な歌が広がる。
「花降る空に不滅の歌を」から「月夜の道を俺が行く」「本気で生きているのなら」……とライブはいよいよ終章へ向けて高まっていく。後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のプロデュースによるツアー表題曲と言うべき楽曲「キャンドルソング」に続いて披露されたのは、ホリエアツシ(ストレイテナー)をプロデューサーに迎えたシングル曲「ゴールド・ディガーズ」。《武道館 取んだ3年後 赤でも恥でもやんぞ》と昨年9月に大きな目標をぶち上げたフレーズを「武道館取るぞ2年後!武道館やるぞ2年後!まだ取れないかもしれないけど……」とアップデートして叫び上げる佐々木に、割れんばかりの大歓声が湧き起こった。本編ラストはバンド初期から響かせ続けた2曲「プシケ」「シーガル」で、野音にダイナミックなシンガロングの輪を描き出してみせた。
「えっと……アルバム出します!」
アンコールは佐々木の突然の発表で幕を開けた。「でも、ちょっと自信なくて、歌詞。歌入れる日を2日飛ばして。明後日3曲録るんだけど、まだ一文字もないの」と驚きの内幕を明かしつつ、さらにZepp DiverCity公演を含む新たなツアーの開催も発表。夜の野音がなおも熱く高ぶっていく。
「なんで俺、武道館やりたいのかな?と思って。正直、あんまりカッコいい理由があるわけじゃなくて“みんなが持ってるオモチャ”だからかもしれない。武道館に思い入れがあるかっていうと特にないんだけど、なんかそれをやらずに死ねないっていう気持ちだけは持ってるんですよね」と佐々木がバンドの“これから”への思いを覗かせたところで、「今日に相応しい曲だと思うんで……」と新曲「虫けらの詩」(配信中)を披露。
炎天下で3時間近く歌い続け、さすがに疲労困憊状態の佐々木が、それでも懸命に《15年叫んでる 同じようなメロディー/誰もが光へ飛んでいっても/闇に残った一匹》のフレーズを絞り出す姿に、抑え難く胸が震えた。「じゃあ……死ぬほど元気でね!」という佐々木のコールとともに放たれたこの日最後のナンバーは「Honey Moon Song」だった。躍動感に満ちた観客のシンガロングが、都心の夜空に爽快に広がっていった。
この日に初披露された新曲「虫けらの詩」も収録されるa flood of circleのニュー・アルバムは11月6日にリリース予定。また、アルバムのリリースツアーとして、11月28日から来年6月まで34カ所・計37公演に及ぶ全国ツアー『a flood of circle Tour 2024-2025』が開催される。
<公演情報>
『a flood of circleデビュー15周年記念公演 “LIVE AT 日比谷野外大音楽堂”』
2024年8月12日(月・祝) 東京・日比谷野外大音楽堂