【MLB 大谷翔平】投げない1カ月で見えた二刀流の現在地 防御率1.79とOPS.952が示す「選べる強さ」

8月8日(日本時間9日)、フェニックスのチェイス・フィールド。試合前のグラウンドで、大谷翔平が久しぶりにボールを投げた。ブルペンでプライオボールを投げたあと、グラウンドに移動してキャッチボール。距離は90フィート(約27メートル)まで伸ばした。投げる姿を見せたのは、フィラデルフィアでブルペンに入った7月22日以来のことだ。

たった27メートル。それでも、この日の一投は今季のドジャースにとって小さくないニュースとして扱われた。理由は、大谷が「投げていなかった1カ月」の中身にある。


防御率1.79…それでも1カ月、マウンドから遠ざかった


今季の投手・大谷は14先発で8勝2敗、防御率1.79。数字だけを見れば、ローテーションの中心にいて何の不思議もない。

だが最後の先発登板は7月3日のパドレス戦。その後は左膝の炎症が長引き、実戦のマウンドから離れた。7月22日にブルペンで31球を投げたものの膝の状態がやや悪化し、25日に予定していた2度目のブルペン投球は見送り。28日には右の二の腕にも張りがあることを本人が明かした。

このとき、大谷はこう語っている。

「まだ7月だから。
これが8月や9月なら話はまた違ってくる」

シーズンの残りから逆算していることを、本人がはっきり口にした発言だった。

打者の数字は、落ちていない


投手として止まっている一方で、打者・大谷の数字は落ちていない。

打者としては110試合に出場し、打率.296、26本塁打、70打点、OPSは.952(8月9日の試合前時点)。OPSはナ・リーグ1位、打率はリーグ9位に位置する。8月に入ってからの7試合に絞れば打率.385、3本塁打、OPS1.253(8日終了時点)と、むしろ上向いている。

ロバーツ監督は「膝が影響するのは投球時だけで、打撃や走塁には関係ないと本人から聞いている」と説明。実際、大谷は先頭打者として先発出場を続け、二塁打で三塁を狙う場面も見せている。

ただし、ここは慎重に書いておきたい。
「投げない期間に打撃が上向いた」という時系列は事実だが、7試合という区間は短く、これをもって「登板が打撃の足を引っ張っていた」と結論づけられるデータではない。相手投手も球場も入れ替わる。言えるのは、少なくとも投手としての離脱が打撃の数字を押し下げてはいない、というところまでだ。

「9月中旬」という、現実的な締め切り


復帰プランについて、ロバーツ監督は具体的な線を引いている。

「彼の調整次第だが、マイナーで十分なリハビリ登板を行う余裕はない。昨年と似たような形になると思う。9月中旬になれば、もっとはっきり見えてくるだろう」

マイナーでの調整登板を挟む時間はない。つまり、キャッチボールからブルペン、そして実戦へという段取りを、メジャーの試合そのものを使って進めることになる。
これは2025年に大谷が通った道と同じだ。あのときも復帰初登板は1イニングだけで、そこからイニングと球数を少しずつ積み上げていった。

仮にレギュラーシーズン中に戻ってきたとしても、通常の先発投手としてではなく、複数イニングを投げるオープナーとしての起用が有力とみられている。ポストシーズンでも同様の形が採られる可能性がある。

スクーバル加入が変えた「前提」


もう一つ、今季の大谷を考えるうえで外せないのが8月1日に報じられ、3日に正式発表されたタリク・スクーバルの獲得だ。

2年連続でサイ・ヤング賞に輝いた左腕は、今季ここまで16登板で7勝5敗、防御率2.79。5月に左肘の骨片除去手術を受けて一時離脱したが、6月には復帰していた。ドジャースは右腕リバー・ライアン、ザイヒール・ホープ外野手、右腕ブレイディ・スミスの3選手を放出し、1対3のトレードを成立させている。


山本由伸、佐々木朗希が開幕からローテーションを守るなかに、この左腕が加わった。ここに大谷の名前がなくても、先発陣は成立する。

これが意味するところは小さくない。かつて大谷の登板は、チームにとって「必要」だった。いまは「上積み」に位置づけが変わっている。米メディアからは、故障が癒えない場合にチームが二刀流について難しい決断を迫られる可能性、つまり10月を打者専念で迎えるシナリオも指摘されている。

裏を返せば、無理に急ぐ理由がない。90フィートのキャッチボールのあとに大谷が口にしたのも、「強い強度でやって後退するのが一番よくない」という言葉だった。


二刀流の「形」そのものが更新されている


かつて二刀流という言葉が指していたのは、先発として長いイニングを投げ、その日も打席に立つ姿だった。だがいま進んでいるのは、別の設計に近い。1試合あたりの登板イニングを絞り、シーズン全体では登板数を管理し、そのぶんを10月の数試合に振り向ける。2025年のナ・リーグ優勝決定シリーズ第4戦、大谷は投げては七回途中まで無失点で10奪三振、打っては3本塁打という試合を残した。長いイニングを毎週投げ続けなくても、最も価値の高い1試合で二刀流は成立する——そのことを、本人が最も強い形で証明している。

32歳。10年契約の3年目。二刀流は「毎日やること」から「必要な日に成立させること」へと、その定義を書き換えつつある。


チェイス・フィールドでの90フィートは、その設計図の1行目にすぎない。ここから9月中旬までにどこまで距離とイニングを伸ばせるか。今季の大谷の物語は、本塁打の数よりも、その進み方のほうに見どころがある。

※記録・コメントはいずれも2026年8月9日(日本時間)時点。

文:SPORTS BULL(スポーツブル)編集部

提供:

スポーツブル(スポブル)

この記事のキーワード