心理学とユニフォーム 【彼氏の顔が覚えられません 第3話】
でも、私に恋はムリだなって、決定的だったのが高校のとき。帰り道でいつも一緒になる男子がいた。野球部の子。ユニフォームに、大きく「川上」って名前が書いてあった。無口で、他の男子に連れられながら、
「こいつ、ヤマナシと一緒に帰りたいんだって」
そう紹介されたときに、体はたくましいのに、恥ずかしそうにうつむく姿が小さな男の子みたいで、かわいくて。
顔は覚えられないけど、いい人だな、せめて名前だけは覚えよう。何日も続いたあとで、ちゃんと感謝の言葉を言わなきゃって思って。
「えと、カワカミくん、だよね。
いつも一緒に帰ってくれて、ありがと」
って、あるときそう言ったら、
「おまえ、マジで俺のこと、カワカミだって思ってたの?」
……え、どういうこと?
そう思ってるうちに、彼はため息混じりに、ユニフォームをつかみながら、ネタバラシを始めて。
「これ、カワカミから借りただけ。俺はアサクラ。で、昨日おまえと帰ったのは、タケダ」
「それって、つまり?」
「おまえ、からかわれてたんだよ、俺たちに」
……そっか。
全員野球部で、見た目もあんまり変わらなかったし。声を出さないで、ユニフォームが同じだったら、私、まったく気付かないんだ。
からかわれてたってわかっても、そういうことを思いつく彼らの発想が、面白いなって、感動さえしたのに。
「すぐ気付くと思ってたけど。
さすがに、あきれた。おまえ、いいかげんイタイよ」
そんな風に、カワカミ君のユニフォームを着たアサクラ君に言われて初めて、ああ、私ってば、最低なんだなって。
顔覚えられないのって、ホントに「イタイ」んだ、私。このままじゃ、男の子と恋する権利もないんだな。そんなことさえ思えて。
なのに今じゃ、カズヤが隣にいて。
「カズヤって、怒んないよね」
「え……なにが?」
ノートと教科書を、カバンの中にしまいながら、カズヤは言う。
「いや、だって、さっき私、カズヤのこと気付かなかったのに、怒んなかったじゃん」
「ああ、だって俺、B型だから」
ケロッ、と。
こともなげに言って。
(つづく)
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