音楽一家 【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第2話】
「ママー、ママだって、若いときはおうちでピアノ弾いて、おばあちゃんにうるさいって言われてたんじゃないの」
「そうね、そうだったわ。でも、今はお隣さんが近いから、そこはご配慮しなくちゃね」
「私が売れたら、お隣さんも花束持ってくるって」
桃香は音楽があふれる家で天真爛漫に育っていた。
1年前の春から働き始めた会社は横浜にある音楽機器の会社。音楽好きの社員ばかり働いているので常に音楽に触れていられる。定時で終わる日と土日のボーカルレッスンの後は必ず自由が丘に遊びに来ることにしている。
同僚の鮎子は「せっかく自宅が横浜にあるんだから横浜で遊べばいいじゃない。わざわざガオカに出かけなくても」とことあるごとに言う。
そう合理的に割り切れるものではない、自分にとって自由が丘が第2のホームタウンなんだ、この街にいるとうきうきするし、いやなことを忘れる。
創作意欲も湧く。「感じいいモノ」が無数にある、その「感じいいモノ」を歌にすると、自分まで感じよくなる。そう信じていた。
(続く)