ストライカー 【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第3話】
脚を引きずりながら歩くのを見られたくないのか、バイト先と自宅の往復以外は出かけない。人が変わったようにおとなしくなった。人付き合いをしなくなり暗い性格になった慎吾に家族は気をつかい続けていた。そんなふうにひっそり暮らしていた慎吾が桃香にだけは心を開いた。
鮎子の家に遊びに行った時のことだ。家族で一緒にケーキを食べた。桃香が自由が丘のスイーツフォレストで買ってきたかわいらしいフルーツケーキ。洋梨と杏のコンポがジュレに包まれてのっかているおいしそうなケーキだった。
ケーキを口に運びながら桃香は無口な慎吾にいろいろ話しかけてみた。
サッカーはいつ初めたのかとか、もうしないのかと、家族の間ではタブーな話題から切り出した。下を向いてむっつりしていた慎吾に畳み掛けるように話し続けた。鮎子も母親もハラハラしながら慎吾を見ていた。
桃香は気にもしないというように、バイト先が自由が丘なんて最高だとうらやましがり、コミックは何冊くらいあるのか、自分は恋愛コミックしか読んだことがないとか、歌手になる夢を持ってるとか一方的に話しまくった。すると、ケーキを食べ終えた慎吾が少しだけ笑顔を浮かべて意外な言葉を口にした。
「桃香さんが好きそうな恋愛コミックあるから、一度お店に来てください。自由が丘が好きなんでしょ。
ありがと、このケーキすごく旨い。」
(続く)