ヘチマとシャネル【彼氏の顔が覚えられません 第5話】

それに、なんだろうこの顔。ふたりとも目を細めて、口のはしをキュッと上げてる。怒ってる…じゃないよな。笑ってる、っていうんだろう。感情の区別も難しい。

そんな彼らを見てると、ほんとうにこの人たちが自分の家族かどうかも怪しく思える。こんな顔だっけ。そう認めるのもなんか難しくて、私にとって、家族ってなんなのかすらわからなくなってくる。


ただ、物心ついたときから母と他人の区別はできた。足が悪く、しょっちゅう杖をついてたから。そんな母が、女手ひとつで私を育てるのはものすごい苦労だったろう。

母を支えるために、高校出たら私、働かなきゃかもって考えた時期もあった。けど、ちょうどいまから二年くらい前。マッチョの叔父さんが居候しだして、

「ねえちゃんのことは俺が支えるから、イズミちゃんは気にしないで、好きな大学行きなよ」

って言ってくれたから、よし、じゃあ東京行こ、って決めて。

なんで東京かと言えば、出版系の仕事に就きたかったから。とくに、ファッション系。
顔がわからないから、コスメとかには興味なかった。服には、やたら興味があった。他の人の数十倍かもしれない。いろんなブランドの新しい服や帽子、バッグなんかを、自分がデザインした雑誌で世に広めていくことが夢。

…なのに、そんな私が服をきれいに片づけられない。ちゃんと、シャネルとかグッチとか、ブランドもの買えたら大事にするから。

そう書いて、日記を締めくくる。そろそろ学校行く時間だ。


ラジオからは、テイラー・スウィフトの“Shake It Off”が流れてる。

(つづく)

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