交通事故とファーストキス【彼氏の顔が覚えられません 第7話】
毎年クリスマスの時期によみがえる、幼いころの記憶がある。小学1年生のとき、家でサンタさんと鉢合わせしたときのこと。
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夜中、トイレ行きたくなって。部屋に戻ると、大人の男性が私のベッドに何か置いてて。
「パパ?」
そう聞いたのはスーツ着てたからなんだけど。ただ、口元に白いヒゲをたくわえていて、
「ち、ちがうよ…サンタさんだよ、ホホウ」
そう低い声で言って、慌てて部屋から出ていって。
翌朝、「きのうイズミの部屋に変な人いたよー」って母に言ったら、
「へぇ、サンタさんかしら」
「ううん、なんかねぇ、スーツ着てパパみたいだったよ」
言うと、父が慌てて、
「そ、そんなはずないよっ。パパみたいな顔してたかい?」
言われて、父の顔をじいっと見た。
ちょっと思い出そうとしたけど、できなかったし、少なくとも父に白いヒゲはなかった。
「ちがーう。やっぱりパパじゃなかったみたい」
だから中途半端な変装だった父にも、当時は本気でそう答えた。
父は翌年のイブの日、交通事故で死んだ。私のためにプレゼントを買おうと街に繰り出していたとき、飲酒運転の車が突っ込んできたのだ。