交通事故とファーストキス【彼氏の顔が覚えられません 第7話】

毎年クリスマスの時期によみがえる、幼いころの記憶がある。小学1年生のとき、家でサンタさんと鉢合わせしたときのこと。

交通事故とファーストキス【彼氏の顔が覚えられません 第7話】

画像:(c)jun.SU. - Fotolia.com


夜中、トイレ行きたくなって。部屋に戻ると、大人の男性が私のベッドに何か置いてて。

「パパ?」

そう聞いたのはスーツ着てたからなんだけど。ただ、口元に白いヒゲをたくわえていて、

「ち、ちがうよ…サンタさんだよ、ホホウ」

そう低い声で言って、慌てて部屋から出ていって。

翌朝、「きのうイズミの部屋に変な人いたよー」って母に言ったら、

「へぇ、サンタさんかしら」

「ううん、なんかねぇ、スーツ着てパパみたいだったよ」

言うと、父が慌てて、

「そ、そんなはずないよっ。パパみたいな顔してたかい?」

言われて、父の顔をじいっと見た。
ちょっと思い出そうとしたけど、できなかったし、少なくとも父に白いヒゲはなかった。

「ちがーう。やっぱりパパじゃなかったみたい」

だから中途半端な変装だった父にも、当時は本気でそう答えた。

父は翌年のイブの日、交通事故で死んだ。私のためにプレゼントを買おうと街に繰り出していたとき、飲酒運転の車が突っ込んできたのだ。


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