傷をつつく指 【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第7話】
ふたりの関係は日ごと親密になっていく。鮎子は、心を閉ざしていた慎吾がだんだん自宅のリビングにいる時間が長くなるのを肌で感じていた。ソファの上にサッカー関連の雑誌が置いてあることもあった。恋はカチコチに固まった心をやさしくほぐす。家族が踏み込めなかったささくれた部分に光を導く。「ありがとう、桃香」口には出さなかったが、会社で桃香に会うたびに感謝した。
ある日、桃香は詩を書いていた。「明日は晴れだよ」「音符がフルフル跳ね回るね」「ジャンプして、ハっとするようなブルースカイ」…コミックの主人公を励ますような言葉を考えているうちに、その対象が慎吾に変わっていった。
慎吾こそ、日差しがふりそそぐコートで好きなボールと一緒に走り回って欲しい。ブルースカイをバックにゴールに向かって右足でボールを蹴り入れる。しばらく詩を走り書きしたノートを見つめていたが、ヨシっと自分にだけ聞こえるようにささやき、慎吾にメールを書いた。
「慎ちゃん、サッカー、もうしないの? 私の高校時代の友達がフットサル部作ってメンバー募集してるよ。社会人、学生で月3回、夜の練習に来れる人って。下手でも歓迎だって!」
ドキドキしながら送信ボタンを押した。慎吾の傷ついている部分を、人差し指でそっと押して「痛い?」と聞くようなそんな心境だ。
(続く)【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週火曜日配信】
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