元旦とジェンガ【彼氏の顔が覚えられません 第8話】

大晦日に一緒に過ごすはずのカズヤが、急に「バイト入っちゃって」と連絡してきたのと、恋人と過ごすはずの2年の先輩が、とつぜん「フラれたんで、みんなで宅飲みしない?」と誘ってきたのは、ほぼ同時期だった。

先輩の住むアパートの部屋に行ってみたら、最初は私の他に二人。それぞれ、「紅白」が終わったころぐらいに出て行った。「なんだよー、あとちょっとでカウントダウンじゃねぇかー」って先輩が引き止めるのも、「終電が」って断って。

じゃあ、私も帰んなきゃって思ってたら、「わあぁん、イズミちゃんはぁ…一緒にっ…カウントダウンしてくれるよねえぇ~っ! じゃなきゃ、俺っ……死ぬ!」って訴えられたのが、マジに聞こえたから。ひょっとしたら顔は笑ってたのかもしれないけど、そういうのって私、わからないから。ともかく気づかないで帰って、自殺なんかされたら困るから。

なんていろいろ言い訳するように考えてみたけど、本当のところは自分でもよくわかんない。
帰って一人で新年迎えるのもさびしかったのかも。だからって彼氏以外の男と、二人きり一夜を明かすのはどうなのか。

「なんか俺、酔った勢いで変なこととかしなかった?」

不安げな声で尋ねる先輩。

「だいじょうぶですよ」

「そうか、よかっ…」

「胸をさわろうとしたとき、ちゃんと止めました」

「ダメじゃん」

うつむき、はぁ~っ、と長い息を吐き出す先輩。頬にできた、私の拳の形をしたあざは、少し変色して紫色になりかけていた。内出血させちゃうくらいなんて、私も酔っていたに違いない。未成年だから飲んではないけど、その場の雰囲気とかで。

「…その、ごめんね」

「いいえー」

謝る先輩から目をそらしつつ、私は答えた。


床には、お菓子の空袋やら、ペットボトルやら、昨晩遅くまで先輩と二人で積み上げては崩しを繰り返していたジェンガの一部やらが転がっている。昨夜のカウントダウンから点けっぱなしになっているテレビは、元旦のお笑い特番を流していた。

(つづく)

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