霧のかかった心【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第8話】

慎吾からすぐには返事がなかった。

霧のかかった心【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第8話】
慎吾は、サッカーに関係する事象を自分の中で封印したかったし、実際3年間はそうしてきたのだ。思い出すと胸が苦しくなる。それでも思い出さずにはいられない。ボールを蹴った時、足首にボールが一瞬吸い付いてピタっと止まる。

手の先から足の先から背骨から、どこからともなく湧いて出てくる力すべてがボールに向かって集まってくる。そしてターゲットを定めて豪速球と化したボールがゴールを割って入る。視線はボール追いかける。
視線にも念を込める。

「飛べ。俺の定めたターゲットに向かって」と。

そしてネットが揺れた時の無性にスカっとする感覚。仲間にナイスパスを出すと全身で受け止めてもらえる嬉しさ。信頼感。ゴールを決めると、今までの苦しかったすべてのことが一気に帳消しになるかのような爽快気分。


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