湯気の向こうの笑顔【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第23話】
「ok!」
陶磁のポットで出された異国のお茶はあたたかく、ふたりの距離をさらに縮めてくれる気がする。湯気の向こうに慎吾の嬉しそうな顔が見える。慎吾と一緒に異国を旅したら楽しいだろうなという思いがよぎった。するとそこに冬馬の顔がよぎる。背中にもたれかかってきた時の暖かさ。はじけるようなキス。桃香は紅茶のカップをじっと見つめる。言葉が消える。
慎吾が「どうかした?」とつぶやく。慎吾のはにかんだようなほほえみは、桃香の気持ちを惑わせる。男の子に対して言う言葉ではないが純粋にかわいくていとおしい。慎吾といれば慎吾が好き、冬馬といれば冬馬が好きなんて、ひどい女だと、自分が嫌になる。鮎子が怒るのは当然だ。
「あのさ、鮎子、なんか言ってた? 喧嘩…したんだ」
慎吾が驚いた顔で言う。
「そうなんだ。何も聞いてない。
僕、夜中に帰るから会ってないんだ」
「そっか…」
「だいじょぶ?」
「うん、私が反省しなきゃいけないの。今度あやまる」
(続く)
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