綱渡りのような心【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第24話】
「鮎子とお揃いにしたいな。オソロの手袋で通勤したい」
「へえ、乙女だね。いいよ。ふたつ買ってひとつは姉貴に」
その時、慎吾が初めて桃香の手を握った。
「毛玉ついてるなら、はずせば? 僕があっためてあげる」
子供っぽいと思っていた慎吾が大人に見えた。手袋をはずして、ふたりは手をつないだ。かじかんだ指先に慎吾の体温があたたかかった。恥ずかしがり屋の慎吾は目が合うとフっと横にそらす。
そこがたまらなくかわいらしい。
道の向こうからも手をつないだカップルが歩いて来る。ニット帽をかぶってお下げ髪をした女の子はこの前読んだ恋愛コミックに出てくる主人公のように見える。雑貨屋の前で立ち止まってワゴンの中を楽しそうに覗いている。珈琲カップを見ているようだ。
彼氏の方がお下げ髪をひっぱったり、肩を抱いたり、ほほえましい。桃香たちもあの恋人達の仲間入りをした感じ。恋するカップルに自由が丘はとてもやさしい。
しかし桃香は綱渡りをしているような不安定な気持ちで自由が丘を歩いた。
(続く)
【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週月・水・金曜日配信】
目次ページはこちら