寂しい猫の歌【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第29話】
「ママ、何弾いてんの?いい曲ね」
「陽平と出会った頃、陽平がプレゼントしてくれた曲。作詞作曲は陽平っていう凄い曲よ」
「まじで? パパ、そんなきざなことしたんだ。今はおっちゃんなのにね」
さびの部分になると不安定な音の運びが、切ない気持ちを表している。どうしていいのかわからないような切ない旋律。「ねえ、愛の歌なのになんでそんな寂しいメロディなのかな」
フフっと美里が鍵盤をたたきながら笑った。
「ママには好きな人がいたの。お付き合いしてた。陽平は後から出てきて、ママを略奪。
だから、煮え切らないママを思って書いたメロディなの。ロマンチックでしょ」
「そうなんだ。初耳。パパが帰ってきたらひやかしちゃおう」
「で、ママはその曲で陥落ってことね」
美里がにっこり微笑んだ。
「ママ、いま、私、恋に悩んでるんだけど落ち着いたら話すね…」
音は不思議だ。気持ちをそのまま織り込むことができる。言葉にならないもどかしさを相手に伝えることができる。キザな父親とロマンチックな母親。
音が好きな両親の子供に生まれてよかったと感じた。
(続く)
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