ロン毛と中間テスト【彼氏の顔が覚えられません 第29話】
「ちょっ…いきなり何をおっしゃるのっ!? ハレンチなっ! わたくしと先輩は、そういう邪な間柄じゃありませんことよっ…もっと神聖な…魂と魂で惹かれあう運命的な間柄なのですわっ!!」
魂で惹かれあう、ねぇ。ピュアすぎて、何を勘違いしているのやら。「またコモリちゃんが追っかけてきたよー…何とかしてよー…」と先輩は毎日のように私にLINEしてくる。惹かれあうどころか、ただの一方通行だ。
勘違いは、私に対してもある。あの先輩の過去を聞いた日。私がふたりを置いて先に出ていってしまったのは、コモリに対して気を遣ってのことだったと思っているみたいだ。
「タナカ先輩と巡り合わせてくださったこと、そのあとふたりにしてくださったこと。
一生、感謝しきれませんわ」なんて。やれやれ、とは思わないけど。初対面のときみたく恨まれるよりはマシか。
これからしばらく彼女とつるむことになるのだろうか。かつて、ユイやカズヤとつるんでたみたいに。やがて彼女もまた私の元を離れるときがくるのだろうか。
今は彼女の方から寄ってきてくれる。近くまできてくれて、見覚えのあるおでこが判別できたら、あ、コモリだ、とわかる。
もし彼女の方から寄ってこなくなったら、二度と彼女を判別できない。
私という人間はそんな風に、どうしようもない問題を抱えている。ひょっとしたらユイもカズヤも、実はすぐそばにいるのかもしれない。気づかないだけだ。私が思うより世界は狭いのかもしれない。いたずらに、広く広く感じているだけだ。
例えば、正面の席に座っているあのロン毛の男性。髪型さえ変えれば、体型はカズヤそのものだ。
あ、目が合った。なんだかこっちに向かってきているようだが、気のせいだ。きっと私の後ろの席に、知り合いがいるのを見つけたか何かなんだろう。
でも、声をかけてきたら? よぉ、イズミって。そんな、あんなに髪が伸び放題なのに、イヤだ。てか、なんでカズヤなんて思ったんだろう。似ても似つかない髪型なのに…。
「よぉ、イズミ」
え。
男性は私の頭に手を置く。その手の感触に覚えがある。コモリも、彼のことを見ている。
「…タニムラ先輩!?」
コモリが言う。タニムラって、カズヤの苗字だし…ってか、知り合いなの?
やっぱり私が思うより、世界はずっとずっと狭い。
(つづく)
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