ガウチョパンツとUFO【彼氏の顔が覚えられません 第30話】
「あ、次、タニムラ先輩の番ですわよっ」
タニムラ先輩――カズヤのことだ。いや、そんなことよりも彼女の衣装の方がいまだに気になる。フランス人形みたいな水色のドレス。さすがはお嬢様、「ライヴなんて初めてですわっ。おめかししていかなきゃ」と選んでくれたようだ。
ただ、おめかしというよりロリータコスプレにしか見えない。サブカルなアーティストが集まるライヴハウスだからよけいに。私は赤系のチェックシャツに、黒のガウチョパンツ。
べつに、オシャレという意識はない。スカートよりラクかな、と履いてみただけだ。
だいたい、このライヴにくる必要もなかったハズだった。カズヤとの仲はもう終わったと思っていたのに――。
一週間前の、スタバでのこと。とつぜん目の前に現れて、「俺、出るから。こいよ」とチケットくれて。
「わぁっ、行きます行きますわ! タニムラ先輩、わたくしのこと覚えてますか。
ユーフォ吹いてたコモリですわ!」返事したのはコモリだった。知り合いなんだ。ってか、ユー…何? UFO? 詳しい説明もナシにいろんな情報が入ってきて、混乱しかけた。
つまり、カズヤも付属高校の出身だったらしい。まさか、鎌倉から電車通いのハズなのにと思ったら、「そりゃあ、高校のころから電車通いに決まってるじゃないですか」とコモリ。いや、そういうことじゃなくて…。
私の周り、どんだけ多いんだ付属出身。
(つづく)
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