誕生日とラブソング【彼氏の顔が覚えられません 第32話】
曲が終わり、MCを務めるマナミ。なるほど、そういうコンセプトなのか…だとしたら、終わりまで私の心が揺さぶられっぱなしかもしれない。やばい。泣いちゃったらどうしよう。
と、突然カズヤ、と言うかウサギ頭が、マナミの肩をぽんぽんと叩く。ウサギの口元に耳を近づけるマナミ。まるで内緒話をするように…って、実際、カズヤはなんも喋ってないんだろうけど。ただのわかりやすいフリだ。
「…えっ、なに、178(イナバ)ちゃん。おぉっ、なんと! みなさん、重大ニュースです! いまこの会場で、ちょうどこの日にハタチを迎えるお友達がいるそうです!」
えっ。ギクリとした。まさか…いや、そのまさかだろうな。
この日にハタチを迎えるのは、私だ。
「スペシャルサプラーイズ! なんとそのお友達に、178ちゃんが特別に、オリジナルソングを歌ってくれ…」
「…イズミ! 聴いてくれ! 俺がこの日のために用意したラブソングを!」
マナミの紹介もまだ途中なのに、いきなり立ち上がるウサギ。否、いまその着ぐるみを外す。ただのギターを持ったカズヤになる。
やばい。会場を出るなら、きっとこのタイミングだ。
イズミはにげだした。
…しかし、観客にまわりこまれた!
にげられない!
(つづく)
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