愛あるセレクトをしたいママのみかた

専業主婦が直面した「不妊治療の壁」。常に“次”を求められる社会で後悔しないために

マイナビウーマン
結婚するかしないか、子どもを産むか産まないか。女性に選択肢が増えたからこそ、悩んでしまう時代。本連載では、子どもを持たないことを選択した既婚女性に匿名インタビューを実施。

「どうして子どもを持たないことを選択したの?」「パートナーとどう話し合った?」「ぶっちゃけ、後悔してない?」……などなど、顔出しでは言えないような本音まで深掘りします。聞き手は、自身もDINKs(仮)のライター・月岡ツキ。


前編の記事はこちらから

https://news.mynavi.jp/woman/article/hahaninaranai-19/


小山友梨奈さん(仮名/27歳)は、とある地方都市で医療系専門職の夫と暮らす専業主婦。

元保育士ならではの経験から、子どもを持つことに複雑な気持ちを抱いていた友梨奈さんだが、とある理由から不妊治療に踏み切ることになる。

不妊治療で「曖昧な気持ち」を閉じ込めたものの…


子どもを持つのに不安があるのに不妊治療を始めたのは、私たちの住む地域に「結婚して子どもを持つことが当然」という雰囲気があったからです。


周りの友達がみんな子育てをしているのに、自分だけ子どもを持たずにいたら、将来後悔するんじゃないかと怖かった。みんながやっていることを、あえてやらずにいるというのは、なかなか強い意志がないと続きません。

「いつか後悔するかもしれないのなら、やれるだけやってみよう」という気持ちで不妊治療に踏み切りました。もし東京など「結婚や子育てが“当然”とされていない文化圏」に住んでいたら、違う選択をしていたのかもしれませんが。

でも、いざ不妊治療をするとなると、そういう自分の曖昧な気持ちはいったん無視して、ひたすら「妊娠」に向かって進まなきゃいけなくなります。

毎日のように病院に通い、1〜2時間の待ち時間に耐え、「今日“タイミング”取ってください(※)」と言われれば、自分の気持ちを度外視して、主人とタイミングを取らなければならない。

機械的に心を閉じ込めて、作業のように妊活を進めて、結果が出るまでフライングで妊娠検査薬を何本も使って。

でも、生理が来てしまうと、努力がすべて水の泡になって振り出しに戻るような感覚になるんです。
だんだん、自分の気持ちも主人の気持ちも、考える余裕がなくなっていきました。※タイミング法=不妊治療で最初に行う治療法。排卵の時期に性交渉を持つこと

不妊治療の休止と、それでも割り切れない思い


だんだん、主人と私がピリピリすることが多くなって、数カ月の間だけ不妊治療をお休みすることにしました。

そんな折にこのインタビューを受けることになり、夫婦で落ち着いて本音を話し合うきっかけにもなってよかったです。

不妊治療をしようと言い出したのは私で、主人も賛成してくれましたが、彼も彼で子どもを持つことへの複雑な思いがあったり、かといって自分で子どもを産めるわけではないから、「子どもが欲しい」も「欲しくない」もどちらも素直に言いにくかったんだろうと思います。

私自身も治療をしていると、子どもが欲しい気持ちがどんどん強くなるように感じるけど、ふと冷静になると「グレー」な自分もいて。

いざ治療を休んでみたら、驚くほど生活の質がよくなったんです。「私って、前はこんなふうに生活してたんだっけ?」と思うぐらい、のびのびと生きられるようになりました。


ずっと、妊娠しているかどうかわからないからアルコールやカフェインを控えて、人と食事するシーンで気を遣わせてしまったりしていましたが、それが一切ないだけで本当に楽で。

大好きな洋酒入りのケーキを久々に食べたとき、本当にうれしかったです。毎日病院に行かなくていいことも、すごくうれしい。

一方で「ここまで頑張ってきたのに、投げ出していいんだろうか?」とも思ってしまいます。まだ治療は初期段階で、やれることを全部やったわけではないのに、ここで終わらせたら後悔するんじゃないか?と。

でも、主人はどこか「不妊治療に戻るのは気が重い」という気持ちがあるみたいです。かといって、じゃあ子どもはいらないね、と割り切れる段階ではまだなく……。

子なし専業主婦は「要領が悪い」?


本当は、私自身も主人も、今の生活に満足しているんだと思います。


誰にも急かされずにゆっくり家事をして、食べたいものを時間をかけて作って、夫が帰ってきたら元気に「おかえり」と言ってあげられる。

普段はほとんどけんかもせず、彼の話も穏やかに聞いてあげられる。二人で夜おしゃべりするのがとても楽しいし、翌朝起きたら「朝ごはん、何作ろうかな」なんて考えて、好きなものを作るのが私の幸せなんです。私も仕事をしていて時間や気持ちに余裕がなかったら、多分こうはいかないんでしょうね。主婦に向いているんだと思います。

時間や心のゆとりって、本当に大事だなって思います。何でも効率化して、時短で、手間をかけずに、っていうのが最近の主流だけど、無駄な時間も人生には必要だと思うんです。

  • 専業主婦が直面した「不妊治療の壁」。常に“次”を求められる社会で後悔しないために

でも、そういうことをしていると「要領悪いね」って言われちゃう。
誰にも迷惑をかけてないなら、要領悪くてもいいじゃん、って思うんですけどね。

趣味でやっているハンドメイドも、「売ったら?」とか「ビジネスにしたら?」と言われることもあるのですが、収益や効率を考えずに「ただの趣味としてやる」って、そんなにダメなことなんでしょうか。

人の心や考え方って、白黒はっきりつけられないグレーな部分がたくさんあるのに、社会は白か黒かを求めてくる。

子どもがいるかいないか、仕事を続けるか専業主婦になるか、どれも白黒つけられないし、どっちがいいとも言えない。どっちかだけが正しいわけじゃないと思うんです。

もし私に何かやりたいことができたときに、それをやってみてもいいかもしれないし、しんどくなったらやめてもいい。不妊治療も、諦めても続けてもいい。

もし子どもを授かったら、それはそれでうれしいことだと思いたいです。


「次」を求められる社会で、このままでいたらいけないの?


「これからどうするの?」って聞かれると、現状じゃダメって言われているみたいに感じてしまいます。何か、今とは違う姿に進化しなきゃいけないのかなって。

でも、独身でも、結婚しても、子どもを産んでも、ずっと「次」を求められるんですよね。終わりがない。努力しなさいとか、夢を持てとか言われるけど、私は何を努力したいのか、何に向かっていけばいいのか分からない。

本当は現状で十分幸せなはずなのに、このままじゃダメなんじゃないかと思わされてしまう。それが、私が「子どもを持たない」とファイナルアンサーできない理由なんだと思います。

もし、これから不妊治療を再開して子どもを授かったとしても、このまま子どもを持たずに夫婦で暮らすことになったとしても、何かに悩んだり後悔したりすることは避けられないですよね。
どっちの道を選んでも「あっちがよかった」って言っちゃうんだろうな、って。

だから、どちらにしても「将来どうなるかを怖がりすぎないように」って、自分に言い聞かせています。

もし子どもがいない人生になったとしたら、大人二人だからこその生活の余裕やフットワークの軽さを大切にしたいです。

もし子どもが生まれたら、その貴重な経験を大切にしたいですね。どちらにせよ、それでよかったんだと思える自分になれたらいいなと思っています。


インタビュー後記(文:月岡ツキ)

適齢期になったら結婚、結婚したら子ども、子どもを産んだら二人目、男の子も産んだ方が、女の子も産んだ方が、受験は、進学は……。私たちは常に「次」を求められている。仕事でも、私生活でも。

「次」は「みんな」の思う理想のステップでなければならない。「みんな」が同じようなものを選択していると、自分たちは間違っていないと思えて安心できるのだ。

私だって、みんなが行くから高校や大学へ行ったし、みんながそうするから就活して就職をした。「みんな」に属するのは、ある種「楽」でもある。

かつては結婚して専業主婦になることが「みんな」の選択だったけれど、今は結婚しても働きながら子育てをするのが「みんな」になった。

時代とともに良しとされる生き方は変わっても、「みんな」と同じ道を選ばない人が肩身の狭い思いをしてしまう点は変わっていない。

一度は不妊治療に踏み切った友梨奈さんは「結婚や子育てが“当然”とされていない文化圏に住んでいたら、違う選択をしていたのかも」「自分だけ子どもを持たずにいたら、将来後悔するんじゃないかと怖かった」と話してくれた。

不妊治療をしているからといって、心底納得してなんの疑念も持たずに「子どもが欲しい」と思えている人ばかりではない。「子どもが欲しい」の内訳には、さまざまな割り切れなさや、白黒つけられない気持ちがある。

そういう意味で、子どもがいるかいないか、子どもを望んでいるか否かによって、人を分類することは不可能なのではないか。

「グレー」の中には、白の割合が80%のグレーもあれば、黒の割合が80%のグレーもあるし、配分は常に変動する。そういう曖昧な気持ちを許容する、ゆとりがある社会になってほしいと思わされた。


(取材・文:月岡ツキ、イラスト:いとうひでみ、編集:高橋千里)

提供元の記事

提供:

マイナビウーマン

この記事のキーワード