婚約後に多額の借金が発覚!婚約は取り消せる?
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婚約後に相手の嫌なところが見えてきて婚約を取り消したくなるケースもあるかと思います。たとえば相手に多額の借金があった場合、婚約を取り消したいと考える人もいることでしょう。
今回は上記の場合に婚約を取り消せるのか、また、婚約の定義や婚約取り消しに伴う損害賠償について解説してみたいと思います。
■婚約とは何か
実は、民法上では婚約とは何か、また、何をすれば婚約になるのかという規定は定められていません。
しかし、法律学上は、将来適法な婚姻をしようという男女間の約束のことをいう、といわれています。
たとえば「同棲はするが婚姻届は出さないでいよう」という約束や、あるいは同性間の約束は、婚約にはあたりません。
もちろん、そのような二人の間で何らかの契約が成立していると考える余地は十分ありえますが、伝統的な法律学は、その状態を「婚約」という言葉では表現していないのです。
法律学の理屈上は、男女二人が自分自身の真意に基づいて上記の約束をすれば、それだけで婚約は成立することになります。
契約書にしたり仮祝言などの儀式を行ったりしなければならないというわけではありません。
とはいえ、婚約が一方的に破棄されてしまった場合にこのような外形的な事実が全くないとなると、裁判官に「そもそも婚約が成立したとは言えない」と判断されてしまう可能性もあります。
理屈上のことはともかく実際には、ある程度の外形的事実がなければ婚約の事実を証明することができないために、婚姻は成立していないと判断される傾向にあります。
■婚約成立後に別れることはできる?
婚約が成立しているといえるときに、相手が多額の借金を背負っていると判明した場合には、別れることはできるのでしょうか?
結論から言えば可能です。何故かというと、婚姻はあくまで純粋に自由な意思に基づいてなされるべきものですので、「一旦婚約したのだからその約束どおり婚姻しろ」と強制することはできないからです。
あなたとしては相手方に婚約破棄を通告するだけで足り、それ以上特に何かをする必要はありません。
■損害賠償について
なお、一般論としては、婚約破棄に正当な理由がない場合には、破棄された側に損害賠償を支払う義務が発生する場合はあります。
しかし、具体的な状況にもよりますが、相手が多額の借金をしているという事実は婚約破棄の正当な理由にあたるといえる場合が多いと思われますので、その場合は損害賠償を支払う義務はないと考えられます。
■婚姻後の場合だと異なってくる
ところで、多額の借金があると判明したのが婚姻した後だったという場合には、このように簡単に別れられるとは限りません。
仮に相手方が話し合いの段階(=協議・調停)で離婚に応じてくれればよいですが、応じてくれない場合には、あなたが離婚訴訟を提起して裁判官に認めてもらわなければ離婚できないのです。
一般的な話として、離婚訴訟では、離婚を求められる側に「離婚原因」がなければ、離婚を認めてもらうことができません。
相手方の多額の借金が離婚原因にあたる可能性はあるのですが、借金がいくら以上なら離婚できる、いくら未満なら離婚できないという単純な話ではありません。
それ以外にも様々な事情を総合して、たとえば相手方が怠惰な性格をしている、働く意思がない、生活能力がない、それ故に「婚姻関係を継続し難い重大な事由」がある、と裁判官が判断してくれれば、(相手方が拒否していても)裁判離婚が認められることになります。
そのためには、離婚訴訟の中で、相手方の怠惰な性格などをあなたが立証(証拠をもって証明すること)していかなければなりません。
相手方の多額の借金が判明した場合、そのことを理由とする婚約破棄は比較的容易ですが、離婚となると簡単にできるとは限りません。その点をよく踏まえたうえで、相手方との関係を今後どうしていくべきか、よく検討すべきでしょう。
*著者:弁護士 近藤美香(秋葉原よすが法律事務所。家事事件を専門的に取り扱い、500件以上の家事事件を取り扱った経験を持つ。JADP認定の夫婦カウンセラーの資格を保持している。)
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