メディアで話題の心理カウンセラー、心屋仁之助さんとその一門があなたの相談に答える「凍えたココロが ほっこり温まる、心屋仁之助 塾」。今回は、「発達障害の息子の将来が心配」という、きょんちーさん(43歳・パート)に、心屋塾上級認定講師の福田とも花さんからアドバイスをいただきました。■きょんちーさんのお悩み高校一年の息子は、発達障害があり対人不安が強く学校が嫌いです。幼稚園からずっと友達も作れず、言葉がでませんでした。そして小学五年生から不登校を繰り返しており、現在もまた不登校です。病院や相談室などを転々としてきましたが、どこも具体的な解決策が見つかりません。話すことができるのは、母である私と妹、小学五年生のときに優しくしてくれた支援員さんのみです。父親に対しても苦手意識が強いほうです。心配なのは、将来社会参加できるかどうかです。毎日、家事手伝いや散歩、家庭学習をさせてはいますが、本人は外にひとりで外出することができません。母子分離不安も強いので、就職活動もできるかどうか、社会参加できるかどうか心配でなりません。どうしていけば良いのでしょうか。学校の先生たちも病院の先生も手探り状態でどうしたらいいかわからない状態です。父親は他人ごとのようで、もう何もあてにはできません。誰か助けて下さい。※一部、質問内容を編集しています。■心屋塾上級認定講師の福田とも花さんよりきょんちーさん、ご相談ありがとうございます。息子さんのこと、幼稚園の頃からずっと心配で、今は将来についての不安が強くなっているのですね…。突然ですがきょんちーさん、幼稚園生くらいの小さな自分に戻ったつもりで、次の言葉を口に出して言ってみてくださいね。「私、一人で居るのが不安だよ」「お母さんとずっと一緒にいたかったよ」「学校なんて行きたくなかったよ」「お母さん、助けてよ」言ってみて、どんな感じがしていますか? 子どもは、あなたの鏡です。もしかしたら、きょんちーさん自身が、子どもの頃からずっと、一人でいるのが不安だったのではないでしょうか? 誰にも助けてもらえず、ひとりぼっちを感じて来たのではないでしょうか?本当は上の言葉を言いたかったけれど、言ってしまったら、お母さんに迷惑をかけてしまいそうな気がして、怖かったのでしょうか。もしくは、お母さんに話しかけたけれど聞いてもらえず、いま旦那さんに対して感じているように「どうせわかってもらえないんだ」と諦めて、心を閉ざして来たのでしょうか。そのような経験を繰り返して、きょんちーさんは自分のことを、「どうせ誰にも助けてもらえない、ひとりぼっちの人」「どうせひとりでちゃんとできない人」「どうせ他の人と同じようにできない人」「どうせ普通の人より劣っている人」と思い込み始めたのかもしれませんね。そのセルフイメージ通りに、目の前の子どもが、問題を見せてくれているだけなのです。発達障害のわが子が、ペラペラお喋りできて、どんどんお友達を作ろうとしてしまったら、どうなりそうで怖いですか?伝えても伝えても、誰にもわかってもらえない悲しみを、感じてしまいそうですか?発達障害のわが子が、普通に登校してしまったら、何が怖いですか?他の子と同じようにできない劣等感を感じて、傷ついてしまいそうですか?発達障害のわが子が社会に出てしまったら、どうなりそうで怖いですか?誰にも助けてもらえず、一人で困って、悲しい思いをしてしまいそうですか? その不安や怖さは、全部きょんちーさん自身が体験してきたこと。「思い出し笑い」ならぬ、「思い出し怖い」なのです。 では、どうしたらいいのか?今まで信じこんできた「どうせ誰にも助けてもらえない、ひとりぼっちの人」という自分のセルフイメージを疑ってみませんか?ほら、ここで「誰か助けて」と言えたことで、私にはちゃんと伝わりましたよ! 喋ることで、伝えたいことを、伝えることができますね。わかってもらえないこともあるけれど、わかってもらえることもありますね。傷つくこともあるけれど、傷つかないこともありますね。お母さんに話したとき、わかってもらえたと感じたことはありませんか?「どうせひとりでちゃんとできない人」「どうせ他の人と同じ様にできない人」「どうせ普通の人より劣っている人」 自分ひとりでできなかったとき、他の人と違ったとき、「そんなあなただからいいんだよ」と近くにいてくれた人はいませんでしたか?そんなあなただから、選ばれたことはありませんか?そんなあなただからこそ、できていることはありませんか?怖がりで傷つきやすいきょんちーさんがママだからこそ、わが子の繊細な心に、目を向けてあげられているのかもしれませんね。もう、自分で自分を許してあげませんか? あのときのお母さん以上に、実は、自分が自分を一番責めていたりします。「他の人と同じようにできなくてもいい」「ひとりでちゃんとできなくてもいい」「社会や学校に行くのを、怖がってもいい」「怖がりの自分でもいい」どんな自分も自分で許して上げていくと、どんな子どもでも大丈夫! と、信じて見守ることができるようになりますよ。きょんちーさん、怖がりながらも「助けて」と伝えてくれて、ありがとうございました。きょんちーさんを、心から応援しています。 ・このカウンセラーのサイトを見る
2017年06月29日強迫性障害とは出典 : 強迫性障害は自分の意思に反して不安・不快な考えが浮かび、抑えようとしても抑えられない、もしくはそのような考えをなくそうと無意味な行為を何度も繰り返すことで日常生活に支障が出てしまうこころの病気です。具体的な症状としては、汚れているのではないかと不安になって手を異常なほどに洗ったり、鍵をかけたか何度も確認して生活に支障が出てしまったりするような例があります。そういった行為には何にも意味がなく、やり過ぎだと自分で分かっていてもやめられないことが特徴です。英語ではObsessive Compulsion Disorderと表記され、略してOCDと呼ばれます。発症率は100人あたりおよそ2.3人といわれていて、決してまれな病気ではありません。10代~20代に多く発症しますが、小児期から症状が始まることもあります。原田 誠一『強迫性障害のすべてがわかる本 (健康ライブラリーイラスト版) 』強迫性障害の症状とは出典 : 「手をいくら洗っても、きれいになった気がしない」「ドアの戸締りが気になり、無意味に何度も確認してしまう」など、なんらかの考えが自分の意思に反して繰り返し浮かび(強迫観念)、それによって生まれる不安や恐怖などの感情を解消するために、同じ行動を繰り返すことを自分に強いる(強迫行為)のが「強迫性障害」の症状です。強迫観念は繰り返し、そしていきなり浮かんでくるもので、コントロールするのは困難とされています。強迫観念によって引き起こされる不安や恐怖は強迫行為を行うことで一時的に和らぐものの、強迫観念の出現は時間をおいて繰り返されます。強迫行為を行うと、一時的には不安を抑えることができますが、特定の場面に遭遇すると再び強迫観念が現れ、また強迫行為を繰り返してしまいます。この悪循環にはまってしまうと、自分で症状をコントロールすることが困難になり、強迫行為の程度が悪化していく人もいると言われています。一口に強迫性障害といっても、人によって症状の現れ方はさまざまです。以下では、中でも代表的な3つの症状を紹介します。■不潔恐怖汚染への強い恐怖により、長時間洗浄してしまうことをいいます。身体が汚れる、もしくは健康を害してしまうという強迫観念が、汚れや細菌汚染に対して恐怖を感じさせ、過剰に手を洗ったり繰り返し入浴・洗濯するといった強迫行為を引き起こします。またドアノブや手すりなどを不潔と感じ、手を触れることができないこともあります。■確認行為鍵をかけたか不安になり、何度も確認するような症状が出現します。「もしかしたら開いているかもしれない」「実は消えていないかもしれない」という強迫観念が玄関の施錠や、ガス栓・電気器具のスイッチを異常なほど確認する強迫行為を引き起こします。確認しても大丈夫だと確信を得ることができず、心配になって頭から離れません。自分で確認することに満足せず、家族に確認させる「巻き込み型」となることも少なくありません。その場合重症化することも少なくないので、注意が必要です。■加害恐怖誰かを傷つけたり犯罪を犯してしまったという思いに駆られ、確認したり罪の意識に苦しむことをいいます。誰かに危害を加えたかもしれないという強迫観念が新聞やテレビ、警察や周囲の人に確認する確認行為を引き起こします。危害を加えていないことを確認しても安心することができず、何度も確認してしまいます。このほか、自分の決めた手順でものごとを行なわないと恐ろしいことが起きるのではないかという不安を抱く儀式行為や不吉な数字・幸運な数字、配置や正確性・対称性に異常なほどこだわることなどが挙げられます。強迫性障害は、症状が重くなることで日常生活や社会生活に大きな支障をきたす可能性のある病気です。強迫性障害の人の中には、強迫行為に大半の時間をとられて他のことをする余裕がなくなってしまったり、自宅の外に感じる汚染への恐怖や戸締りの心配を理由にひきこもりになってしまったりする人がいるのです。強迫性障害の症状について理解するうえで重要なのは、患者さん本人は自分自身が強迫行為をしてまうことに対して精神的な苦痛を感じているということです。頭では意味のないことを繰り返しているとわかっていながら、それでもやめることのできない自分に対してネガティブな感情を抱いてしまうのです。症状に苦しむ生活が続くことで、気分が落ち込みやすくなるなど精神的に不安定な状態に陥ってしまうこともあります。そのため、強迫性障害の患者さんはうつ病を発症する可能性も高いと言われています。強迫性障害を引き起こす要因出典 : 強迫性障害の発症に関わる決定的な要因は、未だに特定されていません。しかし、気質要因、環境要因、遺伝要因・生理学的要因が何らかの形で影響を与えることがわかっています。■気質要因幼少期に教え込まれたこと、または感情や行動を強く否定されたことがあることが考えられます。■遺伝要因・生理学的要因セロトニンという神経伝達物質との関連や脳の部位に機能的な異常がみられる可能性も指摘されています。これにより強迫性障害が発症する背景には、脳の部位を結ぶ神経ネットワークに問題があると推定されています。■環境要因強いストレスを引き起こすような出来事や虐待などは強迫性障害の発症の危険性を高めると考えられています。また神経免疫機能との関連が考えられています。以上のような要因に加え、受験や結婚、育児などのライフイベントによる強いストレスから発症することもあります。強迫性障害になりやすい人出典 : 強迫性障害を世界的に研究している機関OCCWG(Obsessive Compulusive Cognitions Working Group)によると、几帳面な人や完璧主義などの性格の人が強迫性障害になりやすいと言われています。しかし、こういった性格があるからといってすべての人が強迫性障害を発症するわけではなく、その他の要因や環境との相互作用によって症状があらわれます。自分の性格を理解し、ストレスをためこまないよう上手にコントロールしましょう。原田 誠一『強迫性障害のすべてがわかる本 (健康ライブラリーイラスト版) 』強迫性障害と併発しやすい病気出典 : 強迫障害の人は他の精神疾患を併発することが多いと言われています。不安障害、強迫性パーソナリティー障害、チック症の併存が見られる場合があります。原田 誠一『強迫性障害のすべてがわかる本 (健康ライブラリーイラスト版) 』不安障害とは不安を主症状とする神経症で長時間続く病的な不安をいいます。強迫性障害と関連のあるものとして、人との接触を恐れる社会不安障害や特定のものや場所・条件を恐れる恐怖症、突然パニック発作が生じるパニック障害が挙げられます。強迫性パーソナリティー障害とは秩序や規則に対して強いこだわりを持ち、本人や周りの人が日常生活を送る上で支障が生まれることをいいます。強迫性障害と似ていますが、異なります。両方の症状がある場合は、両方の診断を下すことができます。チック症とはまばたきや首振りなど一見癖のように見える行為が現れる精神疾患です。摂食障害とは食行動に関する障害で、一般には拒食症、過食症と呼ばれます。食欲が単に増減するということではなく、体重や体型の認知が歪み、自分で食欲がコントロールできず、極端なやせ願望や太ることに対する恐怖心があることが特徴です。摂食障害のある人は食について、「食べてはいけない」という強い強迫観念を持つようになります。強迫性障害の診断におけるチェックポイント出典 : 国際連盟の専門機関の一つであるWHO(世界保健機関)が作成する疾患の分類である『ICD-10』によると、強迫性障害において重要とされるのは以下の3つのポイントです。・強迫観念や強迫行為といった症状が2週間以上の間、ほとんど毎日現れること・自分が行う強迫行為は過剰で無意味なものであると自覚していること・症状が社会生活や日常生活の妨げになっていること診断基準によって細かい違いはありますが、もし何らかの強迫観念にとらわれることがあり、症状の様相が上記のポイントを満たす場合には強迫性障害と診断されることがあります。強迫性障害に関する相談先出典 : 強迫性障害かもしれないと思った時は精神保健福祉センターなどの専門機関へ相談、または精神科もしくは心療内科を受診しましょう。強迫性障害はうつ病や統合失調症の初期や脳炎、脳血管障害、てんかんなど、脳器質性疾患と似たような症状をもっています。医療機関では識別するため、血液・髄液(ずいえき)などの検査や頭部CT、MRIなどの画像検査をする場合があります。全国の精神保健福祉センター一覧|厚生労働省他の強迫性障害の患者さんとの交流を通して、普段は話さないような悩みに共感し合ったり、治療法や症状への対処法に関する知識を共有を行うのもよいかもしれません。強迫性障害に特化した自助グループやコミュニティがありますので、ご紹介します。■OCDの会強迫性障害で悩む患者と家族のサポートグループです。の会■OCDサポート 強迫症/強迫性障害の案内板強迫性障害の症状をかかえる人や家族が、他の患者さんや家族と交流し、情報交換をしています。サポート強迫症/強迫性障害の案内板■強迫友の会OBRI(オブリ)強迫性障害という個性を持った子どもたちと家族のための自助グループです。情報交換や啓発活動を行っています。強迫友の会OBRI(オブリ)強迫性障害の治療方法出典 : 強迫性障害の治療法としては、薬物治療と認知行動療法の2つがあります。この2つを併用すると、より効果的であるとされています。強迫性障害は発症の仕方や症状が人によって異なります。本人の状態や併存する他の疾患を考慮に入れたうえで、治療方針を相談しましょう。薬物療法とは投薬することにより治療する方法です。一般的には「SSRI」という脳内のセロトニンに効果のある薬が使われます。一定期間継続して服薬しすることで、強迫行為をしたくなる衝動が薄れ、気分に余裕が生まれるといった効果が期待できます。強迫性障害では、薬のみの治療で症状をある程度改善できる人とそうではない人がいるようです。『強迫性障害のすべてがわかる本 (健康ライブラリーイラスト版) 』原田 誠一認知行動療法とは、ものの受け取り方や考え方を見つめなおし、気持ちを楽にする精神療法です。そのなかでも、強迫行為を引き起こす不安な状況に慣れる訓練をする「曝露反応妨害法(ばくろはんのうぼうがいほう)」という方法がよく取られています。認知行動療法は、実施できる専門家がまだまだ少ないのが難点ですが、薬物と同等以上の効果があります。認知行動療法を希望する場合は、かかりつけ医もしくは保健所や精神保健福祉センターなどに相談しましょう。強迫性障害に対する望ましい周囲の対応出典 : 強迫性障害のある人は、家族に不審がられることをためらって相談できないケースも少なくありません。またクセや強いこだわりと捉え、心の病気だと気付かないことがあります。放っておくと症状がエスカレートしやすくなるので、普段とは異なる行動がみられる場合や、生活に著しく支障を及ぼす場合は、早めに専門医を受診することを促しましょう。一方で、強迫行為を無理やり止めることは避けましょう。本人も止めたいと思っているのに止められないのが強迫性障害です。無理強いさせてしまうとパニック状態に陥ったり暴力をふるってしまうことがあります。薬物療法や認知行動療法などにより改善するものなので、強迫行為を無理に止めるようなことはせず、早めに医療機関などに相談しましょう。また、強迫症状が進むと自らの強迫行動を監視させる、強迫行為を強制するなど家族を巻き込むような行動がみられ、家族の日常生活に影響を及ぼしてしまうこともあります。こういった、「巻き込み型」の強迫性障害は約3人に1人が発症すると言われています。拒絶すると本人の不安を強めてしまいますが、むやみに従うと、かえって症状を悪化させるおそれがあります。そのため、基本的に家族は強迫行為や、患者本人の強迫観念を一時的に和らげるための行為に協力しないことが重要になります。主治医と相談し、適切な治療方法を相談した上で対応しましょう。出典:強迫性障害|厚生労働省まとめ出典 : 不安や恐怖にさいなまれたり、自分の意思と反して同じことを何度も繰り返したりしてしまうのが強迫性障害です。強迫性障害の治療には、本人はもちろんのこと家族や学校など周囲の理解・支援が不可欠です。正しい知識を得るとともにお互いに適切な距離感を保ちながら生活しましょう。症状の再発・悪化を予防するには、強迫性障害の悪循環にはまらないことが大切です。強迫観念→強迫行為→強迫観念→強迫行為・・・・という悪循環にはまりそうになったら一度落ち着き、深呼吸をしましょう。また、強迫観念が現れた時への対処法としては、「他のことに注意を向ける」のも有効とされています。あえて他のことを考えたり、気分転換に音楽を聞いたりするのです。このとき、「強迫観念をなくそう」と意識してしまうとかえって頭から離れなくなってしまうので、「この曲を聞きたいから聞くんだ」というように、強迫観念とは別の動機で他のことに注意を向けるようにすることがポイントとされています。さらに、疲れを溜めないよう、適度な休憩をとるようにすることも大切です。ストレスとうまく付き合い、無理のない生活を送ることで、少しずつ症状をコントロールできるようになることを目指しましょう。厚生労働省「知ることからはじようみんなのメンタルヘルス強迫性障害」「若者のこころの病 情報室「強迫性障害」ってどんな病気?」国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター「認知行動療法とは」原田 誠一『強迫性障害のすべてがわかる本 (健康ライブラリーイラスト版) 』原井 宏明、岡嶋 美代『図解やさしくわかる強迫性障害』
2017年06月23日2020年度末には障害者の法定雇用率が2.3パーセントに出典 : 厚生労働省は、2017年5月30日、民間企業に義務付けている障害者の法定雇用率を段階的に引き上げていくことに決めました。現在の障害者法定雇用率は2.0%ですが、2018年4月には2.2%に、2021年3月末までには2.3%にまで引き上げていく計画とのことです。また国や地方自治体、独立行政法人の障害者法定雇用率は2018年4月までに2.5%、2018年4月までには2.6%に引き上げられ、各都道府県の教育委員会の障害者法定雇用率は、まずは2.4%に、その後、2.5%にまで引き上げられます。民間企業の障害者雇用率を段階的に2.3%に引き上げることを了承(平成30年4月1日から2.2%、3年を経過する日より前に2.3%)障害者の法定雇用率が引き上げられることになった背景は?Upload By 発達ナビニュースこれまでも、障害者の雇用の促進等に関する法律(以下、障害者雇用促進法)に基づき、障害者雇用率制度として、事業主は一定数以上の障害者を雇用しなければならないということが厚生労働省によって義務付けられていました。(対象障害者の雇用に関する事業主の責務)第三七条全て事業主は、対象障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務を有するものであつて、進んで対象障害者の雇入れに努めなければならない。(一般事業主の雇用義務等)第四三条事業主(常時雇用する労働者(以下単に「労働者」という。)を雇用する事業主をいい、国及び地方公共団体を除く。以下同じ。)は、厚生労働省令で定める雇用関係の変動がある場合には、その雇用する対象障害者である労働者の数が、その雇用する労働者の数に障害者雇用率を乗じて得た数(その数に一人未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。第四十六条第一項において「法定雇用障害者数」という。)以上であるようにしなければならない。しかし、この法定雇用率に基づき雇用義務が課せられる障害者は、これまで身体障害者または知的障害者のみでした。精神障害者については、2006年以降は雇用義務の対象ではないものの、雇用した場合は雇用している障害者の数に入れることができる、という位置付けだったのです。障害者雇用率制度の概要しかし2013年の障害者雇用促進法改正に伴い、2018年4月からこの法定雇用率の対象となる対象障害者に、身体障害者と知的障害者に加え精神障害者も含めることとなりました。ここでの精神障害者とは、精神障害者保健福祉手帳を持っている方です。第三十七条2 この章、第八十六条第二号及び附則第三条から第六条までにおいて「対象障害者」とは、身体障害者、知的障害者又は精神障害者(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)第四十五条第二項の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けているものに限る。第三節及び第七十九条を除き、以下同じ。)をいう。どういうことかというと、これまで労働市場にいる障害者の数は、身体障害者と知的障害者の数によって定められていたのです。上の図の分子の部分に当たります。しかしこの度、精神障害者が法定雇用率算出の対象になることによって、分子の部分の障害者とされる人の全体数が多くなります。結果、この度の障害者法定雇用率の引き上げにつながり、障害者の雇用が増えるということです。2018年4月以降、各企業において精神障害者の雇用が義務化されるわけではないですが、法定雇用率自体が引き上げられることにより、社会全体として、精神障害のある方の雇用機会も広がっていくことが期待されます。発達障害者の雇用はどうなる?出典 : 障害者雇用促進法において、発達障害は、精神障害の一部として定義付けられています。(用語の定義)第二条障害者身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。第六号において同じ。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいうしかし一方で、障害者雇用の対象となる「対象障害者」である精神障害者とは、精神障害者保健福祉手帳を公布されている方とされています。もちろん、手帳を取得せず、通常の雇用枠での就職を目指すことも可能ですが、発達障害のある方が障害者雇用枠での就職を目指す場合は、精神障害者保健福祉手帳の取得が必要になります。発達障害に関しては、世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)において精神疾患のカテゴリーに含まれていることもあり、精神障害者保健福祉手帳の交付対象となっています。しかし、二次障害による精神症状の有無など、交付判定に細かい基準が設けられているため、詳しいことはお住まいの市区町村に相談することをおすすめします。企業は法定雇用率を満たさないとどうなるの?出典 : 現在の企業の障害者法定雇用率は2.0%ですが、この法定雇用率を達成している企業は2016年6月時点で48.8%にとどまっており、過半数の企業は法定雇用率が未達成となっています。平成28年障害者雇用状況の集計結果法定雇用率が未達成であり、常時雇用している労働者数が100人を超える企業は、障害者雇用納付金制度に基づき、法定雇用障害者数に不足する障害者数に応じて、1人につき月額50,000円の障害者雇用納付金を納付しなければならないこととされています。逆に、法定雇用率を達成しており、常時雇用している労働者数が100人を超える企業は、障害者雇用調整金として、法定雇用障害者数を超えて雇用している障害者数に応じて、1人につき月額27,000円が支給されます。また、常時雇用している労働者数が100人以下の事業主で、各月の雇用障害者数の年度間合計数が一定数(各月の常時雇用している労働者数の4%の年度間合計数又は72人のいずれか多い数)を超えて障害者を雇用している場合は、障害者雇用報奨金として、その一定数を超えて雇用している障害者の人数に21,000円を乗じて得た額が支給されます。今後、法定雇用率の引き上げを見越して、障害者雇用をより積極的に行っていく企業も増えていくのではないかと予想されます。しかし、障害者雇用枠であろうとなかろうと、働く上での障害や困難がある方には、その方が力を発揮できるような業務上の配慮や調整ー「合理的配慮」を各企業で推進していくことが重要です。法定雇用率の変更を契機に、障害のある方も含めた多様な人々が働ける環境作りに積極的になる企業が増えていくことを願います。障害者雇用納付金制度の概要
2017年06月13日視覚障害とは出典 : 現在、視覚障害はメガネやコンタクトを使った状態での両目あわせた視力と、視野の広さの二つの観点から法律で定義されています。視覚障害は、大きく分けると、「弱視」と「盲」になります。まったく目が見えないわけではないが、メガネやコンタクトで視力を矯正することができず、見えにくい困難を抱えている場合を「弱視」と言います。しかし、「弱視」には注意する点があります。医学的な意味での「弱視」と教育や福祉の面での「弱視」の意味が微妙に異なる点です。医学では、「弱視」は視覚が発達する過程で、眼に適切な刺激が与えられないことで視力が十分に発達していない状態をあらわしています。片目のみに発症することも多く、視覚障害ではないことも多いです。そのため、医学では見えにくいという困難を抱えていることを意味する言葉として「ロービジョン(low vision)」が用いられるようになりました。福祉教育の場面では、このロービジョンの意味で弱視ということがあります。法律上で視覚障害が視力と視野の観点から定義されているために、視覚的な困難があっても障害者手帳を取得することのできない色覚障害と光覚障害というものがあります。◇色覚障害色覚障害は、視力や視野には問題がありませんが、特定の色の区別が苦手な症状です。ほかにも、特定の色が別の色に見えることもあります。◇光覚障害光覚障害は、明るさを区別することが苦手な症状です。そのため、暗い所から明るい所に移動したときに適応するまでにかかる時間が長くなったりします。また、視覚障害の原因は先天的な場合と、後天的な場合があります。後天性の場合は、緑内障や糖尿病網膜症などの疾患が主な要因になります。しかし、いまだに視覚障害の50%近くは原因がはっきりとわかっていません。出典:平成18年身体障害児・者実態調査結果p17|厚生労働省参考:視覚障害(視力障害・視野障害・色覚障害・光覚障害)|広島市障害者支援情報提供サイト参考:身体障害者手帳 Q&A 障害内容と程度編|長野県視覚障害者の等級って?出典 : 視覚障害のある人が社会福祉で、どのようなサービスや支援を受けられるのかを決める基準が身体障害者福祉法によって定められています。この基準に該当する人に、「身体障害者手帳」が交付されます。この基準は、障害の程度によって1級から6級まで分けられていて、それによって受けられる支援が異なります。「身体障害者手帳」の交付の流れについては、後ほど詳しく触れるので、この章ではどのような基準なのかを紹介します。1級両眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異常がある者については、きょう正視力について測ったものをいう。以下同じ。)の和が0.01以下のもの2級(1)両眼の視力の和が0.02以上0.04以下のもの(2)両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による視野についての視能率による損失率が95パーセント以上のもの3級(1)両眼の視力の和が0.05以上0.08以下のもの(2)両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による視野について視能率による損失率が90パーセント以上のもの4級(1)両眼の視力の和が0.09以上0.12以下のもの(2)両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの5級(1)両眼の視力の和が0.13以上0.2以下のもの(2)両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの6級一眼の視力が0.02以下、他眼の視力が0.6以下のもので、両眼の視力の和が0.2を超えるものこのように、視覚障害の等級も、視力と視野の広さを基準に決められています。小学校や中学校で行われることの多い視力検査に、5メートル離れた地点から、ランドルト環の穴があいたほうを答えるというものがあります。視力がだいたい0.1前後だと、一番大きいランドルト環でさえぼやけて正解を答えることができなくなります。5メートル先がぼやけると、日常生活の中で信号機の色もぼやけてしまい見にくかったり、歩道を歩くだけでも神経を使うため疲れてしまったりします。また、ヒトは視線をまっすぐ見た状態で固定して、上方60度、鼻側60度、下方70度、耳側100度の範囲を片目で見ることができるとされています。出典:青柳まゆみ鳥山由子/編著『視覚障害教育入門』(ジアース教育新社,2015)ここで注意が必要なのは、ヒトの両目は比較的近い所に位置しているため、両目で重なって見ている部分が広く、単に片目を失ったからといって視野が半分にはならないことです。視覚障害のある人が障害者手帳を取得するまでの流れ出典 : 「身体障害者手帳」を取得することのできる基準を先ほど紹介しました。そもそも、「身体障害者手帳」は身体障害者福祉法に基づき、身体障害のある方の自立や社会活動の参加を促し、支援することを目的として作られました。ここでの身体障害というのは、一時的なものではなく一定期間以上続く場合に限られます。身体障害者手帳は都道府県知事、指定都市市長、中核都市市長によって交付されます。交付に至るまでには、3つのステップがあります。Upload By 発達障害のキホン市区町村の障害福祉担当窓口の方に申請したい旨を伝え、身体障害者診断書・意見書の書式をもらいます。この書式は、身体障害者福祉法第15条の指定を受けている医師しか作成することができないので、窓口やかかりつけの医師に相談しましょう。Upload By 発達障害のキホン身体障害者診断書・意見書を作成してもらいう必要があり、視覚障害の場合は視力と視野の検査を行います。一般的な視力検査で測定できないと、指を何本か立ててその数がいくつかわかるかや、目の前で手を振ったり、ペンライトで眼に光を入れたりしてそれを認識できるかということを調べたりすることもあります。また、視野の広さを調べるために行われる精密な機器を用いる検査では、病院で専門の測定技術を持った検査者によって実施されます。Upload By 発達障害のキホン役所の相談窓口で、必要な書類と、ステップ2で受け取った診断書・意見書を揃えて提出します。ここで、いくつか注意することがあります。・身体障害者診断書・意見書は発行から1年以内のものである必要があります。・交付申請書は区市町村の障害福祉担当窓口で入手します。・申請する方の写真は縦4cm×横3cm、上半身で脱帽で撮影してください。・15歳未満の場合は保護者、15歳以上は本人が申請します。・個人番号(マイナンバー)や身元確認のできる書類が必要です。また、医療の進歩や治療などの結果で、障害の程度が変化することがあります。そのような人のために、東京都では障害再認定制度を平成14年度から実施しています。障害再認定制度では、期日までに身体障害者診断書・意見書を提出することで障害程度を改めて審査します。そのときに、重大な変化があると判断される場合にはすでに持っている手帳と引き換えに、新しい手帳を交付します。この制度に該当しない場合でも、障害の程度が変わったり、新たに他の障害が加わったりしたときには等級変更を行わなくてはなりません。参考:身体障害者手帳について|東京都福祉保健局視覚障害のある人が障害者手帳によって受けられるサービス出典 : 「身体障害者手帳」によって受けられるサービスには、次のようなものがあります。・盲導犬や白杖などを借りられる場合があります。・国税や地方税が控除されたり、減免されたりします。・公共施設の利用料や交通機関の運賃が割引されることがあります。・公営住宅に優先的に入居できます。これはあくまで一例です。障害者手帳の等級やお住まいの地域によって受けられるサービスが異なるので、各自治体に確認することが必要です。参考:よくあるご質問|独立行政法人福祉医療機構視覚障害者向けサービス・道具出典 : 近年、ユニバーサルデザインやバリアフリーなどが一般的になりつつあり、障害のあるなしにかかわらず生活できるような社会の実現に向けて進んでいます。視覚障害のある人が生活しやすくなるためのサービスや道具も多くあります。このような道具は大きく3種類に分けることができます。・目から情報を受けとりやすくする・目の代わりに耳から情報をいれる・手触りで判断できるようにする全盲の方の場合は、目から情報を受け取ることは難しいですが、弱視や視野が狭い方の場合は工夫することで目から情報を受け取ることができます。例えば、拡大読書機というものがあります。拡大読書機には、虫眼鏡のように新聞の上におくと文字が拡大されるようなものや、特定の台の上に本を置くと、文章が拡大されてディスプレイに表示されるものがあります。目の代わりに耳から情報を入れるような方法は、身の回りのさまざまなところで確認することができます。例えば、信号機ではカッコーやピヨピヨと鳴ることで青であることを視覚障害者に伝えています。他にも、パソコンやスマートフォンを利用するときに、画面上に表示されている文字やエラーを音声で伝える機能があります。この機能を用いることで、画面を見ることなく操作することができます。点字や白杖など、手触りや足触りで周囲の状況を判断できるようにする道具もあります。最近では、点字も紙面上だけでなく、ディスプレイや視覚障害者向けのスマートウォッチの開発も行われています。「手触りで判断できるようにする」という考えは多くのユニバーサルデザインにも活用されています。シャンプーの容器にギザギザがついていたり、牛乳パックの開け口でないほうに扇形の小さな切り口があったりします。視覚障害のある人への教育の場出典 : 視覚に障害のある子どもが小学生以上の年齢になったときに、どのような教育の場で学ぶのかは非常に大切な問題です。現在、視覚障害のある子どもの教育の場としては、特別支援学校、特別支援学級、通級による指導、通常学級の4種類があります。それぞれについて詳しく見ていきます。2007年4月1日から、盲学校は聾学校、養護学校とまとめて、「特別支援学校」という名称になりましたが、呼び名が変わっただけで障害種類別に運営されています。特別支援学校では、特別支援教育の教員免許状を持っている教員によって視覚障害に対応した教育を行います。各教科の指導要領には、通常の学級と同じレベルの教育を行うことと記されています。しかし、視覚障害の特性に合わせた教育を行うため、目標は同じでも指導法は異なります。具体的には、そろばんを用いた指導が例として挙げられます。視覚障害のある子どもは、筆算をつかって複雑な計算をすることができませんが、視覚情報がなくてもそろばんを用いることで計算できるようになります。特別支援学級は、小中学校に設けられている障害のある子どもが学ぶ学級です。視覚障害を対象とした学級を弱視学級と呼んでいます。弱視学級では、視覚障害の特性に合わせた教育を行います。また、他の子どもと一緒に受けられる授業があれば、通常の学級で授業を受けることもあり、子ども同士ふれあう機会が多くなります。通級に通っている子どもは、普段は通常学級で教育を受けています。しかし、小中学校の教育課程のほかに、視覚障害の特性に合わせた指導を受けることができます。視覚障害があったとしても、特別支援学校・学級に通ったほうがいいと判断されなければ、通常学校に通うことになります。この場合は、先生から授業で使う教科書や資料を事前に拡大してもらっておくなどの合理的配慮を受けながら学習していくことになります。これらの教育の場のどこに通うのか決める目安として、次のようなものがあります。特別支援学校に通う基準両眼の視力がおおむね〇・三未満のもの又は視力以外の視機能障害が高度のもののうち、拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が不可能又は著しく困難な程度のもの特別支援学級に通う基準拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な程度のもの通級に通う基準拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な程度のもので、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とするものしかし、これらはあくまで目安であり、市町村教育委員会と相談しながら決めていきます。そのときには、障害の様子や保護者と子どもの希望、各専門家の意見、学校や地域の状態が判断材料になります。もし時間があれば、通う可能性のある学校の見学に行ってみると雰囲気がよくわかるかもしれません。視覚障害のある人の職業出典 : この章では、視覚障害者がどのようなところで働いているのかを紹介します。視覚障害のある人の仕事として、昔から有名な職に「三療」があります。三療とは、あん摩マッサージ指圧、鍼、灸のことを指します。これらの職で働いていくには、法律で定められた教育を受けて、試験に合格し、免許証を得なくてはいけません。免許証をとったあとは、医療機関等で働くことができます。また、近年では企業の障害者雇用の拡大を目指して「ヘルスキーパー制度」が導入されつつあります。ヘルスキーパーとは、企業に就職して、従業員にマッサージを行ったり、セルフケアについて指導したりするあん摩マッサージ指圧、鍼、灸師のことです。そのためこれらの職業に従事する方の活躍するフィールドと雇用形態は、以前より広がりを持っています。さらに最近特に増えているのが、コンピュータ・プログラマーとして活躍する方です。音声読み上げソフトや画面表示拡大ソフトなどの発展によって、さまざまな職業への就職も可能になりつつあります。上記はあくまで、視覚障害のある方の職業の例にすぎません。他にも、一人ひとりのスキルや希望、受けられるサポートに応じて、様々な職業での活躍事例があります。参考書籍:青柳まゆみ鳥山由子/編著『視覚障害教育入門』(ジアース教育新社,2015)参考:視覚障害者のあはきによる就労参考:障害者雇用の拡大を目指して「ヘルスキーパー制度」視覚障害のある人に対して、周囲の人が気をつけることは出典 : 視覚障害のある子どもを育てたり、視覚障害のある人とともに生活をしたり仕事をしたりするときに周囲の人はどのようなことに気をつければいいのでしょうか。視覚障害のある乳幼児を育てるときには、注意しなくてはいけないことがあります。視覚障害のある場合、ハイハイや歩くといった基本的な運動機能の発達に遅れがでやすいと指摘する研究があります。これらの運動機能は、乳児が興味関心のあるおもちゃのもとに行くために獲得していきます。通常、聴覚による情報は視覚によるそれに比べて、かなり限定的になってしまいます。そのため、音の出るおもちゃや触って楽しめるおもちゃを使ったり、少し離れた場所から声掛けをして後追いを促したり、子どもが安心して動き回れる環境を整備したりする工夫をするといいでしょう。運動機能のほかに、言語機能でも注意が必要です。視覚障害児は一見すると、言語に遅れがないように見えます。しかし、絵本や大人の会話から覚えた表現が、現実世界と結びついていないことは珍しくありません。現実世界と結びついた言語を習得するためには、からだ全体を使ってさまざまな経験を積むことが重要です。例えば、「米」を理解するために必要な経験を考えてみます。子どもにとって、食卓に並ぶごはんしか知らないなら「米」を全体的に理解しているとはいえません。自分自身で、稲を植えて、育てて、稲刈りをして、ごはんを炊くという一連の流れを行うことで、はじめて理解できます。一度「米」について理解すれば、他の農作物について理解しやすくなります。このような基本になる経験を積むことが必要です。視覚障害のある人と生活するときには、周囲が配慮をすることで日常生活での負荷をできるだけ小さくすることが大切です。具体的には次のようなことに気をつけるといいでしょう。・視覚障害の方が歩くときには、手引きをしたほうがいいか聞くようにする。・自分の名前を伝えてから、会話に加わるようにする。・モノの位置を伝えるときは、「あそこ」や「すぐそこ」などではなく、「左に2歩進んだところ」などより具体的な数字を使って伝える。・日常用品や仕事用具は、できるだけ同じ場所に置き続ける。場所を変えないといけないときは、そのことをしっかりと伝える。・本来、通路であるところに荷物を置くことを避ける。現在、さまざまな道具が発達しており、視覚障害があっても社会進出している方は多くいますが、このような配慮をするかしないかで、視覚障害の方の生活のしやすさがずいぶん変わります。また、本人の希望に沿って配慮することが重要です。例えば、普段ひとりで歩くことが多い人は手引きがあるとかえって歩きにくく感じることもあります。そのため本人にどのような配慮が必要か確かめる必要があります。参考書籍:青柳まゆみ鳥山由子/編著『視覚障害教育入門』(ジアース教育新社,2015)まとめ出典 : ここでは、視覚障害の等級や障害者手帳の制度、乳幼児の育て方、小中学校の種類、職業、周囲の人が気をつけることをご紹介しました。音声読み上げソフトなどの技術が発達している現代では、視覚障害のある人も自分に合った道具を利用することで自分なりの働き方ができるようになってきています。実際、学校の先生や一般企業で周囲と同じように働いている方も少なくありません。視覚障害のある人が活躍するためには、周囲の理解や配慮が必要不可欠だといえますが、必要とされる支援や配慮は一人ひとり異なるので、しっかりコミュニケーションをとっていくといいでしょう。また子育てをしていくなかで、子どもの見えかたに少しでも違和感を感じたら、専門家に相談して検査をすることをおすすめします。視覚障害のある子どもは、目が見える子どもに比べて発達が遅れることがあります。親が焦って無理に発達を促すのではなく、子ども一人ひとりにその子にあった発達スピードがあると信じて、子どもの成長を待つといいでしょう。子どもが成長していくと、どの学校に通うかやどのような仕事に就くかなどさまざまな選択に迫られます。特に子どもが小さいうちは保護者が考える機会が増えます。悩んだときには市町村の相談所で相談するなど、一人で抱え込まないようにすることが大切です。
2017年05月30日言語障害とは出典 : 言語障害とは、広義には、言葉によるコミュニケーションに何かしらの困難さがある障害を指し、精神医学上の狭義の定義では、特に言語の習得と使用に困難さのある障害を指す言葉です。言葉を使ったコミュニケーションに困難さが生じる障害・疾患にはさまざまな種類がありますが、「言語障害」という言葉がなにを指すかや、どんな疾患名が含まれるかは、その用語が使われるシーンによって少しずつ定義や使われ方が違ってきます。先に述べたように、精神医学における言語障害では、言語能力の発達の段階で、言葉を理解する能力と話す言葉を考える能力に困難さがあることを「言語障害」と定義しています。一方、一方、教育における言語障害は、より広い意味合いで捉えられています。すなわち、話す能力や聞く能力そのものというよりは、本人の発音や話し言葉によって、他人との一連のコミュニケーションに困難や不都合が生じている状態を「言語障害」と位置付けているのです。以下は、文部科学省における言語障害の定義です。言語障害とは、発音が不明瞭であったり、話し言葉のリズムがスムーズでなかったりするため、話し言葉によるコミュニケーションが円滑に進まない状況であること、また、そのため本人が引け目を感じるなど社会生活上不都合な状態であることをいいます。この他にも、介護の世界では、言語能力の発達には問題がないものの、脳卒中や認知症により後天的に話すことができなくなってしまったり、言葉を理解できなくなってしまったりする疾患を「言語障害」と呼ぶことが多いようです。このように、一口に言語障害と言ってもさまざまな定義が存在しますが、このコラムでは精神医学上の定義に則り、発達期の子どもが発症する言語障害について、人のコミュニケーションの仕組みを踏まえながら説明していきます。音声言語コミュニケーションの仕組み言語障害について詳しく解説する前に、まずは人がどのように言葉を操り、他者とコミュニケーションをとっているのか、その仕組みを確認しましょう。下の図は「スピーチチェーン」といい、人が音声言語コミュニケーションをとる仕組みについて説明するものです。Upload By 発達障害のキホンスピーチチェーンに則って考えると、人間が音声を受け取り、理解し、他者に言葉を発するまでのプロセスは、大きく三段階に分けることができます。■第一段階音響学的レベル誰かが発した音声が、空気を振動して耳へと伝わります。■第二段階言語学的レベル耳を通して伝わった音声を、脳で意味のある言葉として理解し、それについての受け答え(自分が話したい内容など)を考えます。そして、受け答えのための音声を出すために脳から発声器官(口や舌、肺など)の筋肉に信号を出します。■第三段階生理学的レベル脳の信号を頼りに声帯や舌、肺などを運動させ、音を発声します。また、口や舌の動きを使い、人が理解できる言葉にします。参考書籍:内須川 洸 /著『言語臨床入門』(風間書房,2000年/刊)スピーチチェーンの第三段階目で生成された音声に対して、相手側もまた、耳を通して聞き取り、脳で処理し、受け答えを考え、発生をする…このようなサイクルを通して、人は言葉を発し、他者とコミュニケーションをとっています。精神医学における言語障害出典 : アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)における言語障害(言語症)は、言語の習得と使用に困難さのある疾患として定義されています。主に、上の図におけるスピーチチェーンの第二段階目にあたる、脳内の言語処理に困難さがある疾患です。その困難さにより具体的には次の3つのような症状があります。1. 少ない語彙その年齢の子どもが知っているであろうレベルより単語の知識より少なく、語彙に多様性が欠けている状態です。例えば、言葉の定義(理解)があやふやであったり、類義語や多義語が理解できなかったりなどが挙げられます。2. 限定された構文文を形成するために、文法規則に基づいて単語や語を配置することに困難さがあります。言語障害のある子どもが話す文章は、文法上の誤りを伴い、より短く単純であることが多く、特に過去時制が適切に使うことが難しい場合が多くなります。こうした言葉や文法理解の困難さから、新しい単語や文章を記憶することにも困難さが生じます。例えば電話番号を覚えたり、買い物リストを覚えたりすることです。3. 話法における障害一つの話題や一連の出来事を順序をたてて説明・表現したり、会話をしたりすることに困難さがあります。このような症状は、言語の理解と産出する能力に困難さがあるために起こります。専門用語では、言語の受容性の能力、表出性の能力と言います。言語の受容性の能力とは、言語によるコミュニケーション(主に音声による)の意味のあるものとして理解することを指し、言語の表出性の能力とは、声、身振り、言葉の合図などを生み出すことを指します。言語障害は、言語がある程度発達し、個人差が少なくなってくる4歳以降で診断されることが多いです。幼稚園、保育園、小学校などに入ることで、さまざまなコミュニケーションの機会に触れる中で、他の子どもと比べてその困難さが際立つようになり、言語障害が明らかになる場合が多いと言えます。 精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版言語障害と似たような言葉として、「言語発達遅滞」という言葉を聞きますが、その違いはなんなのでしょうか。言語発達遅滞とは、言語障害があるかどうかによらず、言語の発達が年齢に想定されるよりも遅いという状況を指す言葉です。言語発達遅滞には2つのパターンがあります。一つ目は、乳児期の時点では言葉が遅れていても、育ちの過程において、遅れが目立たなくなるような場合です。この場合は、「ただ言葉の習得が遅いだけ」、「育ちのスピードの個人差の範囲」と言えます。もう一つは、発達や聴覚に障害のある可能性があり、その兆しとして言葉の遅れが生じる場合です。言葉の発達の遅れは、発達の早期である乳幼児期において生じやすく、その子どもの育ちは個人差が大きいです。また性格や環境など様々な要因が関わっています。そのため乳幼児期に語彙が少なかったり、文や文章の組み立てが苦手であったりといった、言語発達遅滞状態にあっても、その子どもがただちに言語障害であるとは限りません。言語障害とその他の言語に関わる疾患の違い出典 : これまで説明してきた通り、『DSM-5』における言語障害は、言葉の理解と産出に困難さがあるため、言葉をうまく話すことができない障害として定義されています。しかし、言語障害以外でも、同じく「言語がうまく話せない」という症状が生じる疾患・障害は存在します。ここでは、上記で説明したスピーチチェーンのどこに問題が生じているかに触れながら、言語障害と、それ以外の言語に関わる障害・疾患の違いについて説明していきます。音が聞こえない、または音が聞こえにくいため、音声言語を正しく認識できず言葉に困難さが生じます。スピーチチェーンでは、第一段階目の「音響的レベル」に当たる、耳で音を拾う過程に困難さがある障害です。聴覚障害があるため言葉に困難さがある場合は、聴覚障害という診断になることがほとんどです。知的障害のある子どもの多くは、運動機能や言語発達に遅れがある場合があります。知的発達の遅れがベースとなって、言葉が遅れていたり、コミュニケーションに困難さがあったりする場合は、言語障害ではなく知的障害という診断が下ります。構音障害とは、声が鼻にかかったり、鼻に抜けてしまうため、発音が不鮮明になったり、間違った発音になってしまう症状を特徴とする障害です。スピーチチェーンの三段階目である「生理学的レベル」での困難さがある障害と言えます。例えば、さかな”の発音が”たかな”になってしまうようにサ行やカ行がうまく発音できない場合です。これは、唇の断裂(口蓋裂)や、音を発声させる器官(構音器官)のまひなどによる機能的問題が原因となって言葉の困難さを引き起こしています。構音障害は、精神科だけでなく耳鼻咽喉科や小児科の領域の疾患でもあります。そのため必ずしも精神科で診断がくだされるわけではありません。小児科、リハビリテーション科、耳鼻咽喉科、脳神経外科、神経内科、形成外科、言語外来を設置している各科などでも診てもらうことができます。吃音とは吃音などの話し言葉におけるリズム流暢でないために、言葉に詰まってしまったり、同じ音を繰り返してしまうことです。上の図では、三段階目の生理学的レベルに困難さがあります。そのため、吃音は精神科だけでなく耳鼻咽喉科や小児科、児童神経科の領域の疾患でもあります。例えば、”きんぎょ”を”き、ききんぎょ”と言葉を繰り返してしまったり、”き...んぎょ”など言葉が詰まってしまうなどです。このような言語に関する困難さを吃音といい、言語障害とは区別されます。言語障害と発達障害の関連は?出典 : 言語障害は、学習障害、ADHD(注意欠如・多動性障害)、自閉症スペクトラム障害などの発達障害との併存も珍しくないと言われています。発達障害について、詳しくは以下の関連記事をご覧ください。言語障害が気になる場合の相談先出典 : 歳から未就学児までの子育てに関する、不安や悩みがある親子に対する相談、援助を実施しています。子育て支援センターでは、病院と違い診断や治療を受けることはできませんが、相談・診察の状態によっては、医療機関を紹介してもらうこともあるようです。乳幼児健診(1歳半健診や、3歳健診など)では、乳幼児の健康について診てもらうだけでなく、子育てに関する相談もすることができます。場合によっては臨床心理士さんなどに相談できるよい機会です。教育相談とは、就学児(小学校入学以後の児童)の発達と教育にかかわる問題についての心理的・教育的援助です。教育相談センター・教育センターで行われる教育相談では、来所、電話、メール、さまざまな形での相談を受け付けています。児童相談所でも、幼児~高校生までの教育に関する相談を行うことができます。子どもの言語障害や言葉の遅れに関する診察や治療は、小児科や、神経科、小児神経科が主な受診先となります。言語障害のある子どもへの支援・治療法出典 : 言語障害はその症状によってさまざまな治療法があります。言語障害にはこの方法が必ずいいというわけではなく、子どもの特性や困難さに合わせた、個別の支援、治療を考えていく必要があります。言語聴覚療法とは、言葉を話したり聞いたりする機能に障害がある人に対して、日常生活を円滑に送るために行う、発音・発声に関するリハビリテーションです。言語聴覚療法では、専門知識を持った言語聴覚士がリハビリテーションにあたります。一般的に、発音・発声の機能獲得と、言語をつかさどる脳機能の獲得の二つのトレーニングを受けることができます。子どもの場合も、聞く、読む、話す、書くことという言葉全般の働きについて、その子どもの症状や課題に応じたトレーニングが行われます。また、子ども本人だけでなく、家族や生活環境にも焦点を当てたリハビリテーションが行われる場合もあります。ことばの教室とは、言葉に関する困りごとのある児童を対象とした、小学校、中学校で行われている特別支援教育の場です。一般的に、通級指導教室と特別支援学級に設置されています。ことばの教室に通うことを希望している場合は、就学前に就学相談を行う必要があります。そこで、教育委員会や学校と相談をしながら、就学先としてことばの教室に通うかどうかを決定します。また、すでに通常学級へ通っている場合でも、学校との相談の結果、必要に応じて通級指導教室に通ったり、特別支援学級に転籍することができる場合があります。まとめ言葉に関する疾患は数多くあり、広義にはそのような言葉に関する困難さ全般を言語障害と呼ぶこともあります。この記事では、医学的な診断名として定義された、発達期における、言葉の習得と使用に困難さを感じる疾患としての「言語障害」に焦点を当てて開設しました。言語障害は、コミュニケーションの中でも、特に言葉の理解と産出がうまくいかないために起こる障害です。子どもの言語の発達に不安がある場合は、上記のような相談場所へ行ってみましょう。
2017年05月30日自己愛性パーソナリティ障害とは出典 : 自己愛性パーソナリティ障害とは、自分に対して誇大なイメージを抱き、注目や称賛を求める一方で、他者からのマイナスな評価に対して過敏に傷つきやすく、他者に対する共感性が薄いことを特徴とする障害です。◇自己愛って?自己愛とは自分を大切にできる能力のことをいいます。自己愛は少なからず誰にでもあるものです。自己愛は年齢を重ねるごとに成熟していくといわれています。この「自己愛の成熟」とは精神医学では自分を肯定して愛することができる状態といわれていて、さらに、成熟すると自分以外の他者にも愛情を注げるようになるといわれています。◇自己愛性パーソナリティ障害は自己愛が未成熟な状態自己愛性パーソナリティ障害の人は、自己愛が未成熟な状態にあると言えます。自己愛が未成熟な状態とは、ありのままの自分を受け入れ愛することができていない状態をいいます。その未成熟さの現れが「自己の誇大化」、「他者からの評価に対する過敏さ」、「共感性の薄さ」になります。例えば自分自身が掲げる理想の姿が高く、「自分は特別」「自分はできる人間だ」という思い込みが強い傾向があります。そのために誇大な言動が表出します。「自分はできる人間だ」と思い込んでいるために他者からの評価を受け入れることができず、怒り出したり、過敏に傷つき、引きこもりやうつ病になったりすることもあります。さらに共感性の薄さによって、相手の立場に立って物事を考えることができず、その場にふさわしくない言動をしていたり、自分の目的達成のために友人を利用したりするような対人関係がみられることをいいます。以上の傾向に柔軟性がなく、持続的で、社会生活が困難になるほどの苦痛を引き起こしている場合に自己愛の歪みや未成熟さがあり、自己愛性パーソナリティ障害と判断されます。参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害の特徴と2つのタイプ出典 : 自己愛性パーソナリティ障害には大きく分けて3つの特徴と、表出する2つのタイプがあります。以下にそれぞれを紹介します。◇誇大な言動・自分は才能がある特別な人間だと思い込み、それに伴った言動が目立つ・有名人や権威のある人と知り合いであることを自慢する(知り合いである自分は特別という裏打ち)◇他者からの評価に過敏・恥をかいたり、屈辱感を抱いたりするとカッとなって激しく怒り出す・ときにはその憤り(いきどおり)を超えて、ひどく落ち込み、自殺を考えだすこともある◇他者への共感性の薄さ・病気で入院している人のところへお見舞いに行って、自分の健康自慢をするなど相手の状況を考えない言動をする・自らの成果や目標達成のために、友人を利用したり裏切ったりという行為をする・わがままかつ傲慢な性格のため、あまり自分の意見を言えない友達を従えてあたかも自分が一番偉いかのように振る舞う自己愛性パーソナリティ障害の人は「3つの自己」を持っているといわれています。・誇大化させて形成された尊大で傲慢な自己・自分は欠陥がある人間だというイメージを持った自己・奥底に隠れている本当の自己この「3つの自己」がどれか一方に偏っていると、「自分は特別な人間だ!」と思い込んだり、「自分は誰よりもダメな人間だ・・・」と思い込んだりしてしまいます。「3つの自己」の偏り具合によって表出する人物像が異なってきます。根本にある自己愛の未成熟さや原因は共通ですが、その表出の仕方によって、自己愛性パーソナリティ障害は次の2つのタイプに分類されます。誇大的・自己顕示的で他者の反応に鈍感な「無自覚型」と他者の反応に敏感で注目されるのを避ける「過敏型」です。◇周囲を気にしない「無自覚型」タイプこのタイプの人は、自分はできる・自分は特別だと思い込み、社交的に振る舞いつつも他人のことには興味はなく自分の利益だけを考えています。このタイプの人が他者と親しく付き合うのは、自分に何かしらの利益があるからだと考えているためですが、自分の意向に沿わないときや責められると激怒することがあります。このような言動は本来の弱い自分を守るための防衛本能だといわれています。その他にも次のような特徴がみられます。・わがまま・傲慢な態度をとる・自分に夢中で他人のことは全く考えない・注目の的でないと気に入らない・他者に対する言葉づかいは常に攻撃的・他者の反応を気にしない/怒りに表わすことで気にしないことにしている・他者の気持ちを傷つけても平気◇周囲を過剰に気にする「過敏型」タイプこのタイプは身の丈に合わない理想化した自分自身を掲げますが、現実の自分との間にあるギャップに悩みます。他者からの評価に過敏ですぐに傷つきますが、自分には本当は才能があるという思いを持ち続けています。それゆえに自分自身を責めて落ち込んでいくサイクルが続きます。他にも次のような特徴がみられます。・内気で恥ずかしがり屋・自分の意見や感情を出さない・傷つけられたと感じやすい・注目の的になるのを避ける・他者の反応に対して敏感に落ち込む・他者からの評価を気にするこの障害がある人が自分を誇大化する理由は、本当の自分に自信が持てないなどの理由があります。本当の意味で自分自身を受け入れることができていない状態なのです。参考:『コフートの自己心理学に基づく自己愛的脆弱性尺度の作成』|パーソナリティ研究 2005 第14巻 第1号80–91 上地雄一郎宮下一博参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)参考:『パーソナリティ障害いかに接し、どう克服するか』|(岡田尊司,2004)自己愛性パーソナリティ障害の原因はなに?出典 : 自己愛性パーソナリティ障害の原因を「これだ」とはっきり断定することは難しいといわれていますが、現時点では2つの仮説が提唱されています。自己愛性パーソナリティ障害は、生まれながらに持っている気質的要因に環境的要因が影響し、パーソナリティ(人格)が形成されていくという精神分析学者のカーンバーグの説と、環境的要因が最も作用しパーソナリティが形成されているという国際精神分析学会のコフートの説があります。気質的要因とは、人にもともと備わっているものの見方、感情の動きのことを言います。気質は先天的な特性と、あるいは後天的な経験が組み合わさりながら成り立っていると考えられています。例えばある物事をどのくらい細かくみられるか、どのくらい面白がれるか・関心を持てるか、没入できるかなどは人それぞれで、その度合いも異なります。物事に細かい神経質な人もいますし、その反対に大ざっぱな人もいますよね。気質として自己愛が低い人がいることがあってもおかしくありません。その感覚は人それぞれですが、家族でその気質は似ることもあります。参考:『意志気質検査の要因分析的研究』|久芳忠俊 山口大学ここで述べる環境的要因とは親と子どもの関係性や家族環境のことを指しています。環境的要因に関してはコフートとカーンバーグの考え方をそれぞれ紹介します。◇コフートが考える環境的要因コフートは例えば、幼少期の子どもの「お母さん(お父さん)見て!」という承認欲求に対して、親が肯定的に応えて「共感」の態度をとることは、自己愛の形成に大きな影響を与えているといいます。幼い子どもはみな誇大な自己を持っていて、なんでもできる気になっています。そして親に褒められたいと思うようになり、顕示し承認されることで自己愛を育みます。そして成長に伴ってその理想像が変化し、親から褒められることがそれほど重要なことと思えなくなっていきます。それがまさに自己愛の成熟の過程の一部です。しかし親が子どもへの「共感」の態度を示さないと共感不全の状態に陥り、自己愛が育ちにくいといわれています。自己愛が未成熟のまま成長すると親だけではなく他人からの称賛や注目を集めて自己愛を満たそうとしますが、それで自己愛が成熟することはありません。コフートは必要な精神療法を用いて自己愛を成熟させる治療は可能だと考えています。◇カーンバーグが考える環境的要因カーンバーグは本人の気質的要因と家族がつくりだす環境的要因の2つが作用していると考えています。気質的要因はこれまで述べた通りです。環境的要因として過剰な期待をのせて、才能を褒め立てて「特別な子ども」と言い聞かせて育てたり、体の弱い子に対して過保護になったりすることが挙げられます。良かれと思っていても過度にそういった行動をすると自己愛が成熟せず、未成熟の状態が続いてしまいます。以上のことから先天的な気質要因と後天的な環境要因の影響が加わって、人格および自己愛が形成されていくといわれています。参考:『パーソナリティ障害いかに接し、どう克服するか』|(岡田尊司,2004)参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害は見つかりにくい障害出典 : 自己愛性パーソナリティ障害は本人が気づきにくい障害です。もともとの気質や慣れてしまった環境の中で、自らの生きにくさに気づくことはほとんどありません。自己愛性パーソナリティ障害は、その障害によって引き起こされた二次障害が表出することによって後から発覚することがほとんどです。自己愛性パーソナリティ障害が引き起こす二次障害とは、例えば自傷行為、うつ、パニック障害、摂食障害、不眠症、心身症、不安障害などが含まれます。これらの症状が表出することで医療機関を受診し、原因を探っていくと自己愛性パーソナリティ障害があった、ということが多いようです。特に自己愛性パーソナリティ障害がもつ誇大性や他者からの評価へ過敏などの症状は、少なからず誰にでもありそうなことです。しかしその考え方が原因で二次障害や社会生活に困難が生じている場合は「障害」になります。それゆえに、これまでは「そういう性格の人」として周囲からも認識されていることから、家族や周りの人も気づきにくいのです。参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害の診断基準出典 : 自己愛性パーソナリティ障害の診断基準について説明していきます。診断基準は医療機関によって異なりますが、主に世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)やアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に基づいて臨床的に診断が下されます。ここでは『ICD-10』による診断基準を説明していきます。『ICD-10』では以下から5項目以上が認められれば自己愛性パーソナリティ障害である可能性が高いという基準になっています。次のうち,5項目以上が存在すること.(1)誇大な自尊心をもっていること(すなわり,業績や才能を実際よりも過大視し,相応の実績がないのに自分が優れていると認められているはずだと思う).(2)際限のない成功・能力・才気・美貌,あるいは理想の恋愛について,非現実的な考えにふけること.(3)自分は「特別」で比類がなく,他の特別な,あるいは地位の高い人々(または組織)だけが自分を理解でき,それらの人たちと付き合うべきだと信じている.(4)称賛を必要以上に要求する.(5)権利意識が強い.ありえないのに,自分に好都合な特別待遇を期待したり,または自分の要望がそのまま受け入れられることを期待する.(6)自分の目的を達成するために他人を利用する.(7)共感性の欠如.他人の感情や要求に気づいたり理解したりしようとしない.(8)よく他人をねたむ,あるいは他人が自分をねたんでいると確信する.(9)横柄で傲慢なふるまいや態度.『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版 p494)自己愛性パーソナリティ障害と境界性パーソナリティ障害は見分けるのが難しい出典 : 専門医でも見分けるのが難しいといわれている自己愛性パーソナリティ障害と境界性パーソナリティ障害について紹介していきます。境界性パーソナリティ障害とは対人関係、自己像などの広い範囲において、激しく考え方や感情が変化してしまう障害です。他人から見捨てられてしまうのでないかという不安と、自分が何者でどうふるまえばよいのか分からない自己イメージの不安定さが発症の背景にあるといわれています。「見捨てられる不安」とはどういうことかというと、自身が信頼をおいている相手には依存する症状がある一方で、常に根底では「自分が見捨てられてしまうのではないか」という不安を感じているということです。「自己イメージの不安定さ」とは、自己同一性(アイデンティティ)が確立していないことから、例えば一面的な評価を自分の全人格に対する評価として過剰に受け取ってしまいます。その度にひどく落ち込んでしまったり、同じ人からの評価にも関わらず、褒められたときはその人のことを好意的に思う一方で、問題などを軽く指摘されただけでその人に敵意を示し激しい怒りを感じたりします。境界性パーソナリティ障害は自己中心的で対人関係の問題から情緒不安定をまねくことなどから自己愛性パーソナリティ障害と共通点が多くあります。また原因も自己愛の未成熟が関わってくることから診療の現場では、この2つの障害の区別は難しいとされています。この2つの障害の違いは、境界性パーソナリティ障害は、自己否定を繰り返し考え続けることで情緒不安定を生みます。それに対して自己愛性パーソナリティ障害は、理想と現実のギャップを受け止められず、自己防衛のために誇大化した言動を繰り返し、自信があるようにうかがえるという点です。そもそもパーソナリティ障害はそれぞれ独立して存在するのではなく、重複している共通の症状があるため、複数のパーソナリティ障害が併存しやすくなっています。ですので境界性パーソナリティ障害に限らず、他のパーソナリティ障害が合併していることがあったり、判断が難しかったりする場合があります。参考:『パーソナリティ障害いかに接し、どう克服するか』|(岡田尊司,2004)自己愛性パーソナリティ障害は発達障害と合併している可能性もある出典 : 自己愛性パーソナリティ障害は、必要な親からの共感が得られなかったことが原因のひとつではないかという仮説があります。自閉症スペクトラム障害やADHDをはじめとする発達障害がある人は、その特性から、社会関係や対人コミュニケーションに困難さが生じる場合があるほか、親が育てづらさを感じて親子の関係がうまくいかなかったり、体の感覚が過敏で子どもがだっこを嫌がったりして、必要なコミュニケーションをとる機会を持ちにくかったりする場合があります。こうした、親子や対人関係上の困難さが積み重なることによって、子どもの自己愛が十分に成熟することができず、自己愛性パーソナリティ障害へと発展する可能性もあると考えられています。参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害かも・・・相談先や医療機関、保険は効くの?出典 : パーソナリティ障害の診断は、専門医にも難しいものです。もしご自身やご家族に自己愛性パーソナリティ障害の疑いを感じた場合は、一人で悩む前にまずは専門機関に相談することをおすすめします。医療機関での受診先は精神科、神経科、心療内科などになります。「相談」のつもりであっても、形式は「受診」になるため、できるだけ本人を連れていくようにしましょう。「もしかして自己愛性パーソナリティ障害かも・・・?でも、医療機関を受けるほどのことでもないような気がする・・・」そのような場合は、各都道府県や政令指定都市に設置されている精神保健福祉センター、または各市区町村に設置されている保健所・保健センターの相談窓口へ相談してみてください。もちろん、本人だけではなく家族が電話などで相談することもできます。次のリンクは全国の精神保健福祉センターの一覧になりますので、参考にしてみてください。参考:全国の保健福祉センター一覧また、本人が会社勤めの場合や高校や大学に通っている場合、学校や企業専属のカウンセラーに相談することもおすすめです。企業や学校のカウンセラーは、その人が所属している組織の内情にも通じているため、より適切なアドバイスをもらうことができる可能性が高いです。また、連携している医療機関を紹介してもらえる場合もあります。自己愛性パーソナリティ障害で医療機関を受診する場合は保険診療となります。ですが自己愛性パーソナリティ障害と診断されて治療を開始することは少なく、二次障害として現れるうつ病や摂食障害などの治療から始めることが多いです。この場合でも保険診療となります。参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害の治療法はある?出典 : 自己愛性パーソナリティ障害は、その人の気質・家族環境によって表出する症状なども変わってきます。そのため治療も人によって異なり、さまざまな方法を組み合わせて治療が進められます。医師や心理技術者が患者さんの心理面に様々な働きかけを行い、患者さんの認知や思考、行動パターンなどの偏りを改善して少しずつ社会に適応できるようにしていく治療法です。1週間に1~2回、30分から1時間程度、治療者が患者さんと面接する形で行うのが一般的です。内容に関しては個々の治療者の判断によるところが多く、統一のガイドラインはありません。この治療法においては、以下の3点を患者さんと周囲の人々が理解する必要があります。・効果が表れるのに時間がかかる治療法であり、一般的には数年かかる・誰にでも効果が期待できるものではない・治療者との信頼関係がなければ効果は得られない個人精神療法は、精神科医が行うもっとも基本的な治療法の一つではありますが、「絶対的な治療法」であるという過度の期待を持つと、すぐに効果が出ないと治療を投げ出してしまったり、治療者を疑ったりと逆に治療が困難になってしまうことがあります。その場しのぎではなく問題を根本から改善しようとするものであるため、時間はかかりますが、本人が治療の意思を持って、治療者と信頼関係をしっかり結んで治療を継続していくことが必要です。集団精神療法とは、同じパーソナリティ障害を持つ人が複数人集まり、グループで話し合いをしたり、共同で作業をしたりする活動を通して、社会にうまく適応できない原因を見つけて解決する方法です。他の患者さんとコミュニケーションをとりながら、自分と同じ障害を持っている人を見つめることで問題に気付き、それを自分にあてはめて考えることができるようになります。集団精神療法での仲間体験は、患者さん自身の自己肯定感を持たせることにつながり、他人とコミュニケーションの取り方を練習する機会にもなります。また患者さん本人だけでなく、家族にも治療を行う場合があります。パーソナリティ障害がある患者は、その家族にも認知や思考のパターンに偏りがあることが多いためです。この偏りのために、家族の努力が患者さんの症状を逆に悪化させていることもあります。具体的には、治療者が家族全員と面接を行ったり、患者さんの付き添いで来院した際に話を聞いたりします。患者さんに思いをうまく伝える言葉のかけ方や、患者さんの気持ちを安定させるための振舞い方など、適切な対応法を治療者から指導します。なお家族療法は、患者さんが未成年のときに行われることが多いです。患者さんがある程度の年齢に達している場合は、患者さん自身が家族から自立する方向で治療が行われる傾向にあります。薬物療法は、強い不安や緊張、抑うつなど、程度の強い精神症状を一時的に和らげる目的で使われます。しかし、あくまで対症療法にすぎず、障害を根本から治すことはできません。治療の中心は精神療法で、薬物療法はその潤滑油としての役割を果たします。使われることのある薬の種類と働きは以下の通りです。■抗精神病薬主にドパミン系の神経に作用し鎮静させます。自傷行為などの衝動性が強くみられる場合に使われることがあります。リスぺリドンなどリスペリドン■抗うつ薬気分の落ち込みが続くときなどに用いられます。主にセロトニンなどの神経伝達物質を調整するSSRIやSNRIなどを使用します。・SSRI:フルボキサミンマレイン酸塩(デプロメール)、パロキセチン塩酸塩水和物(パキシル)など・SNRI:ミルナシプラン塩酸デプロメールパキシルトレドミン■抗不安薬不安や焦り、イライラ感が強い場合に使われるが、依存や乱用、衝動的な行動を増すおそれなどがあるのでSSRIのパロキセチン塩酸塩水和物に切り替えていくこともあります。ベンゾジアゼピン系抗不安薬(レキソタン)参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害克服のヒント出典 : 自己愛性パーソナリティ障害の克服に向けては本人だけでなく、家族の協力も必要になってきます。克服していくためには障害と向き合う本人の意欲と家族が何ができるかを考えて実践していくことが重要です。ここでは家族が本人に向けてできること、家族ができることのヒントを紹介していきたいと思います。■家族が本人に向けてできることまずは本人が自分の障害になっていることを突き詰めて考えていくよう促します。その時に自分に障害があることを家族や誰かのせいにする、医師が何とかしてくれるという考え方を捨てて、自分自身の問題だと自覚し、自分で向き合っていくというスタンスをつくっていきます。これはとても時間が必要ですので、何度も何度も繰り返しながら新しい考え方をつくっていくように心がけることが大切です。■家族自身ができることこれまでの育て方や障害になったのは自分のせいだ、と思い悩まずに、障害がある本人のために何ができるかということを考えていきましょう。家族の在り方を見直し、本人だけをみるのではなく家族全体の「関係性」に視点を変えていきます。どのような関係性が出来上がっているのか、それをどのように調整していったら良いのかなど、改善できそうな点を挙げて実践していくことをおすすめします。参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)まとめ出典 : 自己愛性パーソナリティ障害の原因にはさまざまな説がありますが、どの説にもほぼ共通しているのは自己愛が形成されていく過程には親との関係性が大きな割合を占めているということです。共感が感じられなかったり、逆に過度な子どもへの干渉から自己愛の形成がスムーズに進まないことなどによって自己愛性パーソナリティ障害は発症するといわれています。「自己愛」は自己愛性パーソナリティ障害だけでなく、他のパーソナリティ障害の根本的な原因にもなりうるといわれています。人間がより幸福に生きていくためには心と体の健康を意識しなくてはなりません。幼少期に十分にコミュニケーションをとることやスキンシップをとることは、心の健康を育てていくことと繋がります。とはいえ、完璧な自己愛をもっていると言い切れる人は少ないとも言えるでしょう。どこかに何かしらの欠如があるからこそ、その人らしさが現れることもあります。自己愛性パーソナリティ障害に関しては、自己愛の未成熟さは治療によって成熟に向かうこともあるといわれています。治療はある意味でこれまでの生き方やその人らしい考え方の変化とも言えます。そのため、治療には長い時間がかかりますし、本人がより生きやすくなるためには家族の協力も必要になってきます。家族だけでは難しい場合は周囲の人と協力して環境を調整していく努力も重要です。今まで築いてきた本人や家族のスタイルを見直すことは容易なことではありません。しかしより良い環境へ変化させていくチャンスだと思って積極的に取り組んでいくことで、それぞれにとって生きにくさを解決するきっかけになることもあるのです。
2017年05月29日母子分離不安とは?出典 : 「母子分離不安」とは、子どもが母親から離れることに対して不安を感じることを言います。人間にとって「不安」とは、生まれながらに持っている自己防衛本能でもあり、生きていくうえで欠かせないものです。赤ちゃんのときに母親と離れることを怖がって泣き叫んだりしがみついたりするのは、子どもにとって母親が「最も身近で安心感を与える存在」であるからなのです。そのため、幼い子どもが母親から離れる際に不安を感じるのは当たり前のことであるとも言えます。人は生まれてすぐは母親に完全に依存した状態ですが、成長するにつれて少しずつ自立し、母親との間に距離が取れるようになっていきます。しかし、小学校に進学する頃になっても、うまくこの距離感がつかめずに、入学時、留守番をする時などに強い不安を感じてしまう子どももいます。この不安が極度に強まると、腹痛・頭痛などの身体的症状や、母親がいないと泣きだしてしまうといった精神的症状を引き起こすこします。さらに症状が悪化すると通園・通学拒否になってしまうなど日常生活に支障をきたすことがあります。この記事では、一般的によく見られる母子分離不安症状の年齢ごとの特徴や原因と、長期化し治療が必要となる「分離不安症」の診断基準や治療法などをまとめてご紹介します。年齢別に分類できる母子分離不安の特徴出典 : 母子分離不安は、年齢によって特徴や対応が変わってきます。その特徴は、大きくは3歳までの子どもに見られる母子分離不安と3歳以降に見られる母子分離不安の2つに分類することができます。3歳までに見られる母子分離不安は、母親から物理的に離れることに不安を感じ、抱き癖や泣き叫ぶといった特徴が見られます。そのため通常、母親が戻ってくるということを学ぶと不安はなくなります。子どもが発達するうえで自然なことであり、このような母子分離不安は3歳頃になると少しずつ消えていきます。3歳までの母子分離不安は、乳児期前半、乳児期後半、乳児期以降で特徴に違いがあります。・乳児期前半乳児期前半の子どもには抱き癖が見られます。常に抱っこをしていれば泣かないのですが、下ろすとすぐに泣いてしまいます。赤ちゃんは抱っこをされることで安心感を得られ、母親に愛されていると感じます。そのため抱き癖がつくということは、母親と赤ちゃんとの間に絆ができていることの証とも言えます。・乳児期後半乳児期後半になると母親の姿が見えないときに、泣いたり怒ったりします。また母親のことを探すといったこともします。これは母親の姿が見えないときに母親の存在自体がなくなると思ってしまうからです。・乳児期以降歩けるようになって母親から離れることによって不安を感じ、だだをこねたり、後追いしたりします。母親から長時間離れられるほど心が発達していないため、このような特徴が見られます。3歳以降に起きる母子分離不安は、母親がいなくなってしまうのではないかという不安や家以外での心配事などがある際に、母親に安心感を求めようとして離れられなくなることを言います。特に小学校低学年の子どもに多く見られ、家庭での問題や家以外の環境などさまざまな理由によって、母子分離不安が起こります。3歳以上の子どもに見られる母子分離不安の具体的な特徴としては、以下が挙げられます。・日常生活ずっと母親にしがみついている・部屋に1人でいることができない・母親の姿が少し見えないだけで泣きだしてしまう・迷子や誘拐などによって親から離されてしまうのではないかと強く恐れる・母親の膝に乗ってくるなどの赤ちゃん返り・乱暴行為・激しい人見知り・就寝時寝つきが悪い・両親と一緒でないと寝られない・悪夢を見る・暗闇を過剰に怖がる・電気をつけたまま眠りたがる・保育園・幼稚園や小学校学校や友人の家に遊びに行くことを拒否する、授業に集中できず勉強を理解できない、親がいないと砂場やブランコで遊べない、何ヶ月たっても登園時母から離れようとしない、小学生になっても母親が学校のどこかにいないと登校を続けられない、通園・通学拒否母子分離不安が強まると、腹痛・頭痛・嘔吐・食欲不振・息苦しさ・夜尿のような身体的症状を引き起こします。年長児以上の子どもには頻脈・めまい・気を失うように感じるなどの心臓血管系の症状が起こることもあります。さらに母子分離不安の特徴が4週間以上続くと、「分離不安症」と診断されることがあります。分離不安症とは、家または愛着を持っている人物からの分離に関する、過剰な恐怖または不安のことを言います。一過性の母子分離不安とは対処法などが異なるため、注意しなければいけません。分離不安症については、後の章で詳しく説明します。参考:野村総一郎樋口輝彦/著『こころの医学事典』2003 年講談社/刊参考:近藤直司/著『不安障害の子どもたち』2014年合同出版/刊母子分離不安の原因出典 : 歳までに見られる母子分離不安は発達上の通常の現象として現れるものです。そのため、3歳以降に見られる場合のように外部環境や家庭でのストレスなどが原因ではありません。乳児期であれば母親と一緒にいる時間の心地良さを実感するためであり、乳児期以降から3歳までであれば母親の愛情を確かめるため母子分離不安が起きていると考えられます。3歳以降にも母子分離不安が一時的に見られることがあります。その原因は主に環境の変化です。例えば小学校に入学して一人でやらなければいけないことが増え、ストレスを感じるといったことが原因で、母子分離不安が見られることがあります。こうした現象は一時的にしか続かないことが通常ですが、不安が癒されずさらに強まって悪循環に陥った場合、母子分離不安が長期化することがあります。このような子どもは、外出を強く恐れたり、家庭や母親から離れることに極度に恐怖を感じるようになります。特定の原因は明らかにされていませんが、子どもの気質や家庭での問題、学校での心配事などが組み合わさって生じます。家庭での母子分離不安への対処法出典 : ・乳児期前半抱き癖を心配して泣いても抱っこしないと、赤ちゃんは「泣いても意味がない」と思って泣かなくなってしまいます。このように感情を表現しない赤ちゃんをサイレントベビーと言い、このまま成長すると対人関係に支障をきたす可能性があります。年齢が上がると少しづつ抱き癖はなくなっていくため、心配せずたくさん抱っこしてあげましょう。・乳児期後半この時期の子どもは母親が見えないとき、いなくなってしまうと思って不安を感じています。そのため子どもから離れる時は子どもが安心するような言葉をかけてあげましょう。母親が必ず戻ってくるということを伝えることが大切です。・3歳までこの時期の子どもは母親から離れることができる時もあれば、母親にしがみついて離れない時もあります。そのため子どもがぐずっている時に厳しく叱ってしまいがちですが、厳しく叱ると子どもは不安定になり、逆効果です。性格などによって個人差はあっても、だんだんと一人で過ごせるようになるため、甘えてくるお子さんをしっかり受け止めてあげましょう。3歳以降の母子分離不安にはさまざまな原因が考えられるため、お子さんの様子がいつもと違うと感じたら「何かあったの?」などと積極的に声をかけ、お子さんが不安や心配事を伝えやすい環境を作りましょう。家庭で行うことができる対処としてはまずは親子で過ごす時間を増やすことが挙げられます。手をつないであげる、一緒にお風呂に入る、一緒に寝る、勉強や子どもの好きなことを一緒にやるなど、できるだけ日常生活においてお子さんとのスキンシップを増やすようにするとよいでしょう。一緒に過ごす時間をつくることで、お子さんの不安を少しずつ取り除いていくことができます。他にも、次のようなことを試してみるとよいでしょう。・母親と一緒に登校する・授業中母親にいてもらう・保健室登校をする・子どもを無理やり学校に連れて行かず、休ませる・それまで一人で寝ていた子どもがお母さんと寝たいと言って布団に入ってきたら拒まない・ひとりで頑張って寝ている場合は一緒に寝ようと誘う・家の中では一人でいられるようになる、勉強にとりかかるなど、母子分離不安が軽度になったら学校に行ってみないかと少しずつ誘ってみる・ごく短時間の登校から始め、学校で過ごす時間を段階的に増やしていく(最初は先生に挨拶だけして帰るなど)野村総一郎樋口輝彦/著『こころの医学事典』2003 年講談社/刊母子分離不安について相談するときは?出典 : 母子分離不安の多くは、親や周囲の人たちが子どもの不安を理解し、家庭での対処法を実践することで改善します。しかし生活に支障をきたしているような場合や、小児期前半で紹介した母子分離不安の特徴が4週間以上続く場合はカウンセラーに相談してみるとよいでしょう。母子分離不安を相談できるところを簡単にご紹介します。・子ども家庭支援センター、市町村保健センター子育て全般の相談を気軽にすることができます。また地域ごとに設けられているため、その地域において母子分離不安を相談できる機関が他にあるか、どんな子育て支援があるかなどを詳しく知ることができます。・スクールカウンセラーお子さんの学校での様子を加味したうえで、母子分離不安の相談に乗ってくれます。また学校生活をサポートしてくれる、必要な時は医療機関を紹介してくれるといったメリットもあります。お子さんが不登校になっている場合は、不登校カウンセリングセンターや不登校支援センターといった専門のカウンセラーに相談しても良いでしょう。カウンセラーに相談するだけでは解決しないときは、小児科や児童精神科などの専門医療機関に相談することもできます。参考:近藤直司/著『不安障害の子どもたち』2014年合同出版/刊母子分離不安の治療が必要な場合「分離不安症」ということも出典 : これまで説明してきた通り、多くの子どもにとって母子分離不安は発達過程で通常発生するものであり、3歳以降の母子分離不安についても、保護者が適切な関わりをすることで改善します。しかし、母子分離不安が4ヶ月以上の長期間続き、心配や苦痛が過剰なレベルである場合、「分離不安症」と診断され、専門家による治療が必要になる場合もあります。近藤直司/著『不安障害の子どもたち』では以下のように述べられています。「母子分離不安はほとんどが1年以内に完治するとされています。しかしなかなか治らなかったケースについて検討した調査では、発症年齢が低く、診断の遅れが一因であったという報告があります。」(近藤直司/著 『不安障害の子どもたち』 2014年 合同出版/刊p.24より引用)早めに相談することが適切な治療や支援につながり、母子分離不安を改善することができるでしょう。ご家庭だけで悩むのではなく、多くの機関と連携して子どもを守ることが大切です。母子分離不安の症状が小児期以降に4週間以上続く場合は、医師やカウンセラー、医療センター、医療機関に相談することをおすすめします。分離不安症の原因としては、以下のようなものが挙げられます。・不安を感じやすい性格内気、神経質、完璧主義、対人関係に過敏な性格など・学校の環境過剰な緊張を強いるような学校の空気や担任教師の指導法、いじめなど・家庭内での問題両親の不和や母親の病気、身近な人やペットの死・母親と過ごす時間が少なかった共働きや母子家庭など、今まで親子で過ごす時間が少なかった・きょうだいが生まれたきょうだいが生まれたことで、兄・姉は母親に甘える時間が減ったアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では、日常生活に支障が出るほどの母子分離不安を分離不安症としています。分離不安症の診断基準は以下のように定義されています。A.家庭または愛着を持っている人からの分離に関する、発達的に不適切で、過剰な恐怖または不安で、以下の項目のうち3つの証拠がある。(1)家または愛着を持っている重要な人物からの分離が予測される、または、経験されるときの、反復的で過剰な苦痛。(2)愛着を持っている重要な人物を失うかもしれない、または、その人に病気、負傷、災害、または死など、危険が及ぶかもしれないという、持続的で過剰な心配。(3)愛着を持っている重要な人物から分離される、運の悪い出来事(例:迷子になる、誘拐されれる、事故に遭う、病気になる)を経験するという持続的で過剰な心配。(4)分離への恐怖のため、家から離れ、学校、仕事、または、その他の場所へ出かけることについての、持続的な抵抗または拒否。(5)1人でいること、または、愛着を持っている重要な人物がいないで、家または他の状況で過ごすことへの、持続的な抵抗または拒否。(6)家を離れて寝る、または、愛着を持っている重要な人物の近くにいないで就寝することへの、持続的な抵抗または拒否。(7)分離を主題とした悪夢の反復。(8)愛着を持っている重要な人物から分離される、または、予期されるときの、反復する身体症状の訴え。(例:頭痛、胃痛、嘔気、嘔吐)B.その恐怖、不安、または回避は、子どもや青年では少なくとも4週間、成人では典型的には6ヶ月以上持続する。C.その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、学業的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。D.その障害は、例えば、自閉症スペクトラム症における変化への過剰な抵抗のために家を離れることの拒否:精神病性障害における分離に関する妄想または幻覚:広場恐怖症における信頼する仲間なしで外出することの拒否:全般不安症における不健康または他の害が重要な他者にふりかかる心配:または、病気不安症における疫病に罹患することへの懸念のように、他の精神疾患によってはうまく説明されない。日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014年刊)p.189より引用分離不安症は併存症を伴うことがあります。併存しやすい疾病には、子どもの場合、不安障害のカテゴリ内にある「全般性不安症」や「限局性恐怖症」があげられます。分離不安症の医療機関での治療出典 : 医療機関や心理療法の専門施設では以下のような治療が行われます。・プレイセラピー(遊戯療法)遊びを通して本人の発達状態を理解し不安を和らげることで、自分の考えを表現できるようにします。・絵画療法・箱庭療法絵を描いたり、箱の中に好きなミニチュア玩具を置いていくという作業をしたりします。できあがった箱庭についてカウンセラーに言葉で伝えることで、自分の内面世界を表現できるようにします。症状や対人関係を改善することが目標です。・認知行動療法ものの受け取り方や考え方を修正し、悲観的でも楽観的でもないバランスのとれた考え方ができるようにします。子どもとの面談を通して進めていく治療法なので、考えを言葉にすることに慣れていない小さい子どもの場合にはプレイセラピーなどの方が適しています。・家族療法子どもだけに焦点を当てるのではなく、問題が家庭内でどのように起きているのかまで考えます。そのためご両親の子育てにおける悩みや不安も解決していきます。家族内の人間関係を調整し、子どもが安心できる環境を作っていきます。・薬物療法日常に支障をきたすほど不安が強い場合は、抗うつ剤や抗不安薬を使うことがあります。最近ではSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬が注目されています。不安障害においても効果が実証されており、安全性も高いと言われています。薬物療法だけでは完治しないため、他の治療法と組み合わせて行います。出典:近藤直司/著『不安障害の子どもたち』2014年合同出版/刊発達障害の子どもの母子分離不安の特徴は?出典 : 発達障害の子どもにおいて、母子分離不安の特徴が見られることがあります。発達障害の子どもは対人関係のあり方が偏っていたリ、ものの捉え方が異なったりするため、障害のない子どもに比べて、極度な不安を感じることがあるからです。母子分離不安は発達障害の中でも、ASD(自閉症スぺクトラム)の子どもに多いと言われています。ASDのある子どもにおける母子分離不安は、一言で言うと対人関係上の特性が原因です。ASDのある場合、親がいなくても平気という親子関係の希薄さを示す子どもがいる一方、子どもによっては極めて強い不安感を抱き、他の子どもがいるのを嫌ったり、ひと時も母親から離れられないといった神経質、過敏傾向も示す場合もあります。母子分離不安の対処法は、発達障害が関連していようとそうでなかろうと変わりはありません。信頼でき愛着のある大人がそばにいてやさしい言葉をかけて、子どもの不安を軽減させてあげましょう。まずは、信頼できる大人との安心した関係を確保したあと、不安を感じにくくするような治療法を取り入れていくとよいでしょう。注意点として、母子分離不安が表れたからと言って、すぐさま発達障害だと決めつけてはいけません。母子分離不安そのものは病気ではなく、多くは「一時的に心配ごとがある」というサインだからです。母子分離不安の特徴だけでなく、お子さんに他にどんな特徴が見られるのかも把握するようにしましょう。まとめ出典 : 自立を始めた子どもには母子分離不安が生じます。親から離れ出すと誰もが不安になるものです。そうした、発達過程で生じる正常な母子分離不安も少なくありません。お子さんの母子分離不安がどのようなものなのか、どう対処すべきなのか、しっかりコミュニケーションをとって把握しましょう。また、甘えだと思って厳しく叱ってしまうのではなく、お子さんを認めてあげ、一緒になって不安を取り除いていくことで改善することができます。子どもは安心することで、自立できるようになるのです。一方で治療を要する母子分離不安もあります。長く続く不登校なども、母子分離不安が原因かもしれません。症状の程度によってはスクールカウンセラーなどに相談するなど、ご家庭だけで抱え込まないようにしましょう。
2017年05月29日全般性不安障害とは?出典 : 全般性不安障害とは、時間や予定のずれ、仕事、学校、家族、健康などに対して、自分自身で不安の感情をコントロールできないほど過剰に心配をし、普段の活動に支障をきたす状態が続いている状態を指す疾患です。身の回りに起こるかもしれない出来事の発生可能性、発生した際にどういう影響が起こるかという本人の予測は、感じる不安や心配の強度、持続期間、発生頻度と必ずしも一致するものではありません。通常の場合、人はいま行っていることに対しての集中を妨げないために、一旦、不安や心配は抑制されている状態を保ちながら活動に集中できるようコントロールすることができています。全般性不安障害は、こうした不安や心配のコントロールにトラブルが生じ、日常生活に支障が出るほどの症状となって現れた状態であり、一般的な「心配性」とは区別されています。・自分の身の回りに起こる様々な出来事に対して大きい苦痛を感じ、それが長続きする傾向がある。・不安や心配の感情が前触れなくいきなり生じる。・不安や心配の感情がからだの不調になって現れる。以上の症状を顕著に感じ、長期化しているとき、全般性不安障害を発症している恐れがあります。全般性不安障害の主な症状出典 : ■共通して現れる症状....すべての人に共通して現れる症状は以下の2つです。・過剰な不安と心配をする日が、しない日よりも多い状態が少なくとも6ヶ月以上続く。・自分自身で心配を抑制することを、むずかしいと感じる。■個人差がある症状....不安と心配の感情と共に、以下のうち3つ以上(子どもの場合は1つ以上)の症状が現れます。・落ち着きのなさ、緊張感、神経の高ぶり・疲労しやすい・集中困難、心がからっぽに感じる・挑発されたと感じると、すぐに頭に血がのぼってしまう・筋肉が震えたり、筋肉痛になったり、収縮感を感じたりするなどして緊張する・寝付きの悪さ、途中で起きてしまうなどの睡眠障害・発汗、吐き気、下痢などの身体症状・突発的に起こった出来事に対して、顔面蒼白、冷や汗、動機、不眠、脱力感などの精神的、身体的反応を生じる極度の驚愕症状日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014年刊)p.221全般性不安障害を発症しやすい人の特性出典 : 全般性不安障害は、生活の全ての要素に対して不安を感じ、その不安が慢性化していくことによって発症します。そのため、時間の経過によって不安の出現がクセになっていく可能性が増え、30歳くらいで発症する人が多いです。そして、年齢を重ねるごとに症状は比較的小さくなると言われています。また、女性の方が男性より2倍経験しやすいとされています。加えて、以下の性格をもつ人は全般性不安障害を発症しやすいといわれています。・周囲の環境を敏感に感じ取ってしまう人・コンプレックスを抱えており、自信がない人・完璧主義者、完璧以外に極端な不満を持つ人・過度の保障を必要とする人しかし、これらの特徴がある人が必ず発症するとは限りません。日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014年刊)p.222全般性不安障害は年齢とともに発展していくの?その経過は?出典 : 全般性不安障害による症状は、生涯を通じて慢性化し、よくなったり、悪くなったりを繰り返します。また、心配したり、不安になったりする対象は、年代や自身の置かれているライフステージなどによってその都度変化していきます。子どもは特に、学校の成績や友人関係、スポーツなどにおいて、自分は優秀なのか、できる子なのかと、過剰に心配する傾向があります。自身ができる子なのかという判断は、他人と比べる相対評価からくる判断ではありません。大人は、仕事への責任の重さ、自身・家族の健康、家計、身の周りの人たちに起こりうる災難、日常的におこるささいな時間・予定のずれなどにおいて、毎日定期的に心配します。Upload By 発達障害のキホン全般性不安障害の原因出典 : 原因として、性格からくる要因、環境からくる要因、生物学的要因の3つがあります。性格からくる要因として、我慢強い性格、ネガティヴ思考、リスクをとらない性格などが挙げられます。我慢強い性格が全般性不安障害の原因になってしまうのは、我慢という行動は、他人に嫌われるのが怖いなどといった不安や心配する感情が伴っているからです。また、ネガティヴ思考が原因になってしまうのは、常にネガティヴな気持ちに伴って不安や心配の感情がおこっている場合が多いからです。そして、リスクを取らない性格が原因になってしまうのは、常にリスクに伴う不安や心配が念頭にあり、行動することによって危険にあう可能性をネガティヴに捉えてしまう傾向があるからです。環境的要因として、子どもの頃の逆境や親の過保護を受けた経験が当てはまります。しかし、これらは完全に証明されたわけではなく、必ずしも十分な要因ではありません。生物学的要因として、脳内の神経伝達物質であるセロトニンが関与している場合があるという説があります。セロトニンの分泌量を調節するセロトニントランスポーター(日本では不安遺伝子と呼ばれている)が作用し、これらは遺伝性が認められています。そのため全般性不安障害は遺伝的要因により発症する場合もあると考えられているのです。しかし、全般性不安障害の原因のすべてについては、まだはっきりとはわかっていない部分も多いため、更なる研究が必要な段階です。参考:非定型 抗精神病薬の効果と脳内レセプター遺伝子に関する神経薬理学的研究全般性不安障害と併存しやすい症状出典 : 全般性不安障害と併存しやすい症状として、不安分離障害、広場恐怖症、パニック障害などの他の不安症や、単極性抑うつ障害(うつ病)が挙げられます。これらが併存症と診断されていない場合であっても、過去~現在にかけて、診断基準を満たしている場合が多く見られます。また、感じている不安や心配を打ち消すためにアルコールを継続して摂取し、アルコール依存症になってしまうケースも多いと言われています。全般性不安障害の診断基準出典 : 年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版)によると、全般不安症/全般性不安障害として以下の診断基準があります。A.(仕事や学業などの)多数の出来事または活動について過剰な不安と心配(予期憂慮)が起こる日のほうが起こらない日より多い状態が少なくとも6ヶ月間にわたる。B.その人は、その心配を抑制することが難しいと感じている。C.その不安および心配は、以下の6つの症状のうち3つ(またはそれ以上)を伴っている(過去6ヶ月間、少なくとも数個の症状が、起こる日のほうが起こらない日より多い)。注:子どもの場合は1項目だけが必要。ⅰ落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶりⅱ疲労しやすいことⅲ集中困難、または心が空白になることⅳ易怒性Ⅴ筋肉の緊張Ⅵ睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難、または落ち着かず、熟眠感のない睡眠)D.その不安、心配、または身体症状が、臨床的に意味のある苦痛、または、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。E.その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)の生理学的作用によるものではない。F.その障害は、他の精神疾患ではうまく説明できない(例:パニック障害におけるパニック発作が起こることの不安又は心配、社交不安症における否定的評価、強迫症における汚染、または他の強迫観念、分離不安症における愛着の対象からの分離、心的外傷後ストレス障害における身体的訴え、醜形恐怖症における想像上の外見上の欠点の知覚、病気不安症における深刻な病気をもつこと、または、統合失調症または妄想性障害における妄想的信念の内容、に関する不安または心配)。日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014年刊)p.220より引用全般性不安障害かも?と気になったときは専門機関に相談を出典 : 全般性不安障害は通常、身体の不調の症状を強く感じて内科に診察を受けに行く人が多いです。しかし、検査をした際に異常なし、と診断されることがあり、精神疾患について言及するお医者さんは必ずしも多いとは言えません。他の科で異常がないと診断されたが、身体的、精神的不調が半年以上続いており常に不安なことがある。もしくは、周囲の人に相談したり、打ち明けたりすることに抵抗感を感じたりする場合は、以下の相談先に相談するか受診をおすすめします。■全国精神保健福祉センター....都道府県・政令市には、ほぼ一か所ずつ設置されている、保健・精神保健に関する公的な窓口です。精神保健福祉に関する相談をすることができます。精神科医、臨床心理技術者、作業療法士、保健師、看護師などの専門職が配置されています。相談については、予約制、健康保険の適応があるところがあります。詳細は、それぞれのセンターにお問い合わせください。全国の精神保健福祉センター一覧l厚生労働省■精神科....心の症状、心の病気を扱う科です。心の症状とは具体的に不安、抑うつ、不眠、イライラ、幻覚、幻聴、妄想などのことです。心の症状に対して治療を行います。■心療内科....心と身体、それだけでなく、その人をとりまく環境等も考慮して扱う科です。精神科で扱う心の症状だけでなく、ほてり、動悸などの身体的症状とその人の社会的背景、家庭環境なども考慮して治療を行います。精神科、心療内科どちらに行ったらいいか迷う方もいらっしゃるかもしれませんが、全般性不安障害の場合、身体にも心にも症状がでるため、精神科を受診しても心療内科を受診してもどちらでも大丈夫です。全般性不安障害の治療法出典 : 全般性不安障害の治療法として主に薬物療法と精神療法があります。■薬物療法即効性があるといわれている抗不安薬を用いる場合があります。代表例はベンゾジアゼピン誘導体、タンドスピロンなどです。ベンゾジアゼピンは不安や緊張を和らげる効果がありますが、連用すると依存症になりやすいといわれており、アルコールとの併用は厳禁です。また、連鎖的に表れる不安には抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や、5-HT1A受容体部分作動薬などが用いられます。全般性不安障害は精神を安定させる働きのある脳内伝達物質、セロトニンの調節安定性も大きく関わっています。そのため、セロトニンに直接作用する抗不安薬が即効性があるといわれているのです。しかし、薬には副作用もありますし、人によって合う合わないがあります。低年齢の子どもの場合はより慎重に進めるべきという専門家もいます。主治医の先生と信頼関係を築き、よく相談した上で納得して治療を進めるとよいでしょう。精神療法は、即効性はありませんが薬物療法に比べて副作用が少なく、再発率も低くなっています。全般性不安障害に有効な精神療法の2つの代表例は以下の通りです。■認知行動療法(CBT)認知療法・認知行動療法は、何か困ったことにぶつかったときに、本来持っていた心の力を取り戻し、さらに強くすることで困難を乗り越えていけるような心の力を育てる方法として、いまもっとも注目を集めている精神療法です。具体的には、自身がどのタイミングで不安や心配を感じるのかを客観的に観察し、“自動思考”という考えのクセを把握します。そして、そういった状況に直面した際に、どのように考え、対処していけばいいかを考え、考え方をコントロールしていく治療法です。参考:全般性不安障害の治療方法 l 前田クリニック参考:認知療法・認知行動療法マニュアル l 日本認知療法学会■森田療法森田正馬が1910年代に自身の体験から考案した精神療法です。森田療法は全般性不安障害の治療として有効であると言われています。不安や恐怖という感情を、自然な感情と受け入れ、不安や恐怖はダメな感情であるという、とらわれた考えから脱出することを主な目的としています。また、不安や恐怖という感情は、よりよく生きたいという考えと表裏一体という認識をとっています。そこで、自身のあるがままの不安や恐怖を受け入れることにより、自身の中の健康な力や豊かな感情に気づくことができるとされています。全般性不安障害に対して、日常生活でできること出典 : 全般性不安障害に対して、日常生活で行えること。それは生活習慣を整えていくことです。なぜなら、生活習慣が乱れた日々が続くと、いつもよりネガティブになったり、イライラしたりし、精神状態が不安定になってしまうからです。そのため、以下の基本的なことから意識して行っていきましょう。・十分な睡眠をとる・栄養バランスのとれた食事を摂取する・適度な運動をする・アルコール摂取量を控えるまた、生活習慣を整える以外にも有効な対処法があります。・環境を整えるための対人関係の整理・筋肉の弛緩、深呼吸などの個人でできるリラックス法の確立家族や周りの人が全般性不安障害だったとき、どう対応すべき?出典 : 全般性不安障害がある人は、自身の抱えている不安や心配を、周囲の人に相談したり、訴えたりすることが多いです。その際に、不安や心配に伴って、こころだけではなくからだにも不調が長く続いていることを理解してあげることが重要です。では、具体的にどう接することが適切なのでしょうか?・気持ちの問題や、性格だと決めつけない。・否定的なことを言わない、できないことがあっても責めない。・不安を訴えているときは、その対象に対してアドバイスをするより、まずはどんな時も側にいてあげるという意思表示をする。・辛い時は休める環境を整え、安心感を与える。・本人が意識を変えようと努力しているときは積極的に褒める、賛同する。これらを意識して温かい気持ちで支えてあげることをおすすめします。まとめ出典 : 全般性不安障害は、多数の出来事や活動に対して過剰な不安と心配をする症状を発症し、それと同時にからだの不調も現れる疾患です。しかし、 不安という感情は全ての人がもつ感情であり、疾患かどうかを自己判断するのは難しいです。また、慢性化することで治りにくくなるため、早期から治療することが重要です。そこで、周囲の人もただの「心配しすぎ」だと思わず、優しく見守り、場合によっては専門家に相談するよう促すことをおすすめします。
2017年05月29日パーソナリティ障害とは出典 : パーソナリティ障害とは、一般の人と比べて著しく偏った考え方や行動パターンのために家庭生活や社会生活、職業生活に支障をきたした状態を指します。どんな人にでも性格の偏りはあるものですが、その偏りによって二次障害が現れたり、日常生活に支障が生じることではじめて「障害」と判断されます。米国精神医学会によって作成される『精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)』では、パーソナリティ障害は以下のように説明されています。パーソナリティ障害とは、その人が属する文化から期待されるものから著しく偏り、広範でかつ柔軟性がなく、青年期または成人期早期に始まり、長期にわたり変わることなく、苦痛または障害を引き起こす内的経験および行動の持続的様式である。出典:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院.2014)以上のように「苦痛または障害を引き起こす」という特徴により定義されるパーソナリティ障害ですが、周囲から見てパーソナリティ障害であるかどうかを見分けることは極めて困難であるとされており、パーソナリティ障害は理解のされにくい病気と言われています。パーソナリティ障害に対する理解を深める前に、「そもそもパーソナリティって何?」という疑問を持つ人もいるのではないでしょうか。人間は誰でも、考え方や行動のパターンに何かしらの特徴・偏りを持っていて、そうした「その人らしさ」といえるような特徴を“パーソナリティ”と呼びます。「人付き合いの好きな人」「自己中心的な人」「神経質な人」「怒りっぽい人」などさまざまなパーソナリティがあります。今日の精神医学・心理学の分野では、パーソナリティは「性格」と「気質」という2つの要素が合わさったものと考えられています。「性格」はパーソナリティの心理社会的側面を、「気質」は遺伝的・器質的素因といった生物学的な側面を意味します。アメリカの精神科医ロバート・クロニンジャーは、性格を形作るものとして「自己思考」「強調」「自己超越」という3つの要素を、気質を形作るものとして「新奇性探求」「損害回避」「報酬依存」「固執」という4つの要素があると考え、合計7つの要素からなるパーソナリティ理論を提唱しました。この理論は、前者の3つの要素は体験からの学習として得られ、後者の4つは生まれつき備わっている要素なのではないかということを示唆しています。参考:岡田 尊司『パーソナリティ障害がわかる本』ちくま文庫(2014)p.22, 23以前は、パーソナリティ障害は英語名である“Personality Disorder”を直訳する形で「人格障害」と呼ばれていました。しかし、日本語の「人格」という言葉は人としての道徳観や良心の有無といった意味合いを含むため、「人格障害」という呼び名を用いることは当事者に対する否定的なイメージや偏見につながりかねない、と考えられるようになりました。現在は使われる頻度も減少しているようです。本記事では、それぞれ異なった特徴を持つパーソナリティ障害のタイプ別分類、各種パーソナリティ障害の概要やパーソナリティ障害の原因といった基本情報に加えて、パーソナリティ障害と発達障害との関連、具体的な治療法、周囲の接し方などについて、わかりやすく解説します。参考:パーソナリティ障害|厚生労働省参考:パーソナリティ障害(境界性/自己愛性)について|すぎうらメンタルクリニックパーソナリティ障害の分類出典 : 現在、精神科医療の現場で広く用いられている診断基準である『DSM-5』では、パーソナリティ障害は10のタイプに分類され、それぞれの特徴・傾向をもとにA・B・C群という3つのグループに分けられています。Upload By 発達障害のキホンそれぞれのタイプの詳しい症状などについては、関連記事を参照してください。A群:奇妙で風変わりに見えるA群は「オッド・タイプ」という別名を持ち、非現実的な考え方にとらわれやすいという特徴があります。統合失調症や妄想性障害といった精神疾患とのつながりが指摘されています。A群には以下の3タイプがあてはまります。・猜疑性パーソナリティ障害/妄想性パーソナリティ障害・シゾイドパーソナリティ障害/スキゾイドパーソナリティ障害・統合失調型パーソナリティ障害B群:演技的で情緒的に見えるB群は「ドラマチック・タイプ」とも呼ばれ、感情的かつ衝動的なのが特徴です。そのため、周囲を巻き込んで迷惑をかけることが多いタイプであるといえます。B群には以下の4タイプがあてはまります。・反社会性パーソナリティ障害・境界性パーソナリティ障害・演技性パーソナリティ障害・自己愛性パーソナリティ障害C群:不安または恐怖を感じるC群は「アンクシャス・タイプ」と呼ばれることもあります。不安・恐怖心などが強く、自己主張は控えめなのが特徴です。自己本位というより他社本位なタイプといえるでしょう。A群には以下の3タイプがあてはまります。・回避性パーソナリティ障害・依存性パーソナリティ障害・強迫性パーソナリティ障害新たな種類のパーソナリティ障害上で挙げた10種類のパーソナリティ障害に加え、近年では「循環病質」という病前性格、すなわち疾患を発症する以前の性格をベースとしたパーソナリティ障害も増えていると言われています。この種類のパーソナリティ障害には、普段は社交的・活動的だが激しい気分変動が起きるという特徴があります。この種類には以下の2つのタイプが当てはまります。・サイクロイド・パーソナリティ障害・サイクロタイパル・パーソナリティ障害以上、DSM-5に従ってパーソナリティ障害の3つのグループと10の下位分類、そしてDSM-5にはない、新たな種類のパーソナリティ障害について紹介しましたが、世界保健機関(WHO)により作成される疾病分類であるICD-10など、他の診断マニュアルにおいては分類のしかたや下位分類の名称が違うこともあります。参考:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院.2014)パーソナリティ障害(人格障害)|慶應義塾大学病院複数のパーソナリティ障害が重なり合うこともある出典 : パーソナリティ障害は10のタイプに分類されていますが、実際のところ、パーソナリティの特徴が明確に見られる「典型例」といえるような患者さんばかりではなく、複数のパーソナリティの傾向を同時に持ち合わせている人もいるため、どのパーソナリティ障害なのかを見極めることが困難な場合もあります。もともと何らかのパーソナリティの偏りを持っていた人が、その偏りが原因で問題を抱えるようになった結果、二次的に新たなパーソナリティ障害の傾向を示すようになることもあります。なかには3~4つのパーソナリティ障害を併発する人もおり、そのようなケースではその人がもともと持っていたパーソナリティを特定することが重要となります。パーソナリティ障害のなかには、重複しやすいタイプがあると言われています。例えば、・境界性パーソナリティ障害・演技性パーソナリティ障害・自己愛性パーソナリティ障害・反社会性パーソナリティ障害といったパーソナリティ障害は「対人関係に支障をきたす」「自己中心的な考え方をする」「反社会的な行動をとる」など共通した特徴を持っており、相互に重複の可能性が指摘されています。さらに、自己愛性パーソナリティ障害と強迫性パーソナリティ障害が重なるケースも指摘されているようです。参考:牛島定信『図解 やさしくわかるパーソナリティ障害 正しい理解と付き合い方』ナツメ社 (2011)参考:パーソナリティ障害|厚生労働省パーソナリティ障害の原因出典 : パーソナリティ障害は、誰でもなる可能性があるといわれています。しかし、パーソナリティ障害の原因に関して、現時点では十分なことは明らかになっていません。それでも、さまざまな研究が進められていて、生物学的な特性や発達期の経験がパーソナリティ障害の発症に関与することなどが指摘されています。例えば、衝動的な行動パターンには脳内の神経物質の関与が認められること、幼少期の辛い経験が発症に影響を及ぼすといった研究結果が報告されています。パーソナリティ障害の原因に関する研究でしばしば用いられるのが遺伝的要因と環境的要因という分類です。遺伝的要因とは遺伝子による影響だけを指し、それ以外の要因はすべて環境的要因として捉える考え方です。すなわち、環境要因のなかには生まれ育った環境、親との関係、病気やケガ、社会的影響などすべてが含まれます。遺伝的要因が関与する割合については、双生児による研究を通して推定されることが多いです。ある疾患の遺伝率を求める場合、一卵性双生児と二卵性双生児で、一人がその疾患にかかっているとき、もう一人の兄弟がその疾患にかかる割合(一致率)を調べます。遺伝性が高い疾患では、二卵性に比べて一卵性双生児での一致率がとても高くなります。一方で、遺伝率が低い疾患だと、一卵性双生児と二卵性双生児との間で一致率にあまり差は見られません。このような方法を用いた研究によれば、パーソナリティ障害の遺伝率は50~60%ほどという結果もあるようです。このことから、程度遺伝的要因はパーソナリティ障害に関連するが、それだけではない環境要因も影響すると言われています。参考・出典:岡田 尊司『パーソナリティ障害がわかる本』ちくま文庫(2014)p.82子どもの性格の形成に関して、親との関係は大きな影響を与えるといわれています。そのため親子関係の変化する各段階におけるなんらかのつまづきによって偏ったパーソナリティが形成されて行く可能性も少なくないと考えられます。例えば、乳児期に適切な世話や愛情を受けることができないと、安定した愛着が構築されず、外界や他者に対して不安や恐怖を抱くなるようになってしまう可能性があることが専門家によって指摘されています。しかし、その可能性は様々にあるパーソナリティ障害の要因の一つにすぎません。また、どのような要因があるにせよ、原因探しが必ずしも治療の手助けになるわけではありません。時をさかのぼって過去をやり直すことができない以上、原因は原因として客観的に受け止め、「現実の問題に対して対応していく方法」について考えていくことが大切なのではないでしょうか。参考:パーソナリティ障害|厚生労働省参考:牛島定信『図解 やさしくわかるパーソナリティ障害』ナツメ社 (2011)参考:岡田 尊司『パーソナリティ障害がわかる本』ちくま文庫(2014)パーソナリティ障害と関連するその他の障害出典 : パーソナリティ障害には、合併しやすい障害や疾患があると言われています。また、その他にも症状が似ている障害の存在も指摘されています。本章では、前半で合併しやすい障害・疾患について、後半で症状の似たものについて紹介します。それぞれの障害・疾患について詳しく知りたい方は、関連記事をご参照ください。■うつ病気分障害の一つであるうつ病は、パーソナリティ障害と合併しやすいといわれています。■双極性障害双極性障害はうつ病と同じく気分障害の一つであり、気分が高まる「躁(そう)状態」と気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。サイクロイド・パーソナリティ障害、サイクロタイパル・パーソナリティ障害の場合、双極性障害へと進展するケースが指摘されています。■統合失調症幻覚や幻聴、気分の落ち込みがある統合失調症。妄想性パーソナリティ障害、スキゾイド・パーソナリティ障害、統合失調型パーソナリティ障害から進展することがあるといわれています。■不安障害不安が異常に高まってしまう疾患である不安障害はパーソナリティ障害と合併することがあります。不安障害とはどのような疾患なのか|せせらぎメンタルクリニック■強迫性障害自己愛性パーソナリティ障害に合併しやすいといわれています。■摂食障害摂食障害の症状の中でも、「過食」は境界性パーソナリティ障害、統合失調型パーソナリティ障害に合併しやすいようです。摂食障害|厚生労働省■アルコール依存・薬物依存アルコールや薬物への依存症状は、反社会性パーソナリティ障害と合併しやすいといわれています。参考・出典:岡田 尊司『パーソナリティ障害がわかる本』ちくま文庫(2014)p.82■妄想性障害妄想性障害は、妄想性パーソナリティ障害や妄想型統合失調症と症状が似ています。妄想性障害(パラノイア)とはどういう病気なのか|せせらぎメンタルクリニック妄想性障害のほかにも、発達障害はパーソナリティ障害と似た特徴・傾向がみられることがあります。パーソナリティ障害と発達障害との関係については、次章で解説します。パーソナリティ障害と発達障害の関係は?出典 : 発達障害とは脳機能に先天性の障害があるために、幼児期から発達に何らかの遅れや困難が生じることを指します。その症状は、通常低年齢の発達期において発現することが多いといわれています。他者と考え方や感じ方か違う、自己中心的になりやすい、衝動的な言動がみられるといった特徴・傾向は、パーソナリティ障害・発達障害の両方でみられることがあるため、見分けるのは容易ではありません。また、発達障害のある子どもは、学校でいじめを受けたり、勉強についていけなくて周囲に叱責されたりと、自尊感情が損なわれやすい傾向があります。そのために自我がうまく育たず、他者と友好関係を築くのが苦手になり、しだいにパーソナリティに偏りが生まれてしまう場合もあるようです。上記のように、発達障害をベースとして二次的にパーソナリティ障害と同様の症状が現れている場合には、発達障害の治療と並行してパーソナリティ障害への対応に準じた対応策が必要とされます。パーソナリティ障害かもと思ったら?相談先は?出典 : パーソナリティ障害であるかどうかを、当事者本人が自覚したり、周囲の家族や友人が判断することはきわめて難しいといわれています。身近な人に抑うつ症状や衝動行為をしていて、それが心配になるレベルである場合には、精神科か心療内科に受診して専門医の診断を仰ぐことが好ましいでしょう。すぐには診断は出ませんが、それでも相談したり、強い症状をある程度治療によって抑えることができる場合もあります。精神的に安定した状況を取り戻し、ほかの障害の併発を防ぐためにも、できるだけ早期の受診が望まれます。はじめから医療機関に行くことに対して抵抗を感じる場合は、精神保健福祉センター・保健センター・地域活動支援センターなどといった地域の相談窓口を利用してもよいでしょう(名称は地域によって異なることがあります)。地域にある相談先|厚生労働省全国の保健福祉センター一覧|厚生労働省パーソナリティ障害の診断の流れと診断基準出典 : 前章でも述べた通り、パーソナリティ障害の疑いがある場合は精神科もしくは心療内科を受診するとよいでしょう。基本的に、初診でパーソナリティ障害の判断がつくことはあまりありません。初診時の面接では現在困っていること・悩んでいること・気分の状態などについて聞かれることが多いようです。医師は、面接を繰り返す中で、気持ちや考え方に変化がないかなどを確認しながら診断を進めていきます。また、患者さんは過去の出来事や幼少期の親子関係などについて聞かれることもあります。患者さんの話だけでは性格や気質を捉えきれないと医師が判断した場合には、心理テストを行い、その結果を判断材料とすることもあります。問診や心理テストの結果を分析し、DSM-5、あるいはWHO(世界保健機関)が作成する疾患の分類であるICD-10の診断基準に照らし合わせながら最終的な診断が下されます。DSM-5では、パーソナリティ障害の全般的基準は以下のようにまとめられています。A. その人の属する文化から期待されるものから著しく偏った、内的体験および行動の持続的様式。この様式は以下の領域の2つ(またはそれ以上)の領域に現れる。(1)認知(すなわち、自己、他者、および出来事を知覚し解釈する仕方)(2)感情性(すなわち、情動反応の範囲、強さ、不安定性、および適切さ)(3)対人関係機能(4)衝動の制御B. その持続的様式は柔軟性がなく、個人的および社会的状況の幅広い範囲に広がっている。C. その持続的様式が、臨床的に意味のある著しい苦痛または、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。D. その様式は安定し、長時間続いており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期にまでさかのぼることができる。E. その持続的様式は、他の精神疾患の表れ、またはその結果ではうまく説明されない。F. その様式は安定し、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:頭部外傷)の直接的な生理的作用によるものではない。引用:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院.2014)この診断基準に当てはまる場合、さらに10タイプある下位カテゴリーそれぞれの診断基準に照らして、慎重に診断されます。パーソナリティ障害の経過と治療法出典 : パーソナリティ障害は自然に治るものではありませんが、症状や困難性は、適切な治療を受けることで改善させることができます。しかしながら、すべての人に有効な決定的な療法は見つかっておらず、同じ治療法でも人によって効果は異なります。根本的な治療法は精神療法、対症療法としては薬物療法が用いられるのが基本ですが、さまざまな治療法を組み合わせながら、その人に合った方法で治療が進められます。より具体的には、以下のような治療法が代表的といわれています。■個人精神療法医師や心理技術者といった治療者が患者さんとの面接を通して患者さんのパーソナリティ障害に対する理解を促したり、認知や思考・行動パターンの偏りや問題点の改善を目指していく根本的な治療です。面接は、治療者と患者さんの1対1で1週間に1~2回、30分~1時間程度行われるのが一般的なようです。この治療法では、患者さんと治療者の間に信頼関係があることが前提条件になります。■集団精神療法その名の通り、集団で行うことが特徴の治療法です。患者さん、治療者に加え、ほかの患者さんも交えたグループで話し合いをしたり、共同作業を行ったりという活動の中で生まれる患者さん同士の相互効果を治療に生かします。同様の障害を持つ人と交流することで、障害を客観的に理解したり、「人の振り見て我が振り直せ」効果を期待することができます。■家族療法家族療法では、患者さん本人のみならず、家族に対しても治療を行います。患者さんと家族との関係性を捉え、そこに存在する問題の解決を目指す治療法です。家庭における家族一人ひとりの役割を見直し、正常化することで、患者さんの精神的な安定をはかります。具体的には、治療者が家族と面接を行ったり、家族内での問題への対処法に関する助言や指導を行ったりします。パーソナリティ障害を根本から治す薬は現在のところありません。薬による治療はあくまで対症療法になりますが、強い不安や緊張、抑うつなどといった精神症状を一時的に和らげる目的で投薬治療を行うことがあります。認知行動療法とは、患者さんの認知のしかたの「ゆがみ」の改善をはかる治療法です。患者さんに自分を客観的に観察してもらい、認知のゆがみがいつ、何をきっかけに起きたのかを記録し、そのゆがみについて自覚してもらいます。そのうえで、そうしたゆがみを改善するための認知のしかたや行動の取り方を、ロールプレイングなどを通して実践的に身につけていきます。参考:牛島定信『図解 やさしくわかるパーソナリティ障害』ナツメ社 (2011)パーソナリティ障害のある人に対する、周囲の接し方は?出典 : パーソナリティ障害は、本人にとっても周囲にとっても理解しにくい障害であり、本人に対する接し方においてもさまざまな配慮が求められます。家族が医師の話を聞きながら適切な対応をとっていくことが大切です。家族がパーソナリティ障害の患者さんと向き合い、支えていくうえで最初のステップとなるのが、パーソナリティ障害について正しく理解することです。程度に差はあれど誰もが持っている「考え方の偏り」によって社会活動に支障が生じるパーソナリティ障害は、誰にでも起こりうる障害であるといえます。「治療には時間がかかる」「本人には自覚が乏しいこともある」「治療においては周囲のサポートが重要」といった特徴について理解しておくことで、治療が進みやすくなります。本人が医療機関の受診を拒むケースも少なくありません。患者さんが、自分が抱えるトラブルの原因は自分ではなく周囲にあると捉えていることも多いです。そうした状況下で周囲によって受診を強くすすめられると、「どうして自分が病院に行かないといけないんだ!」とますますかたくなになってしまう可能性もあります。家族は、本人が医療機関を受診する前から「病気」や「障害」と決めつけるようなことはせず、「あなたの悩みを軽減・解消するために行ってみない?」といった促し方をしてみましょう。受診について切り出すタイミングに関しては、患者さんの気持ちが安定していて、落ち着いて会話ができる状態が好ましいでしょう。パーソナリティ障害の人のなかには、家の中にひきこもり、社会活動に参加を拒む人もいます。患者さんがひきこもるのには、さまざまな理由が考えられます。例としては、自分が他者に受け入れてもらえるか・どう評価されるのかということを過剰に心配してそとの社会との関わりを避けるケースや、もともと人付き合いが嫌いもしくは苦手で、対人関係のストレスを避けるケース、仕事上の失敗などが原因で自信を失い社会に戻ることを拒むケース、外の世界に興味・関心が持てなくて外に出る気持ちが起こらないケースなどが挙げられます。患者さんがひきこもっているとき、家族が無理に外へ連れ出すのは好ましくないとされています。その人がひきこもっているのにはそれなりの理由があるはずなので、その気持ちを尊重し、理解しようとする姿勢を示すほうが解決につながりやすいでしょう。社会での対人関係やコミュニケーションをとることに対する不安からひきこもり状態になっているときには、ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)を受けることが状況の改善につながることもあります。パーソナリティ障害の人のなかには、激しい怒りなどの感情とともに、暴力を振ったり暴言を吐いたりする人がいます。こうした暴力や暴言も衝動行為の一つで、自分の感情をうまくコントロールできないために直接的な行動によって発散している状態です。親や交際相手、自分の子どもなど、身近な人ほど対象になりやすいです。パーソナリティ障害の人が粗暴な言動をしたとき、周囲の人は極力冷静に対応することが求められます。家族まで感情的になって同じように暴力や暴言で対抗してしまうと、患者さんはさらに動揺し、不安を強め、精神が不安定になり、さらに衝動的になるという悪循環に陥ってしまう可能性があります。解決を目指すうえでは、容易なことではないとは思いますが、専門家との連携をとりながら、患者さんをつねにあたたかく見守っていく姿勢をくずさないようにすることが重要です。患者さんを安心させることで衝動行為の抑制をはかりましょう。まとめ出典 : 人はみなそれぞれ異なる性格を持っています。それぞれ異なる考え方を持っています。ただ、同じような傾向の性格を持っていたとしても、その性格の偏りによって家庭生活や社会生活、職業生活に支障をきたしてしまう場合は、パーソナリティ障害と判断されます。治療に際しても、一人ひとりの症状や考え方の違いに応じて、異なった対応が必要になります。専門の医師による治療やアドバイスを受けながら、患者さん本人や周囲の人たちもその症状を理解し、焦らずじっくりと対応していくことが大切です。
2017年05月28日境界性パーソナリティ障害とは?出典 : 境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder:BPD)は、対人関係や自己に対するイメージなどの広い範囲において、激しく考え方や感情が変化していく特性がある障害です。境界性パーソナリティ障害の多くは思春期から青年期・成人早期に起こる感情と行動の失調状態です。時間はかかりますが適切な治療を行うことによって自分自身を取り戻していくことができるといわれています。現在さまざまなパーソナリティ障害が確認されており、境界性パーソナリティ障害はその中の一つとして存在しています。パーソナリティ障害とは、思考、感情、人とのかかわり方、衝動の制御の4つのうちの少なくとも2つにおいて、柔軟性がない状態をいいます。このようなパーソナリティ障害がある人は、考え方や行動パターンに著しい偏りがあるため他者と摩擦が生じ、日常生活や仕事・学校の場面でトラブルをおこしてしまうことがあります。境界性パーソナリティ障害は他人から見捨てられてしまうのでないかという不安と、自分が何者でどう振る舞えば良いのか分からない自己イメージの不安定さがトラブルの背景にあるといわれています。境界性という名前は、“強いイライラ感”が症状として現れる神経症と、“現実が冷静に認識できない”認知障害をもつ統合失調症、2つの精神疾患の境界にあると、かつて考えられていたことに由来し命名されています。現代社会の中では境界線がはっきりしないことは数多く存在しています。例えば自分と他人との境界や男と女の境界、子どもと大人との境界など、あらゆるボーダーラインがあります。境界性パーソナリティ障害がある方はその境界が分かりにくく、社会にうまく適応できないという生きづらさを抱えています。境界性パーソナリティ障害を発症している方々の中での男女割合は女性が75%と多く、主に女性が発症しやすい傾向があることが分かっています。出典:日本精神医学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル第5版』(医学書院,2014)参考:岡田尊司/著『境界性パーソナリティ障害』(幻冬舎新書,2009)境界性パーソナリティ障害の主な特性とは?出典 : 境界性パーソナリティ障害の主な特性として代表的なものは、自己イメージの混乱と見捨てられるかもしれないという強迫観念があることです。この3つの特性からくる不安と恐怖の感情がもととなり、さまざまな症状に発展していきます。境界性パーソナリティ障害がある人は、「自分がどんな人か分からない…」というように自己イメージがはっきりしない状態であるため、他人の影響を受けやすかったり、他人と自分を区別できなかったりすることがあります。自己イメージは自己同一性(アイデンティティ)とも言われ、自分・他人から見ても一貫している自己を持っていることをいいます。自己イメージが安定していると、自分が社会にとって意味があり、自分の中に生きているという実感が生まれます。それによって過剰に不安になることや人に流されることが減ってきます。しかし境界性パーソナリティ障害がある人は自己イメージが混乱しているため、例えば一面的な評価を自分の全人格に対する評価として過剰に受け取ってしまうことが多くなります。その度にひどく落ち込んでしまったり、同じ人からの評価にも関わらず、褒められたときはその人のことを好意的に思う一方で、問題などを軽く指摘されただけでその人に敵意を示し激しい怒りを感じたりします。このような対人関係を続けることで過度なストレスを感じるようになり混乱や落ち込んだ状態が慢性化し、さらに自分を見失うという悪循環に陥ってしまいます。境界性パーソナリティ障害がある人は、自身が信頼をおいている相手に依存する特性がみられます。常に根底には自分が見捨てられてしまうのではないかという「見捨てられ不安」というものを感じています。幼い頃に両親の離婚によって家族や愛着のある場所などから離れることに強い不安を抱いたり、虐待などにより愛情を失う体験をしたことが背景になっている場合もあります。「また同じ思いはしたくない」という潜在的な意識によって見捨てられ不安は招かれ、信頼できる相手に対して疑い、見捨てられるのではないかという不安を抱いています。その見捨てられ不安から例えばメールを送ってもすぐに返ってこなかったり、自分が期待している反応が返ってこなかったりする場合、「嫌われたのではないか?」、「見放されたのではないか?」と強い恐怖を感じ相手から離れまいとしがみつこうします。そして見捨てられ不安から逃れたり、相手の興味を自分に引きつけたりするためにギャンブルや過食、過量の飲酒・服薬、自傷行為や自殺をほのめかす行動を起こしてしまうのです。境界性パーソナリティ障害がある人は自己イメージの混乱や見捨てられることに不安や恐怖を常に感じていることから、感情の波が激しく変動し、自分でコントロールすることができなくなります。激しい怒りやひどい落ち込みや空虚感を感じることから、それを解消しようと暴力や暴言を吐いたり、リストカットなどの自傷行為や大量の薬物摂取、大量の飲酒、過食などに走りやすくなります。これらを繰り返すことで日常化していくと、薬物依存やアルコール依存などに発展していくこともあります。さらに強いストレスにさらされ続けると一時的な記憶喪失になる解離性症状が表出する場合もあります。境界性パーソナリティ障害が発症する原因ときっかけって?出典 : 境界性パーソナリティ障害の原因はさまざまな説があり、定まっていません。原因は本人の生物学的な気質要因と環境的要因の相互作用によって生じるという考え方が有力です。脳の機能の中には衝動を抑えたり、怒りや不安をコントロールしたり、ストレスに対する感情をコントロールしたりする部位があります。境界性パーソナリティ障害がある人は、何らかの原因によってそれらの部位に特徴があるために、衝動性、怒り、不安、ストレスなどを感じやすくなっているのだと考えられています。・前頭前皮質:行動をコントロールし、合理的判断に関係する部位です。なんらかのストレスによりこの部分の活動が低下すると、扁桃体の活動を抑えることができず、感情や行動をコントロールできなくなると考えられています。・扁桃体(へんとうたい):怒りや不安といった感情をつかさどっている部位です。境界性パーソナリティ障害がある人は扁桃体が平均より小さいという研究があります。扁桃体の特定の部位が、感情的な刺激に対して過剰に反応するという研究があります。・視床下部/下垂体:ストレスに対する反応に関係する部位です。ちょっとしたトラブルにもイライラや落ち込みを感じる人とあまり動じない人がいますが、それはこの部位の反応の個人差が一因と考えられています。境界性パーソナリティ障害がある人は過剰にストレスを感じ、精神的なショックを受けて落ち込んでしまったり、心が傷ついたりするのは、この部位に関連があると考えられます。・セロトニン系:脳内にある神経細胞間の神経細胞伝達物質のひとつです。セロトニンがうまくはたらかないと、不安やうつの気分が強くなったり、衝動性が抑えられなかったりすることがわかっています。環境的要因には養育環境が大きく関係しているという説があります。過去に心的外傷体験(心が傷ついた体験)や不認証体験(自分を認めてもらえなかった体験)があり、数年後に似たような体験が再現されることによって、境界性パーソナリティ障害の症状が表出するということがあります。心的外傷体験や不認証体験とは、極端な例だと親が子どもに対する虐待やネグレクト(育児放棄)などが挙げられます。または親の離婚や死別によるショックなどもあります。これはあくまで極端な例ですが、他にも、子どもへの愛情不足や褒める・認めるといった共感の不足、過保護や過干渉によるストレスなども子どもにとっては負担になっていることがあります。そのような体験がベースにあり、ちょっとした友人関係や恋人関係の出来事がきっかけで、見捨てられ不安などの症状が発生します。参考:林直樹/監修『よくわかる境界性パーソナリティ障害』|(主婦の友社,2011)参考:岡田尊司/著『境界性パーソナリティ障害』|(幻冬舎新書,2009)境界性パーソナリティ障害の診断基準出典 : 境界性パーソナリティ障害の診断基準について説明していきます。診断基準は医療機関によって異なりますが、主に世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)やアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に基づいて臨床的に診断が下されます。ここでは『DSM-5』による診断基準を説明していきます。『DSM-5』では以下から5項目以上が認められれば境界性パーソナリティ障害である可能性が高いという基準になっています。対人関係、自己像、感情などの不安定性及び著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる、以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。(1) 現実に、または想像の中で、見捨てられることを避けようとするなりふり構わない努力(注:基準5で取り上げられる自殺行為または、自傷行為は含めないこと)(2) 理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる、不安定で激しい対人関係の様式(3) 同一性の混乱:著明で持続的に不安定な自己像または自己意識(4) 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(例:浪費、性行為、物質乱用、無謀な運転、過食)(注:基準5で取り上げられる自殺行為または自傷行為は含めないこと)(5) 自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し(6) 顕著な気分反応性による感情の不安定性(例:通常は2~3時間持続し、2~3日以上持続することはまれな、エピソード的に起こる強い不快気分、いらただしさ、または不安)(7) 慢性的な空虚感(8) 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかを繰り返す)(9) 一過性のストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離症状日本精神医学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル第5版』(医学書院,2014)p.654より引用境界性パーソナリティ障害と併発する合併症出典 : 境界性パーソナリティ障害はその障害の特性上、うつ病などと合併しやすく、発達障害などと併発している場合もあります。また境界性パーソナリティ障害と似ている自己愛性パーソナリティ障害についても紹介していきます。■うつ病などと合併することがある境界性パーソナリティ障害がある人がうつ病を経験する割合は90%に近いという報告もあるくらい、最も合併することが多い病気です。うつ病は抑うつ気分が続き、何もやる気がしなかったり、すべて自分が悪いと責めてしまい、死にたい気持ちになったりする症状があります。境界性パーソナリティ障害の症状と共通点も多く、対人関係のトラブルが頻繁に起こることで抑うつな感情をもたらします。境界性パーソナリティ障害とうつ病が合併すると自己破壊への衝動が増し、死にたい気持ち(希死念慮)が増すと言われています。自己破壊的な行為はたとえば、過剰な自己非難や絶望感から自傷行為を行ったり自殺を考えたりすることです。またうつ病に限らず、境界性パーソナリティ障害の自己破壊的行動への衝動が高まることによって、アルコール依存症、薬物依存症や気分障害、不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、パニック障害などを引き起こすこともあります。■ADHDとの合併の可能性がある境界性パーソナリティ障害がある人はADHDを小児期または同時に発症している可能性があると、近年の研究によりいわれるようになりました。イギリスのある研究では、境界性パーソナリティ障害がある人でADHDの発症率は小児41.5%、成人16.1%と高いことが分かりました。境界性パーソナリティ障害の発症は、必要な親からの共感が得られなかったことが原因の一つではないかという仮説があります。ADHDがある人は、その特性から、社会関係や対人コミュニケーションに困難さが生じる場合があるほか、親が育てづらさを感じて親子の関係がうまくいかなかったり、体の感覚が過敏で子どもがだっこを嫌がったりして必要なコミュニケーションをとる機会を持ちにくかったりする場合があります。こうした、親子や対人関係上の困難さが積み重なることによって、子どもが十分に共感を受け取ったと感じられないなどが原因で境界性パーソナリティ障害へと発展することもあり得ます。また発達障害の中には境界性パーソナリティ障害と似た症状が現れるものもあるため、臨床現場では障害同士の鑑別が難しいとも言われています。■自己愛性パーソナリティ障害との合併が混在することがある自己愛性パーソナリティ障害とは、自分に対して誇大なイメージを抱き、注目や称賛を求める一方で、他者からのマイナスな評価に対して過敏に傷つきやすく、他者に対する共感性の薄さが特徴的な障害です。境界性パーソナリティ障害は、自己中心的で対人関係の問題から情緒不安定をまねくことなどから自己愛性パーソナリティ障害と共通点が多くあります。また原因も自己愛の未成熟が関わってくることから診療の現場では、この2つの障害の区別は難しいとされています。この2つの障害の違いはどこにあるのでしょうか。境界性パーソナリティ障害が自己否定を繰り返し、考え続けることで情緒不安定が生じる傾向にあります。それに対して自己愛性パーソナリティ障害は、理想と現実のギャップを受け止められず、自己防衛のために誇大化した言動を繰り返し、自信があるようにうかがえるという点に特徴があります。そもそもパーソナリティ障害はそれぞれ独立して存在するのではなく、重複している共通の症状があるため、複数のパーソナリティ障害が併存しやすくなっています。ですので境界性パーソナリティ障害に限らず、他のパーソナリティ障害が合併していることがあったり、判断が難しかったりする場合があります。参考:『Attention-deficit hyperactivity disorder as a potentially aggravating factor in borderline personality disorder』|BJPsych参考:林直樹/監修『よくわかる境界性パーソナリティ障害』|(主婦の友社,2011)境界性パーソナリティ障害かも?と思った時の相談先と医療機関出典 : パーソナリティ障害の診断は難しいものです。もしご自身やご家族に境界性パーソナリティ障害の疑いを感じた場合は、一人で悩む前にまずは専門機関に相談することをおすすめします。医療機関での受診先は精神科、心療内科などになります。「もしかして境界性パーソナリティ障害かも・・・?でも、医療機関を受けるほどのことでもないような気がする・・・」そのような場合は、各都道府県や政令指定都市に設置されている精神保健福祉センター、または各市区町村に設置されている保健所・保健センターの相談窓口へ相談してみてください。もちろん、本人だけではなく家族が電話などで相談することもできます。次のリンクは全国の精神保健福祉センターの一覧になりますので、参考にしてみてください。参考:全国の精神保健福祉センター一覧l厚生労働省また、本人が会社勤めの場合や高校や大学に通っている場合、学校や企業専属のカウンセラーに相談することもおすすめです。企業や学校のカウンセラーは、その人が所属している組織の内情にも通じているため、より適切なアドバイスをもらうことができる可能性が高いです。また、連携している医療機関を紹介してもらえる場合もあります。境界性パーソナリティ障害の治療ってどんなものがあるの?出典 : 境界性パーソナリティ障害の治療法は、主に精神療法と薬物療法があります。精神療法は即効性はありませんが、医師や専門家と一緒に本人の物事に対する考え方や感じ方などを見直していく治療法になります。これから紹介するのは境界性パーソナリティ障害に有効といわれている精神療法の2つの代表例です。■認知行動療法(CBT):認知行動療法とは、何か困ったことにぶつかったときに、本来持っていた心の力を取り戻し、さらに強くすることで困難を乗り越えていけるような心の力を育てる方法として、いまもっとも注目を集めている精神療法です。具体的には、自身がどのタイミングで不安や心配を感じるのかを客観的に観察し、自動思考という考えのクセを把握します。そして、そういった状況に直面した際に、どのように考え、対処していけばいいかを考え、考え方をコントロールしていく治療法です。参考:認知療法・認知行動療法マニュアルl日本認知療法学会■弁証法的行動療法(DBT):弁証法的行動療法とは、マーシャ・M・リネハンによって開発された、境界性パーソナリティ障害に効果的といわれている、行動療法を中心とした心理療法です。以下の4つの治療法を組み合わせることで、考え方のクセに気付かせ、バランスの良い考え方や反応ができるようにすることが目的です。・苦悩耐性スキル....自身の感情の波が激しくなっているときに、問題がさらに悪化しないように、状況を改善するタイミングを待つためのスキルを身につけます。・マインドフルネススキル....ありのままの自分を受け入れるスキルを身につけます。・感情調整スキル....自身の感情を理解し、調節することのできるスキルを身につけます。・対人関係スキル....感情調整を行いながら、適切な対人関係を築くスキルを身につけます。しかし、欧米を中心に発達した治療法であり、日本で受けられる場所はまだ限られています。また、薬物療法と心理療法以外にも、重度の境界性パーソナリティ障害と診断されたときに入院療法が適応される場合があります。・薬物乱用、自殺、自傷行為を繰り返すとき・重度の妄想により日常生活を送ることが難しいとき・社会から離れた場所で本人に休息が必要と判断されたとき・家族などの周囲の人が疲れてしまったときこれらの場合は入院をし、カウンセリングなど様々な治療法を組み合わせて治療していきます。参考:林直樹/監修『よくわかる境界性パーソナリティ障害』|(主婦の友社,2011)境界性パーソナリティ障害に根本的に作用する薬は残念ながらありません。そのため衝動性や感情の不安定さといった症状を改善するために薬が処方されます。主に気分の落ち込み、不安、現実認識の低下に対する薬が処方されます。BPDの薬物療法の第一選択は,中等量の非定型抗精神薬であり,抑うつ, 不安に対してはセロトニン選択性再取り込み阻害薬SSRIぐらいに抑えるべきであるというのがガイドラインにおける薬物療法の基本である。牛島定信『境界性パーソナリティ障害の治療ガイドライン』(2010)抗うつ薬は抑うつ症状を改善するほか、衝動性や感情の不安定、激しい怒りの抑制のために処方されます。薬には副作用もありますし、人によって薬が合わないこともあります。低年齢の子どもの場合はより慎重に進めるべきという専門家もいます。主治医の先生と信頼関係を築き、よく相談した上で納得して治療を進めることをおすすめします。境界性パーソナリティ障害がある人にどう接したらいい?出典 : 境界性パーソナリティ障害がある方は身近な人に見捨てられることへの不安を強く抱いています。治療を行っていくにあたって、本人のなかでは葛藤や変化が訪れます。また治療も長期にわたって行われるために、効果がなかなか現れないことに対する苛立ちや不安感を抱くかもしれません。そんなときに寄り添うことができるのは医師ではなく、本人の家族や周囲の人たちです。その人たちが安全基地としての役割を担うことによって本人が治療に挑みやすい環境をつくることができます。あなたの居場所はここにある、いつもそばにいると安心させる協力的な姿勢と環境づくりが大切です。境界性パーソナリティ障害がある方は、感情や言動の変化が激しいために家族や周囲の人が振り回されてしまったり、本人からの強い物言いによって責任を感じてしまったりすることがあります。本人に対してどう接していいかわからず悩み、周囲の人がうつ病などになってしまうケースもあります。そのようにならないためには、本人に振り回されすぎないことが大切です。拒絶せず、過保護にもせず、程よい距離感をもって本人の言動を観察してみてください。境界性パーソナリティ障害がある人を支えることは難しく共倒れしてしまう危険性がありますので、本人に振り回されないように意識してみてください。また本人の言動の一つひとつは、本人に責任がある姿勢を貫いてください。境界性パーソナリティ障害の原因のうちの環境要因として家族の環境がありますが、たとえこれまでの関わりに何らかの問題があったとしても、その結果何を感じて、何を行うかは本人次第です。家族や周囲の人が責任を感じすぎてしまうと、本人は自分の問題の責任を家族に押しつけてしまい兼ねません。そうではなく「それはあなたの問題です。」と一線を引いたり、家族で抱えこまずに専門家に相談し支援を受けたりすることが重要です。上記と矛盾してしまうかもしれませんが、家族・周囲の人などとのかかわりの積み重ねによって、本人が負担を感じていることがあります。しかし具体的にどのようなかかわりが負担になっていたのかは、関係性の当事者たちには分からないことがあります。そのようなときには家族なども一緒に治療を受ける方が良い場合もあります。治療を受ける程ではなくても、本人とのかかわり方や自分を見直すよい機会になります。長年築いてきた関係を改善するには時間がかかります。一気に問題を解決しようとは考えずに、焦らず少しずつでも変わっていくことを意識してみてください。しかし本人の回復に貢献するために、家族や周囲の人自身が無理矢理変わらなければならないということではありません。「できないことはできない」と言うことも、現実的な一人の人として本人とかかわっていくためには大切なことです。本人にとって身近な家族などは、激しい感情をぶつけやすい人でもあります。そのために本人に対して怒りや嫌悪感を感じ、ときには拒絶してしまうこともあります。しかし拒絶してしまっては本人にとっての安全基地であることも、かかわり方をお互いに変えていくこともできず、根本的な治療を行うことはできなくなります。ですので、定期的に他の人に相談して助言をもらうことは重要です。周囲に安心して相談できる相手がいない場合は、心理カウンセラーなど専門家のサポートを求めることも考えましょう。参考:林直樹/監修『よくわかる境界性パーソナリティ障害』|(主婦の友社,2011)まとめ出典 : 境界性パーソナリティ障害の症状は多岐にわたって存在し、本人をはじめ周囲の人たちも悩まされます。しかし決して個人の性格の問題ではありません。本人が過去の体験を自分の糧となるように消化できていなかったり、現在またこれまでの環境が合わなかったりといったことが積み重なっています。その積み重なっている経験が考え方をつくり、そこから言動が生まれています。これらは適切な治療を受けることによって、少しずつではありますが変えていくことができます。境界性パーソナリティ障害がある人を支えることは大変なことだと思います。ですが、本人も自身の言動や思考をコントロールできず苦しんでいます。本人や家族だけで解決しようとするのではなく、専門家の支援も受けながら、お互いに適切な距離を取りつつ、また一方で支え合いながら付き合っていくことが大切です。
2017年05月23日晴れて2人きょうだい!娘の成長を振り返ると…私には、広汎性発達障害の6歳の娘と、7ヶ月になる息子がいます。娘が5歳の時、息子を妊娠しました。結婚当初、「子どもは2人欲しい」と思っていた私。しかし、娘が2歳半で発育遅れを指摘され…。「しばらくは娘の療育に集中しよう」と決めました。その後、娘が4歳の時に『広汎性発達障害』と診断されました。療育を続けておかげで、娘の問題は少しずつ落ち着いていき…。そんな時、私の妊娠がわかりました。Upload By SAKURAオメデタは嬉しい。だけど…2人目の妊娠を知った時は、家族が増えることが本当に嬉しくて、浮かれていました。しかし、下の子は妊娠期特有のトラブルも結構多かったのです。具体的には、妊娠初期に出血を繰り返して入院したり…妊娠後期に『赤ちゃんが大きい』と言われたりしました。一児を育てる母であっても、子どもにはそれぞれ悩むものです。段々と「この子にも障害があったら…」と不安に思う日が増えてきました。Upload By SAKURA成長した娘の姿は私の心を映す鏡でした不安を感じていた時、娘を見て、私は自分に問いかけました。この子が広汎性発達障害で『ダメ』だった…?答えは『NO』です。私は、娘が我が子で、本当に良かったと思っています。とても可愛くて…優しくて、面白くて。もちろん、大変なこともたくさんありました。しかし、それ以上に娘に教えられたことが多いのです。Upload By SAKURA娘はきっと…私たち夫婦を選んで、ここに来てくれたと私は思っています。だから…きっとお腹の子も、私たちを選んでくれた。何があっても、愛おしい我が子には変わりない。不安はなかなか消えるものじゃないけれど、『生まれた子を愛する』という結論は変わらない。そう思って妊娠中過ごしてきました。Upload By SAKURAゼロではない親の不安…。でもそれ以上に育っている想いもありますそして、無事元気に産まれた息子。今も正直、時々不安を感じることもあります。でもその時は、自分に問いかけます。「もし障害があったら…?どうするの?」と。障害があったとしても、育てる。愛する。そこは変わらないのです。だから不安に思う必要はないと…。この先何があるかは誰にもわかりませんが、私たち夫婦を選んでくれた2人を、大切にしていこうと思っています。2人とも、生まれてきてくれてありがとう。Upload By SAKURA
2017年05月17日Twitterから火がついたADHDのマンガ家レトロな画風で、ちょっぴり泣ける1ページマンガをTwitterで発表していくうちに人気に火がついたマンガ家、史群アル仙(しむれ・あるせん)さん。彼女は、その作風や自画像からは意外な印象も受ける20代の女性作家で、ADHDと不安障害の症状も抱えているとのことです。そんな彼女の自身の不安障害と、統合失調症との"誤診"による体調悪化、入院、そしてADHDの診断に至るまでといった紆余曲折の苦悩の日々を綴ったマンガ、『史群アル仙のメンタルチップス~不安障害とADHDの歩き方~』が、秋田書店より発売となりました。『史群アル仙のメンタルチップス』中身を一部ご紹介!Upload By 発達ナビ編集部学校を卒業後に引きこもり状態となった作者。その状態を抜け出して一人暮らしをはじめ、アルバイトも順調だったものの突然調子を崩し、初めて精神科にかかることとなりました。この後も幾度となく、調子のアップダウンを繰り返してしまいます。Upload By 発達ナビ編集部誤診と処方薬の乱用であいまいになる作者。作者は自ら「ゴミクズ時代」と表現しています。Upload By 発達ナビ編集部底つきを迎え精神病院に入院することになった作者を支えたのは、後書きにも登場するイラスト教室の恩師でした。Upload By 発達ナビ編集部イラスト教室での挙動不審な様子に対し、恩師からの一言。この一言が作者の運命を変えるきっかけとなります。Upload By 発達ナビ編集部作者につきまとっていた生きづらさの正体が姿を現わした瞬間です。Upload By 発達ナビ編集部ADHDという診断を受けた作者のこれから本のタイトルには「tips(チップス)」「歩き方」とありますが、この本では大人になってからの診断に至るまでの、学生時代のいじめ、引きこもり、誤診、二次障害、自殺未遂、入院…といった波乱万丈な日々を中心に綴られており、作者がようやく未来に向かって歩きだしたばかりのところでお話は終わります。診断を受けた作者は、「診断を受けても何か変わるワケではない」「診断は免罪符にはならない」とは綴っています。しかし診断を受けたことは作者にとって自分を知っていくきっかけとなり、以前より前向きに行動を起こすようになったようです。「前向きにとりくんでいると不思議と特技なんかも見つかったりします」「もちろんすぐにはうまくいきませんでも諦めなければ何かがおきます」傷つき、模索し、自暴自棄にもなる日々の中で、作者がようやく出会ったのはADHDの診断と、希望。渾身の力を振り絞り、自らの半生を綴った、とても熱量のある作品です。史群アル仙のメンタルチップス ~不安障害とADHDの歩き方~
2017年05月17日人口の9割が「定型発達症候群」!?NHKが発達障害プロジェクトをスタート「およそ20年前に、アメリカの研究所が残した報告から、全人口の9割以上がある深刻な症状にあることが判明しました。」Upload By 発達ナビニュースとあるニュース番組で、キャスターが紹介した「衝撃のレポート」以下のチェック項目に一つでも当てはまったら、人間関係に深刻な問題を引き起こしかねない、「定型発達症候群」の可能性があるというのです。・暇な時はなるべく誰かと一緒に過ごしたい・集団の和を乱す人を許せない・社会の慣習にはまず従うべきだ・はっきりと本音を言うことが苦手・必要なら平気でウソをつけるUpload By 発達ナビニュース…実はこれは、NHKが制作した架空のニュース動画なんです。NHKが2017年5月から1年をかけて展開する、「発達障害プロジェクト」のページ上で公開されています。Upload By 発達ナビニュース「発達障害プロジェクト」「定型発達症候群」という言葉にびっくりした人もいるかもしれませんが、これは、医学上の病名でも、公式に定められた障害の名前でもありません。1998年、発達障害のひとつASD(自閉スペクトラム症)と診断された海外の一般女性が、ASDに関するさまざまな報道への皮肉の意味で「創作」した言葉が発端であると言われています(諸説あり)。「定型発達」とは、発達障害と対比して、心身の発達が「定型(平均的)」という意味で、「発達障害ではない人」をさす言葉として用いられます。つまり「定型発達症候群」とは、発達障害の人から、いわゆる「普通の人」を見た視点です。でも、「普通」ってそもそもなんでしょうか?全人口の大半の人が定型的(平均的)に感じているから「フツウ」?それじゃあ、違った感じ方をしている人は「フツウ」ではないの?そんな問題提起の意味も込めて、冒頭の架空のニュース動画はつくられました。NHKの発達障害プロジェクトでは、これまで当たり前に考えられてきた「普通」の概念にとらわれず、発達障害のある人々の感じ方・考え方を様々な角度から紹介していくことで、発達障害のあるなしに関わらず、一人ひとりの多様な感じ方や生き方への理解の促進をめざしていきます。NHKスペシャル、あさイチ、ハートネットTVをはじめ、番組横断で、継続的に発達障害を取り上げていくことが今回のプロジェクトの特徴です。知ってるようで知らない発達障害のこと、みんなの投稿で“トリセツ”をつくろうUpload By 発達ナビニュース生まれつきの脳機能の発達のアンバランスさ・凸凹(でこぼこ)によって、社会生活に困難が発生する発達障害。「なんとなくは知っているけど、結局どういうことかわからない」「漠然としたイメージはあるけど、何に困っているのかわからない」という方も少なくないのではないでしょうか。プロジェクトページでは、「この際、はっきり知っておきませんか?」という呼びかけと共に、発達障害の定義や特徴、困りごとなどが、イラスト付きでわかりやすく紹介されています。コンテンツ監修は、LITALICO発達ナビの監修も務める、鳥取大学大学院の井上雅彦教授です。また、「みんなで作る発達障害の“トリセツ”」と題したコーナーでは、日常生活の様々な場面での困りごとや対応策を、発達障害の当事者やその家族、学校や職場などの周囲の人々の投稿を通して集め、公開していく企画もスタート。「生活・暮らし」「対人関係」「学校・職場」と、大きく3つのカテゴリーの中で、様々なテーマに対するみなさんの投稿を募集しています。サイトオープン時の2017年5月16日現在では、事前に集めた投稿の中から「聴覚過敏」に関するエピソードを18件公開しています。以下のリンクの投稿フォームから、それぞれのテーマに対する体験談を随時投稿することができます。Upload By 発達ナビニュースみんなで作る発達障害の"トリセツ"投稿フォーム5/21(日)21:00から「NHKスペシャル」で生放送特集!Upload By 発達ナビニューススペシャル, 「発達障害 ~解明される未知の世界~ (仮)」ウェブ上のプロジェクトページと連動して、NHKの様々な番組で、継続的・多角的に発達障害について取り上げていくのが、今回のプロジェクトの特徴。テレビ特集の第1弾は、NHKスペシャル「発達障害 ~解明される未知の世界~ (仮)」。初回放送は、2017年5月21日(日) 午後9時00分~9時59分です。これまで、主に社会性やコミュニケーションに問題がある障害として知られてきた発達障害ですが、最新の脳科学研究や当事者への聞き取りにより、生まれつき、独特の「世界の見え方・聞こえ方」をしているケースが多いことがわかってきました。多くの人にとっては何でもない日常空間が、耐えられないほどまぶしく見えたり、小さな物音が大音量に聞こえてパニックになったり…NHKスペシャルでは、こうした発達障害当事者の方々の独特の感覚・認知や、それによって生じる生きづらさを映像を通して再現し、「目に見えにくい」障害の実態を伝えることに挑戦します。番組中では、大阪大学と東京大学が共同研究・開発した「自閉症知覚シミュレータ」も登場。発達ナビでは、当事者やご家族の方をお招きしての体験会兼取材・撮影に協力しました。今回のNHKスペシャルの最大の特徴は、生放送・リアルタイムで視聴者からのコメントを紹介しながら展開していくこと。たとえ同じ診断名でも、一人一人の特性や感じ方は、本当に様々です。十把一絡げに「発達障害」をまとめてしまうのではなく、一人一人の多様な暮らしぶりや思いを紹介していくことこそが、発達障害への理解・関心を広げていく上で大切だという趣旨からの企画だそうです。ご自分の経験について伝えたい思いやご経験、発達障害に対する疑問や悩みがある方は、ぜひ以下のメールフォームからご投稿ください。スペシャル, 発達障害特集メール投稿フォームUpload By 発達ナビニュース 「発達障害プロジェクト」また、NHKスペシャルの生放送終了直後から、「発達障害プロジェクト」ページ上でライブストリーミングが始まり、番組のアフタートークが催されるようです。ここでは、生放送中に紹介し切れなかった視聴者からの投稿を追加で紹介していくとのこと。あなたの投稿も紹介されるかも…!?発達ナビTwitterでNHKスペシャル&アフタートークを実況中継!発達ナビ編集部では、5/21(日)21:00からのNHKスペシャル及びアフタートークを実況中継予定!Twitterをご利用の方は、ハッシュタグ #NHKスペシャル #発達障害 でぜひ感想をご投稿ください。番組前の予習に、発達ナビの関連記事はこちら!プレスルーム: 5月21日(日)放送 NHKスペシャル「発達障害~解明される未知の世界~」の制作にLITALICOが協力しました。
2017年05月17日私って発達障害?気づいたのは42歳の時でした。出典 : 子どもの発達障害の場合、まず親や周りが気づいて、子ども自身は何の検査をされているのかわからないまま、診断を受けることが多いと思います。診断を聞くのも受け入れるのもまず親で、そこからタイミングを図って告知するというのがよく見られる流れではないでしょうか。それに比べて大人の場合は、仕事や日常生活で「なんだか変だな。どうしてうまくいかないのだろう?ひょっとして『私って発達障害?』」と疑ったうえで、自分の意志で検査を受けることが多いと思います。私は娘がアスペルガー症候群と診断されてから2年後、42歳の時にコンビニでのバイト中にパニックを起こしたのがきっかけで、発達診断を受けることになりました。しかし、その結果を受け止め、自身のことを理解するまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。9年の付き合いの主治医の診断は・・・出典 : 当時の主治医は、それまで9年にわたって私を診察してきてくれた精神科の先生でした。でも、その主治医は発達検査の結果を見て「うーん、ヨーコさんが発達障害とは思えないんだけどなぁ」と言うだけでした。このままじゃらちが明かないと思った私は、同じ病院内にいる娘の主治医に事情を話して、検査結果を見てもらいました。ざっと目を通した先生は「ああ、アスペルガー症候群ですね」と言いました。その後、私の特性も説明してくれてとても納得したのですが、それを主治医に伝えても「そうかなぁ?」とまだ納得できない様子。私の主治医の先生は発達障害には詳しくない様子で、長い付き合いの間でも先生の口から「発達障害」という言葉を聞いたことがありませんでした。だから、今まで長い間見てきて私の様子から「発達障害とは思えない」と言ったのではないかと思っています。私はあきらめずに先生やカウンセラーに「こんな困りごとがあってずっと苦しかった」、「娘が診断を受けたときの説明がそのまま私に当てはまる」と訴え続けました。そして「精神障害者手帳を取りたい」と先生にお願いしたのです。その時出してもらった診断書を見ると「広汎性発達障害」という診断名が記載されていました。こうして私は診断書を得るところまでこぎ着けることができました。しかし私は、ちゃんとした診断の上で広汎性発達障害と言われたのか疑問を抱くことになりました。それは診断が出たとはいえ、発達障害に詳しくない先生からの診断であることと、半ば無理やり勝ち取った診断のように感じられたからです。私が「ちゃんとした診断」を求めたわけ出典 : ひとまず診断を受けた私は、仕事を辞め、障害者福祉を受けながら暮らしていく道を選ぶことにしました。そんなときに、相談支援員から気になる話を聞きました。ある病院に発達障害に詳しい医師がいて、その病院で発達検査を受けたら、ものすごく詳細な所見をもらえて、説明の時も自分の特性や向いている職業まで教えてくれるらしいというのです。私はその"完璧"とも言える診断にひどく心惹かれました。「広汎性発達障害」の診断は出ていたものの、改めて発達障害に詳しい医師にきちんと診てほしいと思っていたからです。それは、「あなたはこういう人ですよ」という自分に関する説明書が欲しかったからでもあります。それまでの人生は謎だらけでした。どうしてみんなのように友達と打ち解けて遊ぶことができるのか、どうして他の人は分からないことは適当にしておいたまま勉強していい成績をとれるのか。社会に出てからは、なぜ他の人は会社の方針に溶け込んで洗脳されたようにふるまえるのか、なぜ自分はみんなと同じように仕事ができないのか、なぜミスばかり繰り返してしまうのか…。私はなぜ、他の人と同じようにできないのかと何度何度も悩んだのです。ずっと苦しかった。ずっとさみしかった。その診断があれば、今までの謎が解けてこれからの人生が開けるかもしれないと思ったのです。そして、期待に満ちあふれてその病院に転院することしたのです。「こんなことまで聞かれるの!?」驚きながらも、その専門性に感動!出典 : その病院は今までとは違うところばかりでした。事前に渡される問診票では、ハイハイした月齢や喋りだした月齢など乳幼児期の様子も事細かく聞いてきます。「人の臭いや物の臭い、ものの見え方や感触や音に極端な興味を持つことが、これまでにありましたか?」など、0歳から5歳くらいまでの成育歴の質問が多いので、親に見せて聞きながら回答を書きこみました。病院に問診票を持っていくと、それを見ながら「何か好きな素材や逆にこれは受け付けないというものはありましたか?」「学校では得意・苦手な教科は何でしたか?」「忘れ物は多かったですか?」「臭いや光、味に敏感ですか?」「仲の良い友達はいますか」など次々と追加の質問を受けました。その答えを聞いた先生は納得したように頷き「今ついている診断で間違いないでしょう。それに加えて注意欠陥障害もあるでしょうね」と言われました。この診察に私は感銘を受けました。というのは、質問は自閉症の子どもに特有の症状について的確に尋ねられており、追加の質問でも問診の答えを確かめるように進めてゆくことが分かり、先生の専門性の高さに感心したからです。ただ正式な発達検査を受けることはできませんでした。これは発達検査に使われるWAIS-Ⅲは、一度受けたら次は2年間は空けなければいけない決まりがあるためです。療育手帳取得挑戦の際にすでにWAIS-Ⅲを受けたことがあった私は、この2年間のインターバルが経過していなかったのです。それでもなお、憧れの診断にこだわる私に、ソーシャルワーカーはこう言いました。「とことん気になる、知りたがるというのは、生きづらさにつながるアスペルガーの特性からきてると思う。憧れの診断書が手に入らなかったら次に何が欲しいの?」その問いは、私が医療に何を求めているのかを問うものでした。自分の説明書はやっぱり欲しいけれど、2年待たなければならないのはどうしようもない。その現実をこの問いで突きつけられたのです。このとき初めて前を向いて、いま困っていることを何とかしてもらうことが大事だと思うことができました。その上で私の答えは「今の心のしんどさをやわらげてほしい。発達障害であるという視点から二次障害の精神症状やうつの治療もしっかりしてほしい」でした。こうして、先生の専門性を信じてその病院に通い続けることを決めました。自分の特徴を知ることで、今までの謎が解けてゆくように出典 : 今は二次障害である精神症状やうつの治療を受けつつ、自分の困りごとの原因は何なのか、先生の解説で謎が解けていっている感じです。そして生きづらさの解消のため、それまで飲んでいた薬は大幅に見直され、ADHDの治療薬のストラテラを服用することに。新しい主治医を始め、ソーシャルワーカーなど理解ある人に関わってもらっているおかげで、自分の特性が生活や仕事のどんなところに影響を与えているのが理解することができるようになってきたのです。自身の弱点や、疲れ切ってキレてしまう前の予兆なども分かるようになり、意識して自分をコントロールすることできるようになったと感じています。診断を生かしていくために出典 : 発達障害の診断を受けたら、具体的な自分の特性をじっくりと説明してもらうことをお勧めします。そうすることで、今までの生きづらさの理由が氷解し、自分の特徴をしっかりと理解することができるはずです。その上で、医療や福祉の支援を受けて理解者・支援者を増やし、困っているときは助けてもらうことができれば、自分の直面した困難にくじけてしまうことも防げるはずです。繰り返しになりますが大切なのは、診断を受けっぱなしで終りではなく、自分の特徴を知り、より自分をコントロールできるようになることです。診断を受け、なにが自分の生きづらさを作っているのか。自分で工夫できるところはあるのか。どんなサポートを受けたらいいのか。それを知ることが、生きづらさの解消につながるのではないでしょうか。
2017年04月28日生まれた時から、「障害」は私の特徴のひとつだったUpload By 和田 恵利菜「障害者」という言葉に私はこれまで親しみを感じながら生きてきました。他ならぬ自分自身が障害者と呼ばれる立場にあるからです。私は先天性の障害で、3歳の時から電動車いすを使用しています。歩くことはできませんし、握力も弱く、自分の腕を持ち上げることも出来ません。できないことは多くありますが、現在、私は障害を自分の特徴の一つだと思っています。私は小中高と地元の学校に通い、現在は大学で心理学を専攻しています。大学では比較的バリアフリーが進んでおり、友人や先生、ヘルパーの方の手を借りながらも、快適に生活ができています。しかし、小中学校、高校での生活は、物理的にも制度的にも困難に感じることが多くありました。9年間ずーっと1階の教室で過ごした、私の同級生電動車いすを使用する私にとって、最も大きな問題はやはり「移動」です。学校には多くの段差が存在し、当然、階段も使用しなければ学校生活を満足に送ることはできません。小学校、中学校では、小さな段差や階段に対しては、スロープをつけるなどの工事を行い、問題を解消してもらえました。しかし、私の地元にはエレベーターの設置がある公立学校は少なかったため、私の通っていた小中学校でもエレベーターを設置してもらうことはできませんでした。そこで対策として、私の学年の教室は常に1階に設置してもらうこととなりました。小学生から中学生までの9年間、私はずっと1階の教室で勉強をし、日々の学校生活を楽しんでいました。Upload By 和田 恵利菜私の在籍していた学校は小中一貫校で、周囲の友人も9年間ほとんど変わることがありませんでしたので、当然、私の同級生も9年間、1階の教室で過ごすことになったのです。そんな中、ある日私は「僕だって1階じゃなくて上の階の教室がよかった」という同級生の声を耳にしました。自分のために周りの人たちに我慢を強いているのではないか。はじめてそう気が付いた私は悲しく思い、同時にどうしたらよいのか分からなくなりました。そんなとき、私を救ってくれたのは「私は1階の教室も好きだし、気にならないよ」という友人の言葉でした。彼女にとっては何気ない言葉だったのだろうと思いますが、当時の私にとっては「私に合わせて変えた環境を、受け入れてくれる人もいるんだ」と感じることができた大切な言葉でした。私は、環境を工夫すれば「障害者は障害者でなくなる」と思っています。それは私のような身体障害だけではなく、全ての障害に当てはまることだと思います。Upload By 和田 恵利菜できないことは環境の工夫次第で、できるようになります。幼少期、児童期の私にとって、歩けないこと、腕がうまく動かないことは、劣等感を感じさせるものでした。自分が思うように行動できないもどかしさにイライラしたり、周囲の人に迷惑をかけてしまっていると罪悪感を感じたりすることもありました。しかし、小中学校、高校、大学と進学し、その都度、環境を工夫し、支援をしてもらう中で、私が学校で「できないこと」は減らせることを知りました。つまり、それぞれに適した工夫によって、身の回りの「障害」がなくなった瞬間に、障害者は障害者でなくなるのです。特にそれが顕著なのは、発達障害なのではないかと思います。「環境を整える」−かつて私が受けた支援は、発達障害の子どもたちにも必要なものだったUpload By 和田 恵利菜私は現在、放課後等デイサービスでアルバイトをしています。そこでは発達障害やその傾向のある小学生の勉強を見たり、一緒に遊んだりしています。子どもたちの中には、周囲に人がたくさんいる状況で集中して勉強することが難しかったり、自分の思いや考えを言葉で表現することが難しかったりする子もいます。どうやったら子どもたちが快適に過ごせるようになるのか、どうするのが子どもたちにとって最も良いのか、私も試行錯誤の毎日です。ですが、そんな中で気が付いたのは、環境を整えることができれば、彼らの可能性はぐんと広がるということです。集中が続かない子どもに対して、時間を細かく区切って活動する、仕切りを立てるなど一人で落ち着いて勉強に取り組める環境を作る、一度にすべての指示をせずにひとつずつ図示して伝える。全て本に載っていたり、講義で学習したりした、発達障害のある子どもたちに対する対応策の一例です。Upload By 和田 恵利菜これら全てを実践してみることはまだできていませんが、一部を実際に試してみると、一見できないと思っていたことが、簡単にできるようになる子どもたちがいました。特に指示をひとつずつ伝えるということは意識を持つだけで簡単に実践できるので、私は常に気を付けるようにしています。これらの対応策は、多くが「環境を整える」というものです。そして、私が学校で受けた支援も同じ「環境を整える」というものなのです。合理的配慮の広がりに向けて、当事者として声をあげたい困難の内容は、障害によってそれぞれだと思いますが、案外、解決方法は似ているのではないか。私はそう思います。個人の特性に合わせて環境を変えていくのに、個人の力だけでは限界があります。そこで私が注目したいのは「合理的配慮」です。合理的配慮とは、2016年4月に施行された障害者差別解消法において、障害の有無にかかわらず、全ての国民が互いを尊重し合いながら共生する社会の実現を目指して定められたもので、私は障害者一人ひとりの特性を踏まえた支援を行える可能性が広がったのではないかと考えています。Upload By 和田 恵利菜行政機関と民間事業者との義務の違いがあったり、配慮を実施する側の負担が大きすぎる場合など、全ての要望が実現するわけではありませんが、法律で障害者への配慮について定められたのは、大きな一歩だと思います。実際に、私は現在通っている大学に配慮の提供を申し出て、何度も話し合いを重ねてきました。また、自分が高校で受けた支援内容を行政機関に紹介したこともあります。私は、合理的配慮による可能性の広がりに期待を持っていますが、多くの人が快適に過ごせるようになるには、まだまだたくさんの課題があるようにも感じています。Upload By 和田 恵利菜例えば、要望通りの配慮が行われない場合や、配慮を申請し、実施するまでの手続きに長い時間がかかってしまう場合などは課題として挙げられるかもしれません。これら全ての課題を解決するには長い時間がかかるとは思いますが、私たち当事者ができることは、まず声をあげる、そして伝えることだと私は考えます。配慮を提供してくれる側に、何か伝える前から「私たちのことを分かって」「こちらの要望を察して」というのには無理があります。こちらの要望や状況を理解してもらうには、自分はどういう状況にあって、どういう配慮をしてほしいのか、適切に伝える必要があるのではないかと思います。目に見えない、言葉にならない障害に、周りの人たちはどんな”通訳”ができるだろう出典 : ここで、私がもうひとつの課題だと考えるのは、当事者本人が言葉を介して、自分の現状や意見を伝えることが難しい場合もあるということです。私の場合は、電動車いすを使用していて、段差や階段などの物理的障壁を解消する、トイレや移動の介助をするなど、要望は比較的目に見えやすく、想像のしやすい配慮だと思います。しかし、私はアルバイトで発達障害を持つ子どもたちを見ていて、言葉で適切にコミュニケーションをとるのが難しいと思える場合を目にし、代わりにそれを伝える役割の存在が必要なのではないかと感じました。それは保護者や友人、先生や同僚など、様々な可能性が考えられます。一人でも本人のことを理解し、それを周囲に伝えることができる人がいれば、当事者の生活はぐっと快適になり、社会に出ていくことができるようになるのではないでしょうか。障害者を取り巻く課題は、まだまだたくさんあります。環境の工夫だけではなくて、心のバリアフリーも進めていくことももちろん大切です。人はみんなそれぞれ異なった特徴を持っています。その特徴を生かして社会で暮らしていったり、反対にその特徴によって社会で生きにくくなったりします。それは障害を持っている人も持っていない人も同じです。それぞれの特徴や個性を、みんなが認め合い、障害者もそうでない人も互いに支え合いながら、共生できる。そんな社会になってほしいと私は願っています。私も自分の身近なところから、行動を起こしていきたいと思います。Upload By 和田 恵利菜
2017年04月07日急性脳症とは出典 : 急性脳症は主にウイルス感染症に感染したのをきっかけに、急激に脳に浮腫(むくみ)が生じ、意識レベルが低下する疾患のことをいいます。病原となるウイルスに感染し、ウイルスに対して過剰な免疫反応が全身の血管に炎症をおこすことにより、意識障害、けいれん、嘔吐、血圧・呼吸の変化などが起こります。ウイルスは身近なインフルエンザウイルスや、突発性発疹を引き起こすヒトヘルペスウイルス、急性胃腸炎を引き起こすロタウイルスなどが主な病原となっています。突発性発疹や急性胃腸炎は乳幼児や子どもに多く発症する疾患ということもあって、急性脳症は生後6ヶ月~1歳代に多く発症します。実は急性脳症という名称は正式な学術用語としては使われていません。したがって、何らかのウイルスに感染し急性脳症を起こした場合は「けいれん重積型(二相性)急性脳症」か「急性壊死性脳症」などの症候群の名称、または「インフルエンザ脳症」など病原ウイルスに関連した名称で診断されます。病原体による分類と臨床・病理・画像所見による症候群分類があるため診断名に違いはありますが、どのウイルスにかかっても「けいれん重積型(二相性)急性脳症」または「急性壊死性脳症」「可逆性脳梁(かぎゃくせいのうりょう)膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症」などの病理がみられるため、分類には大きな違いはありません。これら3つの病理は画像所見などが異なりますが、症状には特異的な違いは見られません。ですので、下記では急性脳症の症状や原因などをまとめて紹介していきたいと思います。参考:急性脳症の全国実態調査 |水口 雅(東京大学大学院医学系研究科 発達医科学 教授)参考:痙攣重積型(二相性)急性脳症|難病情報センター参考:重症・難治性急性脳症|難病情報センター参考:『急性脳症の分類とけいれん重積型』|水口 雅(東京大学大学院医学系研究科 発達医科学 教授)急性脳症の主な症状出典 : 急性脳症は主にウイルス感染症に罹患し、何らかの原因で重篤化することで脳機能全般に障害が生じる疾患です。例えば意識障害、けいれん、嘔吐、血圧・呼吸の変化、などが子どもに現れ、救急で病院を受診することで発覚します。ここでは子どもがウイルスに感染してから、どのような症状が起こるのかまとめていきたいと思います。◇インフルエンザ・・・インフルエンザはA型またはB型のインフルエンザウイルスの感染を受けてから1~3日間ほどの潜伏期間の後に、発熱(通常38℃以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが突然現われ、咳、鼻汁などの上気道炎症状(風邪の症状)が出てきます。約1週間の経過で回復するのが典型的なインフルエンザで、いわゆる「かぜ」に比べて全身症状が強いことが特徴です。参考:インフルエンザとは|NIID国立感染症研究所◇突発性発疹(ヒトヘルペスウイルス)・・・乳児期に発症するのを特徴とする熱性発疹性疾患といわれています。38度以上の発熱が3日間ほど続いた後、解熱とともに鮮紅色の発疹が体幹を中心に顔面、手足に数日間出現します。また下痢、まぶたの腫れ、大泉門(乳児特有の額の上にある骨と骨のつなぎ目)の膨隆、リンパ節の腫れなどがありますが、多くは発熱と発疹のみで経過します。参考:突発性発疹とは|NIID国立感染症研究所◇急性胃腸炎(ロタウイルス)・・・主に発熱、下痢、悪心、嘔吐、腹痛などがみられます。はじめは発熱があり、嘔吐、下痢など腹部症状が遅れて出現することもあります。参考:感染性胃腸炎とは|NIID国立感染症研究所それぞれのウイルス症状のほかに、・頭痛や周囲からの刺激に反応するものの、すぐに意識が混濁する状態・周囲への警戒心が強く、興奮したり、大きな声で叫んだり、暴力を振るったりしやすい状態などが表出します。参考:脳症の治療における留意点|水口 雅(東京大学大学院医学系研究科 発達医科学 教授)ウイルスに感染してから初期症状を経て、主症状に変わっていきます。けいれん重積型急性脳症、急性壊死性脳症、どちらの場合も意識障害、けいれんを主として嘔吐、血圧・呼吸の変化、発熱などが生じます。下記では主症状が起こってから予後までの症状を時系列にまとめました。<主症状が発症してから予後まで>・ウイルスに感染し発熱から24時間以内・・・主症状のけいれん・意識障害が起こります。けいれんは「けいれん重積(15分~1時間程度続く長いけいれん)」が起こる場合がほとんどです。※初めてのけいれん、またはけいれんが約5分継続した時点で救急車を呼んでください。・けいれん後・・・意識障害が生じる場合があります。・発熱から4~6日後・・・2回目の短いけいれんが群発して起こります。このとき意識障害を伴う場合もあります。・回復期・・・目的のない運動を繰り返すことがあります。(反り返り、手足を振り回す行為、口をもぐもぐさせる行為など)・予後・・・急性脳症が起こった後、てんかん、知的障害、運動障害など何らかの後遺症が残る割合は、けいれん重積型急性脳症では66%、急性壊死性脳症では46%といわれています。障害の程度は人それぞれですが、リハビリによって回復することもあります。後遺症に関しては追って説明していきます。参考:痙攣重積型(二相性)急性脳症|難病情報センター参考:急性脳症の全国実態調査 |水口 雅(東京大学大学院医学系研究科 発達医科学 教授)急性脳症の原因出典 : 急性脳症の原因はまだ分かっていません。現在分かっている急性脳症のメカニズムは、主にウイルス感染をきっかけとしてサイトカインストーム、代謝異常、興奮毒性などの病態が進行し、脳や各臓器に異常をきたす、ということです。サイトカインストームとは、免疫作用・抗腫瘍作用・抗ウイルス作用・細胞増殖や分化の調整作用などがあるサイトカインという細胞間情報伝達機能をもつタンパク質の多くが、ウイルスや細菌などが原因で調節不全を起こすことを言います。興奮毒性とは、興奮性神経伝達物質としてのはたらきをもつグルタミン酸が、過剰に存在することによって細胞毒性を示すというものです。急性壊死性脳症ではサイトカインストームが進行することが多く、けいれん重積型急性脳炎は興奮毒性が多いと推定されています。インフルエンザなどのウイルスに感染してもほとんどの人は病態は進行しません。まれに病態が進行すると急性脳症となります。急性脳症のメカニズムは解明されていますが、どのような条件が揃うと病態が進行し、急性脳症になるのかは分かっていません。しかし、近年の難病情報センターの研究班による研究によって、これらの病態の背景には複数の遺伝的要因が存在するのではないかという仮説が立てられ解明が進められています。特定の遺伝子に特徴があることによって、前述の病態の進行を引き起こし、急性脳症も引き起こす関連があるのではないかといわれています。参考:重症・難治性急性脳症|難病情報センター以上のことから根本的に急性脳症を予防することは難しく、考えられる予防策はインフルエンザや突発性発疹、ロタウイルスなどの感染症を予防することです。ウイルス感染は日々のうがい・手洗いなどによって防ぐことができます。また予防接種などを行うことで、できる限りウイルス感染を予防しましょう。急性脳症の診断/検査出典 : 急性脳症の診断基準と検査方法について紹介していきます。◇臨床診断2章で紹介したけいれん、意識障害などの症状がみられる場合に急性脳症だと臨床診断されます。また重症化すると昏睡状態にともなって次の症状がみられることがあります。・発熱を伴うインフルエンザなどの感染症に罹患している・意識障害がある・けいれんがある(15分以上続くけいれん重積の場合もある)・発熱後に異常言動・行動がある(両親が分からない・急に笑い出すなど)また上記の他には出血傾向や血圧低下、尿の排出量の低下などの全身症状をともなうこともあります。参考:AESD診断基準参考:ANE診断基準参考:MERS診断基準参考:インフルエンザ脳症ガイドライン|厚生労働省 インフルエンザ脳症研究班◇確定診断急性脳症において特徴的な脳浮腫が頭部画像所見でみられる場合は、けいれん重積型急性脳症または急性壊死性脳症などの急性脳症として確定診断がなされます。髄膜検査、血液検査などによって確定診断を行うことはできず、頭部画像所見の検査が行えない場合などは意識障害の程度や持続性を観察したうえでの臨床的・総合的な診断を行います。◇頭部画像検査(CT,MRI)急性脳症の特徴である脳浮腫があるかどうかを確認するために行います。◇髄膜検査髄膜刺激症状と30分以上の意識障害が伴う場合には髄膜検査を行います。髄膜刺激症状とは首の硬直や膝を曲げた状態で股関節を直角に屈曲し、そのまま膝を伸ばそうとすると抵抗があることをいいます(ケルニッヒ徴候などがあります)。これは急性脳症と似た症状がある髄膜炎や急性脳炎との鑑別のために行います。◇血液検査発症12~24時間後、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(以下AST)の軽度上昇がみられることがあります。ASTは細胞内でつくられる酵素のひとつです。肝臓もしくは心臓や腎臓などの臓器に多く存在し、体内でのアミノ酸代謝やエネルギー代謝の過程で重要なはたらきをします。このASTが何らかの異常で肝臓にある肝細胞が破壊されることにより、血液中に漏れ出します。急性脳症が疑われる場合はこのASTの値が上昇するといわれています。◇脳波夜間や何らかの理由により頭部画像検査ができなかった場合、脳波検査が用いられることがあります。また症状の経時的変化を把握する上でも脳波検査は有用といわれています。急性脳症の場合に特徴的な、びまん性の脳波などを示すといわれています。この他にも医師が必要と認めた検査を受けることがあります。参考:急性脳炎・急性脳症|MyMed参考:インフルエンザ脳症ガイドライン|厚生労働省 インフルエンザ脳症研究班急性脳症と似ている病気って?出典 : ◇熱性けいれん熱性けいれんとは38℃以上の発熱に伴って、意識を失い全身がけいれんすることを指します。小児期にみられる一般的な発作性疾患のひとつです。よく「ひきつけ」とも呼ばれています。生後6ヶ月~5歳の乳幼児期に発症し、日本では7~11%前後の割合で発症するといわれています。発熱から24時間以内にだいたい1~3分間のけいれんが起こります。けいれんは一過性のものであることが多いですが、乳幼児期には発熱の度にけいれんを起こす場合もあります。熱性けいれんは発熱やけいれんなど急性脳症と似ている症状が発症しますが、短時間のけいれんで治まり、発熱時に1度だけ起こるだけで治まります。急性脳症のけいれんの場合、多くは15分~1時間程度続く長いけいれんである「けいれん重積」が起き、数日後には2回目のけいれんを群発的に起こします。参考:重症・難治性急性脳症|難病情報センター参考:「公益社団法人 母子健康協会」参考:「熱性けいれん診療ガイドライン2015(日本小児神経学会,2015)」◇髄膜炎髄膜は脳や脊椎を覆っている膜です。髄膜が炎症することによって高熱、激しい頭痛、悪寒、嘔吐など風邪に似た症状が発症し、けいれんや意識障害を引き起こす場合も珍しくありません。髄膜炎も急性脳症と似た症状を引き起こします。急性脳症は脳の浮腫が原因で各症状が発症しますが、髄膜炎は髄膜の炎症によって症状が発症します。症状を引き起こす原因が異なるため、髄膜炎と急性脳症は違う疾患といえます。参考:細菌性髄膜炎とは|国立感染症研究所 NIID◇脳炎脳炎はウイルスが直接脳に感染し、炎症を起こすことによって発症する疾患です。脳症と同様に高熱やけいれん、意識障害がおこります。脳炎と脳症の違いは脳内でウイルスが増殖することによって中枢神経に障害を起こしていると考えられれば脳炎で、脳以外の場所で起きている感染が、免疫異常などにより間接的に脳へ障害を起こすものが脳症です。◇てんかんてんかんとは慢性的な脳の疾患(障害)で、大脳の神経細胞が過剰に興奮することで発作が起こり、てんかんによる発作が繰り返しみられる状態を言います。てんかん発作は突然倒れて意識を失い、けいれんを起こすといったいわゆる大発作だけではありません。体の一部が勝手に動いたり、会話の途中にぼんやりしたと思ったら意識を失っていたりといった症状もてんかんの発作として考えられます。てんかんは急性脳症とは異なり慢性的な脳の疾患です。さらに発熱時以外にもけいれんや意識障害などが引き起こされます。出典:「脳炎と脳症」|岡山大学大学院 小児医科学教授 森島 恒雄急性脳症かも?と思ったときの受診先と対応出典 : 急性脳症の場合は長時間のけいれんや意識障害など分かりやすい症状が表出します。できる限り早く救急車を呼んでください。けいれんが長引くほど後遺症が残る確率も高まります。発熱して24時間以内に長時間のけいれんが起き、発熱後4~6日の間に2回目のけいれんが起こるのが急性脳症の特徴です。しかしはじめに起こる長時間のけいれんがまれに1~2分程度で終わってしまう場合があります。その後意識障害も続かない場合は熱性けいれんであると見立てられることがあります。その数日後に2回目のけいれんが群発して起こるようなことがあれば、急性脳症である場合が高まります。もし、熱性けいれんと診断されてから4~6日後に2回目のけいれんを起こした場合は直ちに病院を受診してください。<救急車を呼ぶタイミング>・5分以上けいれんが続く・けいれんが終わったが、その後も意識障害が続く(睡眠とは別)<病院に行くタイミング>・はじめてのけいれんが起こって5分以内に治まった・2回目の短いけいれんが起こった急性脳症の専門科目は脳神経外科や神経内科なります。けいれんが群発して起こっている場合が多いため、抗てんかん薬などでけいれんを治める必要があります。ですので、できる限り早い処置を行えるように救急などを受診するようにしてください。急性脳症がおよぼす後遺症出典 : 急性脳症では約36%の割合で何らかの後遺症が残るといわれています。主にその後遺症は知的障害、運動障害、難治性てんかんなどが発症します。知的障害とは発達期までに生じた知的機能障害により、認知能力の発達が全般的に遅れた水準にとどまっている状態を指します。単に物事を理解し考えるといった知的機能(IQ)の低下だけではなく、社会生活に関わる適応機能にも障害があることで、自立して生活していくことに困難が生じる状態です。運動障害とは運動神経経路の疾病によって体の運動機能に障害が生じることです。急性脳症後に大きな後遺症がなく回復し、リハビリを経て歩く・走るなどはできるようになった場合も、今までできていた跳び箱が跳べなくなる、縄跳びができなくなる、坂上がりができなくなるなどの障害が生じる場合があります。また重度の後遺症が残ってしまった場合は歩くこともままならず、日常生活の介助が必要になることもあります。なお、しばしば難治性てんかんというてんかんが後遺症として残ることがあります。ほとんどのてんかんが抗てんかん薬などを投与することにより、けいれんが治まりますが難治性てんかんは薬が効かないてんかんのことです。以上が急性脳症で起こりうる可能性が高い後遺症です。脳に生じた機能障害の程度などによって後遺症は多様であり、回復もそれぞれ個人差があります。出典:急性脳症の全国実態調査 |水口 雅(東京大学大学院医学系研究科 発達医科学 教授)急性脳症の治療出典 : 急性脳症の治療はそれぞれの症状の状態などによって異なりますが、ここでは主な治療について紹介していきます。■急性期の治療急性脳症では長時間のけいれん(重積けいれん)が起こります。そのけいれんを止めるために急性期では抗てんかん薬による治療が行われます。その後は様子をみながら、症状に合わせた治療を行っていきます。■予後の後遺症に対する治療前章で急性脳症の主な後遺症として知的障害、運動障害、難治性てんかんなどを挙げました。主にこれらの症状に対する治療やリハビリテーションを行っていきます。しかし障害の程度は一人ひとり異なるため、治療の内容も様々になってきます。例えば運動機能の障害には食事介助ないし経管栄養や胃ろうが必要となるケースがあり、摂食リハビリテーションを行うこともあります。知的障害に関しても程度が異なるため、療育や生活介助などのサービスを利用することもあります。難治性てんかんの場合は薬物治療以外の方法で、手術やACTH療法、ケトン療法などを用いて治療が行われます。実際はどのような後遺症が残るか、どの程度の後遺症が残るかは分かりません。その時々の医師や専門家の指示に従って治療を行うようにしてください。急性脳症の後遺症が残った場合の社会的なサポートって?出典 : 急性脳症が発症した後、主に後遺症が残ってしまった場合に受けられる社会福祉制度について紹介していきます。◇難病医療費助成制度けいれん重積型急性脳症は国の指定難病にされているため、医療費の助成を受けることができます。指定難病の医療費の自己負担割合は2割です。また、その他の制度による医療費がすでに1割負担となっている患者さんの場合、負担割合は1割のまま変わりません。難病医療費は世帯の所得に応じた医療費の自己負担上限額(月額)が設定されます。自己負担上限額は、受診した複数の医療機関などの自己負担をすべて合算したうえで適応されます。医療費助成制度を利用するためにはお住まいの都道府県へ申請が必要になります。申請方法などは次の厚生労働省のリンクを参考にしてみてください。参考:難病医療費助成制度の対象疾病について|厚生労働省◇障害者手帳の取得障害者手帳は急性脳症による後遺症などが残ってしまった場合などに取得することができます。障害者手帳があると、受けられる支援の幅が広がります。障害者手帳には「身体障害者手帳」「精神障害者保健福祉手帳」「療育手帳」の3つの種類があります。身体障害者手帳は身体障害がある方を対象にしています。精神障害者保健福祉手帳は精神障害や発達障害、てんかんなどがある方を対象にしています。療育手帳は発達障害や知的障害がある方を対象にしています。急性脳症の後遺症としてどのような症状が残ったかによって、取得できる手帳の種類が変わってきます。また手帳は数年ごとに更新がなされるため、その後の障害の程度に変化が生じた場合、受けられる支援も変わる場合があります。障害者手帳に関して、相談や申請などの問い合わせ先はお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口になります。また障害者手帳に関する詳しい内容は下記を参考にしてみてください。◇知的障害・運動障害の療育サポート療育は障害のある子どもに対して、それぞれに合った治療・教育を行い社会的に自立することを目標にした社会的なサポートです。後遺症が発症した子どもは、通所施設や入所施設などで療育サービスを受けることができます。その子の障害の程度や特性に合わせて個別に支援計画が立てられた上で、療育サービスを利用することになります。コミュニケーションの取り方や身辺動作など、その子どもが日常生活を送る上で必要なスキルを身につけるためのトレーニングなどが行われます。障害の程度にもよりますが、障害者手帳がなくても支援の必要性が認められば、受給者証を取得してサービスを受けることができます。◇障害者総合支援法に基づいた障害福祉サービスなどの利用障害者総合支援法は障害がある方もない方も住み慣れた地域で生活するために、日常生活や社会生活の総合的な支援を目的とした法律です。障害がある子どもから大人を対象に、必要と認められた費用の給付や支援を受けることができます。移動支援や生活介助など障害者総合支援法に基づいたサービスは多岐に渡ります。関連記事を参考にしながら利用を検討してみてください。参考:「障害者総合支援法」の対象となる疾病を332に拡大します|厚生労働省まとめ出典 : 急性脳症はウイルス感染をきっかけに発症する疾患です。近年の研究では特定の遺伝子の型が関係しているのではないかと言われていますが、遺伝子検査で未然に子どもの急性脳症の傾向を知ることはまだ一般的ではありません。現在、考えられる唯一の予防策は感染症の予防です。感染症のなかでも急性脳症と親和性が高い代表的なものは毎年流行するインフルエンザです。また、乳幼児期は子どもの免疫機能が完全に発達しきっていないために、急性脳症の他にもさまざまな病気になりうる可能性があります。インフルエンザやその他のウイルス感染を防ぐため、できうる限りの予防をおすすめします。
2017年03月31日「できること」を増やしたい!発達障害のある子どもを持つ親心出典 : 自分の子どもが発達障害だと診断を受けたならば…。「発達障害児でもできること」「発達障害児の発達を促すこと」を血眼になって探すのが、親心なのかもしれません。私もその1人でした。発達障害児を育てていると、どうしても出来ない部分ばかりが目についてしまいます。「協調運動ができない」「手先が不器用」「跳び箱やマット運動ができない」「字をマスの中におさまるように書けない」「きちんとした姿勢を維持できない」…他の子どもと並べては、「うちの子だけこんなこともできない…」と落ち込む日々が続いていました。「出来ることを褒めてあげて」と育児本には当たり前のように書いてあります。けれども、保育参観やちょっとした行事で「できない息子」を目の当たりにするたびに、「一体どこを褒めればいいんだろう…」という気持ちにすらなります。そんなとき、インターネットには心ひかれる文言が出典 : そんなどん底の気分になりながらも、「なんとか息子のできることを増やしたい」と思いネットを検索してみます。すると、キラキラときらめく言葉たちが並んでいるのです。「発達障害児向け○○!」「○○は発達障害児の発達を促してくれます!」「○○をすれば、発達障害は治る!!」こんな煌めくような魅力的な言葉たちが、私の親心をがっちり掴んでしまいました。「発達障害向け」の文言をみると居ても立っても居られなくなり、私はすぐに申し込みのメールを書き始めていました。それがどんな内容の習い事や塾であっても、息子に意思を確認することはありませんでした。これが原因で、私がしてしまった失敗を2つ、ご紹介します。出典 : ネットでの検索に取りつかれていたころ…私が一番に心惹かれてしまったのは、「発達障害を治す能力開発塾」でした。この「発達障害を治す」という触れ込みに惹かれてしまうのは私だけではなかったようで、中には新幹線や飛行機に乗って相談に訪れる人も後を絶たないそうです。ところが相談に伺ってみると、その塾の目標は「子どもを支援級に入れないこと」でした。私は当時、まだ小学校就学後のことまで考えてはいませんでした。その目標が果たして本当に適切かどうか、まだ分かっていなかったのです。その塾が何を目指しているのか、発達障害児がどう育っていくことを望んでいるのかという点について意見が合致しない場合は、私は入塾はやめたほうがいいと思いました。結果的に、入塾はお断りしました。「発達障害児向け」「発達障害が治る」という文言だけに飛びついてしまい、実態をきちんと把握していなかった失敗例です。出典 : 他にも、「これは発達障害児の発達に良い」「前頭前野の発達を促す」という言葉に、私は飛びついてしまいました。そんな私を突き動かしたのが、「乗馬は発達障害の発達に良い」「カヌーは発達障害児の発達に良い」という情報でした。私は息子を連れて、発達障害児を対象とした乗馬教室とカヌー教室に出かけました。その教室では他に参加する子どもたちもみんな同じように特性がある子どもたちだったため、息子だけが浮いてしまうこともないだろう…という期待もありました。ところが…。感覚が過敏な息子は、馬の臭いと大きさと肌触りにパニックです。泣いて泣いて暴れて暴れて、止まらなくなってしまいました。そんな息子を横目に、他のお子さんたちは悠々と馬に乗っています。カヌーはカヌーで、救命胴衣の感触にパニックになり大泣き。さらに、前日雨が降って川岸がぬかるんでいたのが嫌だったようで、足に泥がつくたびに大泣き。ここまで来て、こんなに息子を泣かせて、自分はいったい何がやりたかったんだろう…。私は帰りの車でため息しか出ませんでした。この教室以後、息子は馬が怖くなってしまい、今でも馬に近づけません。大切なのは、「発達障害児向け」ではなく「息子向け」だった出典 : 数え切れないほどの失敗を繰り返して、私が学んだのは、大切なのは「発達障害児向け」ではなく「息子向け」のものを選ぶことだということでした。いくら「発達障害児向け」と銘打ってあっても、息子に合った環境整備がされているとは限りません。いくらそのアクティビティ自体が発達障害児の発達に良いとしても、息子は盛大なパニックを起こし、それが失敗体験になってしまいました。逆に、発達障害児対象のアクティビティでなかったとしても、息子に合った環境整備がきちんとできていれば、息子は楽しくこなすことができます。成功体験につながることもあるでしょう。「発達障害児向け」「発達障害児の発達に良い」というのは、あくまでも理論的な話です。脳回路の話などが出てくると、どうしても飛びついてしまうのが親心。でも、理論と実践は違うのです。適切な環境整備と子どもに「やりたい」という気持ちが少しでもあれば、それが一番「その子の発達に良い」ことなのだということを忘れてはいけないのだと思います。
2017年03月30日構音障害とは?出典 : 人は、下顎(したあご)・舌・唇・軟口蓋(なんこうがい)などを動かし、声の通る道の形を変えることで話しことばを生み出します。この、話しことばを生み出す過程を「構音」と言います。「構音」は、一般的には「発音」と呼ばれています。ことばの発達は、一定の決まった順序でおおむね進んでいきます。同様に、構音の発達にも順序性があり、年齢に応じた発達段階があります。以下、発音を獲得する年齢のおおまかな目安です。2~3歳代:ア・イ・ウ・エ・オ、タ・テ・ト、パ行、マ行、ヤ行、ン3~4歳代:カ行、ガ行、ナ行、チ、チャ行、ダ・デ・ド、ハ行、ワ4~6歳代:サ行、ザ行、ツ、バ行、ラ行出典 : 「構音障害」とは、同じ発達年齢の人が正しく発音できる音を習慣的に誤って発音している状態を指します。もちろん、幼い子どもたちはうまく発音できないことばがあります。周囲のお子さんと比べて多少不明瞭な発音があっても、身近な人とであればコミュニケーションを図ることができている場合「問題はない」と思われることもあるでしょう。ですが、その発音がうまくいかない背景に、発音に関わる器官や発達を支えるものに何らかの課題が隠れている可能性があります。また、成長するとともに、発音がうまくいかないことで地域や集団におけるコミュニケーションや学習に支障をきたしてしまったり、自信を無くしてしまったりすることがあります。発音の誤りや不明瞭さの原因は一人ひとり異なるため、背景を丁寧に探る必要があります。そして、適切なアドバイスや治療、指導を受けることで改善する可能性が広がります。そのため、早期に専門機関に相談し、専門家のサポートを受けることが大切になってくるのです。「構音障害」は発達障害や知的発達の遅れなどを合併している場合もありますが、本記事では合併の場合を除いた純粋な構音障害について述べていきます。構音障害の原因による分類出典 : 構音障害には、原因が特定できる場合と、そうでない場合があります。特に子どもの構音障害の場合、様々な要因が重なり合っていることが多くあります。◇器質性構音障害生まれつき、あるいは事故や病気など後天的な理由により、唇・舌・口蓋(こうがい)・顔面などの形に問題があり、うまく発音ができない場合をいいます。・口蓋裂・口唇裂・口唇口蓋裂先天性異常のひとつで、日本では500人~600人に1人の頻度で発現します。口蓋とは口腔内の上の部分、口唇とはくちびるをさします。乳幼児から就学時までの期間中に何度か手術を施し、同時にことばの指導を行うことで、現在では80%以上が正常構音を獲得できると言われています。・舌小帯(ぜっしょうたい)短縮症先天性異常のひとつで、口腔底から舌の下面へ走っている小帯(舌の裏側のスジ)が舌の先に近く付着していて、舌の動かしづらさがある状態です。保険適応で手術や訓練をすることができ、多くの場合、正常構音を確立できると言われています。出典:「口蓋裂・構音障害」日本聴能言語士協会講習会実行委員会(共同医書出版社)・その他の器質性構音障害器質性構音障害には、鼻咽腔閉鎖不全症や口腔腫瘍等による発語器官の切除後に生じるものなどもあります。◇運動性構音障害脳卒中や頭部外傷、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ジストニアなど、神経や筋に病変が生じることにより、話すことに必要な運動機能が障害される場合をいいます。構音障害だけではなく、声やリズム・速さ・アクセント・イントネーションの異常を併発することもあります。◇聴覚性構音障害聴覚の障害により、正しい構音を獲得することが難しい場合を、聴覚性構音障害という場合があります。器質性構音障害には、鼻咽腔閉鎖不全症や口腔腫瘍等による発語器官の切除後に生じるものなどもあります。参考:「口蓋裂・構音障害」日本聴能言語士協会講習会実行委員会(共同医書出版社)◇機能性構音障害構音にかかわる器官の形態、神経や筋、聴力に問題が見出されない、また、その他の疾患や障害が無いにもかかわらず構音に問題がある場合、機能性構音障害に分類されます。主に幼児期にみられます。自然治癒が望めない場合も、早期に指導・訓練を受けることで改善する可能性が広がります構音障害なのかな?と思ったら専門家に相談を出典 : 構音障害は、成長とともに自然に治る場合もありますが、気になる場合は園や学校の先生、子育て支援センターや児童発達支援センターなどの専門機関に相談してみましょう。言語聴覚士(ST)などの専門家に相談できる場合があります。また、言語聴覚士協会のホームページから言語聴覚士のいる施設を検索することができるので参考にしてください。参考:こども発達支援センター杉並区参考:(社)日本言語聴覚士協会ホームページ全国の施設検索医師などに、ことばの問題を相談することもできます。受診できる病院の科は以下の通りです。・小児科・耳鼻咽喉科・脳神経外科・神経内科・形成外科・リハビリテーション科・言語外来を設置している各科構音障害の原因は様々であり、医師や言語療法士などが相談や検査などを行い一人ひとりの背景を探り、それに応じた対処法がみつかることもあります。参考:国立特別支援教育総合研究所「子どものことばについて相談すると、一体どんなことを聞かれるんだろう」と不安に思う親御さんが多いと思います。気がかりなことやお子さんの様子をメモに書いておくなど、事前に準備しておくと良いかもしれません。ここでは例として、耳鼻科の言語外来で言語聴覚士が行う聞き取りや検査項目をあげます。1.生育歴などの聞き取りこれまでの育ちや現在の様子についてお聞きします。大きな病気やけがなどの有無、身体やことば・発音の発達はどのようであったか、現在のお喋りやコミュニケーションの様子、本人の自覚などと合わせて、親御さんが心配していること・気がかりなこともお聞きします。2.構音検査お子さんの構音の状態を捉えるために、検査を行います。3.その他の検査・聴力検査:聴力に問題はないか・構音にかかわる器官の形態や運動をみる検査:鼻・唇・舌・歯・顎・喉などの形や動きをみる・言語発達の検査:ことば・コミュニケーション発達の検査、発達検査や知能検査の言語性課題など上記のような、構音検査以外の検査も行われます。4.鑑別診断構音障害といえるのかどうか、また、他の疾患や障害(知的障害・ことばの遅れ・聴覚障害など)の有無を判断します。以上のような聞き取りや検査を行うことで背景や原因を探り、その後の対応を見極めます。参考:「新版構音検査」参考:「子どもの発音とことばのハンドブック」山崎祥子/著(芽ばえ社)構音障害かなと思ったら、アドバイスはどこでもらえるの?言語聴覚士とは?出典 : ことばや構音については、診断の有無にかかわらず、言語聴覚士(ST)と呼ばれる専門家からアドバイスや指導を受けることができます。言語聴覚士は、一人ひとりに合わせたやり方で、ことばや構音の育ちをサポートしてくれます。家庭での接し方や、本人の気持ちを尊重しながら楽しくできる練習方法へのアドバイスも期待できます。発達ナビの以下のリンクを参考になさってください。言語聴覚士がいる施設出典 : ◇公的機関のサービス・教育・療育施設子どもの場合、「ことばの教室」などと呼ばれる小学校などの通級指導教室や特別支援学級、特別支援学校、児童発達支援などの療育機関などで言語療法を受けられる場合もあります。園や学校に相談するか、自治体に問い合わせましょう。健診や就学前健診で個別に相談できる場合もあるようです。その後、面談や審査など、所定の手続きに従います。地域によっても制度が異なりますので、お住まいの自治体に問い合わせましょう。・医療機関主治医の指示により言語聴覚士のアドバイスや指導を受ける際、健康保険が適用される場合があります。医療機関に問い合わせてみましょう。・福祉施設施設・地域によって異なりますので、各施設や自治体の定める手続きをとります。大人の構音障害の場合、訪問リハビリテーションなど介護保険の適用になる場合もありますので、福祉窓口、ケースワーカーや民生委員に相談してもよいでしょう。◇民間の教室などことばに関する指導を行う民間の教室です。利用する場合は、施設に直接申し込みを行います。発音を育てるために家庭でできること出典 : 家庭での生活や遊びのなかで、お子さんの様子を観察し、楽しく練習する機会を作りましょう。◇構音器官をどのように使っているか構音に関わる器官は、ことばを話す以外にも使われています。例えば・息を吸う、吐く・息を吹きかける・口を開ける、閉じる・噛む・なめる・のみこむなどがあげられます。これらの様子を観察してみましょう。周囲のお子さんと比べてうまくいかない、力が入らない、あるいはどこかに力が入りすぎる場合は、その様子を記録しておくと良いでしょう。口を閉じる練習・いろいろなものを噛む練習・息を長く吹く練習などが有効な場合と、余計な力を取り除くためまずはリラクゼーションの練習が必要な場合とがあります。お子さんによって取り組むと良い動作が違うため、これまでの記録とともに専門家に相談し、アドバイスをもらいましょう。◇音への意識を高める、聴く力を育てる遊びを通じて、音に注目する力、音に耳を傾ける力を育てましょう。・しりとりしりとりは効果的なあそびです。ルールの理解が難しい場合は、絵や写真、ひらがなやマス目などを手がかりとして見せながら、無理ない範囲で一緒にやってみましょう。「さかな」「なす」「すいか」「からす」などの絵カードや文字カードを用意します。カードを指しながら「さかな」と言った後、「な・な・な…」と言いながら次に続くカードを探すのも良い方法です。・かるたかるたも、音への意識を高める遊びです。正しい札を選んだあとに、1文字ずつ指をさしながら一緒にゆっくりと文章を読んでみるのも良いかもしれません。・じゃんけんすごろくサイコロの代わりにじゃんけんを使ってすごろくをします。グーで勝ったなら「ぐ・り・こ」、チョキなら「ち・よ・こ・れ・い・と」、パーなら「ぱ・い・な・つ・ぷ・る」と言いながら1文字ずつ進みます。大きな紙にスタートとゴールを描き、その間をマス目でつないだすごろくを親子でするのも良いでしょう。階段を使って、勝った人が出した手に応じて1段ずつ進むゲームもあります。◇コミュニケーション手段の確保構音の獲得や改善に効果的な方法を探る一方で、「自分の思いを伝える」という機会を確保することも大切です。話しことばに限らず、表情や視線、ジェスチャーや指さし、写真や絵、文字や記号などあらゆる手段を使って伝えたい思いを相手に伝える経験を積み重ねることは、コミュニケーションの力を育むうえで不可欠です。まとめ出典 : 構音を獲得するまでには、様々なステップがあります。お子さんの構音の育ちにつまずきがあると感じられる場合、言語聴覚士など専門家にアドバイスや支援を得ることが近道といえます。周囲よりも構音の育ちが遅いと、親御さんもお子さんも焦りや苛立ちを感じるかもしれません。「それは違うでしょ!○○って言いなさい」と指摘し言い直させてしまうこともあるかもしれませんが、それだけでは喋ることそのものを嫌いにさせてしまう可能性があります。上手に発音することだけではなく、様々な人と関わりコミュニケーションすることが楽しいと感じられるような工夫も取り入れながら、成長を応援する姿勢も大切かもしれません。専門家と相談しながら、実践できる方法を探り、取り組んでみましょう。参考:「子どもの発音とことばのハンドブック」山崎祥子/著(芽ばえ社)参考:井出歯科医院
2017年03月24日知的障害者向けの療育手帳、発達障害の私は取得できないの?出典 : 現在、発達障害者のためだけの独自の手帳制度はありません。発達障害者のための法律は、2005年にやっと「発達障害者支援法」が施行されました。ですが手帳制度は定められていません。そのため、知的障害者に発行される療育手帳か、精神障害者保健福祉手帳がその代わりになっているというのが実情です。少し、療育手帳と精神障害者保健福祉手帳の制度について調べてみました。療育手帳は、1960年に施行された「知的障害者福祉法」には記述がなかったのです。1973年9月に当時の厚生省が出した通知「療育手帳制度について」に基づいて、各都道府県知事(政令指定都市の長)が知的障害と判定した人に発行するようになりました。それ以前にも独自に療育手帳を発行していた自治体もあったそうですが、1973年までは国の法律に基づいた制度ではなかったのですね。精神障害者保健福祉手帳は、1995年(平成7年)に改正された精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)に基づいて、各都道府県知事(政令指定都市の長)が発行しています。私は、「発達障害で、実際にかなり生活や仕事で困難を感じているのになぜ療育手帳を取ることができないのか?」という疑問を抱いていました。療育手帳では受けられても、精神障害者保健福祉手帳では受けられないサービスもありますし(特に交通関係のサービスは療育手帳の方が手厚いです)。そして「それなら実際に取得のチャレンジをしてみよう」と決心したのです。大人になってから療育手帳を取るには、どんな手続きが必要?出典 : 大人になってから療育手帳を取るためには、まず市役所等の障害福祉課に申し込む必要があります。申し込んでからしばらくして日時を指定されて、市役所の職員から成育歴や現在の生活の状況などの聞き取りが 約1時間ありました。そして、「取れてB2(一番軽度)ですね。また都道府県の指定機関で検査を受けてもらうので、日時が決まったら連絡します」と言われました。役所での聞き取りから約1カ月後、都道府県の指定機関から連絡がありました。そのときに「子どもの頃のことを聞かせてほしいのでご両親に同行してもらってください」と言われました。父はもう亡くなっているので母にお願いしました。けっこうな歳なので申し訳なかったですが。しかも「そんな昔のこと覚えてない」って言われますし。けっこう不安な気持ちになりました。ちなみに親が高齢で足を運べない場合は、電話での聞き取りになるそうです。親がいない場合はどうなるんでしょうね…?検査を受けた結果は、手帳の取得は…出典 : 検査の流れは、午前中に2時間かけて私はWAIS-Ⅲを受け、その間に母は別の部屋でチェックシートに回答し、それを心理士さんが見ながら追加で質問をいろいろと受けるというものでした。WAIS-Ⅲは途中で休憩をはさみながらも2時間少々で終わりました。心理士さんはとても手慣れていて、検査のベテランという印象でしたね。お昼過ぎに母と合流し、20分間待って母と私を担当した心理士さんたちによる結果の見通しと所見の説明がありました。結果から言うと、「療育手帳の支給はできません」でした。理由はわたしのIQが100を超えていたこと、成育歴に特に問題もなく、大学に進学したことがトドメになったようです。療育手帳の審査ではふたつのことを見るそうです。1.検査でIQを計る2.成育歴で、18歳までに知的障害の状態であったかどうかどちらでもダメだったわけですね。心理士さんにズバリと聞いてみました。「私みたいな知的に問題のない発達障害の人が検査に来ることってよくあるんですか?」すると「はい、けっこう多いケースです。やはり手帳を取っていただくことはできませんが」と答えてくれました。この日も何組もの親子が検査を受けに来ていました。検査を受けに来る人はとても多く、忙しい状態が続いているそうです。WAIS-Ⅲの所見も簡単ではありましたが、説明してくれました。もう少し詳しい所見がきけるのかと思っていましたが、分析する時間もほとんどなかったでしょうし仕方がないのかなと感じました。最後に、精神障害者保健福祉手帳で受けられるサービスについての案内がありました。発達障害に関する啓発パンフレットも、親子に1セットずつくれました。WAIS-Ⅲの結果レポートは、頼めば切手代だけで自宅まで郵送してもらえました。私は医師に提出するためにお願いしました。判定基準は都道府県によって異なります出典 : 療育手帳の判定基準は都道府県によってかなり異なります。甥が発達障がいのため、療育手帳の交付申請をしたが、知能指数が基準の75より1高い76であるという理由で却下された。社会生活に適応できないのに、手帳が交付されないことに納得できない。知能指数が高い発達障がい者も療育手帳の交付を受けられるようにしてほしい。私が住む県では、知能指数が高い自閉症などの発達障がい者には、交付基準に該当しないとして交付されないが、他の県や政令市では交付されている例があると聞いた。療育手帳の交付に当たっては、全国の発達障がい者が平等に手帳の交付が受けられるよう、交付基準を統一してほしい。どこに住んでいるのかによって、判定基準が大きく異なるというのは制度として大きな問題があると思いました。必要な人が手帳を取れる世の中に出典 : 今回の経験で感じたのは、「発達障害の生きづらさはIQで測れるものではないのに、どうして『実生活でどれだけ困難を感じているか』ということを考慮してくれないのだろう」というむなしさでした。そして、療育手帳の基準の地域差が公的文書で問題になっているのに、事務的に振り分けられることの理不尽さを感じました。大人の発達障害は今までほとんど理解されることはありませんでした。少しずつ社会も変わろうとはしていますが、現実としては「努力してもできない」「なまけているのではない」ということも理解されず、SOSを出したくてもうまく福祉につながれない人が多いと思うのです。発達障害が社会的に認知されるためにも、そして発達障害のために生きづらい人が顔をあげてイキイキと生きていくためにも、手帳を必要とする人には公正にスムーズに手帳が手に入る世の中になってほしいと思います。そして、発達障害者のための手帳ができることを心より願っています。
2017年02月24日発達障害があると「生きづらい」?出典 : 歳の発達障害の息子を育てていると、ごく当たり前のように「この子が生きづらくないように」と考えている自分がいます。「生きづらさ」という言葉は、発達障害児を育てていると頻繁に見聞きするものではないでしょうか。大人になっても「生きづらさ」を感じている人は沢山います。発達障害でなくても「生きづらさ」を感じている人は沢山います。でもやはり、発達障害の息子を見ていると、私はいつも「この子は生きづらいだろう」と感じてしまうのです。そして、「どうやったらこの子の生きづらさが取り除けるだろう」とそればかり考えています。では一体、発達障害児の「生きづらさ」って何なのでしょうか。発達障害特有の困難さは、支援で克服できることも増えてきた出典 : 息子には発達障害児特有の様々な困難があります。言葉の使い方が変わっているのでお友達に不思議がられたり、お友達の輪に入るのが好きではなかったり、聴覚や触覚が過敏だったり、運動が苦手だったり、手が不器用だったり…。これらの困難のために、息子は集団の中で様々な苦労をしているようですが、それは息子が自己肯定感を落とす直接的な原因になっていないようなのです。今は、支援方法がかなり確立されています。運動が苦手だったり、手先が不器用だったりしても、先生方や私たち親の工夫次第で結構頑張れてしまうようです。例えば息子は運動会で足が遅いことをずっと気に病んでいましたが、今は発達障害児専門のスポーツ支援の本などが結構出ています。先生方はそれに基づいて、息子に走り方の指導をしてくださいました。おかげで、運動が苦手なことで息子がひどく落ち込むようなことはありません。また、気にして見ていると、発達障害児向けの学習支援グッズなども沢山発売されています。私はそのようなグッズを探して購入したり、自分で作ってみたりしました。ですから、息子が手先の不器用さでひどく生きづらさを感じているようなことはありませんでした。また、私も幼稚園の先生も決して息子に友達の輪に入ることを強制しませんでした。周りが「この子はこういう子だ」と淡々としていれば、本人はそれほど気に病まないのです。運動や手先の不器用さなどについては支援で克服できることは結構多く、それが即息子の「生きづらさ」に繋がるわけではないように思いました。では何が「生きづらさ」につながっているのだろう。私が息子を見ていて気付いたこと出典 : けれども、どんなに支援をして息子の困難を取り除いても、私はやっぱり「この子は生きづらいだろうなあ」と感じてしまう瞬間があるのです。それは何かといえば、息子の「認知のズレ」です。例えば、息子とのやり取りで以下のようなことが毎日のように起こります。・誰かが息子の言ったことが可愛くて笑った。→「僕のことをバカにして笑っただろう」と激怒orパニック。・何かについて「ダメだよ」と注意された。→ 「この人は僕を嫌っている」と激怒。・何かの問題が難しくて解くことができなかった。→「僕はどうしようもないバカなんだ」と落ち込んで立ち直れない。・先生に「これはいけないよ」と注意される→「僕はいつも先生に叱られているダメな奴だ」と思う。・誰かが息子をからかう。→「みんなが自分を嫌っている」と落ち込む。このように、息子には認知のズレがあり、物事を過度に一般化したり、そうかと思えば突然自責の念にかられたりするところがあります。また、物事を白黒極端に捉える傾向もあり、「え?どうしてそんな風に考えちゃうの??」ということが頻繁にあります。その思考を助長するのが、相手に否定語で何か言われたり、ちょっと笑われたりということなのです。「認知のズレ」は支援することが難しい。私が息子に接するときに心がけていること出典 : 息子の生きづらさの根本的な原因について考えたとき、この「認知のズレ」が大きいのではないかと思うのです。そして、こういった認知のズレは、支援することがとても難しいです。手の不器用さや学習上の困難などは、支援グッズを使いながらなんとか解決の糸口を見つけ出すことができました。けれども、「認知のズレ」だけは、長い時間かけて手探りで修正していくしかないのです。支援グッズを使うでもなく、支援方法が確立しているでもない。私たち親ができることは、ただただ失敗したり落ち込んだりしている子どもに辛抱強く語りかけていくことだけです。だからこそ、認知のズレは親にとっても子ども本人にとっても「生きづらさ」へとつながっていくのかもしれません。けれども、だからこそ、発達障害の子には、なるべく大きな失敗をしないように環境調整をすることに意味があるのだと思います。私は息子の生きづらさを知ったうえで、人間関係や学習などで大きな失敗をさせない、挫折をさせない、本人が乗り越えられるハードルをうまく設定しながら成功体験を増やすことに集中しています。なかには、それは過保護だという人もいます。けれども、認知にズレがあるからこそ、ひとたび大きな挫折でボッキリと折れてしまうと、それを立て直すのに大変な労力がいるのです。また息子の場合、大きな失敗をすることで、他者への不要な憎しみや恨みが長いこと心に残ります。大きな失敗や挫折の体験は、発達障害の子どもの生きる糧にはなりづらいと私は思います。私は失敗を乗り越えさせることに力を振り絞ることよりも、成功体験を積ませることに力を使っていきたいです。発達障害の子どもにとって、小さな成功体験の積み重ねが心の体力になっていきます。心の体力があれば、多少の認知のズレがあっても、自分で態勢を立て直すことができるはずです。認知のズレそのものを修正するために躍起になるよりも、小さな成功体験を増やしていくことに重点を置いていくほうが、親も前向きに取り組むことができるのではないでしょうか。生きづらさは、心の体力で克服できるものだと私は信じています。
2017年02月23日・ 【第1回】発達障害の子育てに「療育」よりも大切なこと ・ 【第2回】発達障害の子どもが、充実した人生を送るために必要なこと ・ 【第3回】発達障害の子育てを「辛い、苦しい」と感じたら のつづきです。「発達障害」をもっと理解するために必要なことを、『療育なんかいらない!』の著者であり、独自の理論で放課後デイサービスを展開する「アイム」の佐藤典雅さんにインタビュー。今回は、「発達障害の子育てを楽しむコツ」についてお話を伺った。佐藤典雅(さとう・のりまさ)さん川崎市で発達障害の子どもをサポートする放課後デイサービス「アインシュタイン放課後」「エジソン放課後」を運営している、(株)アイムの代表。自身の自閉症の息子さんの療育のために、息子さんが4歳の時に渡米して、ロサンゼルスで9年間過ごす。前職は、ヤフー・ジャパンのマーケティング、東京ガールズコレクションとキットソンのプロデューサーという異色の経歴の持ち主。福祉という範囲を超えた目線で、自身の息子さんの成長を見守りながら、発達障害児が社会で幸せに生きるための道を広げる挑戦をしている。著書: 『療育なんかいらない!』 (佐藤典雅・著/小学館 ¥1,296 税込)※放課後デイサービス(= 放課後デイ):6~18歳までの障害のある子どもが放課後や学校休業日に利用できる、就学時向けの福祉サービスのこと。■子どもの障害は親のせいではありません―― この連載もいよいよ最終回。いろいろ伺ってきましたが、ずばり、佐藤さんが思う発達障害の子育てを楽しむコツって何でしょうか?佐藤典雅さん(以下、佐藤さん): まず、親自身がハッピーであること、充実した楽しい人生を送ることです。人が他人を幸せにするのは無理。幸せって自分が作り出す状態だから。状態である以上、自分で作り出すしかないんですよ。―― 子どもの障害に対して、親は自分の人生すべてを捧げるべきという風潮がありますよね。そういう中、親は自分のことを優先しにくいのかもしれませんね。佐藤さん: でも、親が療育に必死になって、「子どもには充実した人生を送ってほしい」ってボロボロな状態になっていたら、それを見た子どもがうれしいわけがないよね? こんなの、子どもにとっては重荷でしかない。―― 自分を犠牲にしてまでがんばってしまうのは、もしかしたらお母さんは「自分に責任があったのでは?」と感じてしまうからかもしれません。「妊娠中に無理したのが良くなかったのかな?」とか「早くから預けて働いたのがいけなかったのかな?」とか、いろいろ考えて自分を責めてしまうのかもしれません(※)。※もちろん発達障害の原因にそんな根拠はありません。佐藤さん: 子どもの障害は親のせいではありませんよ。僕は、それぞれの人にはそれぞれの生まれ持った宿命と人生があるのだと思っています。そして、その子どもが自分の人生の使命をまっとうできるようにサポートするのが親の役割。後は、親自身が自分の人生を楽しむのが、親の仕事だと思っています。―― 障害者の親って他の保護者より制限があるように思えるのですが、人生を楽しむことってできるのでしょうか?佐藤さん: 大切なのは、子どもに障害があろうがなかろうが、いかに、自分が今の状態を楽しめるか? なんですよ。お母さんが自分の人生を謳歌していれば、子どももその姿を見ていて楽しくなるでしょう。もちろん、普通の子育てより大変なことは多いですよ。でも、地獄で幸せになれない人は、天国にいっても絶対幸せになれませんから!―― どういう意味でしょうか?佐藤さん: 地獄で「暑い、暑い」って言ってる人は、天国に行けったら、絶対「暇だ~、なんかつまんない~」とか言い出すから。―― おもしろい考えですね(笑)。また、お母さんが生き生きとするためには、お父さんの存在も欠かせませんよね?佐藤さん: もちろんです。でも、残念ながら、うちの放課後デイに親子が面談にやってくる時、夫婦そろって来られるのは一割以下。平日の昼間、お父さんは仕事だから仕方がないにしても、お母さんの話からお父さんの存在が見えない家庭が多いのです。―― 療育センターなんかでも、付き添いはお母さんばっかりですものね。佐藤さん: 父親がちゃんと関わってくれないと、母親のストレスは2倍になります。日々の小さいことまでフォローする必要はないのかもしれないけど、重要なことには決断を下し、時々、お母さんの頭の中を整理してあげてほしいと思います。それに、話を聞いていると、お父さんの意見は結構合理的で的を得ているんですよ。なので、お母さんたちも、もう少し素直にお父さんの意見を聞いてあげてほしいと思います。■先輩お母さんとつながろう。人脈をどんどん広げよう―― 旦那が一緒になって考えてくれる、それだけでお母さんは十分心強いと思います。あと、私が心強かったのは、同じ悩みを持つお母さん仲間とのつながりです。佐藤さん: ただ、療育センターでは同じ年頃の子どもを持つ親同士でしか接点がないよね? 特に、就学前は一番不安な時期だし、子どもの先の姿が想像できない。だから、同世代だけで集まると不安を交換しあって、不安だけが増幅してしまうという難点もあります。―― 確かに。いつも同じメンバーで、ぐるぐると同じ話になってしまいがちなところもありましたね。佐藤さん: 一番有効なのは、発達障害をもつ未就学児のお母さんは、同じ発達障害を持つ中学生の親から話を聞くこと。すでにいろいろ経験してきたお母さんたちは、いろいろな情報を持っているので役立つアドバイスをくれます。わが子の将来のイメージもつかみやすいので、お母さんもあんまりパニックにならないですむ。違う世代とつながりを持つことをおすすめします。―― でも、なかなか違う世代とつながる機会がないのですが……。佐藤さん: うちの放課後デイに遊びにいらっしゃい! いろんな先輩お母さんがいるから。みんな仲が良くて、よくバーベキューやクリスマスパーティーしたり、頻繁に交流会をしていますよ!ただ、おもしろいんだけど、うちのお母さんたちが集まっても、みんな誰も子どもの話をしないんですよ。子どもそっちのけで、爆笑トークで盛り上がってるの(笑)。でも、これこそが健全な姿だと思うわけ。―― みなさん、佐藤さん同様、笑い飛ばす力を持っているんですね!佐藤さん: 発達障害の子育てをする親は、特に、開かれた視点で物事をみつめなおす必要があります。療育に通うのに夢中になっていると、気づいたら、接するのは療育センターの先生か学校の先生かママ友だけになってしまいますよ。意識的に努力して、開かれたマインドをもっておかないと。―― 人脈もどんどん広げるべきなんですね。佐藤さん: 例えば、子どもが興味のある業種に人脈を作って、その企業にインターンできるようにするとか、どうでしょう? うちの長女は将来ゲームクリエイターになりたいと言っているので、僕はプロが使うAdobeのフォトショップを覚えさせたり、夏休みは友達の会社でインターンさせたりしています。もちろん、中学生だからたいしたことはできないんだけど、興味ある業界で普段接することのない大人と過ごすことができるのは刺激的でしょう。それができたのは、僕に人脈があったから。―― なるほど! 子どもの興味があることにつながる人脈力か……。佐藤さん: 世の中にはいろんな人います。いろんな人と会って話して、どんどん外の世界に出て行ってほしい。自分の親とか同じ学校とか、同じマンションとか、同じ世帯年収とか、そういう狭い世界だけでみて、こうあるべきだと決めつけないでほしい。臨機応変に考えられるように、いろいろな情報収集をしてほしいと思います。 ■運命を受け入れることも、大切―― ところで、ここの子どもたちはとても自由に寛いでいますね(取材中の様子を見ながら)。図鑑に没頭している子もいれば、ボール遊びをしている子もいるし、寝ている子もいれば、カラオケで熱唱している子もいる(笑)。佐藤さん: 僕は、自分の放課後デイを「川崎のNASA」と呼んでいます。なぜなら、発達障害の子は宇宙人みたいなものだから。僕の役割は地球側の外交官みたいなもので、彼らの地球滞在が充実したものとなるように努めること。そして、いつか彼らが宇宙船に乗って地上に降りてきた時に、「あの時はありがとう」と言ってくれればいいな、と妄想しています(笑)。―― その妄想、素敵です(笑)。佐藤さん: 発達障害はガンダムのニュータイプみたいなもんで、既成概念の外にいる子どもたちなのだから、親の方も子どもに常識を求めるのはナンセンス。期待すればするほどドツボにはまるだけ。そしてもっというと、親自身も「こうあるべき」「こう育つべき」っていう規制概念の呪縛から出る必要があります。―― そう考えると、発達障害の子どもたちは、親に、子育てで忘れがちな、とても大切なことを教えてくれているのかもしれませんね……。佐藤さん: ちょっと話それるけど、みんなよく「結婚して幸せになりたい」とか言うじゃない? でも、結婚したって離婚する人もいるし、結婚は幸せを保証するものじゃない。「結婚すれば老後がさみしくない」っていう人もいるけど、うちのお祖母ちゃんはお祖父ちゃんが早く死んじゃったから、30年間ひとりだったわけ。結婚はさみしくない老後も保証しない。つまり、人生は何が起こるかわからない。だから、一生懸命人生の方程式を作ったって無駄なんですよ。―― では、どこを目指したらいいのでしょうか?佐藤さん: 死ぬときに本人が充実した人生だったと納得して死ねるか、そこしかないと思うんです。だから、子どもに障害があっても、お母さんは自分の人生を思いっきり生きるべきなんですよ! ―― 「やりたいことがあったなら、とりあえずやっておけ!」と?佐藤さん:そう。そして、運命というのか宿命というのかわからないけど、ある程度、受け入れることも重要だと思っています。自分にそういうカードがまわってきたということは、巡り合わせだと。―― 佐藤さんがまったくの異業種から福祉の世界に入ったのも、運命なのですね。佐藤さん: 福祉が大嫌いだった僕が、今福祉の世界で仕事をしているのも、きっと何か理由があるから(笑)。だとしたら、グダグダ文句言ってないでしっかりやりきろう、と。今目の前のことをやりきらないと、次のステージは見えてきません。それに、僕は一生福祉の世界で生きていくつもりはないので、せめて「他の福祉施設よりも結果を出してから辞めてやる!」と思っています(笑)。長時間にわたり、自身の熱い思いをしゃべり倒してくれた、佐藤さん。時に、厳しい指摘もあったが、ユーモアたっぷりの話しぶりで、発達障害の子育ての凝り固まった偏見や閉塞感を気持ちよくブチ壊し、勇気を与えてくれた。そして、著者は何より、佐藤さんのポジティブな姿勢と、常に息子さんの幸せな人生を考え、全力で取り組んでいる行動力に深い感銘を受けた。「この子なりの楽しい生き方ってなんだろう?」「この子が充実した人生を送るために、親として何ができるだろうか?」発達障害の子育てで、本当に親が悩むべきところは、そこにあるはずだ(もちろん、普通の子育てだって変わらない)。そして、大切なことは「子育てを楽しむ」ということを、常に忘れないでいたい。取材・文・撮影/まちとこ出版社 【大変だけど、不幸じゃない。発達障害の豊かな世界】 全4回・ 【第1回】発達障害の子育てに「療育」よりも大切なこと ・ 【第2回】発達障害の子どもが、充実した人生を送るために必要なこと ・ 【第3回】発達障害の子育てを「辛い、苦しい」と感じたら ・ 【第4回】発達障害の子育てを楽しむコツ
2017年02月18日(参加型ステージ_釜ヶ崎の夏祭り/大阪Photo by江里口暁子)障害者、日雇い労働者、生活保護者など、社会的に「弱者」と呼ばれる人々を巻き込んで、アフリカの太鼓ジャンベを使って、即興で音楽を作り歌うグループ「即興楽団UDje( )」(うじゃ、以下うじゃと記す)。活動の武器は「即興音楽」だと語るのは主宰のナカガワ エリさん。今回Be Inspired!は彼女に「社会のボーダー」を取り払う、うじゃの活動内容と存在意義を伺った。前編・後編にわけて彼女のドキュメンタリーをお届けする。即興で生み出すコミュニケーションパワフルな西アフリカの太鼓「ジャンベ」の音と、エリさんの歌とも言えない絶妙な声が響く。即興楽団UDje( )。名前からすでに伝わってきていると思うが、うじゃの演奏は全て「即興」。アイコンタクトを使って、音楽を作り出したり、声を出したり、手拍子を打ってみたり。体と体を引っ付けたり、離したり。「音」を中心としたコミュニケーションをその場で生み出す「音のワークショップ」がうじゃの主な活動だ。(音のワークショップ_千葉盲学校青年学級/千葉Photo by淺川敏)活動は関東を中心に行われていたが、2011年の震災後、活動の拠点を大阪に移した。関東では障害者施設の「音のワークショップ」、またジャンベを教える「楽器のワークショップ」なども実施してきた。大阪に暮らしながらも、「東京巡業」とし、月に一度、関東を訪れている。そして現在、大阪では障害者施設に加えて、元日雇い労働者や、生活困窮者、生活保護受給者などが利用している救護施設との出会いがあり、月に一度ジャンベを使った「音のワークショップ」を行っているという。また彼女は東京と大阪で「体を調節しよう」という一般向けのワークショップを月に1度ずつ開催している。腰が痛い、座骨神経痛である、体が重い、体がなまってきた、姿勢が悪い、などの悩みを持っている方を対象に毎回少人数で行っている。自分の体の不調から始めたというワークショップである。この体を調節するワークショップの参加費は「自由料金制」。お金がないから参加できないということはしたくないと語るエリさん。しかしタダで提供しているわけでもない。これをきっかけに参加者がお金について考えることになればいいと、この「自由料金制」を始めたという。それは経済至上主義に対する反省の気持ちも込められているという。いろんな場を訪れる機会が増え、様々な背景を持つ人と出会うようになり、お金の価値って違うんだなと改めて思うようになりました。人によって同じ千円でもずいぶんと価値が違うんです。(みんなで声出し即興のハーモニー_うじゃ芸能研究会/大阪Photo byオカモトマサヒロ)3歳下の障害を持つ弟の存在エリさんがこの活動を始めたのは、3つ年下の弟の存在があったから。彼は生まれつき視覚障害、知的障害、癲癇、強い自閉症がある。そのような重度の障害を持つ弟がいる環境をエリさんはこう語ってくれた。うちは家族が機能していなかったんです。弟に障害があったこともあって、小さな頃は母のもとを離れて祖母の家で暮らしていました。だからまず母との付き合い方がわからなかったんです。父は家にお金を入れず、家出ばっかりしてたから、母はとても苦労して私と弟を育ててくれました。そんな父も私が中学校二年生の時に亡くなってしまって。子供らしくいられなかったから、子供の頃の記憶っていうのがなくて。母親の母役をずっとしていたかもしれません。その後、美術学校で現代美術を専攻した彼女は、作品のテーマを「家族」として取り組んだ。しかし、作品を作れば作るほど、彼女の奥底に眠っている黒い物の蓋を開けていくような気分が続き、とても辛くなり、美術の道をあきらめ、一旦会社勤めをする。しかしここでも職場の人間関係がうまくいかずに辞めてしまう。子供の頃から人との繋がり方がわからなくて、母親と弟の間で揺れ動いた心の中のトラウマが、彼女を生き辛くしていた。会社勤めの時に習っていたアフリカの太鼓ジャンベ。エリさんはジャンベを通して出会った人たちとでうじゃを始めることとなる。“うじゃ”を通して人間らしさを取り戻すうじゃのこだわりは、言葉を使わずアイコンタクトで音を作っていく「即興」だけではない。できる、できないで評価する場じゃなくて、やりたいことを全うしたからカッコイイねって場。何をどんな気持ちでしたかっていうのがいい。人間らしさの取り戻しなんです。それから人との繋がり合いにいけたらいいと思っていて、人間の根本的な部分を、もう一回掴んで来ようよっていうのもあります。自分の殻を破って体が感じるままに楽しむ。観客の人たちも巻き込んで、みんなでその場を作っていくことも追求しているのだ。(音のワークショップ_千葉盲学校青年学級/千葉Photo by淺川敏)障害者とか子供とか老人とか生活困窮者とか、社会福祉の分野にはそんなくくりがあります。うじゃはその壁を取っ払ってやりたいという気持ちがあるので、難しいところをやってるな、という自負はあります。障害者だけに捕らわれないで活動するエリさんは、障害者施設での音のワークショップに釜ヶ崎の労働者を連れて行くなど、固定概念に捕らわれずに、いろんなことを試みている。大阪に入って、釜ヶ崎の日雇い労働者とか、道端で寝てる人とか、生活保護で生きてる人など、いわゆる社会的弱者の人達を知る機会がありました。彼らの多くは自分たちの暮らしに精一杯で、外に出て行ったり出会いとかも少なくて、それで彼らを障害施設の音のワークショップに連れて行きました。お互いの置かれている立場や肩書で判断することがないからでしょうね、打ち解けるのが早かった。そういった意味では面白い出会い。これは今でも続けています。一人の女性を救うことから出発した“うじゃ”鬱になったり、引きこもりになったり、不安障害を繰り返したりしていたけど、うじゃを少しずつ時間をかけて作っていきました。結果的に私は自分を助けるためにうじゃを作ったと言えるかもしれません。人なんていなくてもいいやって思った時期もありました。一人で完結できるって世界観があって、人に対する不信感もすごく強くて。でも、うじゃが即興の音楽をするのには、人が繋がってくる。楽譜なしの即興でやると、人の目をみたり、場の空気を読んだり、間を作ったりしないといけません。でもその中から生まれてくるこの湧き上がるような、燃え上がるような楽しさって一人でやってたら体験できない。そこにはやっぱり人が必要で、いらないと思ってた人がこんなにも喜びを与えてくれることに気づいたんです。今でも人とするのが面倒くさいと思っているのに、それでも人と何かをやろうとしているのは、やっぱり即興音楽のステージを通して高揚感とか楽しさを味わってしまったからでしょうね。即興の魔力に取り憑かれてしまったと言えますね。現代美術、アフリカの太鼓と音楽、障害を持つ弟、複雑な家庭環境。一般的に考えられる福祉の道とは全く違う道を通って福祉の現場に携わるようになったエリさん。うじゃは、肩にたくさんの荷を抱え、暗闇でもがく一人の女性、エリさん自身を救うことから始まった。(参加型ステージ_ウエディングゲリラピクニック/大阪Photo byオグラハルカ)弱者のために、そんな活動をできることに尊敬の念を伝えると、だって私も弱者だものと笑う彼女。障害者を支援するって気はあまりなくて、自分救済だと思ってきた。人って、自分が満たされると、他人にも目がいくもんなんだね。と続ける。そして困難な環境を即興音楽という発想で抜け出したエリさんの見えている世界には、そもそも弱者だとか障害者とか健常者だとか、そういうことは大きな問題ではないのかもしれない。大切なのは自分らしく生きていくこと。即興音楽を武器に日々活動を続けることで、彼女に触発された人たちが活動に賛同して“うじゃ”となり、少しずつではあるが着実に生きやすい社会へ変えて行く…。後編へつづく。—————Text by バンベニ 桃ーBe inspired!
2017年02月17日女子の恋のお悩みは、いつの時代も多種多様、人の数だけ違うもの。だから、「こうしろ!」と言われてその通りにすればハイ解決!と言うものでもないですよね。モヤモヤとした恋の悩みを抱えた女子に、数々のファッション誌やテレビ番組「スッキリ!」でもおなじみのおネエ系映画ライター・よしひろまさみちさんが「映画」でお答えします。■◆本日のお悩み女子別に怪しいところがあるわけでもないのに、彼氏が浮気していないか不安で不安で仕方ないです。SNSのログイン時間をチェックしたり、連絡が遅いと理由が気になったり。でもそれを言うと面倒臭がられるだろうし、聞いたところでどうしようもないと思うので彼氏には特に言いません。でも、だからこそモヤモヤもたまります。ムダな疑いとか不安とかを持たずに付き合いたいです。(みわこ/25歳/事務職)■◆結論他のこと考えましょう。じゃなきゃ、自分の手で壊すわよ恋わずらいの症状の「疑心暗鬼」ってヤツですわね。みわこさんの気持ちはとてもよ~くわかるわ。そりゃ好きな人が、自分の知らないところでいったい何をしているのかって気になっちゃうし、ましてや彼が他の女子から放っておかれないようなキャラだったりしたら「誘惑されているのでは!」って心配になってしまうのも納得よ。でも~~~!まずは自分がやっていること、心配していることを振り返りましょう。そして、それと全く同じことを彼が自分のためにしていると考えてみよ~。はい、めんどくさい!そうなんですよ~。恋わずらいのやっかいなところで、自分としては「よかれ」と思ってやっていることは、相手にとって「余計なお世話」っていうことが多いもの。それがエスカレートすると、「俺のこと、信用してないんだ・・・・・・」という不信感に変わっていき、お互いにすれ違いが進んでしまうわけです。いや、相手を心配するのは好きな証拠だし、けっこうなことなんだけどね。やり過ぎはよくない。ダメ、ぜったい。特にここ10年は、みんながスマホを持って、誰もがSNSをやっている状態になってしまったから、余計に相手の行動が読めてしまうのがやっかいWパンチ。みわこさんだって、超忙しい仕事中や盛り上がりまくっている女子会中でも、スマホを片手にチラチラSNSをチェックしたことない?それくらい手軽な息抜き道具でもあるわけだから、SNSにログインしていることイコール他の子と遊んでいるってはならないはずよ。疑心暗鬼になってしまうことで、あらぬ方向に妄想をふくらませて勝手に心配してしまうのは、相手にとっても失礼だし、みわこさんの心だって病みまくるから、マジ余計なことだと思うわけです(重ねて言いますが、相手を思いやること自体はとても重要なことですよ)。「好き好き好き~!」は「マジ不安!やばい!」って気持ちと裏腹で、誰にでもあること。だって、壊したくないんだもん。ではどうすればいいか。他のこと考えましょう。「それができれば相談なんてしねーわ、ぼけ!」という声が聞こえてきた~!これまたその通り!だから恋わずらいはやっかいなのよ!でも、そこは自分の心を鬼にして、別のことを考えることでならしていかないとダメ。じゃないと、さっきも言ったとおり、自分の手で大切なモノを壊しちゃう可能性だってあるんだから。一方的な親切や不安は、相手にとってどう?ってことを考えて、ちょっとずつ他のことへスライドしていきましょうよ。■◆人の心は人の力では動かせないことを知ると、相手が信用できるかなでは、映画でいい失敗例を教えます。『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』っていう映画を観ると、その失敗がよ~くわかるわよ。(C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.この作品の主人公ティムは、21歳の誕生日から一族の遺伝でタイムトラベルができるように。そこでまず彼がおもしろがって始めるのは、自分の過去の改ざん。といっても、ものすごい大ごとではなくて、恋愛がらみ女性がらみのことだけなんだけど(お父さんから、金や名誉のためには使うべからず、という家訓を言い渡されたからなんだけど)。恋がらみのことだけでも、時間をさかのぼってやり直すことができるなら超いい!って思うでしょ?ところがどっこい、一方的な恋の失敗を書き換えたところで、結局その人とはうまくいかないってことに気づかされるのよ。なぜか。それは、その恋の相手はそもそも結ばれる運命にはなかったから。ティムは、夏休みに知り合った妹の友達に一目惚れして、夏休み最終日に告白するのね。すると彼女は「もっと早ければな~」ってお返事。そこで時間をさかのぼって、夏休みの途中で告白してみると、今度は「夏休みの最後まで考えたらアリかも~」という返事が。そもそもつきあう気がなかった、というよりも、恋心なんて出会いとタイミングが勝負なわけだから、彼女とは運命で結ばれていなかったってことなのよ。結局ティムは、素晴らしい女性との出会いを、さまざまな改ざんでモノにすることに成功するの。だけど、それには代償もつきもの。思うように時間を操ったところで、その先で帳尻を合わせるかのように、思うようにいかないことが起きるってわけ。この作品はファンタジー映画ではあるけど、普遍的な人の心を描いた作品。恋や人の気持ちっていうものは、運命でしか動くことがなく、意図的な力では動かないってことを教えてくれるの。恋にのめりこめばのめりこむほど相手のことは気になるけど、そこをぐっとこらえて。だって彼も人間だもの。心は動かせないもんよ。だからこそ、相手を信用することが必要であって、ちょっと肩の力を抜くことが最良の策だと思うわけですわ。みわこさんと彼が将来を考えられるカップルであるならば、どんなことがあっても乗り越えられると思うの。けんかしても、すれ違いがあっても、2人でいる時間の中で解決できるんじゃないかしら。極端な話、彼がもし浮気をしたとしても、彼のことを信用しているみわこさんだったら許せるんじゃない?浮気は浮気だし、本気は自分だけのもの、という自信を持つべきよ。あ、浮気癖がある男や、人を思いやる気持ちが薄い自分勝手な男が相手だったら、もちろんみわこさんも遊び気分で(つきあうな、とは言いません。これも経験)。とりあえずちょっと肩の力を抜いてみましょ。(よしひろまさみち/ライター)(ハウコレ編集部)
2017年02月11日眠いのに眠れないという皆さん、入眠障害という言葉を知っていますか?日本人の約3割は入眠障害だと言われています。入眠障害を抱えている方は他の睡眠障害を併発している場合が多く、病院へ行くときにはかなり入眠障害が酷くなってしまう場合が多いのが特徴です。入眠障害について、原因と対処方法、試してみてほしい方法などを紹介します。目次■ 入眠障害とは■ 入眠障害の症状■ 入眠障害の原因■ 入眠障害の対策とアドバイス(診断前)■ 入眠障害の対策とアドバイス(診断後)■入眠障害とは悩みや考え事などないのに自然な眠りに入れない状態(消灯から2時間以上)が週に3回以上あり、それが3か月以上連続で続いている場合を入眠障害といいます。入眠障害は中々自分自身で自覚するのが難しいこともあり多くの人が人知れず悩んでいる状況です。病院で治療が必要なのは、寝入りが悪いために以下のような事が続く場合です。睡眠不足が連続で2週間以上続く睡眠が足りていないため、仕事や生活に支障をきたす昼間の生活に睡眠不足が支障をきたす他の人から見て昼間の生活が支障をきたしていると指摘される入眠障害など睡眠に関する悩みで多いのが、「自分は本当に入眠障害なのだろうか?このくらいで病院に行ったらおかしいと思われるのではないか」ということです。■入眠障害の症状入眠障害の症状は外の睡眠障害の症状と違うのが特徴的です。しかし、入眠障害+他の睡眠障害という方もいらっしゃいますので、以下の症状に少しでも当てはまる方は最寄りの内科か精神科・心療内科へ行くことをおすすめします。消灯から2時間経っても寝付けない(注意:ただし、通常は既に1時間以上経てば入眠が困難であると不快感を感じ始めます。)ある時期から寝入りがかなり悪くなった悩みなどを消灯まで引きずっていないコーヒーや飲酒などの刺激物などを取っていないのに眠れない体は疲れているのに眠れそうで眠れない何かで寝入り際に起きてしまうとまた眠るのが難しくなってくる仕事やスポーツなど体を動かしたり頭を使うようなことがあり疲れていても眠りに入れないちなみに私はこれらの症状すべてが当てはまります。また、些細な隣の部屋からの話し声や外を走っている車のエンジン音なども寝入り際に気になると次に寝入るのが難しくなってしまいます。>>眠れないときの病院選び・治療ガイド■入眠障害の原因では一体、入眠障害の原因は何なのでしょうか?大きな原因は次の8つが考えられます。1.頭が興奮しすぎている私たちの体は自律神経(交感神経・副交感神経)と呼ばれる2つの神経のグループが交互にリーダーになり、私たちの行動がコントロールされています。◎交感神経:活発に活動したり興奮状態の時はこの神経のグループがリーダーとなり私たちを動かしてくれます。(例:興奮する、目が覚める、やる気の状態)◎副交感神経:睡眠や消化活動などに体が落ち着いた場合にリーダーになるグループです。(例:トイレに行きたくなる、お腹が空く、眠くなる、やる気がなくなる、落ち着く)入眠障害の原因は、「体が疲れているのに頭が興奮しているため眠りを呼び起こさない」というのが第一の原因だと言われています。2.性格や遺伝気質交感神経の働きとも関係が出てきますが、性格的に交感神経がリーダーになりやすい人や、遺伝気質的に(親戚にそのような人が多い)興奮しやすい気質などを持っている場合は、他の人よりも興奮が収まりにくく中々眠りにはいれません。3.寝入る前の体温が高すぎる/低すぎる寝入る直前は体温が少し下がっています。しかし熱帯夜などを思い浮かべてくださると分かりやすいと思いますが、体温が眠る前にも関わらず高いと眠りに入りにくい傾向があります。ちなみに以下のような状態の時に起こりやすくなります。高温のお風呂が好き寝る部屋が暑い体を寝る直前に温めすぎる(*注意:適度に温めるのは寝入るために良いことですが、やりすぎて温めすぎるのは却って入眠を困難にしてしまいます。)厚着や布団などを多くかけすぎる反対に寒すぎるこのように極端な環境だと寝入りに入るタイミングを逃してしまう場合が多いです。4.寝入るのに適切な環境でないお子さんが小さい場合や、眠る時間帯が違う人が一緒に暮らしていると起こりやすい原因です。また、いびきや歯ぎしり、寝言なども気になってしまう人には原因になりやすいです。その他にも、以下のようなことがあると眠りにくいです。眠っている時にPCやベッドサイドのライトが目に入ってくる夜中に帰ってくる人が近所にいる大学生など人が多く集まる場所が近くにある5.昼間あまり活発に動いていない/動きすぎている昼間一人で家に居る人や、事務の仕事の人などは体を動かさずにPCのモニターなどだけを見ている作業が多くなります。そうすると、体があまり疲れずに夜になっても寝入りが難しくなります。反対に、一日中走り回ったり立ち仕事で絶えず体を動かす人も体が疲れすぎて眠りにすんなり入れないことがあります。6.昼間の刺激物(カフェイン飲料やカカオなど)の過剰摂取昼間にカフェインが多く含まれたコーヒーやお茶などを飲むと中々交感神経と副交感神経が交代してくれず、眠りに入れなくなります。また、チョコレートや辛い香辛料などが好きな人も夜までそれらで興奮された脳の状態が残ってしまい、寝入りが難しくなってしまいます。7.ショックな映像やショックな出来事が身近に起こったショックを受けることを聞いたり、人から直接批判されたりすると精神面で軽く落ち込み(へこむ状態)それが寝入りを悪くさせている可能性もあります。自分では気にしていないようでも、無意識に心の奥底で傷ついている場合があります。また、身近でなくてもショッキングな出来事や映像などを見てしまうと、代理トラウマといって自分が直に受けていないのにそのショックを受けた状態(トラウマ状態)になってしまいます。8.持病の薬やサプリメント以下の薬やサプリメントは交感神経に働きかけるため入眠困難になる場合もあります。(個人差あり)気分を高揚させるような薬(抗うつ剤、抗パーキンソン病の薬)カフェイン栄養ドリンク高血圧の薬気管支拡張剤など呼吸器系の薬ステロイド抗生物質咳止めの薬など★可能性のある病気上記の8つ以外の原因に、病気によって入眠困難になる場合も考えられます。そのような場合には、必ず以下のポイントに注視してみてください。例1.心臓や肺が悪い場合入眠困難+息苦しい、咳が出る、むくみがでるなど例2.鬱などの精神的な場合入眠困難+外に出る気がしない、気分が落ち込む、やる気が出ないなど(ベッドから出れない)例3.腎臓病や肝臓病の場合入眠困難+肌の色(指で押すと黄色くなる)や肌の痒み・赤み、尿の色の変化(茶色や黒色など)、急にお腹だけ膨れてきた、生活できないほどの疲労感や倦怠感などこの他にも、糖尿病や慢性的な病気、または自己免疫性症候群やアトピー性皮膚炎などの持病がある人は入眠困難になりやすいです。■入眠障害の対策とアドバイス(診断前)重要なのは以下の3つのことです。1.内科か心療内科・精神科の専門機関にかかる一番重要なことは、まずは内科や心療内科など専門機関にかかり、適切な診断を受けることだと思います。もし、入眠困難だけでしたら入眠困難を治すように努力すればいいですし、他の病気が原因で2次的に入眠困難が起こっているようでしたら、その元になっている病気を先に治すという風に、早めに診断されれば早めに対処でき短時間で解決する場合も多いからです。>>眠れないときの病院選び・治療ガイド2.持病を治す持病があればそれをしっかりと治してみて、それでも入眠困難があるかどうか確かめてください。3.自己判断をしない自己判断で安易に市販の睡眠薬などを飲むのは根本的な解決になっていません。■入眠障害の対策とアドバイス(診断後)入眠困難などの睡眠障害と診断されたら、まずは医師の治療内容に従ってみましょう。医師は治療マニュアルに沿って治療を行います。日本睡眠学会が定める治療マニュアルは、日本人の体質に一番適した治療法です。何ができるのか分からない時は、まずは身近な物から目を向けてみて下さい。例えば、以下のようなものもおすすめです。寝る前には少し頭を冷やして足元を温める:副交感神経に変わり安いです消灯の1時間前には全てのITツールを遮断する(PC,スマホ、タブレットなど):脳を興奮させないようにしますストレッチなどで体をほぐす:血行が良くなり筋肉がほぐれるので寝入りが楽になりますノンカフェインの暖かいお茶を飲む:体温が上がり血糖値も少し上がるので(正常の範囲内です)空腹感がまぎれます呼吸を少し意識して遅くする:副交感神経に変わりやすくなります肌に触れる素材はコットンなど柔らかい素材にかえる寝る前の儀式(羊を数えたり、白湯を飲んだり)など習慣をつける参考文献URL:日本睡眠学会治療マニュアル <筆者プロフィール>ニックネーム:benichanカリブ海で内科医師をしています。最新機器がない島で最低限の技術で工夫して患者さんを診察しています。自分自身も入眠障害型の不眠症なので、皆さんと一緒に問題を解決していきたいと思っています。日本の医療技術は先進国の中でも高い技術を誇っていますので、その技術の恩恵を利用しない手はありません!不眠を改善し、朝までぐっすり眠りましょう!
2016年12月30日素行障害・行為障害(CD)とは?出典 : 素行障害・行為障害(Conduct Disorder)とは別名「素行症」と呼ばれる精神疾患であり、社会で決められたルールを守らず反抗的な行動を起こし続けてしまうという特徴があります。具体的な症状には人や物への暴力的な攻撃、窃盗や長期・複数回の家出などが挙げられます。素行症/素行障害はアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において用いられている診断名です。一方、行為障害は世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)で用いられている名称ですが、ここでは「素行障害」という疾患名に統一して説明します。素行障害の主な症状出典 : 素行障害の主な症状として年齢相応の社会のルールを守ることができない、もしくは明らかに他者の人権を侵害していると考えられる行為を繰り返し、持続して行うことが挙げられます。素行障害の症状は下記の4パターンに分けられます。素行障害と診断されるには、加えて12ヶ月の間にいくつかの症状が継続していることや、6ヶ月の間に少なくとも1つの症状が発症していることなど様々な条件が定められています。1. 人または動物に対して攻撃的:いじめや取っ組み合いのけんか、凶器の使用、強盗、一方的な性行為を通して人や動物に対して残酷な行動を起こします。2. 所有物の破壊:わざと放火したり、自分の所有物ではないものを破壊したりすることで、相手に重大な損害を与えようとします。3. 人に嘘をつく・物を盗む:建物や車など無断で入ってはいけないところに侵入したり、自分の利益のためにとっさに嘘をついたり、万引きなどをして価値のある物を盗んだりします。4. 決められたルールの違反:門限が決められているにも関わらず夜に外出したり、学校をさぼったり、家出をしたりします。参考:素行障害l ハートクリニック参考書籍:日本精神神経学会/監修『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014)年代別の素行障害出典 : では素行障害には3種類あり、発症した年齢によって種類が分けられるとしています。小児期発症型の素行障害は10歳になるまでに素行障害の症状が発症することが特徴です。通常男の子に多く発症する傾向があり、発症すると暴力的になり、同世代集団の対人関係に障害を抱えることがあります。また小児期発症型の素行障害を抱えている人は、小児期早期に反抗挑戦性障害(ODD)に診断されている場合が多く、ADHD(注意欠如・多動症)や他の神経発達上の困難を抱えている傾向があります。この小児期発症型の素行障害は青年期に発症するよりも長引く傾向があります。参考:素行障害l ハートクリニック青年期発症型の素行障害は、10歳になるまでに素行障害の症状を発症していないことが条件です。小児期発症型の素行障害に比べて症状は軽く、成人になる前に症状が治りやすい傾向にあります。青年期発症型の素行障害を抱えている人はあまり攻撃的な行動は示さず、同世代集団のなかでも大きな対人関係の障害を抱えない傾向があります。素行障害の基準は満たしているが発症年齢が10歳より前か後か分からない場合には、特定不能の発症年齢と診断されます。素行障害を発症しやすい人出典 : 素行障害の発症率は小児期から青年期にかけて上昇し、女性よりも男性のほうが高いという研究結果が報告されています。素行障害を発症しやすい性格としてはネガティブであることと、自己制御を苦手とすることが挙げられ、具体的には下記のような行動を起こす傾向にある人を指します。・怒りっぽい・かんしゃくを起こしやすい・あまり人を信用できず、疑い深い・悪いことに対して罪悪感をあまり感じない・スリルを追い求める・先のことを考えずに強引に行動する素行障害の主な原因出典 : 素行障害は研究の結果、生物学的要因と環境の両方に原因があるとされており、これらが複雑に作用し合うことで発症すると言われています。素行障害の生物学的要因に関してはまだ研究途中であるため、決まった原因があるとは限りません。しかし、素行障害がある人はドパミンβヒドロキシラーゼ濃度が低かったり、セロトニン濃度が通常よりも異なる数値で見られる傾向があると言われています。また副腎でつくられる男性ホルモンの一種、デハイドロエピアンドロステロン(DHEA)が攻撃性と関連しており、素行障害をかかえている人はこのDHEAの数値が高い可能性があるという研究結果もあります。その他にも中枢神経の機能障害や損傷が原因となり、性格が変化してしまったり、情緒不安定な行動を起こしている場合は素行障害を併存している可能性があります。参考:素行障害l ハートクリニック環境要因としては家庭関係や周りの友人からの影響が大きいと言われています。家族や仲間から拒絶されているなどの孤独感を感じてしまうことで、反抗心が生まれ最終的に反社会的な行動を起こしてしまうことがあります。具体的に下記のような環境は素行障害を発症するきっかけになる恐れがあります。・親の子どもに対する拒絶や無視・厳しすぎるしつけ・身体的虐待・周囲の友人からの拒絶や暴力・夫婦が別居しているなどの不仲・家庭内の経済状況の悪化参考書籍:日本精神神経学会/監修『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014)素行障害の診断基準出典 : 以下はアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神障害の診断・統計のマニュアル』第5版)での診断基準です。以下のうちどの程度基準が当てはまっていたか、その症状がどのくらい重症かによって軽度・中等度・重度と判定されます。A.他者の基本的人権または年齢相応の主要な社会的規範または帰省を侵害することが反復し持続する行動様式で、以下の15の基準のうち、どの基準群からでも少なくとも3つが過去12カ月の間に存在し、基準の少なくとも1つは過去6カ月の間に存在している。人および動物に対する攻撃性1.しばしば他人をいじめ、脅迫し、または威嚇する。2.しばしば取っ組み合いの喧嘩を始める。3.他人に重大な身体的危害を与えるような凶器を使用したことがある。4.人に対して身体的に残酷であった。5.運動に対して身体的に残酷であった。6.被害者の面前での盗みをしたことがある。7.性行為を強いたことがある。所有物の破壊8.重大な損害を与えるために故意に放火したことがある。9.故意に他人の所有物を破壊したことがある。虚偽性や窃盗10.他人の居住、建造物、または車に侵入したことがある。11.物または好意を得たり、または義務を逃れるためしばしば嘘をつく。12.被害者の面前ではなく、多少価値のある物品を盗んだことがある(例:万引き、ただし破壊や侵入のないもの、文書偽造)。重大な規則違反13.親の禁止にもかかわらずしばしば夜間に外出する行為が13歳未満から始まる。14.親または親代わりの人の家に住んでいる間に、一晩中、家を空けたことが少なくとも2回、または長期にわたって家に帰らないことが1回あった。15.しばしば学校をなまける行為が13歳未満から始まる。B.その行動の障害は、臨床的に意味のある社会的、学業的、または職業的機能の障害を引き起こしている。C.その人が18歳以上の場合、反社会性パーソナリティ障害の基準を満たさない。出典:日本精神神経学会/監修『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014)反社会的パーソナリティ障害(ASPD)とは、法や倫理にかなった行動に従わなかったり、自己中心的で冷淡な他者への配慮が欠如していたり虚偽性、無責任さ、操作性や無謀さが特徴にある疾患です。18歳以上である場合、その診断基準を満たさないことが素行障害の診断条件となります。これに加え重度な素行障害がある人は「向社会的な情動が限られている」ことがあります。向社会的な情動が限られているとは、以下のような症状を指し、これらの症状のうち2つ以上を過去12ヶ月の中で発症していることが必要です。・後悔または罪責感の欠如:何か間違ったことをしたときに悪かったまたは罪責感を感じない(逮捕されたり、または刑罰に直面した場合だけ後悔することを除く)。自分の行為の否定的な結果に関する心配を全般的に欠いている。例えば誰かを傷つけた後で後悔しないし、規則を破った結果を気にしない。・冷淡-共感の欠如:他者の感情を無視し配慮することがない。その人は冷淡で無関心な人とされる。自分の行為が他者に相当な害を与えるような時でも、その人は他者に対してよりも自分自身に与える効果をより心配しているようである。・自分の振る舞いを気にしない:学校、仕事、その他の重要な活動でまずい、問題のある振る舞いを心配しない。期待されていることが明らかなときでもうまくやるのに必要な努力をすることがなく、典型的には自分のまずい振る舞いについて他者を非難する。・感情の浅薄さまたは欠如:浅薄で不誠実な表面的な方法(例:示される情動とは相反する行為、情動をすばやく入れたり、切ったり切り替えることができる)以外では、他者に気持ちを表現したり情動を示さないか、情動の表現は利益のために用いられる(例:他者を操ったり威嚇するために情動が表現される)。出典:日本精神神経学会/監修『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014)これらの向社会的な情動が限られているかどうか診断する場合には、本人と長期間関わりがある親・教師・友人などからの報告も必要になります。「素行障害」とはDSM-5で主に用いられる疾患名です。(本コラムはこれに照らし合わせ記述しています。)これに対し、ICD-10では主に「行為障害」という疾患名が用いられていますが、診断基準や原因などに大きな差はありません。しかしICD-10は反抗挑戦性障害を含める4つの疾患を行為障害の下位分類として定めている点が、DSM-5とは大きく異なっていると言えます。以下がICD-10の行為障害に含まれる下位分類の疾患です。1. 家庭限局性行為障害:家庭限局性行為障害とは家族が精神的にまいってしまうほどの、激しい家庭内暴力をおこしてしまう疾患です。この暴力的な行動は家庭内だけでみられ、学校生活や友人間では問題なくうまくやっていくことができることも特徴です。しかし、これらの家庭内暴力は統合失調症や強迫性障害、家庭関係がよくないことでおこる場合もあるため、見きわめることが重要です。2. 個人行動型行為障害:個人行動型行為障害とは、行為障害の症状を一人で行うことで診断される疾患です。つまり親しい友人がおらず、グループに所属しないことが条件であるといえます。3. 集団行動型行為障害:集団行動型行為障害は行為障害の症状を満たしているにもかかわらず、人間関係に問題を抱えておらず、友人がいることが特徴の疾患です。4. 反抗挑戦性障害:反抗挑戦性障害とは、親や教師など目上の人に対して拒絶的・反抗的な態度をとり、口論をしかけるなどの挑戦的な行動をおこしてしまう疾患です。反抗挑戦性障害は『DSM-5』では独立した疾患として扱われていますが、『ICD-10』では行為障害に含まれます。素行障害の合併症出典 : 素行障害の代表的な合併症として反抗挑戦性障害が挙げられますが、これは小児期発症型の素行障害をもつ子どもによくみられます。反抗挑戦性障害が重度になるにつれて素行障害の症状もあらわれてきてしまうのです。反抗挑戦性障害とは、親や教師など目上の人に対して拒絶的・反抗的な態度をとり、口論をしかけるなどの挑戦的な行動をおこしてしまう疾患です。合併してしまう主な原因は、自分より偉い人との間に挑戦的な感情をもってトラブルを起こしてしまうという、共通の症状があることと言われています。しかし素行障害は反抗挑戦性障害に比べて、人や動物に向けた殴るなどの攻撃的な行動や、物の破壊、または盗みや詐欺など違反行為がみられるため、両者をしっかりと区別することが重要です。また、そのほかの代表的な合併症としてADHD(注意欠陥・多動性障害)があげられ、ADHDをかかえている人が”人間不信的行動”という二次障害として素行障害を発症することがあります。大阪市立大学の児童精神科外来を受診した7歳から14歳のADHD41例を対象にした研究では、37%に反抗挑戦性障害が、22%に素行障害が認められました(Takahashi et al.,2007)。とは、不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考えずに行動してしまう)の3つの症状がみられる発達障害のことです。 年齢や発達に不釣り合いな行動が、社会的な活動や学業に支障をきたすことがあります。人間不信的行動とは、自尊心・自己肯定感が低下して「自分はダメな人間かも知れない」と思い、「そんな自分のことを誰も理解してくれない」という気持ちから、周囲の人を信じれなくなったときに起こしてしまう行動のことを指します。ADHDを発症している人は、自分自身がADHDであることを認識していないケースも多く、周りから理解が得られていない場合も多いです。そのため知らない間に人間不信になり、素行障害を発症しているということも少なくないのです。その他にも素行障害は・うつ病や双極性障害などが含まれる気分障害・いきなり攻撃性が爆発したように発症する間欠爆発症・ストレスに適応できないためにさまざまな心身症状が表れる適応障害の合併のリスクも高いと言われています。その理由は怒りっぽい、気分の波が激しいなどの症状が一致している傾向にあるからです。ADHDから始まり、”人間不信的行動”という二次障害として反抗挑戦性障害、素行障害、反社会的パーソナリティ障害へと展開していくことがあります。この一連の流れは破壊性行動障害(DBD)マーチと呼ばれ齋藤万比古らによって発表された概念です。しかしDBDマーチに対しては様々な考えがあり、まだ確立していない概念であると言えます。参考:青少年の心の障害と自立支援l 国立国際医療センター国府台病院齊藤万比古素行障害が気になった時の相談先出典 : 素行障害は反抗挑戦性障害やADHD、うつ病などの、様々な合併症と関わりあっている場合が多く、年をとるにつれて症状が複雑化しやすい傾向があります。それに加えて年齢が上がってからの治療は、素行障害がある子どもが治療に対して抵抗することがあるため早期に診察・治療することが推奨されています。年齢相応の社会のルールを守ることができない、もしくは明らかに他者の人権を侵害していると考えられる行為を繰り返ってしまう場合は以下の相談先に相談するか、医療機関の受診をおすすめします。■児童相談所:児童相談所は、すべての都道府県と政令指定都市に最低1つ以上設置されている児童福祉の専門機関です。主に、「子どもの養育に関する相談」、「障害に関する相談」、「性格や行動の問題に関する相談」などの育児に関する相談ができる機関となっています。全国児童相談所一覧l 厚生労働省■全国精神保健福祉センター:各県、政令市にはほぼ一か所ずつ設置されている、保健・精神保健に関する公的な窓口です。精神保健福祉に関する相談をすることができます。精神科医、臨床心理技術者、作業療法士、保健師、看護師などの専門職が配置されています。相談については、予約制、健康保険の適応があるところがあります。詳細は、それぞれのセンターにお問い合わせください。全国の精神保健福祉センター一覧l 厚生労働省■精神科:心の症状、心の病気を扱う科です。心の症状とは具体的に不安、抑うつ、不眠、イライラ、幻覚、幻聴、妄想などのことです。心の症状に対して治療を行います。■心療内科:心と体、それだけでなく、その人をとりまく環境等も考慮して扱う科です。上記の心の症状だけでなく、ほてり、動悸などの身体的症状とその人の社会的背景、家庭環境なども考慮して治療を行います。精神科、心療内科どちらに行ったらいいか迷う方もいらっしゃるかもしれませんが、素行障害の場合は精神科を受診しても、心療内科を受診してもどちらでも大丈夫です。素行障害の治療法出典 : 素行障害の治療法として主に薬物療法、ペアレント・トレーニング、認知行動療法など様々な方法が挙げられます。なぜなら素行障害を発症する原因は一人ひとり異なる場合が多く、その原因に応じた治療法が選ばれるからです。そのため素行障害では一人ひとりに合った原因をしっかりと特定し、根本的な治療をすることが大切になっていきます。■薬物療法:薬物療法に関しては素行障害の原因に直接的な効果を発揮する薬はまだ開発されていないため、興奮や衝動性などの症状を抑える薬が処方されます。■ペアレントトレーニング:ペアレントレーニングとは、保護者の方々が子どもと良好な関わり方ができるように学ぶ保護者向けプログラムです。親は子どもの反抗的な行動の動機、行動のパターンを理解・分析する訓練をすることによって、問題行動に対して上手く対応できることを目指します。具体的には以下のような基本的な考え方を導入することがあります。・子どもの良い行動をほめる・望ましくない行動をした場合定めたルールに沿って一貫した対応をする・達成しやすい指示をし、積極的にほめる機会を作る・指示をできるだけスモールステップで目標を定める■ソーシャルスキルトレーニング(SST):素行障害のある年少者本人に対する支援策として実施されることが多いトレーニングです。ソーシャルスキルトレーニングとは、人が社会でほかの人と関わりながら生きていくために欠かせないスキルを身につける訓練のことを指します。具体的には遊び、勉強、スポーツなどを通してゆっくりと社会性を身につけていきます。しかし根本的な原因の解消が難しい場合、例えば子どもがおかれている環境の改善が困難な場合などは、上記の治療法だけではなく自宅を離れて治療にあたることも考えられます。まとめ出典 : 素行障害は成長に見合った社会のルールを守ることができず、他者の人権を侵害する行為を繰り返し、持続して行ってしまう疾患です。症状が悪化することによって最終的には退学や職場適応の問題、性感染症、身体的負傷など様々な問題を引き起こしてしまう恐れもあります。一方で、素行障害は原因を早期に解明し適切に対処することができれば治療・改善していくことができる疾患です。素行障害の症状が当てはまる場合は身近にいる専門家に相談することをおすすめします。
2016年12月27日発達障害を自覚していなかった私が、障害者雇用で働くことを決意する出典 : 私は幼少期に学習障害の診断を受けていましたが、その事実を自分が知ることはありませんでした。大人になって就職すると、作業の指示をうまく理解できない、上司の指示を誤解してしまうなどさまざまな壁にぶつかり、自分に発達障害があることがわかりました。しかし当時の私は医師の診断を受け入れず、「健常者」として生きることを選びました。その後、仕事はうまくいかず、私は解雇されてしまいます。私は旅を通して自分自身を見つめなおし、ようやく「障害者」として生きる決意を固めたのです。今回は、障害者雇用で働き始めた私が、過去を振り返りながら今思うことをお話したいと思います。自分自身が障害を受け入れた決意を話すと、両親の反応は…出典 : 私が両親に「障害者として生きる」という決意を伝えたとき、両親はやんわりと反対しました。無理もない話だとは思います。解雇されたとはいえ、今まで健常者だと思っていた自分の子どもが障害者になるのです。あまり表面に出していませんでしたが、混乱や嫌だと思う気持ちは少なからずあったようです。もちろん、障害特性を理解し、健常者枠で就職するという選択肢もありました。しかし私の場合は「4年近く健常者として働いたが、どう頑張っても成果を出せなかった」という紛れもない事実がありました。この事実の前に、議論の余地はありませんでした。また、発達障害についても改めて調べ直したところ、「単純作業が苦にならない」という、働く上で強みになる特性が私にもあることを知りました。そこで「発達障害を個性として受け入れ、その個性を最大限活かして働く」という方針を決めました。前職の仕事では作業中に細かな仕様変更が度々発生し混乱していたため、作業内容の変更が頻繁に起きないであろう事務職の仕事を希望する事にしました。障害者雇用での再出発、しかし現実は厳しく…出典 : 発達障害を受け入れて生きることを決めてからは、通院を再開し、ウイングル(2016年8月1日に「LITALICOワークス」に改名)の就労支援事業所や、あではで会という発達障害の当事者達が助け合う集まりへ通い、発達障害に対する理解を深めつつ再就職の活動に取り組み始めました。私がウイングルを選んだのは、模擬就労という実際の職場に似せた環境で職業訓練を受けることが出来たためです。実際、習うより慣れる方が向いていた私は順調にスキルアップをしていきました。私は訓練での評価も良かったので、4ヶ月もすれば就職先は決まるだろうと思っていました。しかし実際には、面接どころか書類選考すら通過せず4ヶ月が過ぎてしまいました。上手く行かないのはなぜだろうかと思っていたとき、新聞である記事を読みました。その記事には大手転職斡旋会社へ寄せられる障害者求人の内、9割以上が身体に障害のある方を対象にしたものだということが書かれていました。つまり多くの企業は、障害の種類を理由に私の雇用を断っている可能性があったのです。とても残念で悲しいことでしたが、憤ってどうにかなるわけではないので、焦らずに就労訓練で自分を鍛えつつチャンスを待ちました。その甲斐もあって、無事、一般企業の事務職へ再就職することが出来ました。ちなみに現在では、身体障害者以外を対象にした求人も増えてきているそうです。障害者雇用で働きはじめ、今は生き生きと暮らせている出典 : 再就職してから約3年が経過した今、前職とは違って楽しみながら働いています。入社当初は非正規雇用での採用でしたが、順調に成果を出して行き、やがて作業の1つを担当として任されました。さらに作業担当になってから数ヶ月後、私の担当作業は重要な作業として注目されるようになりました。一般社員・役職者を問わず数十名の方を率いて、作業の人頭指揮を執るという経験もしました。前職の頃では到底成し得なかったでしょう。しかし、自分の発達障害を知り、受け入れた後は、その特性を最大限活かせるように準備を整えて挑みました。その結果、十分な成果を出すことができました。今では正社員に昇格し、メンバーに作業指示を出す立場になりました。しかし、仕事上のコミュニケーションに関するトラブルは、前職のときほど問題にはならないものの、常に付きまとっています。その際は外部の支援者を頼っています。自身の障害を受け入れて約3年。いま、振り返って思うこと出典 : 私が障害者雇用で安定して働くことができている理由としては、●自分の障害特性を含めて自己分析を納得するまで行い、自分の強みを最大限発揮できる職種を選んだ●入社時に、障害特性上配慮が必要なことと、得意なことを上司に伝えた●出来ないと思ったことでも、「配慮や手助けがあれば自分で出来ないか」を考えたことが挙げられると思います。特に、ただ「出来ない」とだけ伝えてしまうと印象が良くないため、代わりに強みになることや、出来るようになる方法を考え伝えるようにしていました。ここで1つお断りしておきたいのは、”私の場合は”障害者枠で就職したほうが、良い結果が出せただけということです。障害のある人全員が、障害者枠で入社するのが最善とは限らないと思います。残念ながら障害者を受け入れる職場環境などが整っていない職場も依然として多くあります。そのため、障害を隠して就職するのも選択の1つなのかもしれません。ただ、障害の特性のためにどうしても苦手になってしまう仕事や不利になる部分について、会社から理解を得られるとは限りません。障害を隠すにしろ明かすにしろ、自身の障害特性を十分に把握して対策を考えておくことが必要でしょう。また、就職してから職場に馴染めるまでは、障害者の就労移行支援を行っている事業者など、外部の支援者が必要だと思います。少なくとも会社と重要な交渉をするとき、1人ではどうしても不利になるということを覚えておいて下さい。「発達障害」という障害の困難さ。だからこそ、「自分を知る」努力を続けたい出典 : 一般的に「障害」というと、ハンデとなる部分が目に見えたり、症状をある程度明確に言葉で表現出来るものが多いと思います。しかし、発達障害はパッと見で分かることは無く、症状も多種多様な組合せがあり、診断名と明確に紐付けることはできません。私はこのことが、「発達障害」という障害の最大のハンデだと思っています。例えば、私の場合「できない」と思っていたことでも、条件がそろえば出来ることもあれば、その逆もあります。それを見た上司は、私に何ができて何ができないのか、その判断を誤解してしまうことがあるのです。いったん納得出来るまで自己分析を行った私ですが、自分を知ることに終わりは無いと感じています。何故なら生活環境や人間関係が変化することで、今までは無かった問題が表れるためです。また、自分を知ることで事前に周囲とのトラブルを避けられるだけでなく、自分の強みが見つかることもあります。後から来る人たちを思うことで、先へと進んでいける出典 : 近年ようやく発達障害は世間に認知されつつありますが、私達が歩む道は未だに困難なものです。例えば2016年7月26日に発生した相模原の殺傷事件。この事件に対する一部の人々の反応から「障害への偏見」という氷山の一角を改めて感じました。ですが研究者やLITALICOを始めとした民間の支援者、そして発達障害の当事者、先を行く皆さんは道を少しずつ踏み固めて整備し、後から来る者の手助けをしてくれています。正直、私は書くことが大の苦手です。しかし、私が伝えることで少しでも誰かの助けになり、少しずつ社会が良い方向へ変わっていく事を願って、今後も書き続けて行きたいと思います。障害特性とも相まって遅筆な私ですが、これからもまた困難を乗り越えたらここで発信したいと思います。これで今回のお話は終わりです。最後までお付き合い下さりありがとうございます。みなさんの先行きが明るいことを願っております。
2016年12月22日軽度知的障害とは?出典 : 軽度知的障害とは、発達期までに生じた知的機能の障害により、知的発達が実年齢よりも低い知能指数(IQ)50~69の水準にとどまり、適応能力は正常またはやや遅れがある状態を指します。ことばや抽象的な内容の理解に遅れがみられることがありますが、身の回りのことはほとんど一人で行うことができます。学業面では遅れを感じることもありますが、年齢を重ねながら考える力を身につけられます。よって幼少期には気づかれにくく、小学校高学年~中学生までの間に軽度知的障害と分かる場合もあります。またストレスなどによる二次障害や自閉症スペクトラム障害などの合併症を伴っていることもあり、二次障害や合併症の方が目立って表出しているケースもあります。なお発達期とはおおむね18歳までを指し、それ以降に事故や病気などで知的機能の低下が発症しても、知的障害および軽度知的障害とは言いません。現在の精神医学書で使われている知的障害の定義は、アメリカ精神遅滞協会が提唱した定義を参考にしていることが多くなっています。以下はアメリカ精神遅滞協会が定めた定義です。知的障害は、知的機能および適応行動(概念的、社会的および実用的な定期追うスキルで表される)の双方の明らかな制約によって特徴づけられる能力障害である。この能力障害は、18歳までに生じる (AAMR,2002)知的障害は、染色体異常を原因とするダウン症のように出生後にすぐ診断できる疾病に合併する場合もあれば、自閉症のように生後すぐには診断できない障害に合併することもあります。出典:ICD-10精神および行動の障害-DCR研究用診断基準 新訂版 (2008)|中根 允文知能指数とは人の知能の基準を数値化したものです。ここでいう知能(IQ)とは、いわゆる学力ではなく、目的に沿って合理的に考え、効率的に環境を処理する総合的な能力のことをいいます。IQ90~109が平均の知能指数であり、そこからどのくらい高いか・低いかと考えます。軽度知的障害のある人は、概ね知能指数(IQ)が50~69にとどまると考えられています。適応能力とは身辺の自立(食事・着替え・排泄など)や家事、社会的な対人関係の構築、読み書き・コミュニケーションなど日常生活や社会生活上における全般的な能力のことを指します。能力の測定は、自分の強み・弱みを理解するために行います。出典:主な心理・発達検査の種類と特徴・WISC-Ⅲの概要出典:ICD-10精神および行動の障害-DCR研究用診断基準 新訂版 (2008)|中根 允文Upload By 発達障害のキホンこの図は知的障害の程度・区分を示した図です。横軸に「日常生活能力水準」、縦軸に「知能指数(IQ)」の程度を表しています。日常生活能力水準がaに近づくほど自立した生活が難しく、dに近づくほど自立した生活ができることを表します。同様にⅠに近づくほどIQが低く、IVに近づくほどIQが高くなります。知的機能が低かったとしても日常生活への適応能力が高ければ、ひとつ軽度の程度で判断されることがあります。IQ36~50の方でも生活能力が高ければ軽度知的障害に含まれます。一方で、IQ51~70の方でも日常生活への適応能力が低い場合は、中度知的障害に含まれる場合もあるということです。このように、知的障害は知的機能検査だけで判断されるわけではなく、知的機能と適応機能の2つが評価された上で診断が下されます。またこの程度を分類する方式は、療育手帳を取得する際にも用いられています。療育手帳については8章で詳しく説明していきます。軽度知的障害の原因って?出典 : 知的障害の原因は一つではなく、原因不明の知的障害の人も多いとされています。原因解明の研究が進んでいますが、現段階では内的原因と外的原因に分類することができるといわれています。内的原因とは遺伝子や染色体の異常など、子どもが先天的にもつ原因のことをいいます。病気や外傷など脳障害をきたす疾患で、これらの合併症として知的障害が一緒に起きることを病理的要因と呼びます。この中にはてんかんや脳性まひなどのほか、ダウン症などの染色体異常による疾病も含まれます。軽度知的障害および知的障害の原因の約8割が出生前に発生していることが分かっており、以下のような疾病があげられます。・ダウン症・多因子性疾患・てんかん・脳性まひなどまた、中には特に疾病名などがなくても内的原因によって知能水準が知的障害の範囲内にあるといった場合もあり、生理的要因と呼んで区別されます。外的原因とは出生前後に起こった事故や養育環境などによる外的な要因が、原因となることをいいます。具体的には出生前に母体を通じて感染症や薬物・アルコールなどの大量摂取などにより、子どもに影響を及ぼす場合があります。中には軽度知的障害だけでなく、発育の遅れや中枢神経に何らかの異常をきたす恐れもあります。また出産時のトラブルでの頭蓋内出血、出生後の感染症への感染、交通事故などによって意識を失うほどの頭部外傷が原因になることもあります。このことを環境要因と呼びます。・感染症・出産時、出産後に起こった頭部の外傷・出産時のトラブルなど出典:知的障害のことがよくわかる本軽度知的障害の特徴の現れ方出典 : 軽度知的障害は知的機能と適応能力にやや遅れがあるものの、身の回りのこと(食事・洗面・着衣・排泄など)は自分で行うことができます。空間・時間・数量の認識に特徴はありますが、自ら学び取る力もあり、経験を重ねることで得られる知識や学びは広がります。軽度知的障害の方は空間・時間・数量の認識にどのような特徴があるのでしょうか。順番に説明していきます。◆空間の認識:「今いる場所」「何度か行った場所」「行ったことがない場所」と、自分と空間の関係を分類した場合、軽度知的障害の方は、自分が行ったことのない場所でも、その場所が存在していることを理解することできます。知的障害があると、目に見えないものや、抽象的な概念を理解することは苦手と言われていますが、軽度知的障害の場合はある程度はその概念を理解することもできるといえるでしょう。◆時間の認識:時計を見て「ご飯を食べる時間」「寝る時間」「学校へ行く時間」などと、時間帯とやるべきことを関連づけて理解できます。また過去や未来という概念も理解できます。一方で、時間の長さを計ったり、何時間後は何時になるという計算などになると、とまどうことがあります。しかし、トレーニングを積むことである程度は解消できるようになります。◆数量の認識:「100円玉2枚で飲み物を買うことができる」というように、自分の経験と結びつけて理解することができます。おつりがいくらになるかなど、細かい計算を瞬時に行うことは難しいですが、足し算や引き算などのトレーニングを積むことによってある程度のスピードでできるようになります。軽度知的障害がある子どもは、自分が経験してきたことを元に物事を理解していきます。認識できる世界を広げていくためには、さまざまな経験をすることが重要です。知的障害がある子どもは言葉の遅れ、物事を記憶することが苦手といわれています。言葉の遅れに関しては、「言葉」という概念を認識するまでに時間がかかるために生じます。言葉を認識するためには、経験の一つ一つを「言葉」として理解できるように工夫するとよいといわれています。例えば料理を一緒にしていたら「料理をする」「キャベツをとる」「野菜を切る」「煮込む」など、実際に経験しながら、具体的な物や行動の名前を覚えていきます。また物事を記憶しておくことも苦手です。記憶には「短期記憶」と「長期記憶」が存在しますが、短気記憶を繰り返し思い出すことにより、長期記憶として蓄えられていくと言われています。軽度知的障害があっても、身のまわりのことは年齢を追うごとに問題なく発達します。しかし、上に述べたような空間や時間の認識に特徴があるため、周りからは学習面やコミュニケーション面で遅れがあると感じられるようになります。よって経験の範囲を超えた知的な要求が増える小学校高学年~中学生の頃に障害があることに気づくことが多い傾向があります。出典:知的障害のことがよくわかる本軽度知的障害の診断基準と検査方法出典 : 軽度知的障害の確定診断は臨床診断と各種検査の結果によって総合的に診断されます。医療機関を受診した際の臨床的な診断として、生育歴と行動観察について聞き取りを行います。■生育歴産まれてから今までの社会性や対人コミュニケーション、言葉の発達、幼稚園・保育園での様子や1歳半健診・3歳児健診での様子などをヒアリングします。発達面で知的障害の疑いがありそうか、発達にどんな特性がありそうかなどを見立てていきます。■行動観察遊びの空間で子どもを遊ばせ、それを注意深く観察することと保護者の方へのインタビューに基づいて行われます。知能検査では主に田中ビネー知能検査とウェクスラー式知能検査によってIQを計測します。また2歳未満の子どもの場合や医師から必要と認められた場合は新版K式発達検査などの発達検査を受けることもあります。適応能力の検査ではvineland-II(ヴァインランド)がよく使われています。■田中ビネー知能検査 V(ファイブ)2歳から成人まで受けることができます。就学する5~6歳の年齢にフォーカスをあて、特別な配慮が必要かどうかを判断するための「就学児版田中ビネー知能検査V(ファイブ)」という検査もあります。子どもが興味を持てるように、検査に使われる道具が工夫されています。日常生活において必要な知能と、学習する上において必要な知能の2つを測定します。■ウェクスラー式知能検査ウェクスラー式知能検査は、年齢ごとに3つのテストに分類されます。・幼児(3歳10ヶ月〜7歳1ヶ月)→WPPSI・学生児(5歳から16歳11ヶ月)→WISC・成人(16歳〜)→WAISIQが求められるだけでなく、脳の発達具合を下位検査を用いて導出し、総合的に判断することができます。■新版K式発達検査年齢において一般的と考えられる行動や反応と、対象児者の行動や反応が合致するかどうかを評価する検査です。検査は、「姿勢・運動」(P-M)、「認知・適応」(C-A)、「言語・社会」(L-S)の3領域について評価されます。検査結果としては、この3領域の「発達指数」と「発達年齢」が分かります。検査者は検査結果だけでなく、言語反応、感情、動作、情緒などの反応も記録し、総合的に判断します。■vineland-II(全年齢)0歳から92歳の幅広い年齢帯で、同年齢の一般の人の適応行動をもとに、発達障害や知的障害、あるいは精神障害の人たちの適応行動の水準を客観的に数値化する検査です。対象者にどんな特性があるのかを評価してくれます。また教育や福祉分野の個別支援計画の立案はVinelandの評価に基づいて行われることがあります。その他にも適応能力の検査として、以下の検査がよく使われています。・ASA旭出式社会適応スキル(幼児〜高)・S-M社会生活能力検査(乳幼児〜中学生)軽度知的障害の疑いを感じたら?出典 : 自分の子どもには軽度知的障害があるかもしれない、と疑問を持った場合、いきなり専門医を自分で探すのは難しいですよね。まずはお住まいの地域にある身近な相談機関や窓口に行ってみましょう。子どもか大人かによって、相談先が違うので、以下を参考にしてみてください。【子どもの場合】・保健センター・子育て支援センター・児童相談所・発達障害者支援センターなど【大人の場合】・発達障害者支援センター・障害者就業生活支援センター・相談支援事業所など先に挙げたような知能検査は、児童相談所などで無料で受けられる場合もありますし、相談機関では、知的障害のことだけでなく子どもの発達全般について相談することも可能です。自宅の近くに相談機関がない場合には、電話での相談にものってくれることがあります。軽度知的障害ならではの戸惑いや合併症などの悩みって?出典 : ここでは、軽度知的障害ならではの戸惑いや合併症などについて考えていきます。軽度知的障害は幼少期に気づかれにくく、概ね小学校高学年~中学生の時期に気づかれることが多いとされています。また障害の症状が基となって様々なトラブルを誘発し、ストレスによる二次障害や合併症を起こすことがあります。■軽度知的障害を受け入れることへの本人・保護者の戸惑い思春期に発覚することが多い障害であるがゆえに、本人や保護者が障害を受け入れることに戸惑いを感じることがあります。勉強についていけなかったり、対人関係が上手くいかなかったりなど、本人が「どうしてだろう?」と悩み、場合によっては相談もできずに自尊感情が低下することがあります。また、保護者も子どもに対しての接し方や周囲の理解や環境のつくり方、また子どもの将来のことなどの不安要素によって戸惑いを感じることがあります。息子の経歴を簡単に記載します。小学校、中学校、高校ではただただ勉強が出来ない程度の子供と思っていましたが高校卒業時に就職活動、卒業試験、普通免許の取得等の活動をしていましたが思うようにいかずに精神的におかしくなり、引きこもるようになりました。また、持病にてんかんをもっており、発作の回数が増えて主治医に相談したところ、専門の病院を紹介され、診察を受けたところ、18才で初めて知的障害であることがわかりました。■周囲への理解をどうやって得ていく?思春期に障害が明らかになるケースでは、以前から症状がありながらも診断を受けていなかったケースと、はじめて症状が明らかになってきたケースがあります。前者の場合は、症状がある程度みられていたため家族・親戚や学校なども、それぞれで既に本人に合わせた対応をしていることもあります。改めて話し合い、接し方や合理的配慮を考えていく必要があります。一方で後者のケースの場合は、一から周囲への理解を仰がなければならないため、「何からどうすればいいのか分からない」など、戸惑うことがあります。■二次障害や合併症が原因で問題行動が起きているとき軽度知的障害は、その特性が基となって周囲とのコミュニケーションが上手くいかないことや、不適合な環境やストレスなどが原因となって問題行動を起こしたり、行動障害や反抗挑戦性障害などの二次障害が引き起こされる可能性があります。問題行動とは周りの人を困惑させる行為のことをいいます。例えば自傷行為、徘徊、他人への攻撃、喧嘩を仕掛ける、あるいは不登校やひきこもりなどがあります。場合によっては軽度知的障害の症状よりも二次障害の症状が目立って表出する場合もあるため、問題行動の根幹原因を見極め、調整や変更などを行うことが求められます。軽度知的障害との向き合い方・学校等での配慮のポイント出典 : ■軽度知的障害との向き合い方保護者をはじめ本人にとっても、軽度知的障害を受け入れるには時間が必要です。無理に急いで受け入れようと焦っても心理的な負担になりかねません。一般的にゆっくり段階を追って障害を受容していくと言われています。最初のうちはショックや葛藤が生じることがありますが、本人や周囲の人が、それぞれのペースで身体的・社会的・心理的に障害を受け入れていくまで、焦らず時間をかけて関わり合うことが大切です。困った時は発達障害者支援センターや専門医など、専門家に頼りながら落ち着いた対応を心がけましょう。■合理的配慮という観点合理的配慮とは障害のある人が障害のない人と平等に人権を享受し行使できるよう、一人ひとりの特徴や場面に応じて発生する障害・困難さを取り除くための、個別の調整や変更のことです。2016年4月1日に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(通称、「障害者差別解消法」)により、行政機関や事業者には、障害のある人に対する合理的配慮を可能な限り提供することが求められるようになりました。本人を取り巻く周辺の人が合理的配慮を考える上での重要なポイントは、「その人が具体的にいつ、どんな場面で困っているのか」「その困りごとを解消するための適切な配慮は何か」の2点です。これらを踏まえながら学校や職場などの合理的配慮を検討・実施することが大切です。合理的配慮に関しては次のリンクを参考にしてみてください。■問題行動の背後にある原因の探り、解決を目指していく問題行動をとる子どもを「困った子だ」といって疎んじたり叱ったりするのではなく、その子ども自身が何に「困っている子」なのか、その子が問題行動をとらざるを得ない原因は何なのかを理解しようとすることが大切です。問題行動をとる子ども自身、その行動がよくない行動だということ理解している場合も少なくありません。それでもなお、数少ない自己主張の方法のひとつとしてその行動をとっていたり、心理的・身体的なストレスからその行動に移ってしまう場合があるのです。カウンセリングを通して子どもをケアしたり、学校・家庭の環境をもう一度見直すことなど、解決に向けた方法を探っていきましょう。軽度知的障害でも療育手帳は取得できるの?申請方法もご紹介します出典 : 療育手帳とは知的障害者に発行される障害者手帳で、知的障害のある方が一貫した療育・援護を受けられるよう、さまざまな制度やサービスの利用をしやすくすることを目的にしています。・おおむね18歳以前に知的機能障害が発症し、それが持続している。・標準化された知的検査によって測定された知能指数(IQ)が75以下。(70以下に規定している自治体もある)・日常生活に支障が生じているため、医療、福祉、教育、職業面で特別の援助を必要とする。上記の目安に従い、18歳未満は児童相談所、18歳以上は知的障害者更生相談所において知的障害と判定された方に対して交付されます。療育手帳制度の概要(厚生労働省)障害の程度などによって、交付される療育手帳の区分がわかれ、受けられるサービスの適用範囲が違ってきます。各自治体が判定基準に基づいて、知能検査による知能指数(IQ)と日常生活能力などから、知的障害の程度を総合的に判断し、療育手帳の区分を決定しています。軽度・中度・重度・最重度といったように知的障害でも4つの程度に分けられます。その分け方に関しては1章で図を用いながら紹介しました。療育手帳の区分は基本的に重度「A」と重度以外の中・軽度「B」の2つの区分にわけられますが、自治体によって区分の分け方もより細かく区分している場合などがあり、さまざまです。より細かい区分は自治体によって、また本人の年齢によって変わりますが、おおよそ以下の基準を目安に判定されています。ただし、これらは判定基準の一部分について例示したものであり、最終的には自治体の独自の基準によって区分が決められます。■重度(A)・最重度・重度■軽度(B)・中度・軽度(B/B2/4度など)療育手帳の区分について(自治体別一覧)/東京大学大学院経済学研究科READ療育手帳を申請に関する細かい点はお住まいの自治体によって異なりますので、申請される際には福祉担当窓口にお問い合わせください。■申請に必要な書類・療育手帳交付申請書:自治体の福祉事務所・福祉担当窓口、またはPDFのダウンロードや郵送での取り寄せができる場合もあります。・写真:サイズなど規定が決まっている場合があるので確認しましょう。その場で撮影してくれる自治体もあるようです。・印鑑・その他添付書類:通知表、成績証明書、医師による診断書などが必要な自治体もあります。詳しい申請の流れは以下の記事をご参照ください。まとめ出典 : 軽度知的障害がある方は日常生活を送る上では支障はなく、学校での授業など知的能力を問われる場合にならないと分からないことがあります。ですので、多くの方は小学校高学年~中学生の時に症状が明らかになります。学校の勉強に追いつけない、友達とのコミュニケーションが上手くいかない、友達関係も上手くいかないなど、年齢を追うごとに自然と困難な場面に出会うことが多くなるのも一種の特徴です。学校で受けた、そういったストレスが家庭で爆発してしまうケースもあります。また、その逆のケースもありえることです。軽度知的障害があっても、本人の認知特性に合った学習機会をつくれば、言葉や計算の力を伸ばしていくことができます。具体的な経験を積める機会を増やしたり、時間や空間などの概念は本人の経験に結びつけて説明をするなど、自信を持って理解や行動ができるような支援を行なっていきましょう。
2016年12月15日発達障害で働いている人はどのくらいいる?出典 : 発達障害とは、先天的な脳機能障害によって、発達に何らかの遅れや偏りなどの症状が、通常低年齢において発現する障害です。日本における発達障害の定義は平成16年に制定された発達障害者支援法によって定められており、世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)の基準に準拠しています。発達障害者支援法における発達障害の定義は以下になります。この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。そもそも発達障害のある大人が日本にどのくらいいるか、はっきりした統計的なデータはありません。文部科学省の2012年の調査によると、通常学級に在籍する児童・生徒の中で発達障害の特徴を示す子どもは全体の約6.5%、つまり約15人に1人の割合でという結果になりました。これは、診断を受けている人の数ではありませんが、障害の傾向のある人まで含めると、社会の中にもかなりの数の発達障害のある人がいることを示唆しています。発達障害がある人の中には成人して特性を生かした職業に就いたり、能力にあう職業を選び、雇用されている人もたくさんいます。2011年の障害者職業総合センターの調査によると、- 障害者を積極的に雇用している特例子会社105社のを対象にしたアンケートで、特例子会社で働く療育手帳(知的障害のある方が取得する手帳)所有者が1798人、精神障害者保健福祉手帳を所有している人が198人いて、両者の中で発達障害があると把握されている人は203人という報告があります。ですが、発達障害のある人の中には療育手帳や精神障害者保健福祉手帳を取得していない人や、障害を開示しないで働いている発達障害の人が多いと考えられます。そのため、実際にはより多くの発達障害のある方が、様々な仕事に携わり、様々な職場で働いていると言えるでしょう。出典:「 発達障害者の企業における就労・定着支援の現状と課題に関する調査研究」(2011年)|障害者職業総合センターHP大人の発達障害、いつ診断された?きっかけは?Upload By 発達障害のキホン発達障害は発達期(~18歳)に発症するとされていますが、障害に気づくタイミングはそれぞれです。子どものころから診断結果が出ている人や、大人になってから何かをきっかけに診察を受け、気づいたという人もいます。母は私が小さい時から「おかしい」と思っていました。小学1年生の時、担任に「学習障害」を相談しましたが「違う」と言われ、中学でも担任に相談しましたが違うと言われました。私自身も、小学生の時点で自分の「変さ」には気づいていました。辛かったです。でも、「発達障害」という言葉自体なく診断されませんでした。近年、発達障害が広く知られるようになってきましたが、かつてはあまり理解を得られず、見過ごされていた人も多いようです。大人になって発達障害に気づくきっかけになるのは、例えば仕事上のミスや、社会人として生活する上で人間関係がうまく築けないなどの悩みなどです。これらのストレスからうつ病などの二次障害を発症し、精神科などを受診して発達障害に気づく人も少なくありません。ですが、大人になってからでも専門家の支援を受けることで自分の特性に気づけたり、対処法を学ぶことは十分にできます。もちろん、日常で問題や障害を感じずに社会に適応している発達障害の人もいますし、現在発達障害の根本的な治療法もないため、必ずしも診断を受けなければいけないわけではありません。私は13年前にうつ病と診断され、6年後に双極性障害と再診断されました。現在は双極性障害2型とパーソナリティー障害が病名になっています。解離性障害で入院していた時期もあり、過去10人以上の医師に診てもらいましたが誰1人私の「発達障害の可能性」を指摘しませんでした。今までのどの診断名も自分にしっくり合わず間にあわせ的な違和感を感じていた私が自ら調べた結果、「根底にあるのは発達障害で双極性障害その他はその二次障害である」という結論にたどり着き、医師にそれを相談したところ診断に「発達障害疑いあり」が加わりました。このように大人になってから新たに発達障害だと医師から診断されることもあります。大人になってからでも、なんらかの困りごとに直面したり、疑いを持った場合はまず専門機関に相談しましょう。発達障害者支援センター・一覧検診で子供の発達障害の疑いを指摘されたことをきっかけに、自分もWISC検査と診察を受け、自閉症スペクトラムグレーゾーンと診断されました。お子さんの発達障害をきっかけに、自分の障害に気付いた方もいるようです。大人の発達障害、特性に合った仕事・難しい仕事は?出典 : 注意欠陥/多動性障害(ADHD) の人の特徴は、集中力が長時間保てなかったり、落ち着きがない、物忘れをしがちといった行動が目立つため、周囲からやる気がないというような誤解を受けがちです。仕事上では、不注意から同じミスを何度もしてしまうこともあります。また「臨機応変に対応を」と言われ、本人は工夫したつもりが、やりすぎてしまい相手の意図とそぐわないことをしてしまうこともあるかもしれません。しかし、一方ではアイデア力、行動力や独特の感性を発揮し、営業職や企画・開発などで評価され活躍している人もいます。ADHDの人全員に当てはまるわけではありませんが、一般的にミスが絶対に許されないような作業などは不向きともいえます。一方で、ADHDのある人は以下のような強みがある人も多いのです。・興味のあることに対して情熱を持ち、高い集中力を発揮する・アイデアが豊富で、固定概念にとらわれず自由に考えられる・行動力がある・素晴らしいひらめきをすることができる・独特の感性をもち、考えることができるなどどちらかというと、芸術家・音楽家やデザイナー、CGアニメーター、ゲームソフトやコンピューターソフトの製作者、研究・開発者などクリエイティブな仕事が向いています。また行動力を活かしセールスマン・営業職や起業家・企業家として活躍する人もいます。自分の特性に合った職業に就くことができれば、注意欠陥/多動性障害(ADHD) の人も強みを活かして活躍しやすくなります。時間や仕事のリズムにも自由度が高く、うっかりミスも取り返しがつくような、新しいアイデアや変化を問う仕事が向いています。自閉症やアスペルガー症候群などを含む、広汎性発達障害(PDD)・自閉症スペクトラム(ASD)の人は、相手の気持ちや場の空気を読んだり、コミニュケーションをとるのが苦手ということが多いです。また、イレギュラーなことやはじめての経験にスムーズに対応するのが難しいこともあります。これらはあくまで傾向にしかすぎず、全ての広汎性発達障害の人がこの特徴に当てはまるわけではありません。併存する知的障害の重さや一人一人の特性にもよりますが、対人関係が苦手な人は接客業はストレスが多いでしょう。現場で臨機応変な対応が求められる職業は向いていないかもしれません。広汎性発達障害の人の中には、こだわりを持ち、パターン化されたものを好む人が傾向としては多いそうです。そのため、同じ作業を繰り返すルーティンワークで強みを発揮する場合があります。一度仕事のやり方を覚えると効率よくこなす人も多く、職場で高評価を受ける人も多いのです。また、自分にしかわからないような強いこだわりを持っているので、研究や創作などでは群を抜いた能力を発揮することも多いのです。具体的にはデザイン関係の仕事やプログラマー、コンピュータ関連の仕事で力が発揮できると思われます。集中力があり、普通の人では集中力をきらしてしまうような細かい仕事もコツコツと続けることができ、物事を深く追求したりルールに基づいて整理・分析したりするエンジニアや研究者といった仕事、校正者や職人などの特殊技能を必要とする仕事などに向いています。学習障害は、能力の凸凹や特性の偏りが多く、苦手なことにかなり個人差がある障害です。そのため、向いている仕事、向いていない仕事も人によって様々であると言えます。本人の特性を理解し、得意な分野を活かせる仕事につけることが理想ですね。向いていない仕事は一概には言えませんが、苦手な業務が多い仕事内容だと、困難な場面も増え、ストレスを感じることも多くなるかもしれません。一方、別の手段で代替できたり、職場の理解や協力があれば乗り越えられる可能性も大いにあります。たとえば、算数障害(ディスカリキュリア)のある人の場合、日々、多くの計算が業務に必要な仕事は苦手かもしれません。ですが、計算機で解決できる場合もあります。同じ小売業でも、暗算が苦手な場合、お釣りを計算しなければいけないお店の会計業務は向いていないと言えますが、バーコードを読み取るだけのレジであれば、問題ないこともあるでしょう。また、書字障害のある人は、文字を書く業務が苦手かもしれませんが、パソコンでタイプしてプリントすればよいこともあります。読字障害のある人も、音声読み上げソフトを使用したり、録音することで困難が解消できることもあります。苦手な分野を避けることは働き続ける上で大切ですが、テクノロジーや手段を替え工夫することでうまくいくこともあるので、「この仕事は無理」と決めつけてしまう前に検討するのがよいでしょう。実際に、様々な障害特性を乗り越えて作家、映画監督、発明家、俳優など様々な職業で活躍している人もいます。障害特性と向き合いつつも、自分が希望する仕事に目を向ける、という進路も選択肢の一つかもしれません。人のストーリー|発達ナビ大人の発達障害、仕事の探し方は?Upload By 発達障害のキホン発達障害に関する就労支援は、現在、よりよい対応体制を整えている状態です。特別支援学校などでは、卒業後に就職できる企業の紹介もあります。通常学級でも高校、大学ともに進路指導の先生に相談することも可能です。まず、最寄りのハローワークでの相談をおすすめします。障害者雇用の窓口もあるので、そこでご自身の発達障害の特性について伝え、仕事を探していること、仕事をする上で不安に感じていることなどの相談をすることができます。障害者を対象とする障害者合同就職面接会などの情報を得ることもできます。障害者向けの支援を希望しない場合でも、ハローワークできめ細やかな相談・支援を実施してくれます。適職があれば求人に応募してもよいでしょう。「若年者コミュニケーション能力要支援者就職プログラム」として、発達障害などでコミュニケーションに困難を抱えている場合の支援も行っており、不安がある場合には、発達障害者支援センターや医師との連携をとってもらうことができます。適職を自分では探すことが難しい場合には、適職を探す方法や調べてもらえるところも紹介してもらえます。就職に不安をかかえている場合には、就労移行支援という方法で就職をすることもできます。これは障害者総合支援法に基づいた支援で、就労移行支援事業所が各都道府県や政令都市の認可を受けて民間が運営しています。この就労移行支援は手帳を取得していなくても医師の診断書や意見書など、支援の必要性を示す情報があれば利用することができます。まずは最寄のハローワークや就労移行支援事業所に連絡をとってみましょう。ハローワークでは、発達障害のある人が就職された場合、その事業主に対して助成を行う「発達障害者雇用開発助成金」という制度を設けています。他にも「障害者トライアル雇用奨励金」という短期間の施行雇用を行い、仕事に慣れることで実際の雇用につなげる制度もあります。詳しい情報は以下のリンクを確認してください。実際に働いてみると仕事が想像していた仕事内容と大きく異なった、と離職を希望される場合も少なくありません。仕事を探す際には、似たような職種で職務経験を積んでいく方法や、希望の会社でまず一定期間働くことが可能なのか、聞いてみる方法もいいでしょう。より自分の得意・不得意を理解し、どの仕事ならこなせるか、やりがいを持てるかどうかを把握するヒントになるかもしれません。発達障害者支援センターでも「就労支援」を行っています。本人や家族からのあらゆる相談ができ、必要に応じた施設や医療機関の紹介もしてくれます。就労に関しては特性や障害の状況に適正な就労先を紹介してくれたり、雇用後にも個人の必要に応じて支援を行ってくれます。発達障害者支援法第3章第14条に基づき、都道府県・指定都市に設置されています。就職後も相談に乗ってほしい場合はジョブコーチによる支援を受けることもできます。これは、就職後、職場にジョブコーチが出向き、職場でうまく仕事をしていくための支援をしてくれる制度です。若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラム発達障害者支援センター・一覧参考:障害者就業・生活支援センター療育手帳や精神障害者福祉手帳を取得している場合はいわゆる「障害者雇用制度」の対象となります。・手帳所持者を事業者が雇用した際の、障害者雇用率へのカウントの対象となり、障害者雇用枠での就職ができる・障害者職場適応訓練を受けられるなど、就職への支援が受けられます。実際に障害者雇用制度を利用して就労する人の数は年々増加しています。ですが、希望している職種や企業が障害者雇用枠で募集しているとは限らないこと、賃金などの面で希望と合わないこともあるでしょう。一般の求人に応募したい場合などには、手帳を持っているからといって必ずしもこの制度を利用しなくてもよいですし、手帳取得者であることを報告する義務はありません。制度を利用するかどうか、よく考え、支援機関などと連携し、相談しながら進めていくとよいでしょう。障害者雇用対策|厚生労働省障害者雇用対策|厚生労働省大人の発達障害、会社や同僚へ開示・報告はした方がいいの?自身に発達障害があることを職場に伝えた方が良いかどうか、迷う方が多いのではないでしょうか?会社へ障害があるということを報告するかどうかは、一人ひとりの状況によるので一概には決められません。診断のみでは雇用上「障害」としては認められない現状があることも考慮したほうがよいでしょう。そのため診断とともに障害者手帳を取得しているかどうかでその意味合いが変わってくる場合もあります。一般就労をしている場合、会社に報告するか否かは、障害に理解のある会社であるかどうか、報告することで仕事をしやすくなるかなどを考慮して決めた方が良いと言われています。会社に報告する人が多くなってきていることは事実ですが、周りや会社には報告しないことを選択している人も少なくありません。一方、報告することによって周りからの理解が得られ、離職率が低下するということも考えられます。報告した際のメリットとしては、サポートを受けやすくなったり、フォローしてもらえるようになるということがまず挙げられます。また業務の相談もしやすくなると思いますし、以前より職場環境を快適に感じることにつながるかもしれません。2016年4月に障害者差別解消法が施行され、不当な差別的取扱いを行ってはいけないこと、企業や行政はできる範囲で合理的配慮を行う努力義務があることが定められました。このため、職場でも合理的配慮をお願いしやすくなりました。しかし中には偏見を持ったり、あまり障害に対して理解をしてくれない人がいないとは限りません。発達障害について詳しい知識のある人は少ないので、仕事上での困難や起こりうる問題と、要望などを伝えるようにしましょう。また、障害があるという報告をする場合は人を選んで報告し、仕事のどういうところで具体的にフォローが必要かを伝えるのが良いと思います。デリケートな問題ですので、迷ったら自分だけで決めずに、発達障害者支援センターなどの専門機関に相談することをおすすめします。一方で、発達障害を開示・報告した場合でも、職場や周囲に偏見が無理解があれば、職場で差別・虐待を受けてしまう可能性もゼロではありません。こうした深刻なケースでは、本人から周りに助けを求めるのが難しい場合もあるので、周囲の人が虐待に気づいた場合、各市町村の障害者虐待防止センターなどの専門機関に虐待の存在を知らせましょう。本人からの申告も可能性です。またこの虐待は就業場に限らず家庭内の虐待も含みます。障害者虐待防止センターに虐待を相談すると、支援・指導を受けることができ、問題の糸口を探す手伝いをしてくれます。強制的に仕事や家族から隔離されたりすることはありませんので、安心して相談することができます。発達障害の仕事での困りごと・よくあるミスと対処法出典 : 発達障害のある人の中には、社会的な「暗黙のルール」というものに気づきにくいという特性も持っている方も多く、周りの人が忙しくしている時や、助けを必要としている状況に気づかず、手伝うことができない場合があります。また決められたこと以外のイレギュラーなことが苦手な特性のある場合、指示をされないと動かない・自分の仕事が終わったら他のことは何もしようとしない、などと周りから見られてしまうことがあります。【対処方法】具体的な指示があると動きやすいという特性を伝え、「具体的に今時点で何を手伝ってほしいのか」指示してもらうようにします。その仕事を終えたら、次の仕事をまた具体的に指示してもらうようにします。複数の仕事を同時に並行して行うことや、脳と体の複数部を同時に動かすことが苦手なこともあります。一つの業務の間には、わずかな時間でも休憩を挟み、終わった仕事に対して評価をしてから、次の仕事をするといった工夫をするとよいでしょう。時間の管理が苦手で、遅刻しがだったり、仕事の手順が就労時間で計画できない場合があります。スケジュールの調節、優先順位だけでなく、仕事に対して熱心に取り組んではいても、こだわりが強すぎて自分の納得いくまで作業を終わらせることができずに、納期が守れないといったこともあります。【対処方法】仕事の完成度が高いことも重要だが、納期を守ることも大切だということを理解しましょう。「納期」とはなにか、具体的にして再確認し、作業のスケジュールを「見える化」すると良いでしょう。またスケジュールは自分だけでなく、複数の人に管理してもらうなどがあります。具体的には以下のような工夫をするとよいでしょう。・作業内容を細分化して書き出し、それを見えるように張り、作業終了目標時間の5分前にアラームをセットする。・終わった作業にはチェックをし、終わった作業への充実感を感じられるようにする。・仕事の計画や優先順位を決めることが苦手な場合、スケジュールをほかの人に管理してもらい、ひとつの仕事を終えたら、次の仕事を具体的に指示してもらうようにする。周りが気になってしまって、やるべき仕事に対しても集中力が続かない場合があります。また、興味がない仕事の場合、会議中などの大事な席でも居眠りしてしまうことも。頼まれていたことを忘れてしまったり、集中力が続かないことが原因で、仕事がスムーズに終わらなかったり、やる気のないような印象を与えてしまい、接客などで様々なトラブルを起こしてしまうことも少なくありません。【対処方法】怠けているという訳でもなく、集中力が続かないという特性を持っている場合は、周りの人に自分の特性を説明し、理解してもらえるようにつとめます。何か別の考えごとをしているな、と感じたら、声をかけてもらえるようお願いしてみましょう。他のことを考えはじめたことに気付いてもらい、今やるべきことがあるのに他のことを考えてミスしてしまうのを防ぐためです。指示を忘れないようにメモの習慣をつけましょう。集中力低下時の居眠り防止には、睡眠不足にならないように心がけることも大切です。またデスクワークなどで気が散ってしまうときは、集中できるよう環境調整をすることも効果的です。デスク周りを片づけて集中できるようにしたり、聴覚過敏がある場合は相談してイヤーマフなどの使用許可をお願いするのもよいでしょう。「想像力の障害」や「コミュニケーション能力の障害」により、敬語の使い方が困難な場合もあります。本人が正しいと思って使っていた言葉使いが、仕事の上では失礼にあたったということに気づけないことがあります。また距離感をうまくつかめないという特性もあり、近くにいるのに声のボリュームが大きすぎて相手を驚かせてしまうこともあります。【対処方法】自分中心の話ばかりでなく、相手が話しているときは意識的に相づちをうつようにするとよいでしょう。場所やその場の雰囲気、相手に合った会話の内容や態度、表情などを意識するということを、ひとつずつクリアしていくようにします。相手のお世辞を正直に受け止め過ぎてしまうことがあるので、注意しましょう。まとめ出典 : 参考:『発達障害者と働く』(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)発達障害のある人が就業する場合、多少の困難はもちろんつきものです。職場の方から偏見を受けたり誤解されてしまうこともあります。発達障害は、一見して外からは見えにくいため、他人には障害があることが理解されにくい場合があります。自分でも自覚が少なく、仕事ができないと他人と比べて落ち込むこともあるかもしれません。しかし、自分の障害特性を理解することで適切な支援も受けられますし、必要な配慮を周囲の人に伝えやすくなります。発達障害だということを職場に告白し理解してもらうのは勇気のいることですが、仕事の円滑さやストレス軽減のための手段のひとつであるとも言えます。仕事がスムーズにいかないのは、本人の能力不足や怠け心があるというのではありません。今勤務している職場環境を改善したり、適職を見つけることのできる相談機関が全国にありますし。それによってサポートを受けながら、働きやすい仕事の環境で継続的に働いていくことも可能なのです。深呼吸し、ひとつずつ課題をクリアしていくように、業務の手順や対人関係の工夫を身につけていきましょう。自信をもって働ける職場環境をつくったり、より適切な職場を見つけたりすることで、仕事や生活全体の充実が得られるようになるでしょう。頑張り過ぎず、自分のペースでいられる時間を持つことで、バランスをとっていきましょう。参考:法令データ提供システム「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」2012年
2016年12月15日「障害児と健常児を比べるのはナンセンス」そう言っていた私自身が…こんにちは。『子どもも親も幸せになる発達障害の子の育て方』著者の立石美津子です。私の息子は知的障害を伴う自閉症です。2歳で診断を受けてから月日はあっという間に経ち、もう16歳になりました。診断された直後の私は、「息子が自閉症である」という事実を受け止めきれず、必死に治療法や教育法を探したり、周りと比べて落ち込んだり焦ったりしていましたが、その後は障害を受け容れ、「息子は息子のペースで育っていくのだ」と考えられるようになりました。そんな私は、障害のある子どもを持って悩む保護者たちに向けて、「障害のあるわが子と他の子と比べるのは、百害あって一利なし」などと、子育て本やコラムで「比べる病」に対する警鐘を鳴らすようになりました。けれども、そうやって偉そうに書いている私自身の「比べる病」が未だに完治していなかった……そんな事実を痛感させられた出来事がありました。子連れのハロウィーンパーティ、ちびっ子たちに混ざって16歳のわが子が出典 : <span><a class="linkclass" href="">先日、地域のハロウィンパーティに出かけた日のことです。パーティーは「子連れOK」だと聞いていたので、息子を連れて行きました。でも、16歳なんて年齢の大きい子は我が家だけ。周りはみーんな未就学のちびっこ達でした。そりゃそうです。健常の高校生なら、部活をやったり、恋人がいたり、友達同士で集まって遊んだりする年齢です。“親と一緒にハロウィンパーティーに行く”なんてことはないでしょう。でも、うちの子の精神年齢は、実年齢とは大きくかけ離れていて、巷の高校生と同じように青春を謳歌することができません。親しい友達もいません。だから、今でもこういう場に連れていくようにしていました。当日早めに会場に着いたので、待ち時間の間、私のスマホを渡して遊ばせたところ(※息子は携帯を持っていません)いつものように大好きな“トイレの動画”を見始めました。Upload By 立石美津子自閉症の子は限定された物事に対して強い執着を示すことが多いですが、息子の場合は、そのこだわりが「トイレ」に対して出ています。水を流す音を聞いただけでトイレのメーカーや種類が分かるほどですが、一度動画を見出すとのめり込んで止められなくなります。Upload By 立石美津子ハロウィンパーティーがスタートしましたが、相変わらず息子はトイレの動画を見続けていました。「このままスマホを見ることを許してしまうと、場の雰囲気を壊してしまう」そう考えた私は息子からスマホを取り上げました。しかし!ここでスイッチが入ってしまったのです。息子は涙を流してパニックを起こし、それがどんどん酷くなっていきました。「みんなが楽しんでいるのにまずいぞ」と思った私は、外の空気を吸いに連れ出したり、説得したりしましたが、息子のパニックは一向に収まりませんでした。完治したと思っていたのに…「比べる病」が再発出典 : <span><a class="linkclass" href="">ハロウィンパーティーに参加している3~5歳の子ども達は、席に座って楽しそうに食事を食べ、食べ終わると初対面の子ども同士で仲良く交流しています。それに比べて息子は……泣いて怒って、しまいには「死んでやる!」「電車に飛びこむ!」なんて叫びだす始末。息子は不安定になったとき、自分の身体を傷つける自傷行為も出るのですが、それだけでなく、「学校辞めてやる」「放課後ディを退会する」「ご飯をもう二度と食べない」「癌になる」「入院する」などと自分に向けて暴言を吐き、言葉でも自傷に走ってしまいます。息子をなだめながら、叫び声が周りに聞こえやしないかとヒヤヒヤしていた私の中に、黒い気持ちが広がってゆきました。「周りの小さい子でもお行儀よく座っていられるのに、どうしてうちの子は…」「比べる病」の再発です。16歳の自閉症の息子と、うんと歳の離れた小さい子を比べるなんて、ナンセンスだと頭ではわかってはいるのですが、凄く情けなく、悲しい気持ちになりました。この病はいつまで続く?息子を「情けない子だ」と思った私の心思い返せば私の「比べる病」が最も重症だったのは、息子が2歳で自閉症だと診断された直後の時期。健常児の姿を見ることが、私の最大のストレスでした。息子を保育園に迎えに行くと、他の親は保育士から「今日も一日楽しく過ごしていました」と言われているのに、私は担任から「今日も一日、保育室に入れず朝からずっと玄関にいます」と報告を受けます。「私が仕事であちらこちら訪問し、昼にはランチし、変化のある充実した時間を過ごしているのに、息子は朝からずっとこの状態なんだ」と思うと胸が締め付けられました。いつしか健常児とその家族に対する「羨ましい」という気持ちは、「妬ましい」→「憎らしい」と加速していき、異常な心理状態に陥っていきました。ついに私は鬱になり、外出するのも嫌になって家に引きこもるように。出典 : <span><a class="linkclass" href="">でも、そんな私もだんだんとわが子の特性を受け入れ、周りと比較することはなくなっていきました。だから「卒業できた」と思っていたのです。それなのに、息子が16歳になってもなお、“比べる病”は消えてはいませんでした。息子と周りの子を比べることは、ミスユニバースに選ばれる人と自分の体型を比べるようなもの。大富豪と自分の生活を比べるようなもの。バカげたことなのに、そんなことわかっているのですが……いつもは偉そうに子育てコラムなど書いている私ですが、この日は自己嫌悪に陥り、悲しい気持ちでいっぱいになりました。最後に主催者の方が息子に「今日は来てくれて本当にありがとう」と言ってくださいました。これに少し救われて帰路につきました。息子はすっかり疲れてしまいその夜はすぐに寝てしまいました。ハロウィンパーティーで、あなたのことを「情けない子だ」と思ったお母さんを、どうか許してほしいです。でも、でも……一体、いつ治るのかな?この病……皆さんの比べる病は完治していますか?出典 :
2016年12月03日小児期崩壊性障害とは?出典 : 小児期崩壊性障害とは、それまで問題なく発達していた子どもが、突然、成長の過程で覚えた能力を喪失していき、知的障害を伴った自閉症のような状態になる障害です。ヘラー症候群、幼児性認知症、崩壊性精神病、共生精神病とも呼ばれるこの障害は、小児の0.005%に発症するまれな障害であり、男性に多いとされています。参考ページ:小児期崩壊性障害|ハートクリニックHPこの障害は、広汎性発達障害が含む5つの障害のうちの一つとして位置づけられます。(下図参照)広汎性発達障害が含む5つの障害とは、自閉性障害(自閉症)、アスペルガー症候群、レット障害、小児期崩壊性障害、PDD-NOS(特定不能の広汎性発達障害)を指します。Upload By 発達障害のキホン小児期崩壊性障害はアメリカ精神医学会の『DSM-Ⅳ-TR』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第4版テキスト改訂版)という診断基準により分類された障害です。しかし、2013年に出された、この診断基準の改訂版である『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において、小児期崩壊性障害は自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害というカテゴリに包括されました。そのため、現在は小児期崩壊性障害という診断名が下されることは少なくなりつつあります。とはいえ、すでにこの名称で診断を受けた人も多いこと、行政などで小児期崩壊性障害の名称を使用している場合も多いことから、本記事では『DSM-Ⅳ-TR』において定義されている小児期崩壊性障害についてご説明します。アメリカ精神医学会の『DSM-Ⅳ-TR』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第4版テキスト改訂版)による小児期崩壊性障害の定義は以下の通りです。小児期崩壊性障害の基本的特徴は,少なくとも2年の見かけ上正常な発達の期間に引き続く,多くの領域の機能における著名な退行である(基準A).見かけ上正常な発達は,年齢に相応した言語的および非言語的コミュニケーション,対人関係,遊び,適応行動に示される.生後2年以降(しかし10歳以前に),子供は,以下の各領域の少なくとも2つにわたり,以前に獲得した技能の臨床的に明らかな喪失を示す:表出性または受容性言語,対人的技能または適応行動,排便または排尿のコントロール,遊び,または運動技能(基準B).最も典型的には獲得された技能はほとんどすべての領域で失われる.この障害をもつ者は,自閉性障害をもつ者に広く観察される,対人的およびコミュニケーションの欠陥と行動的特徴を示す(82頁参照).対人的相互反応(C1)およびコミュニケーションにおける質的障害(C2),限定的,反復的,常同的な行動,興味,活動の様式(基準C3)がある.障害は他の特定の広汎性発達障害または統合失調症ではうまく説明されない(基準D).この状態は,ヘラー症候群,幼児痴呆,または崩壊性精神病とも呼ばれてきた.参考文献:高橋三郎ら/訳『DSM‐IV‐TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』2003年医学書院/刊小児期崩壊性障害という診断区分を定めている『DSM-Ⅳ-TR』は最新の診断基準ではありません。そのため現在、この障害に相当する症状がある場合は、別の診断名が下されることが多くなってきています。ここでは、小児期崩壊性障害に相当する症状が、別の診断基準ではどう診断されるのか紹介します。・『DSM-5』における小児期崩壊性障害『DSM-Ⅳ-TR』の改訂版であり、2013年に発行された『DSM-5』において、小児期崩壊性障害は自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害というカテゴリに変更されています。Upload By 発達障害のキホン参考文献:日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014)・『ICD-10』における小児期崩壊性障害世界保健機関(WHO)が定める『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)(以下、本文中の表記は『ICD-10』とする)という診断基準では、『DSM-Ⅳ-TR』における小児期崩壊性障害は「他の小児期崩壊性障害」というカテゴリーに相当するとされています。『ICD-10』で言われる「他の小児期崩壊性障害」の概念・診断基準と『DSM-Ⅳ-TR』における「小児期崩壊性障害」の概念・診断基準はほとんど同じとされています。参考文献:融道男 /著『ICD-10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン―』2015年医学書院/刊小児期崩壊性障害の3つの特徴出典 : 小児期崩壊性障害は、1. 発症時期は2歳から10歳までの間で、それまでは明らかに正常に発達する2. 発症後、それまでの成長で覚えたことを喪失していく3. 発症後は自閉症と似たような症状を示すという3つの特徴があります。以下において、小児期崩壊性障害の3つの特徴についてそれぞれ説明します。1. 発症時期は2歳から10歳までの間で、それまでは明らかに正常に発達する小児期崩壊性障害は、2歳から10歳までの間に発症します。発症までは、言語的および非言語的コミュニケーション、対人関係、遊び、社会適応における年齢に相応した正常な発達が続きます。つまり、定型発達の子どもと同じように順調に成長していくのです。2. 発症後、それまでの成長で覚えたことを喪失していく発症後、成長の過程で覚えた能力を失います。以下の能力のうちの2つ以上を失うとされています。・言葉の使用と理解・対人的技能または適応行動・排便または排尿の機能・遊び・運動能力発症の前兆として、よく動いたり、イライラしたり、不安になったりすることがあります。また、言語やその他の能力の喪失の兆しや、周りの環境に対する興味、関心が薄くなることもあります。これらの能力が失われていく期間は、多くの場合数ヶ月で止まります。その後は、能力が失われた状態が一生にわたり続きます。しかし、脳や神経の病気もある場合には、これらの能力は失われ続けるとされています。3. 発症後は自閉症と似た症状を示す小児期崩壊性障害は発症後に、以下に説明する自閉症(『DSM-Ⅳ-TR』では「自閉性障害」)にみられる3つの特徴のうち少なくとも2つの特徴が当てはまるとされています。(1)対人的相互反応における障害・目と目で見つめ合う、顔の表情、体の姿勢、身振りなどの非言語的な行動ができない・他人と満足のいく関係を築けない・対人的ないし情緒的な気持ちのやりとりの困難・他人の気持ちの共感・理解の困難(2)コミュニケーションの障害・話し言葉の発達の遅れ、または完全な欠如(身振りや物まねのような代わりのコミュニケーションの仕方により補おうという努力を伴わない)・会話の頻度が高い場合、他人と会話を開始し、継続する能力の明らかな障害がある・常同的で反復的な言語の使用または、独特な言語・発達の水準に相応した、変化に富んだ自発的なごっこ遊びや、社会性をもったものまね遊びの欠如(3)運動性の常同症や衒奇症(げんきしょう)を含む限定的、反復的、常同的な行動、興味、活動の型・特定の習慣や儀式にかたくなな興味をもつこと・特定の対象に持続的に熱中すること・芝居じみた挨拶や身振りを繰り返すこと・複雑な全身の動きを続けるなど、型にはまった同じ運動を不自然に繰り返すこと小児期崩壊性障害の原因出典 : 小児期崩壊性障害の原因は現段階では解明されていません。現状では、脂質代謝異常や結節性硬化症など、さまざまな疾患と関連があるのではないかと考えられています。小児期崩壊性障害と似ている障害出典 : 小児期崩壊性障害と似ている障害として、小児統合失調症や認知症、この障害と同じ広汎性発達障害のひとつである自閉症が挙げられます。・小児統合失調症統合失調症は妄想や幻覚などの症状が続く疾患です。ほとんどが思春期以降の発症ですが、まれに幼いころに発症することがあります。小児統合失調症の症状にも感情的な反応の欠如が見られるなど、小児期崩壊性障害と似ている症状が見られることがあります。・認知症小児期崩壊性障害と似ている障害として、成人期における認知症があげられます。しかし、小児期崩壊性障害は、頭部外傷などの身体的な要因が原因ではないこと、技能喪失の後ある程度の回復がみられること、自閉症に典型的にみられる特徴がみられることなどの点において認知症とは異なっています。・自閉症小児期崩壊性障害にも自閉症のような症状がみられます。しかし、自閉症も発達の遅れがみられるとはいえ、一度獲得した技能を失う退行は見られない点において異なっています。小児期崩壊性障害かな?と思ったら…出典 : 上記で述べた症状が見受けられる場合、医療機関や専門家に判断してもらうことをおすすめします。いきなり専門医に行くことが難しい場合は、まずは無料で相談できる身近な専門機関の相談窓口を利用するとよいでしょう。・保健センター・子育て支援センター・児童発達支援事業所・発達障害者支援センター・児童相談所など児童相談所などでは無料で知能検査や発達検査を受けられることも多いので、児童相談所で相談するパパ・ママも多くいます。まず身近な相談センターに行って、診断をすすめられたら、そこから専門医を紹介してもらいましょう。自宅の近くに相談センターがない場合には、電話での相談にのってくれることもあります。以下のリンクにおいて全国の発達障害者支援センターを検索できます。相談窓口の情報|発達障害情報・支援センターHP発達ナビ「地域情報」: 全国の発達障害者支援センターの一覧・どの診療科にいけばいいの?小児期崩壊性障害の診療が可能な診療科は、小児科、精神科、児童精神科、小児神経科、心身医療科、心療内科、発達障害外来など、病院により様々な名前となっています。どの病院に行けばいいか少しでも迷った場合は、まずは市町村の窓口や都道府県等の発達障害者支援センター等の相談窓口に電話で相談することをおすすめします。発達障害の専門機関は他の病気に比べると少ないですが、発達障害者支援法などの施行によって年々増加はしています。以下のリンクは発達障害の診療を行える医師の一覧です。この他にも、児童精神科医師や診断のできる小児科医師もいます。担当者との相性も大切なので、納得のいく医療機関を選ぶようにしましょう。日本小児神経学会 「発達障害診療医師名簿」・ 診断・検査の流れ本人や保護者に対する問診(面接)や行動観察、家族・学校の先生による提供情報の精査などを行う他、専門機関によっては筆記や口頭質問などを通した知能検査や発達検査などを実施する場合もあります。こうした様々な情報を総合的に評価して、診断がくだされます。検査は複数回に分けて行なわれたり、慎重に経過を見ながら行われるため、一度の受診ですぐに診断されることはあまりありません。知能検査は、田中ビネー知能検査Ⅴ(ファイブ)やウェクスラー式知能検査(3歳10ヶ月〜7歳1ヶ月の幼児の場合は「WPPSI」、5歳から16歳11ヶ月の子どもは「WISC」、16歳以上の成人の場合は「WAIS」)などの検査を受けることによって検査結果がでます。特性の現れ方や発達段階などを評価するため「CARS」や「新版K式発達検査2001」、「PEP-R」などを行う場合もあります。・診断に必要な準備や持ち物初診時に必要な物として保険証、子どもであれば母子手帳などがあります。服用中の薬などがあれば、お薬手帳なども持っていくとよいでしょう。また、生育や発達歴についての問診がありますので、言葉を話し始めた時期や日常生活での困りごとなどをメモして持っていくと質問に答えやすいかもしれません。発達外来などの専門機関によっては保育園や幼稚園の連絡帳、小学校の通信簿やホームビデオなどを参考にする場合もあります。事前に問診票をプリントアウトして持参する機関もありますので、専門機関の公式ホームページをチェックしたり、予約時に電話にて必要な持ち物を問い合わせてみてください。小児期崩壊性障害は治療できるの?出典 : 広汎性発達障害のひとつである小児期崩壊性障害の根本治療はできませんが、症状を緩和するためには療育的アプローチと薬物療法の2つが効果的です。障害のある子どもが、社会的に自立できるように取り組む治療と教育のことです。自分の問題を自分で解決できるようになるには、療育によりコミュニケーションスキル等の能力を身につける必要があります。療育は何歳からでも始めることができ、なるべく早くから通うことが推奨されます。療育とは、以下のように定義されています。療育とは医療、訓練、教育、福祉などの現代の科学を総動員して障害を克服し、その児童が持つ発達能力をできるだけ有効に育て上げ、自立に向かって育成することである。出典:療育と教育の接点を考える|障害保健福祉システムHP参考ページ: 療育とは何か|LITALICOジュニアHP小児期崩壊性障害そのものを根本的に治す薬はありませんが、特定の症状を緩和するために使用することがあります。薬によって開始できる年齢や症状が決まっており、人によって副作用がある場合もあるので、主治医とよく相談し、用法用量を守って服薬していくことが大切です。薬物療法は、症状を一時的に抑えるためのものであり、症状が軽減している間に、教育や支援をあわせて行うと効果的であるともいわれています。小児期崩壊性障害の場合、障害者手帳は取得できるの?小児期崩壊性障害を含む広汎性発達障害と診断された場合、2種類の障害者手帳を取得できる可能性があります。・療育手帳小児期崩壊性障害と診断されただけでは療育手帳付与の対象とはなりません。しかし、療育手帳を申請し、知的障害があると認められた場合は療育手帳が取得できます。・精神障害者保健福祉手帳小児期崩壊性障害は発達障害者支援法第二条において発達障害に指定されていて、さらに発達障害は精神障害に含まれます。そのため、小児期崩壊性障害により長期にわたり日常生活又は社会生活への制約があると認められた場合は精神障害者保健福祉手帳を受けることができます。もし、知的障害と精神障害のどちらもあると判断された場合は、療育手帳と精神障害者保健福祉手帳を両方取得することは可能です。まとめ出典 : 小児期崩壊性障害は、発症前までは子どもが問題なく元気に成長する障害であるため、発症時にはご家族の驚きも大きいかもしれません。しかし、小児期崩壊性障害は他の広汎性発達障害と同じく、早期発見と早期療育、通院治療等を通した支援が可能です。お住まいの地域の発達障害者支援センターなどの相談窓口や医療機関では、お子さんのことだけでなく、ご家族の方のためのアドバイスも専門家からもらうことができますので、お子さんの発達の仕方に何か違和感を覚えた段階で連絡をとることをおすすめいたします。悩みや疑問を解消し、お子さんの特性を理解することで、適切な支援方法を探していきましょう。
2016年12月01日