辻村深月のベストセラー小説を原作とする映画『傲慢と善良』が、2024年9月27日(金)に全国公開される。辻村深月の恋愛ミステリー小説『傲慢と善良』映画化へ辻村深月による原作小説の『傲慢と善良』は、マッチングアプリで出会い婚約した2人の物語を描く恋愛ミステリー。現代に生きる人々のリアルな恋愛観や価値観を反映した物語が多くの共感を呼び、2019年に単行本が発売された後、第7回ブクログ大賞を受賞。また、発行部数は90万部を突破し、“2023年最も売れた小説”として人気を集め続けている。失踪した彼女、婚約者の知りたくなかった過去と嘘主人公の架と真実(まみ)はマッチングアプリで出会い、婚約。しかし、その直後に真実が突然失踪してしまう。彼女を探すうちに明かされていく知りたくなかった過去と嘘。そして最後にたどり着く一生に一度の選択とは?心に刺さるような衝撃と感動のストーリー展開に注目だ。なお、映画『傲慢と善良』のキャストなど詳細情報は追って発表。主人公の架と真実役は誰が演じるのか、期待が高まる。原作者・辻村深月 コメント『傲慢と善良』を書いて数年、今も届く読者の皆さんの感想の声の切実さ、多様さに驚いています。 それはおそらく、この小説の誰か・何かに皆さんが「自分」を見てくれているからなのでしょう。 映画化を通じ、より多く深く、皆さんの心に刺さるものがあることを願っています。【作品詳細】映画『傲慢と善良』公開日:2024年9月27日(金)原作:辻村深月
2024年04月15日小説家・辻村深月氏の小説を実写化した映画『傲慢と善良』(9月27日公開)が公開されることが12日、明らかになった。○■映画『傲慢と善良』9月27日に公開原作は2019年に単行本が発売され、第7回ブクログ大賞を受賞。現代に生きる人々のリアルな恋愛観や価値観が描かれ、20代、30代を中心に多くの共感を呼んだことから話題が広がり、2023年最も売れた小説( ※ジュンク堂書店池袋本店調べ 2023年売上、文芸/文庫新書ジャンル)となった。発行部数は90万部を突破し、話題は広がり続けている。SNSの感想では「人生で一番刺さった」「明日からの生き方が変わるかも……」「どんどん引き込まれて最後は感動した」「男女で感想がわかれそう!」「まさに私のことだ」など、読者に大きな衝撃を与えつつも男女で感想が違うことで、より広がっているという。主人公の架と真実はマッチングアプリで出会い婚約したが、真実が突然失踪してしまう。架が彼女を探すうち、知りたくなかった過去と嘘が明かされていく。そして最後にたどり着く“一生に一度の選択”を描く恋愛ミステリとなっている。今回公開されたビジュアルには、「婚約者が、突然消えた――。真実なんて、何ひとつ見えてなかった――」のコピーとともに、架と真実らしき人物が窓辺から夜の街を眺める姿が映し出されている。キャストの顔はぼんやりとしており、誰が演じるかは今後発表される。○■辻村深月 コメント『傲慢と善良』を書いて数年、今も届く読者の皆さんの感想の声の切実さ、多様さに驚いています。それはおそらく、この小説の誰か・何かに皆さんが「自分」を見てくれているからなのでしょう。映画化を通じ、より多く深く、皆さんの心に刺さるものがあることを願っています。(C)2024「傲慢と善良」製作委員会
2024年04月12日辻村深月による同名小説を原作とした映画『傲慢と善良』が9月27日(金)より全国公開されることが決定した。2019年に単行本が発売されると、現代に生きる人々のリアルな恋愛観や価値観が描かれた本作は第7回ブクログ大賞を受賞、20代、30代を中心に多くの共感を呼び話題が広がり、発行部数は90万部を突破し話題は広がり続けている。その感想はすでにSNSやメディアのレビューコーナーで多く取り上げられているが、「人生で一番刺さった」「明日からの生き方が変わるかも…」「どんどん引き込まれて最後は感動した」「男女で感想がわかれそう!」「まさに私のことだ」など、大きな衝撃を与えつつも様々な感想が寄せられている。主人公の架と真実はマッチングアプリで出会い婚約した直後、真実が突然失踪してしまう。彼女を探すうち<知りたくなかった過去と嘘>が明かされていく。そして最後にたどり着く、“一生に一度の選択”を描く恋愛ミステリーとなる本作。原作の辻村氏は映画化決定に、「いまも届く読者の皆さんの感想の声の切実さ、多様さに驚いています。それはおそらく、この小説の誰か・何かに皆さんが『自分』を見てくれているからなのでしょう。映画化を通じ、より多く深く、皆さんの心に刺さるものがあることを願っています」とコメント。今回解禁されたビジュアルには、「婚約者が、突然消えた―。真実なんて、何ひとつ見えてなかった―」のコピーとともに、架と真実らしき人物が窓辺から夜の街を眺めている姿が映し出されている。失踪した婚約者・真実(まみ)のことも、真実(しんじつ)も何も見えていなかった後悔を示すかのようなコピー。キャストの顔ははっきりとは見えないままで、主人公の架と真実を演じる俳優たちにも注目が集まっている。『傲慢と善良』は9月27日(金)より全国にて公開。(シネマカフェ編集部)
2024年04月12日辻村深月さんによる新作長編『この夏の星を見る』をご紹介します。「コロナ禍で行動が制限された頃、子どもの活動に対して、“失われた”という言葉が頻繁に使われることに違和感がありました。部活や修学旅行が中止になっても、そこで過ごした時間や思い自体は確かにあったはず。それを何もなかったもののように大人が断じるのはどうなのか、と。その抵抗感が、この小説を書く原動力になったと、今は思っています」と、辻村深月さん。新作長編『この夏の星を見る』は茨城、東京、長崎の五島列島に住む少年少女たちを描く2020年の物語。もともとコロナ禍前に“青春小説を書いてほしい”との依頼を受け、漠然と部活ものを書こうと考えていたという。「連載時期が近づいた頃に感染症が広まって。今の子どもたちの話を今の読者に届けると考えた時コロナ禍を入れない選択肢はなかったです」茨城県の高校2年生、天文部の亜紗(あさ)は部活動が制限されて悩んでいる。東京・渋谷区の公立中学に進学した真宙(まひろ)は、自分が学年唯一の男子生徒だと知ってショックを受けている。五島列島に住む高校3年生の円華(まどか)は、実家の旅館が他県の客を泊めていることで周囲から距離を置かれ落ち込んでいる――。そんな彼らが、“星を見る”ことで繋がっていく。「天文部の話にしようと決めてすぐタイトルが浮かびました。それで漠然と、地方の子や都会の子が、空を見上げることで繋がるというコンセプトができました」五島列島は星がきれいに見える場所、東京は星が見えにくそうで実は見える場所として選んだ。茨城県を選んだのには意外な理由が。「以前、偶然テレビ番組の『ナニコレ珍百景』を見ていたら、茨城県の地学部の活動が紹介されていて。彼らが自分たちで望遠鏡を組み立てて星を観測していると知って、そんなことができるんだと驚きました」意外な経緯で繋がった亜紗たちはリモート会議を重ね、それぞれ自作した望遠鏡で各地から星を観測する「スターキャッチコンテスト」を開催しようと試みる。「私もリモートで天文部のみなさんに取材したのですが、今の10代の子たちはしなやかで軽やかだという印象で。先生も生徒の自主性に任せていて、信頼関係を感じました。今回はそうした、“今”の子どもたちの姿を書けたかなと思っています」生徒たちはやりとりを重ねるうち、感染状況の違いや長崎への原爆投下など、互いの土地への理解を深めていく。人間関係の機微やコロナ禍に対する思いなど、繊細な感情を浮かび上がらせて突き刺さる場面がたくさんある。その中で伝わってくるのは、「好きなことを大事にしよう」というメッセージ。「何かに打ち込む子どもに対し“それが何の役に立つのか”“将来プロになれるのか”などと言う人っていますよね。私は“向いていないけれど好き”とか“ただ楽しいからやる”ことって、大人になってからも自分を支えてくれると思う。意味がないことに意味があるんだって、ちゃんと書いておきたかった」自分の心の中の小さな星が見つかるような、優しい青春小説である。辻村深月『この夏の星を見る』天文部に所属する高校生、亜紗は感染症の影響で夏の合宿が中止になり落胆する。しかし意外な経緯で、東京の中学生、長崎の高校生と出会うことに。KADOKAWA2090円スピンオフ短編を収録!辻村さんのガイドブック『Another side of 辻村深月』今年3月に刊行された本書に収録された書き下ろし短編「薄明の流れ星」は『この夏の星を見る』のスピンオフ。「例のテレビ番組で見た茨城県の高校は、共学なのに男子生徒が一人もいない学校だったんです。その時、もし男子が一人だけ入学してきたら、どんな子なんだろうと想像しました」ということから生まれた、あのキャラクターが主人公。この短編を書いてから本編の推敲に取り掛かったことで、作品世界がより広がったと辻村さん。これまで発表した全作品の解説インタビュー、宮部みゆきさんや伊坂幸太郎さんとの特別対談、各氏による論考、単行本未収録短編、過去の他媒体での対談記事の再掲載など盛りだくさんの内容。辻村さんの創作の裏側が分かります。KADOKAWA1870円つじむら・みづき2004年「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞を受賞しデビュー。’11年『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、’12年『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞、’18年『かがみの孤城』で本屋大賞1位。他の著書に『傲慢と善良』『噓つきジェンガ』など。※『anan』2023年7月12日号より。写真・土佐麻理子インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2023年07月10日婚活を通じて“人を選ぶこと、人に選ばれること”を描き「胸が痛い」「刺さる」「名言だらけ」と支持を集め、大ヒットしている辻村深月さんの恋愛小説『傲慢と善良』。今作を2回以上読んだ3人が感想と魅力をトーク!自分の“惹かれる気持ち”と対峙するきっかけに。心をえぐられる人が続出!『傲慢と善良』辻村深月/朝日文庫突然、目の前から姿を消した婚約者・坂庭真実の居場所を捜す西澤架。行方を追って地元を巡り、話を聞くうち彼女の知らなかった一面やさまざまな過去、さらには、自分自身と向き合うことになり…。座談会参加者M子35歳、医療系。長らくマッチングアプリを活用して婚活をしていたが、最近、居酒屋で知り合った人とめでたくお付き合いをすることに。W子32歳、会社員。結婚3年目、2児の母。マッチングアプリは未経験ながら、結婚に焦る登場人物に過去の自分を重ね、今作の沼にハマる。S子34歳、フリーランス。5年ほど付き合ったパートナーと昨年別れ、数年ぶりにマッチングアプリを再開するも、早くも疲れを感じている。W子真実が失踪するというサスペンスっぽいシーンから始まるけど、読むにつれて毛色が変化して。恋愛や婚活における人の心理がフォーカスされる展開に夢中になっちゃった。S子1回目に読んだ時は、真実を捜す過程で描かれる、マッチングアプリでの出会いに疲れた架の気持ちに共感することが多くて。メッセージを送り、会って、違った…の繰り返しとか。M子コピペしたメッセージを送ったりしてたな(笑)。本当疲れるよね。S子待ち合わせまでして来ない人とかもいて、多分、実物を遠くから見て好みじゃなくて、帰ったんだと思う。やり切れなさを抱えながら、待ち合わせ場所近くの新宿末廣亭の周りを一人でグルグル歩き回った思い出…。M子落語を聴いて癒されてほしかったわ(笑)。そんな奴はいいやと思う一方で、しっかり傷ついている自分がいるんだよね。ジャッジメントをされるのは本当にメンタルと自尊心を削られちゃう。W子読者のみんなが震え上がったであろう、結婚相談所の小野里さんっているじゃない?彼女の「自己評価は低い一方で、自己愛のほうはとても強い」という言葉の破壊力は本当にすごかったな〜。泣くかと思った。M子わかる〜!自分がうまくいかない原因はそこだなと気づかされて目から鱗。辛すぎたけど(笑)。あと、小野里さんといえば、相手に対して〝ピンとこない〞とはどういうことか、という疑問への回答も恐ろしかった。W子架と同様に絶句したけど、これも身に覚えがあるんだよね。私、今のパートナーとは23歳の時に出会って告白されたんだけど、当時は付き合わなかったの。でも27歳になって婚活市場での自分の価値が下がっていると感じた時に、〝あの人、結婚したいと言ってたな〞と思い出して、急にピンときたというか。まさに小野里さんの言う通りのことをしていたわ。S子でも本当、恋愛関係になることを前提とした出会いって難しい。私、買い物をする時に、たとえば「コートが欲しい」と目的を持って行くと悩みすぎて買えなくて。逆に、ふらりと行った時に欲しいものが見つかるんだけど、これって自分の恋愛にも似てるなと。小野里さんは、婚活がうまくいくのはビジョンが明確な人だと言っていたけど、私はできない。人それぞれに惹かれ方とか恋の落ち方はさまざまで、得意な戦術や出会い方も違うんだろうなと。小野里さんには、だからダメなんだと怒られそうだけど(笑)M子自分を高く見積もりすぎているのかもしれないけど、できないことはできないからね。W子私、正直、1回目に読んだ時は真実にまったく共感できなくて。主体性がなさすぎてイライラしたりとか。でも、2回目に読んだ時に初めて彼女の気持ちに寄り添えたんだよね。善良さゆえの馬鹿正直なところにびっくりするんだけど、善良であろうとしたことや正しくありたいと思うことって、決して咎められるようなことやバカにされるようなことじゃないんだよなと。M子真実に主体性がないのは母親の存在も大きいよね。〝娘のために〞を盾にして、娘を支配してる感じが怖かったな。結局は、自分のためなんだよ。W子でも母親本人は、そのことに気づいてないからタチが悪い。M子真実の地元に重ねて、自分の地元のことも思い出したよ。結婚することが当たり前、結婚こそが幸せ、という空気が蔓延している感じとか。S子あと、真実にとっての結婚には、ライフラインの意味もあったのかなって。うちの地元では女性の給料が高くないから、実家を出るタイミングが結婚という人も少なくないんだよね。周りが結婚してるとか、寂しさもあるけど、今後の生活がかかっていることも焦ったり追い詰められた要因かも。独身女性が不安なく暮らしていける社会なら、もう少し気楽だったかもしれないよね。M子たしかに。いろいろなものを背負った婚活なんだろうね。W子あと、記憶に残っているのが架の女ともだちの美奈子。真実のことが嫌いで、辛辣なことを言うでしょ。彼女はそこまで深刻じゃないノリで言ったことが、真実にはめちゃくちゃ刺さってしまう。美奈子に対して、ひどいことするな〜と思う一方で、自分もこういうことしてきたんだろうなとも。すごく怖くなったし反省した。S子わかる。もうね、絶対やってる。恋愛だけでなく、人間関係における自分のダメな部分や弱い部分も突きつけられるから恐ろしい…。生きている以上、誰かに嫌われたりムカつかれたりしながら暮らしていくんだろうね。自分が誰も傷つけずにいられると思っていることこそが傲慢なんだろうな。M子でもさ、真実の善良じゃない部分を知り始めてからのほうが、架の真実に対する想いや興味が強くなってるのが面白いよね。人としての深みとか旨みを感じたのかなぁ。W子そう思うと、恋愛や人間関係において何が惹かれる理由になるかなんて、本当にわからないってことだよね。いろいろなことを考えさせられるわ。M子私もだけど、今、婚活が辛い人は救われるんじゃないかな。まぁ、棍棒で殴られて、一度めちゃくちゃになる感覚もあるんだけど(笑)。S子恋愛や人間関係の価値観と嫌でも向き合わされて癒される。自分を見つめ直したい時にぴったりだね〜。※『anan』2023年2月8日号より。(by anan編集部)
2023年02月10日2018年、本屋大賞を受賞した辻村深月さんの長編『かがみの孤城』の劇場アニメが現在公開中。主人公・こころをはじめとする中学生7人が、鏡の向こう側の世界でつながるこの物語の監督を務めたのは、辻村さんも以前から作品に魅せられてきた原恵一さんだ。観た人には絶対に伝わる「強さ」を秘めたアニメ映画に。原恵一:僕は以前『カラフル』という、ちょっとハードな現実を抱えた中学生のアニメを撮ったことがあったので、似た要素のある『かがみの孤城』の監督を最初は躊躇したんです。それで長いこと一緒に仕事をしてきた、プロダクション・アイジーの石川光久さんに相談をしたところ、すぐに原作を読んで「絶対にやったほうがいい」と言ってくれたので、彼の嗅覚を信じようと思いました。辻村深月:嬉しいです。原さんにお願いできることが決まってから、東京国際映画祭で原さんの特集上映があったんです。私が伺ったのは大好きな『エスパー魔美』が上映される回だったのですが、そのときご挨拶をしたら、原さんが「僕は原作クラッシャーじゃないですから安心してください」とおっしゃったんですよね。原:ふふふ(笑)。辻村:原さんにだったら、いかようにもやっていただいていいと思っていたのですが、たぶん原作の命が何なのかを見誤らない自信があるということなんだろうなと思ったのです。『カラフル』の原作を読んで映画を観た印象もそうでしたし、初期作品である『エスパー魔美』のときからずっとそこを大事にされていたんだな、と。改めて、原さんにお願いできるのはとても幸せだと感じました。原:幸いにも好きではない作品をアニメ化するようなことは、今まで経験がないんですよね。『エスパー魔美』にしても『ドラえもん』にしても、辻村さんと同じく藤子・F・不二雄先生にものすごいリスペクトがあるので、その上で面白くするにはどうしたらいいか考えてきました。辻村:アフレコの現場にお邪魔したとき、絵コンテを見せてくださって、より伝わる方法を相談されたことがありました。こころ役の當真あみさんが、間もなくオールアップするタイミングだったのですが、よりよい表現を探して、最後まで更新し続ける姿勢に感動しました。私はお名前を知る前から、原さんの作品に何度も出合っていたのですが、そうやって子ども時代に見ていた作品の監督と、大人になってクリエイターとしてひとつの作品に携われている。しかもそれが、大人と子どもの時間の物語である『かがみの孤城』で叶っているのが象徴的だと感じています。原:辻村さんが現場にいらっしゃったとき、全く構えずに迎えることができました。というのは、この映画は絶対に喜んでもらえるという確信が僕の中にあったんです。だから、どうぞ見てくださいって(笑)。辻村:その確信を監督が得ていることは私も感じていて、『かがみの孤城』をどんどんご自分のものにしていってくださった。例えば當真さんにこころ役をお願いすることになったとき、「こころを見つけました」とおっしゃったと伺ったんですけど、こころがどんな子かを完全に理解してくださったからこそ出てきた言葉だったんだろうなぁ、と。物語の世界観を監督自身が楽しんでくださっているのが、お会いするたびに伝わってきて心強かったです。原:アフレコでも前日や当日まで違うアイデアを探して、直前になってセリフやモノローグを追加したり、言い回しを変えたりっていうことを結構やってました。その辺はベテランなので、悪知恵が働くんですよ。辻村:いや、それは悪知恵ではなく、匠の技ですよ!今回、劇場で入場者特典を用意していて、物語が終わってからのみんなのその後をイラストのカードにしました。その絵をどんな場面にしたらいいか、映画制作の終盤に原さんと会議をしたのですが、私が思いつかないような角度から意見をいただけて、新鮮でした。原:絵に添える言葉を辻村さんが書いてくれたんですけど、面白くてもっと作りたかったくらい。この映画は、日々生きづらさを感じている子どもたち、大人たちにぜひ観てもらいたいですね。映画館に足を運ぶのもつらい人もいるとは思うのですが、ものすごく強い映画ができたので。「ワクワク」とか「ハラハラ」という例えは使いたくなくて、パッと浮かぶのが「強い」という言葉。観た人には絶対に伝わると思います。辻村:こころたちが鏡の向こうに居場所を作ったみたいに、自分が8番目の招待客になった気持ちで過ごせる時間だと思います。そして映画館の外に出たあとも、その世界は自分の中に残り続けてくれるはずです。『かがみの孤城』中学生のこころは、学校での居場所をなくし部屋に閉じこもっていた。ある日、部屋の鏡が光り、中に入るとおとぎ話に出てくるようなお城と、見ず知らずの中学生6人が。そして城に隠された鍵を見つければ、どんな願いも叶えてやる、と狼の面をかぶった少女に告げられる。果たして鍵は見つかるのか。なぜこの7人が集められたのか。世代を問わずすべての人に贈る至極のファンタジーミステリー。原作/辻村深月監督/原恵一制作/A‐1 Pictures声の出演/當真あみ、北村匠海、芦田愛菜、宮﨑あおい新宿ピカデリーほかにて公開中。©2022「かがみの孤城」製作委員会つじむら・みづき作家。2004年『冷たい校舎の時は止まる』でデビュー。『かがみの孤城』は2018年の本屋大賞を史上最多得票数で受賞。近作に『嘘つきジェンガ』『琥珀の夏』など。映画化作品は今回が5作目となる。はら・けいいちアニメーション監督。『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ! オトナ帝国の逆襲』『河童のクゥと夏休み』『バースデー・ワンダーランド』など国内外で高い評価を受ける。2018年、紫綬褒章を受章。※『anan』2023年1月11日号より。写真・土佐麻理子取材、文・兵藤育子(by anan編集部)
2023年01月10日Q-pot.(キューポット)が手がけるQ-pot CAFE.は、辻村深月の小説『かがみの孤城』とコラボレーション。2022年12月26日(月)から、限定メニューやスイーツがQ-pot CAFE. 表参道本店にて発売される。辻村深月の小説『かがみの孤城』とコラボ辻村深月の小説『かがみの孤城』は、青春期独特の繊細な感情や感性をリアルに描く、ファンタジーミステリー作品。2018年本屋大賞を受賞したベストセラー作品であり、2022年12月にはアニメ映画も公開される。そんな辻村深月の『かがみの孤城』とQ-pot.がコラボレーション。『かがみの孤城』の世界観を表現したQ-pot CAFE.のカフェメニューが展開される他、Q-pot. 各直営店では、コラボレーションアクセサリーを販売する。リボンを飾ったオオカミのスイーツプレートカフェで提供される「オオカミさまのかがみの孤城プレート」は、真っ赤なリボンクッキーを飾った“オオカミさま”のケーキが目を引く1皿。なめらかなカスタードミルクムースに、甘酸っぱいストロベリームースとパールクラッカン、ショコラジェノワーズをあしらった“オオカミさま”のケーキに加え、オオカミさまとかがみのクッキーや、フレーバーを選べるマカロンなどがセットになっている。また、シナモンが香るたっぷりのりんごジャムにアップルティーを注いだ「アップルシナモンフレーバーティー」も登場。ゆったりと過ごすティータイムに最適な、上品な香りを堪能できる。「オオカミさまのかがみの孤城プレート」とセットで味わうのもおすすめだ。オオカミやこころをイメージしたクッキー缶テイクアウトで楽しめる、Q-pot CAFE.のクッキー缶・プティフールセックも『かがみの孤城』仕様に。かがみに写るオオカミをイメージして立体的に仕上げたクッキーや、主人公・こころをイメージしたピンクのハートクッキーなど、9種類の焼き菓子がアソートされている。缶には、城で繰り広げられたお茶会の雰囲気を表現した切り絵タッチのオリジナルアートをレイアウト。おとぎ話の挿絵のような、ミステリアスな雰囲気が目を引く。【詳細】Q-pot CAFE./「かがみの孤城」コラボレーション販売期間:2022年12月26日(月)~2023年1月15日(日)場所:Q-pot CAFE. 表参道本店住所:東京都渋谷区神宮前3-4-8営業時間:11:00~19:00(L.O.18:30)※平日・土日祝同様年末年始休業:2022年12月30日(金)~2023年1月2日(月・祝)※2022年12月29日(火)は18:00閉店(ラストオーダー17:30)。※営業時間は変更になる場合あり。〈イートイン予約詳細〉開始日:2022年12月10日(土) 12:00予約方法:ウェブ、電話(03-6447-1218)予約可能時間:11:00/12:30/14:00/15:30/17:00メニュー例:・オオカミさまのかがみの孤城プレート ドリンクセット 2,100円・アップルシナモンフレーバーティー 850円※セットドリンクの場合+200円■プティフールセック&紅茶缶店頭発売日:2022年12月26日(月)~※Q-pot. オンラインショップでは2022年12月20日(火)10:00~発売。場所:Q-pot CAFE. 表参道本店※発売日や商品の仕様は、変更になる場合あり。・プティ フール セック・かがみの孤城 2,484円・アップルティー・かがみの孤城 1,404円【問い合わせ先】Q-pot CAFE. 表参道本店TEL:03-6447-1218
2022年11月13日YOASOBIの新曲「海のまにまに」が、2022年11月18日(金)に配信リリース。直木賞作家コラボ第3弾、辻村深月の小説を楽曲化“小説を音楽にするユニット”YOASOBIの「海のまにまに」は、直木賞作家とのコラボレーションプロジェクト第3弾となる新曲。辻村深月が“はじめて〇〇したときに読む物語”をテーマに書き下ろした小説「『ユーレイ』――はじめて家出したときに読む物語」を楽曲化した。小説の主人公は、家出をして海沿いの駅に降り立った少女。たどり着いた夜の海で、不思議な少女に声をかけられ、主人公は神秘的な一夜へと進んでいく...。新曲「海のまにまに」では、主人公の心の変化や、物語の舞台となる夜の海の情景を、サウンドで表現。不思議な世界観のミドルテンポナンバーに仕上げた。なお、「海のまにまに」のミュージックビデオは、アニメーション作家として様々な賞を受賞している土海明日香が監督を務めた。【楽曲概要】YOASOBI 新曲「海のまにまに」配信日:2022年11月18日(金)作詞・作曲・編曲:Ayase/歌唱:ikura原作:「『ユーレイ』――はじめて家出したときに読む物語」(辻村深月 著 / [『はじめての』(水鈴社刊)より])
2022年11月10日辻村深月さんの新作『嘘つきジェンガ』は、詐欺をテーマにした3作を収録。実はこれ、2012年に直木賞を受賞した『鍵のない夢を見る』と繋がりがある作品だ。『鍵~』は、どこにでもいそうな人々がままならない成り行きで泥棒や誘拐などの罪を犯す様子を描いた作品集で、初出は雑誌『オール讀物』だった。「次は詐欺の話を考えていたら、“枚数が揃ったのでこれで本にまとめましょう”と言われて書き損ねてしまったんです。それで、今度『オール讀物』で書く時は詐欺の話にしようとずっと思っていました(笑)」本書で最初に書いたのは、巻頭の「2020年のロマンス詐欺」。大学進学で上京した春にコロナ禍で入学式が延期となり、一人孤独に部屋にこもる青年が友人からネット上のロマンス詐欺に誘われる。「以前は振り込め詐欺などを考えていたんですが、10年経つうちに詐欺の形もずいぶん変わったので、人の恋する気持ちに付け込むロマンス詐欺を書きたくなって。実際に2020年は給付金詐欺に学生たちが協力してしまった出来事などもありましたよね。あの時期ってみんな不安で、情報が欲しくてネットにアクセスした結果、道を踏み外した人も多かったと思う」これを書き上げた時、今回は詐欺をテーマにした作品集にまとめようと決めた。「詐欺は人の願いや不安に付け込む犯罪。今を生きる人が何を望んでいるのか、何を怖がっているのか、時代の空気感が滲みますよね。それを小説の形で真空パックしてみたいな、と。それと、詐欺ってなんだかジェンガみたいだなと思って。自分が絶妙なバランスをとりながら相手がバランスを崩すことを祈り、崩壊したら終わるゲームですから」2編目の「五年目の受験詐欺」は、息子が私立中学入試に臨む際、合格させるために夫にも黙って学校関係者という相手に金を払った母親の話だ。5年後、あれは詐欺だったと判明するのだが…。「あらゆる詐欺の被害者が感情移入できる要因を持つ被害者を描き切りたいと思いました。被害者の中には、騙されたと分かった後も、当時の心理状態ではお金を払わない選択肢はないと感じる人も多いと思うんです。それにこの母親が息子の実力を信じられなかった後悔や、息子が実力で受かったんだと喜ぶ権利を奪われた悔しさを抱くように、いろんな感情が入り交じるんじゃないかな、って」3編目は「あの人のサロン詐欺」。SNSで人気漫画の原作者と間違えられたことを機に、本人になりすまし、創作講座まで開き、長年にわたりファンを騙し続けている紡という女性が主人公だ。「書いていてめちゃくちゃ楽しかったです。もしも自分になりすましてサロン詐欺を働いている人がいたら、私は絶対に参加しに行きたい(笑)。偽者の言動を見て、私ってこういう発言をする人だと思われているのか、とか自分を客観的に知れそうです」紡は、作品解釈でも講座でのアドバイスでも、本人が言いそうなことを徹底的に研究している。「彼女はお金のために騙しているのではなく、充実感や高揚感、自己実現感が欲しいんですよね。やっていることは詐欺ですが、そのためにめちゃくちゃ努力していて、なんだか愛おしい」しかし、予想外のところに落とし穴が待っていて…。どの話も、終盤に予想外のもう一展開が待っていて、さらなる驚きだけではなく、読み手の心を揺さぶる結末となる点が秀逸だ。「3編とも詐欺というジェンガは崩壊しますが、今回はその先を書きたい、というのがあって。失敗してもう終わりだと思っても、意外と人生って終わらない。そこからも生きていかなければならない強さを書きたかったんです。現実の世界で人のミスを許さない風潮がすごく強くなったと感じるので、あえてこういう話にしたくなった気がします。誰かの生き方を他者が正解か間違いか、幸せか不幸かを評価することなんてできない、ということが3編ともに表れていたら、嬉しいです」『嘘つきジェンガ』大学進学で上京したが、コロナの影響で入学式は延期。自宅で孤独に苛まれる耀太は妙なアルバイトに誘われ…。「2020年のロマンス詐欺」ほか2編。文藝春秋1815円つじむら・みづき2004年「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞を受賞しデビュー。’11年『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、’12年『鍵のない夢を見る』で直木賞、’18年『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞。※『anan』2022年9月28日号より。写真・増田彩来(辻村さん)中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2022年09月26日辻村深月の小説をアニメーション映画化する『かがみの孤城』の超特報映像が公開された。本作の主人公は、学校での居場所をなくし、家に閉じこもる中学生のこころ。映像では、「たとえば、夢見る時がある。転入生がやってくる。その子はなんでもできる、素敵な子」と、こころのモノローグから始まる。誰にも言えない秘めた思いを語るこのセリフは、原作冒頭に登場する印象的なモノローグを引用したものだ。また、こころの足元や、光る鏡に手を触れようとしている手元、7枚の鏡が並ぶ広間、海の上にそびえ立つ城など、印象的な情景が映し出されており、本作の世界観が感じられる。本作を手掛けるのは、“泣けるアニメーション”の名手と呼び声高い原恵一監督。制作は、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(’13)、『心が叫びたがってるんだ。』(’15)などを世に送り出してきた「A-1 Pictures」が手掛ける。原恵一監督コメント監督は孤独だ、などと云う。それは実際その通りで、自分は孤独では無い、なんて云う監督は大嘘付きか大馬鹿者だし、孤独に耐える覚悟が無い人間は監督なんかやるべきじゃない。スタッフ、キャストの仕事をジャッジして、OK、NGを決め、進むべき方向を示さなければならない。それは個人の意地を貫くことで、故にその責任を負うには孤独である必要があると思うのだ。そんな監督仕事ではあるが、甘美な瞬間がある。それは作品が、自分の思っている以上のものになる予感を感じた時、監督をやって良かった、としみじみ思うのだ。今、『かがみの孤城』という映画を作りながら、そういう予感を感じ、ワクワクと仕事をしている。『かがみの孤城』は冬、公開予定。(cinemacafe.net)■関連作品:かがみの孤城 2022年冬、公開予定©2022「かがみの孤城」製作委員会
2022年07月21日辻村深月の小説を原作に、成井豊が脚本・演出を手がけた舞台2作品を回替わりで上演する「辻村深月シアター」。そのラインアップのひとつである『ぼくのメジャースプーン』は2006年に刊行され、小学生の目線から“罪” と“罰”について描いた辻村作品初期の傑作ミステリーだ。舞台化にあたって、飼育小屋のウサギ殺しで同級生ふみちゃんの心を壊した医大生と対峙する主人公・小学4年生の「ぼく」役に、成井の脚本・演出作『エンジェルボール』(2018年)に出演した田中亨がキャスティング。「ぼく」と同じように、声で他人の心を操る能力を有する大学教授・秋山一樹役には演劇集団キャラメルボックスの岡田達也が名を連ねた。「ぼく」と秋先生の個人授業がメインを占める本作では、必然的に二人の掛け合いが多くなる。稽古場の近辺で散歩がてらセリフを合わせる田中&岡田“師弟”の目撃談が寄せられるようになった4月末、原作者×脚本・演出家×主演を支える岡田が一堂に会し、チケットぴあのインタビューに応じた。成井さんのお芝居に影響を受けて生まれた『ぼくのメジャースプーン』(辻村)──辻村さんは「この先、成井さんに一生、自分の他の小説を舞台化してもらえなくても後悔しないから、この小説だけは絶対にお願いしたい」と手紙を渡したというほどの強い想いで『ぼくのメジャースプーン』の舞台化を依頼したとお聞きしました。なぜ他の作品でなく、『ぼくのメジャースプーン』だったのでしょうか?辻村成井さんにその頃に舞台化していただいた『かがみの孤城』があまりに素晴らしかったから、ですね。もともと成井さんが原作を好きでいてくださるのは知っていたのですが、小学生の役を大人が演じなければならないというのがネックなのかな、とずっと思っていて。だけど『かがみの孤城』は中学生の主人公たちを大人が演じても、舞台上でまるで違和感がなかった。辻村深月シアターチラシ。再演『かがみの孤城』との2本立てで上演上演時間120分という制約がある中で、原作の世界観を取りこぼさず完璧に再現してくださった成井さんですから、『ぼくのメジャースプーン』についても見事につくり上げてくださるに違いない、「成井さんの『ぼく』と秋山教授を見るまでは死ねない!」という気持ちが抑えられなくなったんです(笑)。そこで、初演の千秋楽にそのことを書いたお手紙をお渡ししました。いま考えても不躾なお願いだったと思うのに、まさか叶えてくださるなんて……。成井光栄でしたね。辻村私、大学進学で上京する高校3年の春休みに初めてキャラメルボックスのお芝居を拝見したんです。以降、学生時代と社会人になってからも成井さんの作品は可能な限り追いかけて観るようになって。その期間って、私が小説家になるまでとちょうど重なっているんです。だから「自分もこんな作品を書いてみたい」という創作意欲もかき立てられました。──成井さんやキャラメルボックスの演劇作品が、辻村さんの創作に影響を与えたのでしょうか?辻村そうなんです。中でも『ぼくのメジャースプーン』は私の初期作で、成井さんのお芝居から受けている影響が特に色濃く出ている小説だと思います。書いている時は無意識だったのですが、何年もしてから設定を見返した時に、「ぼく」と秋先生が持つ、声で他人の心を操る能力は……ひょっとして『嵐になるまで待って』(1993年初演:以降、1997年・2002年・2008年・2016年に上演)を観ていたことが遠からず刺激になっていたんじゃないかと気づいて。岡田僕、1997年と2002年の上演版で波多野を演じています! 波多野は、普段出している声の裏側に潜んでいる“ふたつめの声”で相手を思い通りに動かしてしまう……という人物だったんですけど。辻村だから今回、岡田さんが同じく声の力を操る秋先生を演じてくださると知った時は、すごく嬉しくて! キャラメルボックスの作品で、ずっと青年の主人公を演じているのを観てきた岡田さんが、今度は次世代の「ぼく」を支える秋先生……主人公の成長を見守る大人の立ち位置で出演してくださることもファンとしては感慨深いです。とても楽しみにしています。劇中でもリアルでも、秋先生として「ぼく」にとことん向き合う(岡田)──成井さん・岡田さん・「ぼく」の母を演じる原田樹里さん・仲村和生プロデューサーによる座談会動画で、「秋先生は、『嵐になるまで待って』の波多野と広瀬教授を一緒にやる感覚なのでは?」という話題になっていましたよね。岡田秋先生と波多野には、声で人を動かすという共通項がありますよね。不思議な能力を持つ役を、人生で何度も演じる機会ってそうそうないので縁を感じました。『嵐』の広瀬教授は、物語を転がしていくストーリーテラーの役割があって。『ぼくのメジャースプーン』の秋先生にも似たような側面があると思う一方で、いま実際に稽古を始めてみると……もう『嵐』との類似点を顧みる余裕がなくて(苦笑)成井体感だと、小説の80%が「ぼく」と秋先生の個人授業ですからね。自分たちの能力や、ふみちゃんの心を踏みにじった犯人とどのように向き合うべきか、秋先生が「ぼく」をリードしながら議論を深めていくので……セリフ量も膨大です。岡田まさに、そのセリフ量の多さに身構えています(苦笑)。「ぼく」も秋先生も言葉数が多い人物なので……「どちらかが忘れたら終わり」って恐怖がある。だから田中くんをしょっちゅう捕まえて、稽古場の周りを散歩しがてら二人でブツブツ、よくセリフを返していて。──「辻村深月シアター」の回替わり上演作『かがみの孤城』で主演を務める田野優花さんからも、その目撃談をお聞きしています! 田野さんは、『ぼくのメジャースプーン』にも『かがみの孤城』と異なる役柄で出演されますし、共演者の皆さんもお二人の様子はよくご覧になっていらっしゃるのでしょうね。岡田秋先生って「ぼく」とたくさん対話する役どころ。だから稽古を離れても、リラックスしながらフラットに何でも話せる関係性をつくりたかったんです。何か思いついたり、「これを試してみたい」って希望があれば互いに伝えるようにして、普段から信頼してもらえる方がいいのかなって。劇中でも日常でも、目の前にいる田中くんと「ぼく」にとことん向き合えたら……と思っています。──座談会の動画で、成井さんは「亨くんはハマり役」とおっしゃっていました。田中さんのどんなところが「ぼく」にぴったりだと思われたのでしょうか?成井亨くんって特別に「ぼく」に向けて準備しているのかな?岡田どうでしょうね。一緒に過ごしている限り、彼の“まんま”な気がしますけどね。成井僕にも“まんま”に見えるの! キャラクターが近いのかな。まさに「ぼく」なんですよね。以前『エンジェルボール』でも小学生を演じてもらったんだけど、ピュアで素朴なあどけなさをストレートに表に出せる。無理やり演じている感じじゃなくて、とっても好印象でした。今回も「ぼく」という子が持つナイーブな一面を、つくりものじゃなしにスッと形にしてくれるんじゃないかな。──犯人のどうしようもない悪意に対して、自分に胸を張れる制裁を徹底的に考え抜く「ぼく」は、普通の小学4年生であれば直面しなくてよかった難しい問題を考える立場で、その言動に知性の高さを感じます。形にするのが難しそうな彼の人物像を、成井さんはどうやって演出していらっしゃるんですか?成井犯人を罰するために「ぼく」が能力の使い道をあれだけ深く考え抜くのは、ひとえに傷ついたふみちゃんの存在があるから。知性の高さが小学生離れして見えたとしても、その気持ちは納得できるじゃないですか。クライマックスを過ぎたところで登場する「好きという気持ち」について秋先生と語るシーンのセリフに象徴されるんじゃないかな。──「ぼく」が、ふみちゃんを想ってしようとしていた制裁が本当は何のためだったのかについて葛藤するシーンですね。成井あの事件がなかったら、「ぼく」はそこまで深く物事を考えなかったんじゃないでしょうか。もうちょっと、のんびり暮らしている子どもだったかもしれない。けど、陰惨な事件と他者の心を操る能力を持っていることによって……思考せざるを得なかった。その結果、並の小4とは思えないような高い知性を獲得した。そんなバックボーンを持った人物像だと受け止めています。弟子が師匠を超える「奇跡」を目の当たりにして(成井)──成井さんは元高校教師だったご経験から、「教育というテーマが好き」と座談会動画でおっしゃっていましたよね。「少年少女が周囲の大人に促されて成長していくさまを大切に描きたい」とも。そういった要素を『ぼくのメジャースプーン』ではどのように結実させていらっしゃるのでしょうか?成井教育の現場では「教わる側」だけじゃなく、「教える側」にも変化や発見がある。それが醍醐味であり、おもしろいところなんです。教師に限らずいろんな立場の人が「教える側」を経験することで、奇跡を目の当たりにできる。自分の働きかけによって「こんなによくなっちゃうの?」「昨日まで全然ダメだったのに、できちゃったね!」と感じられるのは幸せなことです。──では『ぼくのメジャースプーン』の師弟といいますか、「ぼく」と秋山教授に起きた奇跡って?成井「ぼく」が犯人に提示した条件ですよね。辻村さん、僕も秋先生と一緒にすっかり「ぼく」に騙されましたよ。辻村ありがとうございます!成井よりによって、犯人にあんな条件を提示するなんてね。秋先生は「ぼく」を叱ったけれど……ご本人は認めないでしょうが、「許せない」のではなく彼に「負けた」と感じているんじゃないかな。きっと苦い敗北感で90%占められているだろうけど、残りの10%はどこかで嬉しかったはずですよ。──嬉しさ10%の内訳を教えてください。成井想定していない「別解」を教え子に見つけられると、すっごい悔しい一方でちょっとだけ嬉しいんです。弟子が師匠を超える瞬間も、またひとつの奇跡でしょう? 教え子に負けるのって、どこか気持ちいいんですよね。自分の働きかけが功を奏したって証明されたわけだから。劇中でも、こうした「奇跡」がクライマックスからラストにかけて、とても素敵な形で描かれています。辻村もう、いまから楽しみでなりません!『ぼくのメジャースプーン』も回替わりで上演される『かがみの孤城』も、主人公ははじめ大きな悪意にさらされます。でも彼らがいろんな経験や出会いを通じて辿り着いた場所を、皆さんにも一緒に観てほしいです。演劇って、本当にすごいことだと昔から感じているのですが、観客それそれがさまざまに抱える現実がある中で、劇場という同じ場所に集って、舞台上に共通の「リアル」を見る。皆でひとつの物語に心を寄せたあと、劇場から出て日常に戻った時、それは私たちの大きな活力になります。私が学生時代に成井さんのお芝居を観て受け取ってきたその力を、自分の原作で届けることができるなんて、とても幸せな未来にきたと感じています。両作品とも、どうか皆さんの胸に届きますように!取材・文=岡山朋代撮影=源賀津己<公演情報>NAPPOS PRODUCE 辻村深月シアター『ぼくのメジャースプーン』東京公演は2022年5月29日(日) までサンシャイン劇場にて上演※『かがみの孤城』との交互上演。6月4日(土) 新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場公演あり※当初予定していた5月20~24日の公演は中止になりました。チケットはこちら:
2022年05月23日辻村深月の小説を原作に、成井豊が脚本・演出を手がけた舞台2作品を回替わりで上演する「辻村深月シアター」。そのラインアップのひとつである『かがみの孤城』は2020年夏に上演され、好評のうちに幕を閉じた。早くも再演となる今回は、同級生の悪意に傷つき家に引きこもる中学1年生の主人公・こころに田野優花がキャスティング。初日を約3週間後に控えたタイミングで原作者×脚本・演出家×主演俳優が一堂に会しインタビューに応じた。小説の登場人物と同じ1年を共有したんじゃないか、と思える魔法(辻村)──『かがみの孤城』以前にも、辻村さんの小説を成井さんが舞台化する取り組みは『スロウハイツの神様』(2017年初演)で実現しており、成井さんのつくり出す劇世界を辻村さんが信頼されているご様子は過去のインタビューで拝読していました。改めて、辻村さんが考える初演版『かがみの孤城』の素晴らしかったポイントを教えてください。辻村もう「すべて」とお答えしたいくらい。私も劇場に通って何度も観劇しました。特に嬉しかったのは、演劇ファンの友人たちから「何度も観てるみたいだけど、毎回こんなに気持ちを揺さぶられるのは大変じゃない?」という感想をもらったことです。日ごろ演劇を観慣れている人たちの期待にも十分に応えられるほど、観る人の心を揺さぶるお芝居だったんだなって。成井ありがたいお言葉ですね。辻村キャラメルボックスの作品を最初に観たのが、大学進学前、高3の春休みで、その頃から、成井さんのお芝居には、「成井さんにしかかけられない“魔法”」があると感じていました。それが、自分の小説を原作に実現したことにものすごく感動したんです。客席で周りの人たちに「すごいでしょう?この舞台の原作書いたの私なんです!」と宣言したいほど、誇らしかった(笑)。辻村深月シアターチラシ。今回は新作『ぼくのメジャースプーン』との2本立て──成井さんは、辻村さんのおっしゃる“魔法”をどうやって形にしているのでしょうか? 成井さんの手がける原作ものの舞台について、「オリジナルを尊重した姿勢が伝わる」「小説と同じ読後感を得られた」といった感想をよく見かけますが、そういった価値を観客に届けるために心がけていることは?成井素材のよさをいかに伝えるか──に尽きるんですよね。「惚れ込んだ原作を舞台にしたい」という前提があるので、もう“まんま”やるのがいちばんだけど……それは不可能。だから120分の上演時間を念頭に、エッセンスを取捨選択していきます。もう、いつも涙を飲みながらカットしてね(苦笑)。『かがみの孤城』もご多分に漏れず苦心惨憺したけれど、結果的に僕としては「これ以上は切れない」というギリギリラインの“最良”がつくれたと思っていて。でも、いつもそのくらい綱渡りなんですよ。辻村さんや原作のファンがどう感じるかは、また別の話だと思いますが。──でも、辻村さんは成井さんの“取捨選択”に信頼を寄せていらっしゃる。原作を想う成井さんの気持ちが伝わって、おふたりは相思相愛のように映っています。辻村その言葉は光栄ですし、嬉しいです。 成井さん、いつも「カットするのに苦労した」とおっしゃるんですけど……不思議なことに、どこも削っていないように見えるんです。私が「演劇で観たかった」と思うポイントが、ひとつも取りこぼさずに盛り込まれているんですよね。本当に1年間、こころや彼女が出会う6人の仲間たちと『かがみの孤城』で過ごしたんじゃないかと思えるような作品になっていて。たぶんこの「登場人物と同じ時間を共有した」という感覚が、舞台をご覧になった方の「小説と同じ読後感」という感想に繋がっているのではないでしょうか。田野さんは主人公の切実さが2階席最後列まで届く「声」の持ち主(成井)──初演をご覧になっていたら、田野さんにご感想をお聞きできれば。田野無意識のうちに影響されてしまうのでは、と思って……実はじっくり拝見していないんです。ただ初演に携わった皆さんのつくり出したものが好評を得て、今回の再演があるとお聞きして。それで主人公を務め上げる覚悟が決まりました。キャストも初演から半数以上が変わっているので、また異なるエッセンスを足して『かがみの孤城』の素晴らしさを届けていきたいですね。成井田野さんはね、初対面で「ものすごく声がキレイな子だな」と思って驚かされました。マイク慣れしているアイドル(AKB48)出身でありながら、腹式呼吸と共鳴を完璧にマスターしていることが伝わってきて。それで稽古に臨んだら、本当に響くいい声をしているんです。舞台俳優というのは、何より“声”ですから。田野ありがとうございます、励みになります。──田野さんの声のよさって、こころを演じるうえでどんな効果が期待できるのでしょうか?成井存在感ですよね。やっぱり劇団☆新感線を観に行くと、古田新太さんに釘付けになるじゃないですか。圧倒的ですよね、声と滑舌のよさが。つい目が、古田さんを追ってしまう。そういう華のある存在感が、田野さんにもあります。サンシャイン劇場の2階席最後列まで、こころの切実さが届くんじゃないかな。辻村古田さんと同じ存在感!(笑)成井あとは表現力。豊かにもなるんだけど、繊細さも打ち出せるんです。声が通る人ってボリュームを落としても客席に届くからね。中劇場より大きい場所になると、オペラグラスを使わなければ客席後方から役者の顔は見えません。この条件で再び古田さんを例に出しますけど……彼って姿かたちが見えなくても、声がよくて演技がうまいから「表情まで見えている」と錯覚しちゃうんですよね。声がいいと、後方からの見え方までカバーできる。──田野さんにも、古田さんに迫る表現力が?成井そうそう(笑)田野光栄です(爆笑)成井あと、田野さんって度胸がいいよね。頭で考えるより、その場でパッと思い浮かんだことを「やっちゃえ」って形にするタイプじゃない?田野はい!成井それがね、すごいのびのびやっているように見えて清々しいんですよ。同級生のいじめに遭っているこころはツラい役どころの一方で、『かがみの孤城』で出会う仲間たちと親しくなっていくと、だんだん本来の明るさを取り戻していく。春に彼らと知り合って、クリスマスパーティーをやる頃にはもうかなり打ち解けていてね。そのさまを田野さんがのびのび演じてくれる姿も「いいな」と感じていますよ。いじめから救われた実体験を、私だけのオリジナリティに(田野)──稽古は4月上旬に始まったそうですね。主演として参加している手応えを教えてください。田野気負わず稽古に臨んでいます。先ほど辻村さんと成井さんの「相思相愛」ぶりが話題に挙がりましたが、信頼し合っているおふたりの姿を拝見していると、この台本通りに自分がその場で感じたことを形にすれば「正解なんだ」と感じられる環境でして。本当に自由にやらせてもらっています。──先ほど「初演と異なるエッセンスを足して、『かがみの孤城』の素晴らしさを届けていきたい」とおっしゃっていました。田野さんだけのオリジナリティをどうやって主人公のこころに乗せているのでしょうか?田野私もこころと同じように、中学生の頃いじめに遭っていたんです。だから彼女に対して、親近感が湧くんですよね。当時の感情を活かせる場面もありますし。でも『かがみの孤城』はあくまでも演劇作品ですし、原作小説もあるわけだから、私情を乗せすぎることはよくない。劇世界に没入しすぎず、客観視もしながら作品のメッセージをシンプルに、ストレートに伝える。そのバランスを取るのがすごく難しいんですけど……なぜか「私ならできる」と感じてもいて。──その静かな自信はどこから来たんでしょうね? 脚本を信じて、のびのびと主人公を演じられていることの源泉に何があるのかな、と。田野(しばらく考えて)私がのびのび稽古できているのは、『かがみの孤城』という作品と、周りにいるキャスト・スタッフの皆さんを信頼しているからなんですよね。それに、自分が経験した“いじめ”を無駄だと感じていないことも大きいかもしれません。いじめに遭ったからといって、私はいわゆる「かわいそうな子」ではなかったんですよ。──自分のことを「かわいそう」と思ってはいなかった?田野はい。いじめの原因がわからず本当にツラかったですけど……「こんな目に遭ってしまう私かわいそう」と、悲劇のヒロインのように自分を受け止めることはなかったですね。そう感じられたのは、救いの手を差し伸べてくれる家族や友人が周りにいたから。そういう人たちと一緒にいて楽しかったですし、周りの人間や自分の度胸を信頼する力に繋がったと思います。そういう経験が、『かがみの孤城』で出会った仲間と打ち解けていく時にも活かされるんじゃないかな、って。──いじめを受けながらも周りの人に救われた経験を、こころに乗せていらっしゃるんですね。田野そうですね。すごく役に立っていますし、私なりのオリジナリティを発揮できるポイントのような気がしています。取材・文=岡山朋代撮影=源賀津己<公演情報>NAPPOS PRODUCE 辻村深月シアター『かがみの孤城』2022年5月20日(金) ~5月29日(日) 東京・サンシャイン劇場※『ぼくのメジャースプーン』との交互上演。新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場公演ありチケットはこちら:
2022年05月16日『ハケンアニメ!』のスピンオフ集『レジェンドアニメ!』について、作者の辻村深月さんにお話を聞きました。『ハケンアニメ』から『レジェンドアニメ』へ、出会った人たちが一緒に大きくしてくれた。「『ハケンアニメ!』を書き終えてから、スピンオフをいつかまた書きたいと言い続けていました。小説のご依頼が来るたびに、その機会を探っていたのですが、そうやって書いてきたものが形になって、しかも映画の公開のタイミングで送り出すことができて、とても嬉しいです」アニメ業界で働く人々の奮闘を描きanan連載時から反響を呼んだ辻村深月さんの『ハケンアニメ!』。連載スタートから10年の時を経て、実写映画版が公開されるのに先立ち、スピンオフ集『レジェンドアニメ!』がリリース。天才監督と称される王子千晴、デキるプロデューサーの有科香屋子、新人監督・斎藤瞳などハケン(覇権)を取るためにしのぎを削った面々の、ときに意外で、ときに納得しかない過去や未来のエピソードを楽しめる。「最初に書いた『九年前のクリスマス』と『夜の底の太陽』は、『ハケンアニメ!』を一緒に送り出してくれたananチームの人たちが、『こういう話が読みたい!』と言ってくれたのがきっかけになっています。私にはない発想でしたが、書いてみると『ハケンアニメ!』の裏で起こっていたとしか思えないような話になっていて。いろんな立場の人が集団でクリエイトするところに惹かれ、アニメ作りを小説の題材に選んだのですが、多くの人が関わるからこそ余白の部分がこんなにもあったことを『レジェンドアニメ!』を書きながら実感しました」王子の新人時代を描いた「音と声の冒険」は、彼の恩人であるベテラン音響監督・五條とのやり取りとともに、音響監督というアニメを見る側からは一見イメージしにくい仕事についても掘り下げている。余白から、スピンオフとしてはもちろん、独立した短編としても楽しめるほど豊かな物語を生み出すことができるのは、辻村さんのアニメに対する思いの“深化”もあるからだろう。「『ハケンアニメ!』は、ただただアニメが大好きで書いたのですが、その後、『映画ドラえもん』の脚本をやらせてもらうなど、制作に関わる機会がいくつかありました。そういった現場に行くと、私が小説で書いたことを本当にやってる!と嬉しくなって(笑)。登場人物たちの気持ちに沿って言わせていたセリフのなかにも、あとから知る感情などがいっぱいあって、なかでも音の現場により惹かれたんです。特に音全般を見る音響監督は、直接声を吹き入れたり、作曲をするわけじゃなくても、その仕事にかなり個性が出るし、経験を積まないとできない仕事なのだろうなと思いました。それを五條で描くのであれば、若いときの社会性ゼロな王子も描いてみたいと思ったのですが、私も30代から40代になったことで下の世代を見る目が変わったと思うんですよね。だから前作で五條と王子の関係をもっと書いていたら、こうはなっていなかったかもしれないし、私自身の仕事観が変わったからこそ、今回書けた人たちもたくさんいると感じています」一方、連載終了直後から辻村さんが温めてきたテーマのひとつが、今回書き下ろした「ハケンじゃないアニメ」。その期一番とされる「覇権アニメ」を争うフィールドにはいないものの、誰もが必ず通ってきたような長寿アニメを作る現場の話だ。「これも『ドラえもん』のスタッフのみなさんと会って、次に向けてバトンを渡していく姿を見られたことで、出てきた発想でした。『名探偵コナン』の元企画プロデューサーの諏訪(道彦)さんに取材を受けていただいたことも大きかったですね。『コナン』はこれまで何回も覇権を取っている作品ですし、アニメを長く続けていくことは継承なのだと感じることができました。この10年でアニメを取り巻く状況も変わってきているので、当初は瞳も王子も出てこない次世代の話を書くべきなのかなと思っていました。だけどその傍らで続いてきたものを書くことにこそ、意義を感じたんです」「ハケンじゃないアニメ」に登場するのは、『お江戸のニイ太』という30周年を迎える国民的アニメ。プロデューサーの和山は、『ニイ太』のように安定を求められる制作現場でモチベーションを保つ難しさを感じていた。そんななかOPアニメを担当することになったのが、旬の監督と目される斎藤瞳。しかし和山の過度な期待とは裏腹に、瞳は『ニイ太』をほとんど知らないことが判明。「『ハケンアニメ!』はアニメ愛の話だと、私自身も言ってきたのですが、だからといって愛を言い訳にするのもカッコ悪い。愛情とか自分の思い出などには寄りかからない仕事のしかたを、瞳を通して描いてみたかったんです。愛を押し出して仕事をするやり方ではないけれど、作品やファンに対して敬意を持っている瞳が、長く続いているアニメの現場にゲストとして加わることで、見えてくるものもあると思うのです」辻村さん自身は、愛と敬意の両方を持って仕事をする人であることを窺えるエピソードがもうひとつある。『ハケンアニメ!』は2019年に舞台化されているのだが、舞台オリジナルのキャラクターが『レジェンドアニメ!』に登場しているのだ。「私が描ききれなかったアニメーターの感情の機微などまで、原作という設計図通りに表現してくださっていたので、そのときすでに構想していた短編『次の現場へ』に彼らにも“出演”してもらいたくなって。同じように、今度は映画を通して書きたくなるものが、きっとまた出てくるんでしょうね」『ハケンアニメ!』から『レジェンドアニメ!』へ。チームで進めるアニメ制作に対し、小説の執筆は孤独な作業といえるが、辻村さんが抱いている本作の印象はちょっと違う。「自分が書いた話ではあるんですけど、取材させてもらった人が共に大きくしてくれた話なんですよね。しかも映画になることで、旅の仲間がさらに増えていく感じがあって、その人たちからもらった影響が、また原作に返ってくる。10年前、心細い気持ちで最初の取材をさせてもらったクリエイターの方たちが、今回、劇中アニメの制作に関わってくれているのも感無量です。とても幸運な小説だと思っています」辻村深月『レジェンドアニメ!』いつかの仲間がライバルになり、その逆もしかりのアニメ制作現場。おなじみのキャラクターの別の一面を楽しみつつ、再び熱い思いが湧き上がる。書き下ろしを含む6作品を収録。3月3日発売。マガジンハウス1760円辻村深月『ハケンアニメ!』アニメ業界の舞台裏を描いたお仕事小説。『レジェンドアニメ!』を読んでから再読すると、また発見が!マガジンハウス968円5月20日公開!映画『ハケンアニメ!』も待ちきれません!アニメの力を信じ、チャンスを掴んだ新人監督・斎藤瞳を吉岡里帆、彼女を振り回すプロデューサー・行城理を柄本佑、崖っぷちに立たされた天才監督・王子千晴を中村倫也、王子の才能に人生を懸けるプロデューサー・有科香屋子を尾野真千子が熱演。彼らが作る劇中アニメ『運命戦線リデルライト』と『サウンドバック 奏の石』のプロットを辻村さんが手がけ、制作にはProduction I.Gをはじめ、日本を代表するトップクリエイターが参加。声優陣も豪華!監督/吉野耕平脚本/政池洋佑出演/吉岡里帆、中村倫也、柄本佑、尾野真千子ほか5月20日より全国公開。©2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会つじむら・みづき小説家。2004年、「冷たい校舎の時は止まる」でデビュー。’12年『鍵のない夢を見る』で直木賞受賞。’18年『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞。近著に初の本格ホラーミステリー長編『闇祓』。※『anan』2022年3月9日号より。写真・土佐麻理子(辻村さん)中島慶子(本)インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2022年03月07日辻村深⽉の⼩説『かがみの孤城』がアニメ映画化。2022年12月23日(金)に公開される。ベストセラー小説『かがみの孤城』をアニメ映画化『かがみの孤城』は、累計発⾏部数160万部を突破している直⽊賞作家・辻村深⽉のベストセラー⼩説。本屋⼤賞15年間の歴史の中で歴代最多得票数を獲得し、2018年本屋⼤賞を受賞した人気作だ。2019年にはコミカライズ、オーディオブック化、2020年には舞台化されるなど様々なコンテンツで注目を集めている。そんな『かがみの孤城』がアニメ映画化。青春期独特の繊細な感情や感性をリアルに描いたファンタジーミステリーが、アニメーションとしてスクリーンに映し出される。<アニメ映画『かがみの孤城』あらすじ>学校での居場所をなくし、部屋に閉じこもっていた中学生・こころ。ある日突然部屋の鏡が光り出し、吸い込まれるように中に入ると、そこには不思議なお城と見ず知らずの中学生6人が。さらに「オオカミさま」と呼ばれる狼のお面をかぶった女の子が現れ、「城に隠された鍵を見つければ、どんな願いでも叶えてやろう」と告げる。期限は約1年間。戸惑いつつも鍵を探しながら共に過ごすうち、7人には一つの共通点があることがわかる。互いの抱える事情が少しずつ明らかになり、次第に心を通わせていくこころたち。そしてお城が7人にとって特別な居場所に変わり始めたころ、ある出来事が彼らを襲う―。果たして鍵は見つかるのか? なぜこの7人が集められたのか? それぞれが胸に秘めた〈人に言えない願い〉とは?すべての謎が明らかになるとき、想像を超える奇跡が待ち受ける―。直木賞作家・辻村深⽉が原作者原作者の辻村深⽉は、2004年『冷たい校舎の時は⽌まる』でデビュー。映画化もされた『ツナグ』で第32回吉川英治⽂学新⼈賞、『鍵のない夢を⾒る』で第147回直⽊賞を受賞。⽇本アカデミー賞を含め多数の賞を受賞した『朝が来る』や、2022年5⽉に劇場公開となる『ハケンアニメ!』など、これまでにも数々の作品が映画化されている人気作家だ。當真あみが主人公の声に&北村匠海、宮﨑あおいら豪華キャストも『かがみの孤城』の主人公・こころの声を演じるのは、當真あみ。話題の新人女優が抜擢された。また、北村匠海、宮﨑あおいをはじめ、吉柳咲良、板垣李光人、横溝菜帆、高山みなみ、梶裕貴、麻生久美子、矢島晶子、美山加恋、池端杏慈、吉村文香といった豪華俳優陣・声優陣も集結。■主人公・こころ…當真あみ学校での居場所をなくし部屋に閉じこもっていた中学生。■リオン…北村匠海サッカーが得意で、誰にでもフラットに接する爽やかな少年。■アキ…吉柳咲良しっかり者で、皆のお姉さん的な存在。■スバル…板垣李光人飄々とした、どこか浮世離れした雰囲気の少年。■フウカ…横溝菜帆幼少時から生活全てをピアノに費やす眼鏡女子。■マサムネ…高山みなみゲーム好きな皮肉屋。■ウレシノ…梶裕貴恋愛気質で惚れっぽく、マイペース。■こころの母…麻生久美子■喜多嶋先生…宮﨑あおいこころを優しく見守るフリースクールの先生。■オオカミさま…芦田愛菜オオカミのお面を被った謎の少女。「鏡の中の城」にこころを含めた中学生7人を集める、物語の鍵となる人物。■伊田先生...藤森慎吾こころの担任教師。■養護の先生...滝沢カレンこころが通う中学校の養護の先生。監督は原恵一『かがみの孤城』のアニメ映画化を手掛けるのは、“泣けるアニメーション”の名手と称される原恵一監督。『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』『河童のクゥと夏休み』『カラフル』『百日紅~Miss HOKUSAI~』などを代表作に持ち、2018年には高畑勲、大友克洋に続き、アニメーション監督では3人目となる紫綬褒章を受章するなど、国内外で高い評価を得ている。また、制作は『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』『心が叫びたがってるんだ。』など、名作青春アニメを多数世に送り出してきたA-1 Picturesが担当する。主題歌は優里による書き下ろし「メリーゴーランド」映画『かがみの孤城』の主題歌は、優里による書き下ろし楽曲「メリーゴーランド」。優里初の映画主題歌となる。優里は「メリーゴーランド」について、「この曲がみなさんの"一人じゃない"未来に寄り添っていけたら嬉しいです」とコメントを寄せた。日本アカデミー賞 優秀アニメーション作品賞受賞第46回 日本アカデミー賞にて、映画『かがみの孤城』が優秀アニメーション作品賞を受賞。2023年3月10日(金)に開催予定の第46回 日本アカデミー賞 授賞式にて最優秀賞が発表される。【詳細】アニメ映画『かがみの孤城』公開日:2022年12月23日(金)原作:辻村深⽉『かがみの孤城』(ポプラ社)監督:原恵一〈声の出演〉出演:當真あみ、北村匠海、吉柳咲良、板垣李光人、横溝菜帆、高山みなみ、梶裕貴、麻生久美子、宮﨑あおい、矢島晶子、美山加恋、池端杏慈、吉村文香、芦田愛菜、藤森慎吾、滝沢カレン配給:松⽵アニメーション制作:A-1 Pictures
2022年02月27日辻村深月の本屋大賞受賞作「かがみの孤城」が、劇場アニメーションとしてこの冬、公開されることが決定した。学校での居場所をなくし、家に閉じこもっていた中学生のこころ。ある日突然、部屋の鏡が光り始め、吸い込まれるように鏡をくぐり抜けると、城のような不思議な建物に行き着く。そこには、こころと似た境遇の7人が集められていた。城の中には秘密の鍵が隠されており、その鍵を見つけた者は、何でも願いが叶うという――。「朝が来る」「ハケンアニメ!」の映像化でも注目を集める辻村さん。「かがみの孤城」は、本屋大賞15年間の歴史の中で歴代最多得票数を獲得し1位に輝いたほか、ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR2017、2021など9冠を獲得し、TV・新聞など各メディアでも絶賛された、累計発行部数125万部突破の話題作。また、コミカライズ、オーディオブック化、舞台化もされている。青春期独特の繊細な感情や感性をリアルに描いた最高純度のファンタジーミステリーである本作。この冬、子どもから大人まで、全世代が共感できる青春映画の新たな金字塔として珠玉の感動作が誕生する。『かがみの孤城』は冬、公開予定。(cinemacafe.net)■関連作品:かがみの孤城 2022年冬、公開予定©2022「かがみの孤城」製作委員会
2022年02月24日2018年本屋大賞受賞、累計発行部数125万部突破の辻村深月によるベストセラー小説『かがみの孤城』が劇場アニメ化し、2022年冬に公開されることが決定した。原作は、本屋大賞15年間の歴史の中で歴代最多得票数を獲得し1位となったほか「王様のブランチブック大賞2017」や「ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR2017」など9冠を獲得し、 TV・新聞ほか各メディアでも大絶賛の話題作。2019年にコミカライズ、オーディオブック化、2020年には舞台化されるなど様々なコンテンツでメディアミックスされ注目を集め続けている。大人も子どもも夢中になるファンタジーミステリーとして幅広い世代から支持され、累計発行部数は今年に入り125万部を突破。原作者の辻村深月は、2004年『冷たい校舎の時は止まる』でデビュー。映画化もされた『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、『鍵のない夢を見る』では第147回直木賞を受賞している。その他、日本アカデミー賞を含め多数の賞を受賞した『朝が来る』や、今年の5月に劇場公開となる『ハケンアニメ!』など数々の作品が映画化されてきた。主人公は、学校での居場所をなくし家に閉じこもっていた中学生・こころ。ある日突然、部屋の鏡が光り始め、吸い込まれるように鏡をくぐり抜けると、その先にあったのは城のような不思議な建物。そこには、こころと似た境遇の7人が集められていた。城の中には秘密の「鍵」が隠されており、その鍵を見つけた者は、何でも願いが叶うという。なぜこの7人が集められたのか。鍵はいったいどこにあるのか。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。『かがみの孤城』2022年冬公開
2022年02月24日2012年に『anan』で連載スタート。そして2022年5月、ついに実写映画化となった、辻村深月さんによる『ハケンアニメ!』。アニメ制作に携わる人たちに取材し、現場の空気や熱量をリアルに描きます。ここでは、映画化に寄せて辻村さんと吉野耕平監督のインタビューをお届け。“働く人”として、“作り手”として、同世代の2人が作品に込めた想いとは?辻村さんスペシャルインタビュー:世界が変わるほどのアニメとの出合い。高校生の時、『少女革命ウテナ』で受けた衝撃を今もよく覚えています。何にも似ていない新しさがあって、これがオリジナリティというものかと度肝を抜かれました。高校生という多感な時期にこの作品に出合えたことは幸せだったと思います。他にも『新世紀エヴァンゲリオン』や『絶対無敵ライジンオー』など、成長過程で寄り添ってもらった名作がたくさんあります。『ハケンアニメ!』でも一生モノのアニメとの出合いを通じてこの業界に入ったという話がありますが、私自身そういう出合いをしたから今も小説家をやっているのだろうと思うし、そういう人たちをこの作品で描きたかったんだろうなと思います。映画化のお話をいただいた時、プロデューサー・須藤泰司さんの「ものづくりに関わる人間として、この小説を映画にしたい」という気持ちをすごく感じたんですよ。その熱量に打たれておまかせしますとお返事したんですけど、その後も何かが決まるごとに、まるで身内のような熱量で報告してくれて、原作者のことも一緒に映画を作る仲間として引き入れてくださって、あたたかい現場だなと感じました。私はといえば、俳優さん、声優さんが決まるたびに悶絶していました(笑)。子どものころから憧れていた声優さんもキャストにいらして、しばらくしてから涙が出てきました。アニメに関しては、ここまで作ってくださったことに対する感謝しかないです。劇中でも言っているように、覇権をとるようなアニメであるということを大事にしてくださって。スタッフのお名前を見た時は、なんて贅沢なんだろう!って。しかもみなさんそれぞれ自分の色がある方たちなのに、王子や瞳だったらどう作るだろうと創造性を寄せてくださったところも、プロのクリエイターだなあと感動しました。『ハケンアニメ!』を書いた時、アニメ監督さんやプロデューサーさん、アニメーターさんに取材させてもらったんです。今回、映画化にあたり吉野監督が同じ取材先にも行かれたと伺って、10年ぶりの里帰りみたいで、感激しました。つじむら・みづき小説家。2004年「冷たい校舎の時は止まる」で第31 回メフィスト賞を受賞し、デビュー。’12年『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞。’18年『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞。最新作はホラーミステリー『闇祓』。吉野さんスペシャルインタビュー:監督とはなんだろうと考えた作品。『ハケンアニメ!』は、実は映画化のお話をいただく前から好きで、映像化してみたいと思っていた作品でした。『エンドローラーズ』という作品で葬儀業界を取り上げてから仕事ものに興味を持ち始めたんですが、アニメが好きなのでアニメの現場を描いた作品って何があるのかなと思って探していた時、『ハケンアニメ!』に出合ったんです。この作品はいろんなことがすごくニュートラルに描かれているところがいいですよね。アニメ業界って特別な世界だと思われがちだけど、実はすぐ近くでがんばって働いている人たちなんだということがわかるというか。上司やクライアントの急な指示に振り回されるとか、そういう“あるある”が働く人目線で書かれているのが面白いなと思いました。映画化にあたって気をつけたのは、特別な仕事の人々の物語にはしないということ。疲れたらコンビニ菓子をかじって乗り切って、帰ったらまた洗濯物洗えてなくて、みたいな。帰りの電車ですぐ横に座ってる人の話、くらいの空気を大事にしたいなと思いました。業種は違えど僕も映像業界の人間なので、映画版の瞳監督には経験がかなり込められています。編集画面を見ながらブツブツ言うけど、言葉足らずでいまいち伝わらずキーッてなるところとか(笑)。監督としては、誰よりもその作品に長い時間をかけるということを一つの拠り所にしています。映画の現場って、監督を立ててくれるんですよ。だけど「監督だから従う」ではなくて、この人はここまで考えてるんだなと信頼してもらえるようになりたいんですよね。それに、監督がスタッフに無理をさせるために普段やさしくするとか、そういうのって一見魅力的に映るけど、どこかズルいなと思っていて。作品のために必要だからやる、それをスタッフに命じるのは監督の責任なので。だから瞳がぎりぎりで変更をかけるシーンも、スタッフを囲い込むのではなく、あくまで瞳がそうしたいからやる、という形にこだわりました。そこは吉岡里帆さんとも「監督ってなんだろうね」と深く話し合いました。よしの・こうへい映画監督、脚本家、CM ディレクター、CG アーティスト。『君の名は。』では回想パートのCGと空間デザインを担当。昨年、初の長編作品『水曜日が消えた』が公開。ミュージックビデオやCM、アニメなど幅広く活動中。『ハケンアニメ!』2014年に刊行された『ハケンアニメ!』(小社刊)を原作とした実写映画。監督/吉野耕平脚本/政池洋佑配給/東映2022年5月公開。情報解禁に先駆けYouTubeに予告編がアップされ、ネット上でも話題に。アニメ『サウンドバック 奏の石』特報アニメ『運命戦線リデルライト』特報※共にYouTube「東映映画チャンネル」内。©2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会※『anan』2021年12月8日号より。取材、文・尹 秀姫(by anan編集部)
2021年12月03日2012年に本誌『anan』で連載がスタートした『ハケンアニメ!』。アニメを愛する辻村深月さんが、アニメ業界で働く人々を描いた本作は、創作に関わる人たちの苦悩と幸せ、働くことの大変さと喜びが丁寧に描かれ、おおいに共感を呼びました。2022年5月、ついに実写映画版が公開!創作と仕事のリアル…。見事に詰め込まれた作品。企画スタートから足掛け7年、『ハケンアニメ!』の実写映画化がついに実現!大勢の人が関わるアニメ制作の現場は、監督といえども思い通りにいかないことばかり。そんな『ハケンアニメ!』の物語を、『水曜日が消えた』の吉野耕平監督が映画という形で新たに表現。実は吉野監督は、映画『君の名は。』にCGアーティストとして参加した経験を持つ。同世代でもある辻村さんと吉野さん、2人のクリエイターがアニメ制作の現場を取材し、アニメと本気で向き合って誕生した『ハケンアニメ!』。劇中アニメのすごすぎるクオリティとともに、公開を楽しみにしてください!アニメ制作現場の熱量をこの4人が体現!作品のすべての責任を担う監督と、監督を支えるプロデューサー。何もかも異なる2組の激突を熱く、生きいきと演じる4人をご紹介します。トウケイ動画敏腕プロデューサー行城が新人・瞳監督を抜擢。『サウンドバック 奏の石(かなでのいし)』(通称サバク)を制作。吉岡里帆/監督斎藤 瞳天才・王子監督との覇権争いだが負けるつもりは毛頭ない。内なる闘志を秘めた凛々しさと、新人らしい初々しさの対比に注目を。柄本 佑/プロデューサー行城 理敵に回すと憎らしいほど手強く、味方にいると頼もしいけど何を考えているのかよくわからない、つかみどころのない行城を好演。スタジオえっじ香屋子の念願だった王子監督とのタッグ。『運命戦線 リデルライト』(通称リデル)は7年ぶりの新作。中村倫也/監督王子千晴天才ではあるものの、実は自分で天才っぽさを演出している泥くさい一面を持つ。そんな王子の独特なかわいさを見事に表現。尾野真千子/プロデューサー有科香屋子「自分の尊敬するクリエイターを守る」という気概を持つ香屋子は包容力の塊。王子を見守るやさしい眼差しは、香屋子そのもの。辻村深月さんが撮影を見学。スタジオ、絵コンテ、作画風景…。物語が現実に動きだしています。見学日当日、撮影現場の入り口には、リデルとサバクの美術さんが作ってくれたリアルな垂れ幕とポスターが。それに迎えられた辻村さんは、「あれを見た時、『あ、これ、私が書いた!』と興奮しました。私の頭の中にだけあったものを、こんなにもたくさんの人たちが形にしようとしてくれて、頭の中にあった姿以上のものを再現してくださっていて、すごく幸せだなと感じました」映画を撮影するにあたって、東映アニメーション所属の梅澤淳稔(あつとし)さんが監修を務め、アニメ制作現場のリアルな再現にこだわった。「それぞれの場面での登場人物の心の動きや作業している仕草が現実に沿っているか。また机や棚などの配置や作業道具の置き方など、アニメ業界を知らない方にも登場人物たちが今何をしているのかわかりやすく、かつ業界の方にも『あれなら納得』と言っていただけるように心がけました。アニメ制作の工程で、『なぜ今この作業をしているのか』『この時点で何を思っているのか』や、専門的な道具の使い方などはレクチャーしましたが、出演者のみなさんの理解力と呑み込みの早さには本当に驚きました」(梅澤さん)最近はアニメ業界にもデジタル化の波が。王子監督は手描きで、瞳監督はデジタルで、という対照的な2人の制作スタイルがセットでも表現されている。つじむら・みづき小説家。2004年「冷たい校舎の時は止まる」で第31 回メフィスト賞を受賞し、デビュー。’12年『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞。’18年『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞。最新作はホラーミステリー『闇祓』。『ハケンアニメ!』2014年に刊行された『ハケンアニメ!』(小社刊)を原作とした実写映画。監督/吉野耕平脚本/政池洋佑配給/東映2022年5月公開。情報解禁に先駆けYouTubeに予告編がアップされ、ネット上でも話題に。アニメ『サウンドバック 奏の石』特報アニメ『運命戦線リデルライト』特報※共にYouTube「東映映画チャンネル」内。©2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会※『anan』2021年12月8日号より。取材、文・尹 秀姫(by anan編集部)
2021年12月02日直木賞作家・辻村深月の小説『ハケンアニメ!』が実写映画化。2022年5月20日(金)に公開される。主演は吉岡里帆。辻村深月の小説『ハケンアニメ!』を実写映画化原作小説の『ハケンアニメ!』は、直木賞作家・辻村深月がアニメ業界の舞台裏を描いたお仕事ドラマ。本屋大賞にもノミネートされた人気小説が、7年の時を経て実写映画化される。アニメの頂点【ハケンアニメ】の称号を手にいれろ!物語の主人公は、地方公務員からアニメ業界に飛び込んだ斎藤瞳。瞳は、監督デビュー作で、憧れのスター監督・王子千晴と覇権を争うことに。王子は過去にメガヒット作品を生み出したが、その過剰なこだわりとわがままぶりで、監督降板が続いていた。そんな崖っぷちの王子を8年ぶりに監督復帰させるべく、プロデューサーの有科香屋子は、人生を懸けた大勝負に出る。瞳は、クセ者プロデューサー・行城理や、個性的な仲間たちと共に、汗と涙と鼻水にまみれ、アニメの頂点【ハケン(覇権)アニメ】の称号を手にするべく、熾烈な“戦い”に身を投じていくのだが...。吉岡里帆がアニメ業界で奮闘する新人監督に主演を務めるのは、『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』『見えない目撃者』などで幅広い演技を見せてきた吉岡里帆。その他、中村倫也、柄本佑、尾野真千子ら実力派俳優陣が集結した。主人公・斎藤瞳...吉岡里帆アニメが持つ力を信じ、チャンスを掴んだ新人監督。目標に向かって努力するも、不器用がゆえ壁にぶち当たる日々の中で、それでも懸命に前に進む。王子千晴...中村倫也かつて伝説のアニメを世に打ち出し、天才として名を馳せるが、その後はヒット作を出せず、もう後がない崖っぷちの天才監督。行城理...柄本佑仕事はできるが超クセのある性格で、瞳を振り回す敏腕プロデューサー。有科香屋子...尾野真千子かつて「伝説の制作進行」と呼ばれた、王子の才能に人生を懸ける名プロデューサー。アニメ業界を支える人々に多彩なキャストその他にも、多彩なキャストが出演。アニメの顔として表舞台に出ることの多い監督や声優だけではなく、アニメーターや編集、宣伝マンなど...アニメ業界を盛り上げるために不可欠な人々の姿がしっかりと描かれる。宗森周平役...工藤阿須加アニメの企画で秩父を盛り上げようと奮闘する市の観光課職員。実直な青年。並澤和奈役...小野花梨劇中アニメ「サバク」と「リデル」に参加する作画スタジオ「ファインガーデン」所属のアニメーター。“神作画”で話題の人気アニメーターとして、瞳たちから頼りにされる。群野葵役...高野麻里佳「サバク」の主人公・トワコ役を務める声優。アイドル的人気で支持を集めており、監督の瞳とは何かと衝突することも!?演じるのは、「ウマ娘 プリティーダービー」「デジモンアドベンチャー: 」で知られる人気声優・高野麻里佳。俳優として、自身初の実写映画出演を果たす。根岸役...前野朋哉「サバク」の制作会社「トウケイ動画」の制作デスク。越谷役...古舘寛治「トウケイ動画」の宣伝マン・越谷役。根岸と越谷は仕事柄一緒にいることも多く、二人でドライな行城を目の敵にしているが、それぞれ実はアニメ制作にかける熱い思いを秘めている。前山田役...徳井優「サバク」の脚本・シリーズ構成の脚本家。関役...六角精児「ファインガーデン」の社長兼アニメーター。河村役...矢柴俊博「サバク」の作画や画面作りを統括する作画監督。白井役...新谷真弓カット毎に撮影されたデータを絵コンテに準じて繋ぎ合わせる「サバク」の編集。田口役...松角洋平アニメ表現をより効果的に見せる事を担当する「リデル」担当演出。逢里哲哉役...水間ロングッズの王道・フィギュアを生み出すフィギュア会社の企画担当。星役...みのすけ視聴率が高いアニメを放送する事が命題の「リデル」放送局の重役。アニメショップの店員役...前原滉『水曜日が消えた』吉野耕平が監督監督は、新海誠監督のアニメ映画『君の名は。』にCGクリエイターとして参加し、中村倫也主演の映画『水曜日が消えた』で長編映画デビューを果たした吉野耕平。また、老舗アニメ制作会社・東映アニメーションが監修を行い、変化の激しいアニメ業界の“今”のリアリティを徹底的に追求した。劇中アニメはProduction I.Gらが制作劇中アニメ『サウンドバック 奏の石』『運命戦線リデルライト』の制作には『攻殻機動隊』シリーズなどで知られるProduction I.Gなど、日本を代表するアニメプロダクションが参加。スタッフ、声優キャスト共に、劇中アニメとは思えぬ豪華な布陣となっている。■劇中で吉岡里帆が演じる瞳が監督する『サウンドバック 奏の石』監督:谷東『テルマエ・ロマエ』『若おかみは小学生!』キャラクター原案:窪之内英策『ツルモク独身寮』『ワタナベ』『ショコラ』メカデザイン:柳瀬敬之『機動戦士ガンダム00』シリーズ、『マジンガーZ/INFINITY』声優キャスト:梶裕貴、潘めぐみ、木野日菜、速水奨■中村倫也が演じる王子が生み出す『運命戦線リデルライト』監督:大塚隆史『プリキュア』シリーズほか『ONE PIECE STAMPEDE』キャラクター原案:岸田隆宏『デュラララ!!』『ハイキュー!!』『魔法少女まどか☆マギか』声優キャスト:高橋李依、花澤香菜、堀江由衣、小林ゆう、近藤玲奈、兎丸七海、大橋彩香主題歌はジェニーハイの新曲「エクレール」主題歌は、小籔千豊、くっきー!(野性爆弾)、新垣隆、中嶋イッキュウ(tricot)、川谷絵音(ゲスの極み乙女。/ indigo la End)から成るスペシャルバンド、ジェニーハイ。川谷絵音が作詞・作曲/編曲を手掛け、新曲「エクレール」を書き下ろした。楽曲タイトルは、吉岡里帆演じる主人公・斎藤瞳の好物としてたびたび劇中に登場する「エクレア」をモチーフにしている。映画に出演している人気声優陣が参加しているのも、新曲「エクレール」の見逃せないポイント。ゲストボーカルとして高野麻里佳が歌うほか、梶裕貴、潘めぐみ、高橋李依、花澤香菜といった面々も掛け声で参加している。映画『ハケンアニメ!』あらすじテレビアニメの年間制作本数300本以上、マーケットは2兆円を超えるとも言われるアニメ業界。今や世界中が注目する日本のアニメ業界だが、その制作現場では、最も成功したアニメの称号=「覇権(ハケン)」を取るため、日夜熾烈な闘いが繰り広げられている。そんな世界に飛び込んだ斎藤瞳は監督デビュー作で、憧れのスター監督・王子千晴と覇権を争うことに!過去にメガヒット作品を生み出し、天才として名を馳せる王子は、プロデューサー・有科香屋子とタッグを組み8年ぶりに監督復帰を果たすのだ。瞳は、クセ者プロデューサー・行城理や、個性的な仲間たちと共に、汗と涙と鼻水にまみれ、アニメの頂点【ハケン(覇権)アニメ】の称号を手にすべく、奮闘を重ねるのであったー。【詳細】映画『ハケンアニメ!』公開日:2022年5月20日(金)原作:辻村深月「ハケンアニメ!」(マガジンハウス刊)監督:吉野耕平脚本:政池洋佑出演:吉岡里帆、中村倫也、柄本佑、尾野真千子制作プロダクション:東映東京撮影所配給:東映
2021年11月28日直木賞作家・辻村深月による、アニメ業界で奮闘する者たちを描いたお仕事ドラマで、本屋大賞にもノミネートされた大人気小説『ハケンアニメ!』(マガジンハウス刊)が発売から7年の時を経て遂に映画化。2022年5月に公開(配給:東映)されることが決定した。また本作の映画化決定のニュースに併せて、ティザービジュアル・特報も公開に。さらには、キャスト・監督・原作者からコメントが届いた。テレビアニメの年間制作本数300本以上、マーケットは2兆円を超えるとも言われるアニメ業界。今や世界中が注目する日本のアニメ業界だが、その制作現場では、最も成功したアニメの称号=「覇権(ハケン)」を取るため、日夜熾烈な闘いが繰り広げられている。そんな世界に飛び込んだ斎藤瞳は監督デビュー作で、憧れのスター監督・王子千晴と覇権を争うことに。過去にメガヒット作品を生み出し、天才として名を馳せる王子は、プロデューサー・有科香屋子とタッグを組み8年ぶりに監督復帰を果たすのだ。瞳は、クセ者プロデューサー・行城理や、個性的な仲間たちと共に、汗と涙と鼻水にまみれ、アニメの頂点【ハケン(覇権)アニメ】の称号を手にすべく、奮闘を重ねるのであった。主演を務めるのは、数々の映画やドラマに引っ張りだこの人気俳優・吉岡里帆。アニメが持つ力を信じ、チャンスを掴んだ新人監督・斎藤瞳が、目標に向かって努力するも、不器用がゆえ壁にぶち当たる日々の中で、それでも懸命に前に進む姿をひたむきに演じ、新たな一面で魅せる。また、かつて伝説のアニメを世に打ち出し、天才として名を馳せるが、その後はヒット作を出せず、もう後がない崖っぷちの天才監督・王子千晴に、多彩な演技力で人々を魅了し続ける中村倫也。仕事はできるが超クセのある性格で、瞳を振り回す敏腕プロデューサー・行城理を、演技力と個性で近年ますます活躍の場を広げる柄本佑。かつて「伝説の制作進行」と呼ばれた、王子の才能に人生を懸ける名プロデューサー・有科香屋子に日本を代表する実力派俳優・尾野真千子。豪華俳優陣が揃い、2組の<アニメ監督×プロデューサー>が覇権をかけて火花を散らす。監督は、映画『君の名は。』にCGクリエイターとして参加、数々のCMやPVを手掛ける注目の映像作家で、中村倫也主演の映画『水曜日が消えた』で長編映画デビューを果たした吉野耕平。また、老舗アニメ制作会社・東映アニメーションが監修を行い、変化の激しいアニメ業界の“今”のリアリティを徹底追求した。劇中アニメ『サウンドバック 奏の石』『運命戦線リデルライト』の制作には『攻殻機動隊』シリーズなどで知られるProduction I.Gをはじめ、日本を代表するアニメプロダクションが参加。また、実はこのアニメ2作品は、本情報解禁に先駆けて、YouTubeに予告編がアップされ、ネット上では“謎のアニメーション”と話題となり、2週間で併せて10万を超える視聴数を記録している。徹底的にこだわり尽くした劇中アニメにもぜひ、注目してほしい。本作初の映像解禁となる特報は、軽快な音楽に載せ、劇中アニメ『サウンドバック 奏の石』と、『運命戦線リデルライト』の映像をバックに、吉岡演じる瞳が「アニメは魔法を超える力を与えることができる!」と真剣な表情で訴えかけるシーンから始まり、瞳、王子(中村倫也)、行城(柄本佑)、香屋子(尾野真千子)がアニメ制作に奮闘する姿と、慌ただしい制作現場の風景がテンポよく描かれる。そして、「2022年 覇権を手にする アニメは何か!?」のテロップが現れると、新人監督の瞳が天才監督の王子に「私、負けません。全部勝って、覇権を取ります!」とまさかの勝利宣言。不敵な笑みを浮かべる王子、驚いた顔の行城、香屋子のアップが映し出される。 アニメ業界で働く者たちの熱い想いと、覇権を取るための熾烈な争いが垣間見える、熱血感溢れる仕上がりとなった。併せてティザービジュアルも公開。<瞳×行城>チームは『サウンドバック 奏の石』、<王子×香屋子>チームは『運命戦線 リデルライト』と、それぞれが作っているアニメのメインキャラクターを背負い、真剣な表情で正面を見据える4人の姿と、「覇権を掴め。」「己を超えろ。」のキャッチコピーが。覇権を賭けた熱い闘いが、これから繰り広げられることを想像させるビジュアルに仕上がっている。映画『ハケンアニメ!』は2022年5月公開。■映画『ハケンアニメ!』特報映像<アニメ予告>・『サウンドバック 奏の石』特報・『運命戦線リデルライト』特報<キャスト・スタッフコメント>■吉岡里帆公務員出身の新人アニメ監督、斉藤瞳を演じさせて頂きました。1本のアニメが生まれるまでの軌跡と、アニメーター達の死闘を描く今作。日本の宝とも言えるアニメーション作品ですが、その裏では想像の何倍も何十倍も地道な作業が繰り返されています。アニメーター達の底知れない才能が日夜コンテとなり原画となり動画へと昇華されていく…素晴らしいアニメを見た時、抑え切れない感動を覚えるのと同じようにそんなアニメ作品を作る人々の想いに触れた時きっと今までにない感動が届くと撮影をしながら毎日思っていました。どうぞ『ハケンアニメ!』をよろしくお願い致します!■中村倫也王子千晴役、中村倫也です。台本を読みながら何度も「ある、ある。」と、この職業独特の〝クリエイター熱〟に頷いてしまいました。覇道に足を踏み込みながらも、悩み多き、王子という人間を演じることができて幸せです。きっと多くの人が、魂を削りながら仕事への情熱を注ぐ彼らを見て、日々を生きるエネルギーを受け取っていただけると思います。監督・吉野耕平の世界を乞うご期待!!■柄本佑行城はクセが強めなのですが同時に人間臭くもあるヤツだと思い現場に臨みました。吉野監督は線が細く声が小さく、挙動不審なところがありますがその見た目からは想像できないほど頑固で芯の通った男らしさがありました。アニメ業界を生きる骨太な人間ドラマが時に軽妙に、時に深刻に描かれます!是非楽しみにしていて下さい!■尾野真千子希望、夢、憧れ、進むべき道、そんなキラキラした物語の中にいました。久しぶりに恋なんかしたりして。妖精のような吉野監督とのやりとり楽しかったです!どんな風に繋がっていくのか楽しみです!■吉野耕平(監督)本作は、もともと自分が映画化したかった原作企画を、逆に監督オファーを頂くという幸運に恵まれた作品でした。ちょうど自分自身が長編第一作目を撮った直後の、新人監督としての記憶も生々しいこの時期に、同じ新人監督の物語を描けたことの幸運と、さらに、素晴らしいキャスト・スタッフと共にその作品に挑めたことの幸運を、今は噛み締めています。様々な映像ジャンルを横断した、この作品ならではの共演をぜひお楽しみいただければと思います。願わくばこの作品が、スクリーンの向こうの誰かの幸運な出会いにつながりますように。幼い頃からずっと憧れてきたアニメの世界と、この作品を通じて関わることができたのは、本当に一生の幸運でした。■辻村深月(原作)『ハケンアニメ!』は私の小説の中では最も映像化が難しいタイトルだと思っていました。理由は、作中に登場する二本のアニメ。「その期の覇権をとる」と言われるようなクオリティーのアニメを現実に映像内に再現してもらうのはまず無理だろうと諦めていました。だけどーー今回、素晴らしいスタッフとキャストの皆さんの力を借りて実現しました。私の描いた王子が、香屋子が、瞳が、行城がここにいる。彼らの作るアニメがここにある。劇場で彼らの軌跡を目撃できるのが、今から楽しみでなりません。映画『ハケンアニメ!』2022年5月公開
2021年11月25日50周年記念映画『STAND BY ME ドラえもん 2』が公開中。大のドラえもん好きで、映画の脚本も手掛けたことがある小説家の辻村深月さんが、お気に入りエピソードと共にその魅力を語ります。マンガも、アニメも、劇場版も。幼少期から今までずっとドラえもんを愛してきた、作家の辻村深月さん。今年50周年を迎えたドラえもん。これだけ長く愛されてきた理由を伺うと、まずは物語としてとても面白く、読んだり見たりすると元気になる、作品としての圧倒的な魅力がある、と語ります。「特にそれは、原作のマンガを読んだときに強く感じます。たった10数ページの長さにもかかわらず、起承転結がしっかり詰まっていて、しかも少しシリアスな作品でも、最後の1コマでちゃんと笑いに落としてくれる。どれも物語のお手本のような構造なんです。ほとんどのお話が、日常の中でのび太が感じた小さな不満や望みがきっかけになり、ドラえもんがひみつ道具を出し、話が展開していくわけですが、ひみつ道具によって生み出されるさまざまな“不思議”や“異世界”が、日常のすぐ隣にある、という設定も魅力的。例えばそれは、タイムマシンの入り口が偉い博士の研究室ではなくのび太の学習机の引き出しだったり、畳の裏が宇宙につながっていたり…。誰もが子供のときに妄想したであろう、“あったらいいな”な世界が描かれているところも大好きです。私の好きなお話の『天の川鉄道の夜』で描かれる夜空をSLが駆けるというシーンは、そんなドラえもんの世界観の象徴的なエピソード。きっぷにハサミを入れるとSLが迎えに来てくれるという展開も、ロマンが溢れていて心が躍ります」また、大人になってから読み返すと、幼い頃には読み取れなかったメタファーやメッセージに気が付くことも多々ある、とも。「子供のときはただただ展開が面白かったマンガでも、今読むと、ひみつ道具の持つ強い社会性や、風刺、また“こんな意味があったのか!”と驚かされることがたくさんあります。最近改めて、強くそう思ったのが、『おそるべき正義ロープ』と、『悪魔のパスポート』の2つ。『おそるべき~』は、自分の正義が絶対で、他人の正義は許さない、という、昨今の世の中の風潮にとても近い物語。また『悪魔の~』は、どんな悪いことでも許されてしまう権力を持ったらどうなるか…という内容です。いずれのひみつ道具も、最初はのび太がいい気になって使うのですが、途中で罪悪感に苛まれたり、道具の持つ怖い側面に気が付いたりして、自ら濫用を止めようとします。寛容さや、“過ぎる正義”とは何か、考えさせられる名作だと思います」日常にある不思議の面白さと、SF的な恐怖が共存する物語。『天の川鉄道の夜』ドラえもん20巻スネ夫からSLに乗った自慢話を聞かされ、「僕もSLに乗りたい~」と泣きつくのび太。断られたものの、ドラえもんがうっかり落としたSL型宇宙船のきっぷを勝手に使い、裏山に鉄道を呼ぶ。のび太たち4人と車掌だけを乗せた鉄道は、宇宙に向け出発するが…。正義が暴走すると、手がつけられなくなる…!!『おそるべき正義ロープ』ドラえもん23巻「いつでも俺が正しい!」と暴力を振るうジャイアンに泣かされるのび太。そこでドラえもんは、悪者は絶対許さないという、つる草のサイボーグ〈正義ロープ〉の種を蒔く。罪の重さで縛られ方が変わるというこのロープ、果たして街の平和が保たれるのか?!悪いことへの憧れと罪悪感。その戦い、どちらが勝つ?『悪魔のパスポート』ドラえもん13巻欲しいマンガが我慢できず家のお金を盗もうとしたのび太に、ママは「泥棒!ろくなものにならない!」と激怒。「ならば世界一の悪人になってやる」と宣言。どんな悪いことでも許されるひみつ道具〈悪魔のパスポート〉を使い、悪事(でも規模は小さい)を重ねる。ドラえもん全45巻藤子・F・不二雄22世紀からやってきたネコ型ロボットのドラえもんと、勉強もスポーツも苦手なのび太くんの物語。’70年より連載がスタート。絵のかわいらしさに悶絶!各¥454(小学館)©藤子プロ・小学館つじむら・みづき小説家。1980年生まれ、山梨県出身。『映画ドラえもん のび太の月面探査記』(’19年)の脚本を担当。現在、原作映画『朝が来る』が公開中。『STAND BY ME ドラえもん 2』原作:藤子・F・不二雄監督:八木竜一脚本・共同監督:山崎貴声の出演:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、宮本信子、妻夫木聡全国東宝系で公開中。※『anan』2020年12月2日号より。(by anan編集部)
2020年12月01日大のドラえもん好き小説家・辻村深月さんが「ただただ大好きな話だから、読んでほしい!!」というイチオシのエピソード、『ドラえもんに休日を!!』をご紹介。50周年を迎え映画『STAND BY ME ドラえもん 2』の公開を記念して、お送りします。「“ドラえもんを休ませてあげよう”という、のび太のまるで雇用主のような上から目線がなんともいえませんが(笑)。今でも、疲れた日の終わりにこれを読むと、特に最後の1コマが胸にグッときます。きっと皆さんの心にも響くと思います」いつ出会い、なぜ好きになったのか。その時期や理由も思い出せないくらい、いつの間にか日常に存在し、大事な存在になっていたというドラえもん。「そこにあることが、そして一緒にいることが当たり前すぎて、“好き”という思いがいつ明確になったのか、正直今でもよくわかりません(笑)。でも、自然にアニメや漫画を繰り返し見ていて、気が付いたら家の柱にシールが貼られていた。初めて観に行った映画もドラえもん。私だけでなく、きっと多くの人にとって、ドラえもんってそういう存在だと思うんです。ドラえもんという物語は、藤子・F・不二雄先生が描いたストーリーと、私たちがドラえもんと過ごした想い出という物語、この2つで構成されているような気がします。自分の家族の記憶や、友達との経験などを思い出すと、きっと誰でも1つや2つは、ドラえもんとつながった想い出があると思います。その“私とドラえもん”のストーリーをみんなで語り合えるのは、大人になった今だからこそ味わえる幸せなのではないでしょうか」よくある日常の一日だけど、のび太は確実に成長しました。『ドラえもんに休日を!!』ドラえもん35巻「僕なんか年中無休だぞ」と言うドラえもんに、1日休日をあげるのび太。ドラえもんは万が一のために〈よびつけブザー〉を預け、仲良しのネコちゃんと島へおでかけ。1人になったのび太はさまざまな困難に遭遇するものの、ドラえもんを呼び出さずに一日を終える。ドラえもん全45巻藤子・F・不二雄22世紀からやってきたネコ型ロボットのドラえもんと、勉強もスポーツも苦手なのび太くんの物語。’70年より連載がスタート。絵のかわいらしさに悶絶!各¥454(小学館)©藤子プロ・小学館つじむら・みづき小説家。1980年生まれ、山梨県出身。『映画ドラえもん のび太の月面探査記』(’19年)の脚本を担当。現在、原作映画『朝が来る』が公開中。『STAND BY ME ドラえもん 2』原作:藤子・F・不二雄監督:八木竜一脚本・共同監督:山崎貴声の出演:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、宮本信子、妻夫木聡全国東宝系で公開中。※『anan』2020年12月2日号より。(by anan編集部)
2020年11月26日映画『朝が来る』の原作となった小説の作者・辻村深月さんと、実写映画版の監督・河瀬直美さん。“ひとつの物語”を別の手法を用いて表現する、語り手同士のまなざしは何を見据えているのか。そこには二人が築き上げた信頼が垣間見えました。――辻村深月さんの小説『朝が来る』は、実の子を持てない夫婦と、中学生で出産した少女の運命が、特別養子縁組によって繋がっていく物語です。河瀬さんがこれを映画化しようと思ったきっかけは?河瀬:辻村さんの作品は前から知っていましたが、『朝が来る』は人から薦められて読みました。自分も養女として育っているので、共感するところがいっぱいあって。その時はすでにテレビドラマ化が決まっていたんですが、薦めてくれた人に「これは女性監督が映画化したほうがいい」と言われ、そこから始まったんですよね。辻村:連絡があった時にはすごくびっくりしました。河瀬フィルムはファンとして観てきましたが、自分の小説の映画化なんて、こっちが頼み込まないと実現しないだろうし、頼んだからといって監督の気持ちが乗らなければ到底無理。それなのに、まさか河瀬さんのほうから手を挙げてくださるなんて。実は映画化の話もいくつかオファーがあってどれも魅力的だったのですが、河瀬監督がいちばん、想像がつかないものを見せてくれるんじゃないかと思いました。河瀬:あはは。それで、まだ何も決まっていない時にホテルのラウンジで会ったのが、4年くらい前だったかな。辻村:監督の『光』(2017年)が公開される前年でしたね。監督が現れて、時候の挨拶もなく開口一番「この映画を撮るにあたって、朝斗のまなざしというものは必要不可欠だと思っています」っておっしゃって。あ、これが世界の河瀬直美かと圧倒されました(笑)。河瀬:本当に失礼な出会いでしたねえ(笑)。――朝斗というのは、養子となった男の子のことですね。辻村:そうです。『朝が来る』は、養親となった佐都子と、産みの親であるひかりという、2人の母親の物語と言われることが多かったし、私もその角度から話すことが多かったんです。でも監督は、朝斗という子供の目線をあの原作から感じ取ってくださった。この小説の余白みたいな部分を、監督であれば埋めてくださると思いました。後から河瀬さんご自身も養子だったということも聞いて、監督のところに送り出したいという気持ちがさらに強くなりました。――そこからお二人の交流が始まったのですか。辻村:いっぱい対話をして、私もすごく勉強になりました。『朝が来る』が文庫化された時には解説を書いていただきましたし。紆余曲折あって映画化は無理かと思う瞬間もあったけれど、そんな時も実現させようという監督の熱意を間近に見せてもらいました。通常、映画の原作者って撮影が決まってから関わると思うんですけれど、今回は、僭越ですけれど、河瀬さんと友達の関係性を作りながら映画に携わっていく形になって、すごく楽しく、かつ刺激的でした。河瀬:ありがたいお言葉です。『光』を公開した時には奈良までトークイベントに来てもらって、小説と映画の違いについても話しましたよね。私は深月ちゃんの小説は、文字で表現されているものの裏側に読み取れることが多くあると感じていて。映画は、その文字の裏側を具体的に描かないといけないと思うんですよ。文字をそのまま映像化したほうが原作の読者は安心するんだろうけれど、私の場合、原作に書かれたエピソードを多少変えてでも、作者が本当に言わんとしていることが届くところを目指している。『朝が来る』は、“2人の母親と子供”という説明で伝わるほどシンプルじゃない部分がそれぞれの登場人物にありますよね。そこを丁寧に描いていこうと思いました。私の映画はたいてい、一か所に滞在して撮ることが多いんですが、これは全国6か所で撮ったし、登場人物が一番多いし、撮影そのものに2か月かけるという長期戦で。チャレンジでしたね。辻村:完成作品を観た時、河瀬さんとスタッフ、キャストの皆さんが長い旅を終えてここに来てくれた感じがしました。それは物理的な距離もだし、何より登場人物それぞれが生きてきた時間がまるごと映画に入っている。養親となる佐都子と清和が、恋人同士のような二人の時間を過ごしてから親になっていく過程をじっくり見られたのも嬉しかった。小説では、母親になったから急に何かが変わるわけではない、ということを意識していたんですが、そこを大事にしてもらえたと思いました。もうひとつ、大事にしてくださったのは、中学生で産みの親となるひかりが、初めてつきあった男の子とどういう時間を過ごしたのか、というところ。大人からは頭ごなしに「まだ中学生なのにバカなことをした」と断じられてしまうような時間を、そうではなかったんだと丁寧に描いてくださったおかげで、ひかりを肯定してもらえたと感じました。それと、河瀬さんにお願いしたからこそこういう世界が見られたと思ったのが、特別養子縁組を斡旋するNPO法人の浅見という女性がインタビュー形式で答える場面。あそこは完全に浅見さんの物語になっていて、浅見さんもまた朝斗のお母さんなんだ、と気づかされました。――佐都子と清和がNPO法人「ベビーバトン」の説明会に出席する場面や、ひかりが浅見さんのもとで過ごす時間の場面は、ものすごくリアリティがありますね。河瀬:私はドキュメンタリストでもあるので、説明会はドキュメンタリースタイルにしました。NPO法人の方に協力していただいて、実際に養子縁組した人たちに出演してもらったんです。そこに、佐都子を演じる永作(博美)さんと清和を演じる井浦(新)さんに、俳優としてでなく、佐都子と清和という夫婦としていてもらったのがあのシーン。辻村:監督は順撮りで撮影されているので、二人が結婚して、不妊治療に悩んで、というシーンを先に撮影してから、あの場面に臨んでいるんですよね。河瀬:そう。だから二人は本当に佐都子と清和としてそこにいる。あの場面は流れだけ決めて、全部実際に彼らの言葉で語ってもらっています。いわばアドリブでした。辻村:河瀬さんは撮影期間中、原作者の私より何倍も『朝が来る』について詳しかったと思う。永作さんも、私以上に佐都子の理解者だったと思います。最初に「朝斗のまなざしが必要」とおっしゃった時、河瀬さんは私とご自分に対して約束をしてくれた気がしたんですが、完成作品を観て、その約束を果たしてくださったと思いました。最後まで観るとそれがよく分かる。だから絶対、エンドロールが終わるまで席を立ってほしくない!河瀬:はい!そこに秘密が隠されています(笑)。実の子を持つことを諦めたところ、特別養子縁組の取り組みを知った佐都子と清和の夫婦は、中学生で妊娠、出産した少女・ひかりの子供を養子にすることを決める。赤ん坊の受け渡しの日に会った3人の運命はその後…。養子となった朝斗と3人で、東京で暮らす佐都子と清和。幼稚園での多少のトラブルもまた、平穏な日々の証。その時はまだ、突然かかってきた一本の電話によって、家族のしあわせな日常が脅かされることになるとは、誰も思っていなかった。NPO法人「ベビーバトン」を主宰する浅見静恵。ひかりを見守り、出産に付き添い、佐都子たちと生まれた赤ん坊の養子縁組の間に立つ彼女の存在感が際立つ。実際に養親になった人たちに出演してもらった説明会の場面のリアリティは胸に迫るものがある。かわせ・なおみカンヌ映画祭をはじめ各国で受賞多数。代表作は『萌の朱雀』『殯の森』『2つ目の窓』『あん』『光』など。「なら国際映画祭」では次世代育成に力を入れる。東京2020オリンピック競技大会公式映画監督。つじむら・みづき2004年に『冷たい校舎の時は止まる』でメフィスト賞を受賞しデビュー。’11年『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、’12年『鍵のない夢を見る』で直木賞、’18年『かがみの孤城』で本屋大賞受賞。『朝が来る』[映画]特別養子縁組によって息子を得た夫婦のもとに、謎の女から一本の電話がかかってきて…。監督・脚本・撮影/河瀬直美出演/永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子近日公開予定。[小説]特別養子縁組で繋がる産みの親と育ての親、それぞれの物語を辻村さんならではのミステリーとして描く。不穏な冒頭から、ラストは圧巻。文庫版は解説を河瀬監督が寄せている。文春文庫¥700※『anan』2020年5月27日号より。写真・深野未季(文藝春秋/辻村さん)取材、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2020年05月23日松坂桃季さん主演で映画化されたベストセラー『ツナグ』の続編『ツナグ 想い人の心得』について、作者の辻村深月さんに話を聞きました。あなたが会いたいのは誰?あの名作の続編登場。松坂桃季さん主演で映画化もされ、ベストセラーとなった辻村深月さんの『ツナグ』。一度だけ、一晩だけ会いたい死者に会わせてくれるツナグという使者をめぐる連作長編小説だ。このたび待望の続編『ツナグ 想い人の心得』が刊行された。辻村さんが続編を書くのはこれが初めて。「いろんな人が『ツナグ』を読んでくださって、“自分だったらこの人に会いたい”“死者に再会を拒否されたらどうなるんですか”といったフィードバックがすごくあったんです。1年に1編くらいのペースで続編を書いてきました。1年間他の仕事をしながらツナグのことを考えて温め続け、締め切りがきたら2日間で一気に書きあげるのは、すごく充実感がありました」ツナグの少年・歩美にまた会えると期待を高めてページをめくると、「おやっ?」と思うはず。「私も小説の続編を読んで“あれっ”となって惹き込まれた経験がたくさんあるんです。だから自分でもやってみたかったんです(笑)」前作から7年後という設定の本作。各編、設定や展開に工夫あり、深いドラマあり。どの話も胸打たれる場面が必ずあり、改めて著者のストーリーテラーっぷりが堪能できる。ツナグに会えるかどうかは、“ご縁”次第だが、この続編自体が、さまざまな“ご縁”で生まれている。「映画化の影響は大きいですね。公開当時キャストの方々がよくインタビューなどで“死んだ人に会えるとしたら誰に会いたいですか”と聞かれていて。その時、松坂桃季さんが宮本武蔵、桐谷美玲さんが沖田総司と答えていたんです。歴史上の人物という発想が自分の中になかったので、そういう話も書こう、と思いました。ただ、あまりに時代が異なると同じ日本語であっても言葉が今と異なるかもしれない。そこをどう見せるかも考えたかった」一方、以前『東京會舘とわたし』を執筆した際の取材で“ご縁”があり、亡くなった娘に会いたいと願う母親の話が生まれたという。「戦時中に東京會舘で結婚式を挙げた女性にお話をうかがっていたら、結婚後お嬢さんを2人産んで、でもお一人は成人後に亡くなったそうで…。娘さんを亡くした後の人生を聞いているうちに、どうにかして『ツナグ』でその方とお嬢さんを会わせたい、という気持ちに駆られ、書かせてほしいとお願いしました」実は『ツナグ』の執筆中、辻村さん自身も担当編集者の死を体験した。「血縁以外で、そばにいて当たり前だと思っていた人がいなくなってしまうのは初めてのことでした。身近な人を喪うとはどういうことか、歩美と一緒に考えたので、当時の気持ちもすごく入っていると思います」本作では、社会人となった歩美の内面的な前進も読みどころだ。「前作で、歩美は生きている人間の都合で死者を呼び出していいのか悩みますが、それは私の悩みでもあったんです。でも次第に、みんなが再会するのは死者本人というより、依頼者が会いたいと望んでいるその人の姿、鏡のような存在なんだと思えてきて。そう考えた時、死者に対して“どうぞいらしてください”と書こうと、作者の心も決まりました」またツナグに会えたことが、心から嬉しくなるこの続編。「書き終えたあとも、歩美や、新しい登場人物の今後も気になって。時間がかかるかもしれないけれど、ライフワークとして書き続けていきたいと思うようになりました」辻村深月『ツナグ 想い人の心得』顔も知らない父親、戦国時代の領主、最愛の娘…。死者との再会を望む人々と使者ツナグの物語。前作未読でも大丈夫。でも、2作合わせてぜひ。新潮社1500円つじむら・みづき1980年生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』でメフィスト賞を受賞し、デビュー。‘11年『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、翌年『鍵のない夢を見る』で直木賞、‘18年『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞。ほかに『青空と逃げる』『傲慢と善良』など著作多数。※『anan』2019年12月4日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2019年11月29日辻村深月による長編小説『朝が来る』が、河瀨直美監督で実写化。2020年10月23日(金)にTOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開。“2人の母”を描く、辻村深月の感動ミステリードラマ原作『朝が来る』は、人気小説家・辻村深月が手掛ける感動のミステリードラマ。長く辛い不妊治療の末、自分たちの子を産めずに特別養子縁組という手段を選んだ夫婦と、中学生で妊娠し、断腸の思いで子供を手放すことになった幼い母の2つの人生を丹念に描いた作品は、多くの読者の心を掴み、17万部を超えるベストセラーとなった。監督に河瀨直美そんな人気作品を映像へと落とし込むのは、これまで数々の賞を受賞してきた女性監督・河瀨直美。樹木希林を主演に迎えた『あん』や、オリジナル脚本による『光』、ジュリエット・ビノシュを迎えオール奈良ロケで挑んだ『Vision』などを手掛けてきた彼女が、人気ベストセラー小説をどのように描くのか高い期待が寄せられている。<あらすじ>1度は子どもを持つことを諦めた栗原清和と佐都子の夫婦は「特別養子縁組」というシステムを知り、男の子を迎え入れる。それから 6 年、夫婦は朝斗と名付けた息子の成長を見守る幸せな日々を送っていた。ところが突然、朝斗の産みの母親“片倉ひかり”を名乗る女性から、「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話がかかってくる。当時14歳だったひかりとは一度だけ会ったが、生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心優しい少女だった。渦巻く疑問の中、訪ねて来た若い女には、あの日のひかりの面影は微塵もなかった。いったい、彼女は何者なのか、何が目的なのか──?登場人物&キャスト繊細な物語を紡ぐ登場人物達には、実力派キャストが集結。『八日目の蟬』で日本アカデミー賞を 受賞した永作博美や、話題ドラマの出演が続く井浦新を物語のキーを握る夫婦役として迎えるほか、浅田美代子ら人気キャストがそろう。その配役とともに、それぞれの人物像をおさえてシアターへと足を運んでみて。栗原佐都子役 - 永作博美栗原清和役 - 井浦新実の子をもつことが出来なかった夫婦。14歳の少女を繋ぐ「特別養子縁組」によって、男の子・朝斗を迎え入れる。片倉ひかり役 - 蒔田彩珠同級生に本気の恋をし、望まぬ妊娠をしてしまった。14歳にして出産。生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心優しい少女。演じる蒔田彩珠は若くして是枝裕和監督作品に抜擢されている期待の女優。浅見静恵役 - 浅田美代子栗原夫婦と片倉ひかりを引き合わせる。その他ひかりの家族役には、中島ひろ子、平原テツ、駒井蓮らが出演する。原作者・辻村深月からコメントも『朝が来る』の実写化にあたり、辻村深月からのコメントも到着。「脚本を読みながら、河瀨監督に何度も感謝を覚えた。登場人物思いがより強く届くためにどうしたらよいのかを、心を砕いて考えてくれている人がいるということに対する途方もない感謝だ。作家として幸せを感じた。ラスト、“原作でもこうすればよかった”と思える構成がある。けれど私が小説で書いてもきっとその光景には届かなかった。映画だからこそ監督が彼らをここに送り届けてくれたのだということが、はっきりわかる。」と、熱い感謝の念を寄せている。カンヌ国際映画祭公式作品「CANNES 2020」へ正式に選出なお、カンヌ国際映画祭公式作品「CANNES 2020」へ正式に選出決定。通常のカンヌ国際映画祭では、部門ごとに公式選出リストを提示していたが、今回は、2021年春までに劇場公開を予定している作品の中から56作品をセレクトした。70年以上のカンヌ国際映画祭の歴史の中で初の取り組みとなる。【詳細】『朝が来る』公開日:2020年10月23日(金)TOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開※2020年6月5日(金)公開予定だったが延期。原作:辻村深月『朝が来る』(文春文庫)監督・脚本:河瀨直美脚本:高橋泉キャスト:永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子、佐藤令旺、田中偉登、中島ひろ子、平原テツ、駒井蓮、山下リオ、森田想、堀内正美、山本浩司、三浦誠己、池津祥子、若葉竜也、青木崇高、利重剛制作・配給:キノフィルムズ(木下グループ)
2019年06月02日『あん』の河瀬直美監督最新作が、2020年に公開されることが決定。新作は、作家・辻村深月の「朝が来る」を映画化する。故・樹木希林さんを主演に迎えた『あん』(’15)をはじめ、『光』(’17)、『Vision』(’18)のほか、CM演出、エッセイ執筆などジャンルにこだわらず表現活動を続ける河瀬監督。待望の新作に河瀬監督が選んだのは、「鍵のない夢を見る」で第147回直木三十五賞を受賞し、今年公開された『映画ドラえもんのび太の月面探査記』では自身初となる映画脚本を手掛けたことでも話題となった辻村氏による長編小説「朝が来る」。2016年にはオトナの土ドラ枠第2弾として、安田成美出演でドラマ化もされた。長く辛い不妊治療の末、自分たちの子を産めずに“特別養子縁組”という手段を選んだ夫婦。中学生で妊娠し、断腸の思いで子どもを手放すことになった幼い母――。それぞれの人生を丹念に描き、第13回本屋大賞にて第5位に選出、17万部を超えるベストセラーとなった感動のミステリードラマだ。今回監督兼脚本(共同脚本:高橋泉)も手掛ける河瀬監督は、「原作『朝が来る』をこの世界に誕生させた辻村深月の才能に嫉妬する」と言い、映画化について「その物語を映画化できる喜びに打ち震えている」とその心境を明かす。そして「小説の中で、二人の母をつなぐ子供『朝斗』のまなざしが表現されている部分を読んだとき、ああ、この世界を映像化できれば素晴らしいなと感じた。その『まなざし』が見る未来を美しく描くことができればと願っている」と意気込み。一方、原作者の辻村氏は「『この映画を撮るにあたって、朝斗のまなざしというものは必要不可欠だと思っています』河瀬直美監督と初めてお会いしたホテルのラウンジで、正面に立った監督が開口一番、私をまっすぐに見つめて、そう言った。まだ互いに自己紹介もしていない、目が合った瞬間のことだった」と監督との出会いを明かし、「原作『朝が来る』はよく、産みの母親と育ての母親、『二人の母の物語』だと言われてきた。しかし、河瀬監督はそこに、幼い『朝斗』のまなざしなくしては成立しない世界をはっきり見ておられた。その瞬間、震えるような感謝とともに、この人に、朝斗と二人の母親を、『朝が来る』の世界を託したい、と強く思った」と通ずるものがあったという。そして「映画『朝が来る』。私が見たもの、河瀬監督がその先に見たもの、幼い子ども『朝斗』が見た世界を、できることなら、あなたにもぜひ見てほしい」と力を込めた。なお、本作はすでにクランクインし、東京の湾岸エリア、栃木、奈良、広島、似島(広島市)、横浜と、日本全国6か所での撮影を敢行中で、クランクアップは6月上旬を予定。また、気になるキャスト発表は後日、行われるようだ。『朝が来る』は2020年、全国にて公開予定。(cinemacafe.net)
2019年05月30日女性作家・辻村深月さんに聞く、胸をキュンとさせる男性像とは?私が愛しいと思う男性像は、ナイト、騎士です。プリンスだったら、白馬に乗っているし家(お城)持ちだし、ヒロインの元へやって来てくれた瞬間に自己肯定感が満たされて「めでたしめでたし」と思えるかもしれない。でも、ナイトの場合は、持って生まれた持ち物に頼ることなく自分を磨くし、ヒロインを守る。だから、ヒロインにも、ナイトと一緒にこれからの人生の戦略を練っていくような、共に戦う人であってほしい。一方的にパートナーに寄り掛からず、お互いがお互いの人生を歩みながら、時に守ったり守られたりするべたつかない関係性が作品の中では私の理想です。ヒロインのために存在するような男の人にはしない、と常に意識しています。だからなのか、私が書いている男性キャラクターは、「守りたい」という気持ちが女の子ではなく、自分にとって一番大切な別のモノに向かっている場合が多い気がします。行動原理がしっかりしているというか、彼らは「本当に守らなければいけないものはこれだ」という絶対的な価値観だったり仕事だったりを自分の中に持っている。その思いが、いろんな巡り合わせを経て、「ここぞ」という瞬間に女の子のほうに向かった時、普通の男子が初めてナイトになる。その一瞬の驚きと喜びを読者に届けたいんです。でも、そういう人を書くと、なぜか不思議とダメ男になるんです(笑)。先日、たまたま『スロウハイツの神様』を読み返していたら、「一芸に秀でた駄目人間なんて素敵じゃないですか」という台詞が出てきて、私はデビューして間もない時からこの理論で書いてきているんだなと気が付きました。その台詞は、私にとっては「天才」の定義と一緒なんですよね。「秀才」には、事務処理能力がある。「天才」は、ものすごく特化している能力があるけれども、他のところがぜんぜん足りていない。「この人、ひとつの才能以外は全部ダメだ!」ってわかった時に、キュンとくる。「守ってあげたい」と思うかもしれないですね。情熱は強いけど、生活力や、あるいは他者への共感力さえも標準以下という男性たちは、人としてはダメかもしれないけれど、途方もなく魅力的。例えば、『ハケンアニメ!』で登場させたアニメ監督の〈王子〉や、『スロウハイツの神様』の小説家〈チヨダコーキ〉がそう。彼らは周りにものすごく迷惑をかけるけれども、「彼にしかできないことがある」とわかっているから、周りは彼らを全力でフォローする。他の人にはなつかない獣が自分にだけはなつく、というような関係性は書いていて楽しい。読者にも、「自分も彼を支える側になりたい」という目線で読んでほしいなと思っています。恋は、成立した瞬間に崩壊が始まるものではないでしょうか。でも、ずっとくっつかずにいると、夢とときめきは続きます。だから私の作品の中では、男の子が想いを打ち明けないことが多い。ただ、そういう気持ちって、周囲には意外とだだ漏れだったりします。「この人は気付かれてないと思ってるぞ」と気付いた時に、読者目線だとキュンとなる。ナイトというと、心にも鎧をつけて感情を出さないようにしているイメージがありますが、だからこそ、たまに見せる綻びというかちょっとした表情にぐらっときます。そういったベタさも小説を書く上ではとても大事。ベタに現代ならではの新しい意匠をまとわせ、自分なりの表現を心がけています。最初の頃は「辻村は男をいいふうに書きすぎ」と言われることも実はあったのですが、だんだん「ダメ男を書く人」と言われる人となり(笑)、最近では自分でも、「弱さも含めて魅力」だと感じられる男性が書けるようになってきたかな、と感じます。ナイトの気概を持った男子の新しい魅力を、これからも発見していきたいです。つじむら・みづき1980年、山梨県生まれ。’12年に『鍵のない夢を見る』で直木賞を、今年『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞。※『anan』2018年11月14日号より。イラスト・長谷川ひとみ(vision track)取材、文・吉田大助(by anan編集部)
2018年11月07日辻村深月さんが新作の短編集『噛みあわない会話と、ある過去について』を上梓。作品について辻村さんに聞きました。「人って怖い!でも分かる!」と唸らずにはいられないのが、辻村深月さんの新作『噛みあわない会話と、ある過去について』。4編を収録した作品集だ。「以前“いじめをめぐる短編”を依頼された時、いじめられた側の気持ちなら分かるという読者は多いだろうけれど、いじめた側に共感したという人はなかなかいないと思ったんです。それは隠したいというより、自覚がないからかもしれない。悪意というより、“あの子は分かってないから分からせなきゃ”という気持ちが集団で起きた結果だったりする。でもそれは傍から見たらいじめに近いものに見えると思うんです」そんな思いから書いた短編「早穂とゆかり」は、小学校の同級生同士が塾経営者と彼女を取材するライターという形で再会する話だ。しかし会話にはかなりの温度差が生じ、話は過去の出来事に遡り…。この一編を書き上げた時、「全部の短編を、共感できない側から書いて短編集にまとめよう」と思い立った。「自分に都合の悪いことは忘れていたり、思い違いをしていたり。現実には回避できるような、言いにくい内容を、あえて正面切って会話させてみました。それを共感できない側から書くと、噛み合わない感じがより出るみたい(笑)。会話がどちらの方向に流れていくのか分からない緊迫感を楽しんでもらえたら」と言う通り、過去に実は何があり、その時相手はどう思ったのかが明晰に語られていく部分が非常にスリリング。これでもかというくらい相手を追い込む話もあれば、ちょっぴり不思議なテイストの短編もあり、読み応えはさまざまだ。ただ、「読者の方たちが、“自分もこういう怒りを感じたことがある”という気持ちとセットで“自分も誰かにこんな思いをさせたかもしれない”と感じた、と言う方が多いんですよ。自分を省みる視点で読んでくれるなんて、みんなすごい!(笑)」痛感するのは、過去と現在は明確に違う、ということ。「過去に何があったとしても、その後も時間は進んで、関係性は変わっている。家族でも友達でも、思い出に寄りかかって今の相手と向き合うのは甘えではないかと。この4編は、そうした甘えが通用しないと分かる話かもしれませんね」つじむら・みづき1980年生まれ。『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞、『かがみの孤城』で本屋大賞第1位を獲得。近著に『青空と逃げる』など。『噛みあわない会話と、ある過去について』小学校の同級生に取材するライター、人気アイドルになった生徒と再会する教師―スリリングな会話から真実を浮かび上がらせる作品集。講談社1500円※『anan』2018年7月25日号より。写真・土佐麻理子(辻村さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・瀧井朝世
2018年07月24日本年度の本屋大賞が辻村深月さんの『かがみの孤城』に決まった。4度目のノミネートでの栄冠だ。作家生活14年目にして進化し続ける人気作家・辻村深月さんの今、そしてこれから。開けていなかった扉を開くことができました。――新作『青空と逃げる』は、父親が交通事故に巻き込まれたのちに失踪、周囲の悪意から逃げるために母親の早苗と小学生の息子・力ちからが逃避行を続ける物語です。新聞に連載された長編ですね。辻村:連載する3年ほど前、まだ直木賞を受賞する前に依頼を受けました。毎日掲載する新聞連載に堪えうる作家だと認めてもらえたのが光栄でした。どんな話がいいか打ち合わせをしている時、「辻村さんが書く親子の話が読みたい」と言われて。私がこれまで書いてきた親子は、親にとって子どもは保護の対象であり、子どもにとって大人は反発の対象となる場合が多かった。それで今回は、母親も子どもも、お互いにきちんと対話する話にしようということになりました。「逃避行だから実際の風光明媚な場所を入れてほしい」「できれば4~5か所出してほしい」「できれば最後に泣かせてほしい」といろいろオーダーされ、そのおかげで景色を丁寧に描写するなど、それまで開けていなかった扉をここでもまた開くことができました。――母子は最初、四国の四万十へ行きます。そのあと家島や別府温泉など、場所を変えていく。実際に取材に行かれたのですか。辻村:四万十は数年前に女友達と行きました。取材旅行だったわけではないのですが、四万十川の広がりや青さ、カワエビが美味しかったことなどを思い出しながら書きました。家島は『島はぼくらと』に出てくる冴島のモデルなんです。ですから、『青空と逃げる』に出てくるこの島の女の子は、『島はぼくらと』に出てくるシングルマザーの娘さんがその後少し成長した姿をイメージしています。漁港のおばちゃんたちは同一人物だと思っていただいていいです(笑)。――そうだったんですか!この作品では『島はぼくらと』に出てくる谷川ヨシノという、地域活性デザイナーも意外なところで登場し、そんなリンクも楽しいですね。新たに取材した場所は?辻村:別府温泉には行きました。早苗が各地で仕事を探すので、「温泉地ならいろいろと仕事があるはず」と、担当者に薦められたんです。資料にあった、海辺の砂風呂でお客さんに砂をかける「砂かけ」の女性にお話を聞いたら、「砂かけは女の仕事で、ここは女の職場だから」と言われて、ああ、早苗にはここで働いてほしいと思いました。実際に取材した分、書いていて楽しかったですね。早苗たちに、もうここに住んでほしいと思ったくらい。高崎山の猿も実際に見に行ったので、読み返していてやっぱり楽しいですね。――早苗は元舞台女優ですが、出産を機に専業主婦になっている。そんな彼女が、各地で仕事を見つけ、周囲と人間関係を築いていく姿が頼もしく、痛快でした。辻村:まわりの女友達を見ていて、やる前から諦めている人が多いなと感じていたんですよね。家庭に入った女の人が、「私はもう働いてないから」と諦め口調で話していたりする。本当は使える翼があるのに長い間しまっているためにもう自分は飛べないと思っているんじゃないかな、って。早苗は閉じていた翼を開いていくんです。読んでくれた方の感想に、最後に早苗と力が“選べる自由”を獲得したことが素晴らしい、とあって。今、貧困の問題や家族の関係性などから、選べないから追いつめられることってたくさんあると思うんです。早苗も、他に方法がないから、最初はただ逃げざるをえない。彼らが自分たちの今後を選べるところに連れていくまでを、私は書きたかったのかもしれないなと後から思いました。――事件の謎が解明されたのちの、ラストが素晴らしかったです。辻村作品は緻密な構成が魅力ですが、いつも結末を考えずに書き始めるというから驚きます。『かがみの孤城』も、伏線が見事に回収されるあの見事な終盤、当初は何も考えていなかったそうですね。辻村:そうですね。『アンアン』に連載した「ハケンアニメ!」もそう(笑)。いつも何も決めずに書きだす時は、「ここ」と思える場所に辿り着けるか分からず、やっぱり怖いです。「でもこれまでも絶対、何かが降りてきてラストに辿り着けたんだから」という気持ちの積み重ねで、10何年もやってきた感じがあります(笑)。――今後の刊行予定などは。辻村:6月には短編集『噛み合わない会話と、ある過去について』が出ます。いくつかの媒体に書いた短編をまとめたものですが、実は一冊にまとめる時を見越してどれも共通する裏テーマとして、“結晶化された過去”というものを設定していました。いじめられた過去だったり、いい友達同士だと思っていた過去だったり、そうした結晶化された過去を持つ2人がその思い出について語るけれど……という。読んでくれた人から「よくぞこれを書いてくれた」という感想の声がもう届いていたりして、一冊読み終えた時には、不思議とスカッとしてもらえると思います。それと来年、『週刊朝日』に連載した「傲慢と善良」という婚活の話が刊行の予定です。つじむら・みづき1980年2月29日生まれ、山梨県出身。2004年「冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。‘11年『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、‘12年『鍵のない夢を見る』で直木賞受賞。今年、4度目のノミネートである本屋大賞を『かがみの孤城』で受賞。他の著作に『朝が来る』『東京會舘とわたし』など。※『anan』2018年5月23日号より。写真・女鹿成二インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年05月21日ミステリ&ファンタジー小説『かがみの孤城』が、今年度の本屋大賞を圧倒的支持で受賞。作家生活14年目にして進化し続ける人気作家・辻村深月さんの今、そしてこれから。「いつも通り全力投球」という感覚でした(笑)。本年度の本屋大賞が辻村深月さんの『かがみの孤城』に決まった。4度目のノミネートでの栄冠だ。新作長編『青空と逃げる』も好評で、来年には作家生活15周年を迎え、充実の時期を迎えた彼女は今、どんな思いを抱いているのか。――まずは本屋大賞受賞おめでとうございます。辻村:今までノミネートされたどの作品で受賞できても嬉しかったのですが、今回特別に感じるのは、前年の受賞者がプレゼンターになるため、恩田陸さんから花束を受け取れたこと。このための今年の受賞だったのかと思いました(笑)。私は10代の頃から、それこそ恩田さんのデビュー作『六番目の小夜子』からずっと作品を読んできているんです。大好きな恩田さんからバトンをもらったことで、私も次にバトンを渡していけたらなと強く感じています。もちろん私にとっては今まで書いてきたどの作品も大切で、ひとつひとつ愛情を持って書いてきたつもりです。今回も特別気合を入れたということはなく、「いつも通り全力投球」という感覚でした(笑)。それでも、今まで開かなかった扉が開いた感じがあるのは嬉しいですね。――この作品は、学校に通えなくなった少女が、鏡を通じて異世界の城と行き来するようになる、という内容。でもある仕掛けにより、すでに大人になった読者にも、自分たちにも関係する物語なんだ、と思えますね。辻村:そういう思いで書きました。読んでくれた方の感想がものすごく熱くて、みなさん“自分の物語”として受け止めてくれているのが分かるんです。その方たちも今回の受賞を喜んでくれるだろうと思うと、とてもありがたいです。自分の代表作って自分で選べないんですよね。いろんなテイストのものを書いていることもあって、人によって「辻村深月の代表作」が違うと思うんです。今後は本屋大賞を受賞したことで『かがみの孤城』が代表作だと言ってもらえると思いますが、それは誰に対しても悔いがないというか。――14年間の作家生活のなかで、変わらないものは何ですか。辻村:やっぱり原点にあるのはミステリです。ミステリ作家であることが私の支え。傍から見れば私が書くものは、謎を提示して真相を探るというオーソドックスな形ではないかもしれません。でも、今まで全部の小説を、私はミステリの技法を使って書いてきました。謎だと思っていなかったものが実は謎だったり、謎だと提示しないでいきなり秘密を明かす方法を物語作りの軸にしてきたんです。――『かがみの孤城』はミステリ作家たちにとって大切な賞、日本推理作家協会賞の長編および連作短編集部門にもノミネートされていますね。この取材の時点で発表はまだですが。辻村:そうなんです!憧れの賞なのですごく嬉しいんです。自分はミステリの本家の子じゃなくて分家の子だから、この賞は目指せないのかなとも感じていたので。今回のノミネートで、ミステリ作家だと見てもらえているんだと思えました。ノミネートされたこと自体が、これからも頑張ったら扉は開くんだと、励みになりました。――来年で作家生活15周年です。先ほどご自身もおっしゃいましたが、作風を広げてきましたよね。辻村:ノンミステリのものも含めいろいろ書いてきましたね。デビューの頃からリアルタイムで読んでくださっている方に「初期の頃のような青春ミステリを書いてください」と言われて「待っててね」と言い続け、ようやく書けたのが『かがみの孤城』でした。ただ、今でも初期の作品を挙げて「最近これを読んで、そこからハマりました」と言ってくださる方も多いんです。10年前に書いたものも現役の物語として、今も読んでくれている人がいるのが嬉しいです。――2007年の作品『スロウハイツの神様』が昨年、演劇集団キャラメルボックスにより舞台化するなど話題になっていますし。過去の作品も愛されていますよね。辻村:『かがみの孤城』の初版の帯に「著者最高傑作」とあったのですが、それに怒ってくれる読者もいるんですよ。「実際に読んだら本当に傑作だったけれど、自分にとっては『ぼくのメジャースプーン』が最高傑作なんです」とか「過去の作品も全部あっての辻村さんなのに」とか(笑)。作品に一番愛情を持っているのが作者とは限らないものなんですよね。作者以上に作品のこと、登場人物のことを愛してくれたり、考えたりしてくれる人がいるのがすごく幸せ。自分の小説が今、私の手を離れたところで愛されている自覚を持てることを、作家として一番誇りに思います。つじむら・みづき1980年2月29日生まれ、山梨県出身。2004年「冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。‘11年『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、‘12年『鍵のない夢を見る』で直木賞受賞。今年、4度目のノミネートである本屋大賞を『かがみの孤城』で受賞。他の著作に『朝が来る』『東京會舘とわたし』など。※『anan』2018年5月23日号より。写真・女鹿成二インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年05月18日