法政大学 自然科学センター・国際文化学部 島野智之教授と京都大学の研究チームは、2006年から未記載種のまま絶滅危惧種(絶滅危惧II類(VU))として環境省版レッドリストに掲載されていた、八重山諸島(石垣島と西表島)に生息する日本最大のヤエヤママルヤスデ(体色が赤と黒の美麗種)を、学名Spirobolus akamma(学名読み:スピロボルス・アカンマ)として新種記載しました。島野教授は2021年にムカデの日本最大種の新種記載にも加わっています。【発表のポイント】(1) ヤスデは落ち葉などの腐植などの有機物を餌としており、毒をもつ顎肢を持たず咬まれることはない。(2) 日本最大のヤスデ(体長7.5cm)の「ヤエヤママルヤスデ」と呼ばれてきたマルヤスデ属Spirobolusの未記載種は、沖縄県・八重山諸島の石垣島と西表島、およびその間にある小浜島から記録されており、環境省版レッドリストに掲載され、絶滅危惧II類(VU)とされながらも、分類学的位置づけは長らく未解決であった。(3) 形態学的および分子生物学的アプローチにより、本種をSpirobolus akamma Kato, Takano, Nakano and Shimano, 2023として新種記載を行った(学名読み:スピロボルス・アカンマ)。(4) 学名の由来は、ヤスデが「馬陸(やすで)」とよばれること、本種が赤と黒の体色の美麗種であること、そして赤馬節として歌に歌われる八重山諸島の民話に由来している。ヤエヤママルヤスデ(写真:島野 智之)法政大学 島野智之教授は、2023年に日本最大のヤスデであるヤエヤママルヤスデ(ヤスデ綱)を京都大学などのチームと共に新種として記載しました。ヤスデ(ヤスデ綱)は、ムカデなどと共に多足亜門を構成しています。ムカデは一般に他の小動物を捕食するため顎肢に毒をもつことが多いです。しかし、ヤスデは落ち葉などの腐植などの有機物を餌としており、動きも比較的ゆっくりで毒をもつ顎肢を持たず咬まれることはありません。ヤスデの英名はmillipedeであり、ラテン語で千(milli)の脚(ped)に由来するように、多足亜門の中でも体節が多く、1節あたり2対の脚をもっているのが特徴です。これまで和名「ヤエヤママルヤスデ」と呼ばれてきたマルヤスデ属Spirobolusの未記載種は、沖縄県・八重山諸島の石垣島と西表島、およびその間にある小浜島から記録されており、環境省版レッドリストに掲載され、絶滅危惧II類(VU)とされながらも、分類学的位置づけは長らく未解決でした。しかし、本種の保全を考える上で、分類学的に明確にすることは必要であるため、環境省レッドリスト委員である島野教授は、加藤大河京都大学理学研究科大学院生、中野隆文同准教授、高野光男氏(元レッドリスト委員)と共に、本種の分類学的研究を行いました。本論文では、形態学的および分子生物学的アプローチにより、ヤエヤママルヤスデの分類学的位置づけを検討しました。形態は、前脚の形態、後脚の形態、および後脚の側縁に4つの鋸歯を持つ点で中国大陸や台湾の固有種とは異なっていました。核の28SリボソームRNA遺伝子、ミトコンドリアのCOI遺伝子及び16SリボソームRNA遺伝子の部分塩基配列の情報はSpirobolus属に所属している事を示唆しました。これらの情報に基づいて、本種ヤエヤママルヤスデをSpirobolus akamma Kato, Takano, Nakano and Shimano, 2023として新種記載しました(学名読み:スピロボルス・アカンマ)。本種は、体長6.5cm~7.5cmであり日本最大です。学名のakamma「赤馬(あかんま)」は、ヤスデの脚がたくさんの馬が駆ける様に動くことから「馬陸(やすで)」とよばれることと、本種が赤と黒の体色の美麗種であること、そして赤馬節として歌に歌われる八重山諸島の民話に由来しています。1670年頃の話で、おめでたいときに歌われる歌ではありますが、主人のことを慕う従順な赤い馬の悲しい物語でもあります。本種は現地でも個体数が減少しており、今後、ますます保全の対象として、重要かつ貴重な種となります。発表雑誌:Species Diversity(スピーシーズ・ダイバーシティ)誌2023年1月12日(木)に公開論文タイトル:Taxonomic Assessment of a Threatened Large Millipede Endemic to the Southern Ryukyu Islands, Japan: a New Species of Spirobolus (Diplopoda: Spirobolida: Spirobolidae) from the Yaeyama Islands(英文)著者:Taiga Kato, Mitsuo Takano, Takafumi Nakano, and Satoshi Shimano 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2023年01月12日法政大学自然科学センター・国際文化学部の島野 智之教授(動物分類学)がTwitterに“新種のダニ”に関しての投稿をしたところ、それを見た一般の大学院生が投稿し、その投稿をきっかけに、再び別の“新種のダニ”の発見に繋がりました。イワドハマベダニの画像。オス(上段)メス(下段)。【発表のポイント】(1)Twitterで偶然見つかり、『2021年の注目すべき海洋生物の新種トップ10』のひとつにも選ばれた、千葉県銚子市の「日本のツイッターダニ」Ameronothrus twitterについてSNSに投稿したところ、「今話題のハマベダニってこれのことだろうか?鳥取県で撮影。」という投稿があり、すぐにこのダニの研究を開始したところ新種であることが判明しました。(2)学名をリツイートとしてAmeronothrus retweet(和名 イワドハマベダニ)という鳥取県岩戸からの新種として発表されました。本種はハマベダニの中でも珍しくオスメスが若干異なる形態をもっており、本ササラダニ類は人体には全く影響は与えず、岩に生える海藻や地衣類などの有機物を餌とします。(3)ソーシャルメディア(SNS)の利用と、一般ユーザからの投稿によって、「二匹目のドジョウ」ならぬ、2種目の新種ダニが発見されたことによって、誰でも新種の発見や生物多様性の解明に協力・参加できる事が示されました。ITを利用して発見された種はまだほんの一握りで、市民科学の観点からも今後多くの応用が期待できます。Twitterへの一般の会社員の投稿によって、島野教授が偶然見つけた千葉県銚子市の「日本のツイッターダニ」Ameronothrus twitterだが、この論文発表のニュースを島野教授がSNSに投稿したところ、「今話題のハマベダニってこれのことだろうか?鳥取県で撮影。」という投稿が鳥取県在住の大生 唯統(おおばえ ゆいと)さん(鳥取大学大学院)からありました。このダニも新種ではないかと判断して、法政大学島野教授はすぐにこのダニを採集して欲しいと大生さんに依頼しました。大生さんは、すぐにこのダニを採集し同教授に送付し、共同研究チームのトビアス=プフィングスティル博士(グラーツ大学 [オーストリア]・動物学研究施設・講師)、蛭田眞平博士(昭和大学富士山麓自然・生物研究所)と研究を行い、新種であることを確認しました。まもなく遺伝子解析の結果から新種であることが確実となりました。さらに形態学的研究から、メスの方で体が小さく、体表の構造も雌雄で異なった形態を持ち、このハマベダニ属では珍しい性的二型のダニであることが判明しました。ハマベダニ属は、本来、北極圏に生息していることが知られており、北海道余市の海岸岸壁から2019年に日本初として1種目のヨイチハマベダニを、同教授の研究チームが当時の南限として発表しました。次に2021年にSNSによって、国内2種目として千葉県銚子漁港からチョウシハマベダニ(通称ツイッターダニ)を同チームが発表しました。鳥取県岩戸の岸壁から得られた本種は3種目となり、日本海側初のハマベダニ属の記録となるだけでなく、ハマベダニ属の新たな南限となりました。本ササラダニ類は人体には全く影響は与えず、岩に生える海藻や地衣類などの有機物を餌とします。実は、今年1月に日本・オーストリア研究チームが発表した論文によって、海水温や気温から鳥取県が、ハマベダニ属の南限であることが予想されており、この予想を今回のSNSからの新種発見によって的中させたことになります。体長が1mmにも満たない、小さく目立たないダニが、SNSの利用と、一般ユーザからの投稿で、「二匹目のドジョウ」ならぬ、2種目の新種ダニが発見されたことによって、誰でも新種の発見や生物多様性の解明に協力・参加できる事が再び示されました。86%の地球上の生物種は未だに学名がついていないと推定されており、市民科学の観点からも今後より多くの市民と専門家の協力が望まれます。発表雑誌 :International Journal of Acarology(インターナショナル・ジャーナル・オブ・アカロロジー)誌2022年5月19日(木)に公開論文タイトル:Another mite species discovered via social media-Ameronothrus retweet sp. nov.(Acari, Oribatida)from Japanese coasts,exhibiting an interesting sexual dimorphism(英文)著者 :Tobias Pfingstl, Shimpei F. Hiruta,Iris Bardel-Kahr, Yuito Obae&Satoshi Shimano 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2022年06月03日