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武士の歴史との関わりが深い土地柄に建つ箱根・岡田美術館では、武士をテーマにした展覧会『The SAMURAI ―サムライと美の世界―』を開催する。同展では、源氏の武将とその家来たちが描かれた作品や、凄惨(せいさん)な合戦の様子、勇壮な馬追の祭礼など、時代によって異なる武士の姿を中心に、渡辺崋山や歌川(安藤)広重など、武士階級の画家が描いた絵、また 武家・武芸に関わる屏風など、武士をテーマとする絵画、工芸品を併せて30件余りを展示。2022年の大河ドラマに登場する人物らも描かれている。源平の栄枯盛衰を豪華絢爛に表現した≪平家物語図屏風≫や、源義経、静御前、武蔵坊弁慶を描いた葛飾北斎による≪堀河夜討図≫などの名品に加え、2021年が渡辺崋山の没後180年の節目にあたることに因み、代表作≪虫魚帖≫(重要文化財)も公開。日本の歴史を築いてきたSAMURAIと美の世界を辿る。葛飾北斎≪堀河夜討図≫(部分)江戸時代後期 19 世紀前半岡田美術館蔵≪合戦図屏風≫(部分)桃山~江戸時代初期 16~17 世紀 岡田美術館蔵≪相馬野馬追図屏風≫(部分)江戸時代中期 18 世紀 岡田美術館蔵渡辺崋山≪虫魚帖≫のうち(鶏頭にとんぼ・部分) 天保 12 年(1841) 重要文化財 岡田美術館蔵※会期中ページ替あり【開催概要】特別展『The SAMURAI ―サムライと美の世界―』会場:岡田美術館会期:10月2日(土)~2022年2月27日(日)※12月31日(金)~2022年1月1日(土)は休館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)公式サイト( )
2021年05月18日4月3日(土)より、歌舞伎座にて「四月大歌舞伎(しがつおおかぶき)」が開幕する。この度、公演に先立ち特別ポスター2枚が公開された。「四月大歌舞伎」は三部制(各部総入れ替え、幕間あり)で客席数は50%の904席を維持して上演される。第一部では、歌舞伎十八番の中でも屈指の人気を誇る『勧進帳』を日替りの配役で上演。 特別ボスターには、主役の武蔵坊弁慶を日替りで勤める松本白鸚と松本幸四郎の親子ふたりの臨場感が溢れる写真で、主君・源義経を命懸けで守ろうとする弁慶の鬼気迫る一瞬の表情が映し出された。かつてない親子競演となる交互出演による弁慶について、これまで1150回を演じ、本興行としては今回史上最年長での『勧進帳』弁慶となる白鸚は「覚悟を決めました」と意気込む。幸四郎も「曽祖父(七世幸四郎)、祖父(初世白鸚)、父の弁慶を目指す」と語り、 父から子、白鸚から幸四郎へ受け継がれる“高麗屋の弁慶”をお見逃しなく。もう一枚は、第三部で上演される『桜姫東文章』より、片岡仁左衛門と坂東玉三郎の“復刻版”ボスター。『桜姫東文章』は悪の魅力を放つ仁左衛門の釣鐘権助と、高貴な身分でありながら運命に翻弄されながら流転の人生を歩む玉三郎の桜姫を中心に、始終目の離せない展開が繰り広げられる、四世鶴屋南北の大傑作だ。昭和50年代より「孝・玉コンビ」として一大ムーブメントを巻き起こした仁左衛門(当時:孝夫)と玉三郎の名コンビが、大人気を博した『桜姫東文章』を歌舞伎座で上演することで大きな話題を呼んでいる。物語の前半にあたる「上の巻」上演にあたり、当時撮影されたふたりのスチール写真が特別 ボスターとして復活。ふたりが緻密に織りなす、美しくも恐ろしい人間ドラマが36年の時を経て令和の今に蘇る。なお、撮影は大倉舜二。これらのポスターは、歌舞伎座地下2階の木挽町広場や、1階お土産処「木挽町」、歌舞伎座公式インターネットショップ「かお店」などでも販売される。ぜひこの機会にお買い求めいただきたい。【公演情報】歌舞伎座4月公演「四月大歌舞伎」2021年4月3日(土)~28日(水)
2021年04月02日「配信やDVDで観ようと思うんだけど、刀ミュって、どの公演が一番おすすめなの?」地上波の音楽番組に出ることも珍しくなくなり、ミュージカル『刀剣乱舞』(以下:刀ミュ dアニメストア、DMM.comで配信)が世の中で確実に知名度を上げ続けている今日このごろ。実際に何が行われているかは分からないけど、なんとなく沼が深そうで楽しそうなのは伝わってくるよ、という雰囲気が広がってくると、興味を持ってくれた人によくこの言葉を聞かれます。そんなときは、自分がいちばん好きな公演をおすすめしたい! ……ところではあるのですが、その人には完璧な形で刀ミュの沼に浸かってほしい、いや、刀ミュを知って人生が豊かになってほしい!!! と思っているので、わたしの場合「わたしがいちばん好きな作品はこれだから絶対に観てほしいんだけど、刀ミュを楽しむためのおすすめのルートがいくつかあるから、あなたがどの作品から入ると良さそうか、まずヒアリングさせて!」と言います。刀ミュの本公演は2020年4月時点で9作(再演などを含む)上演されていて、そこに毎年開催されるライブや単騎出陣などDVD・BDが販売されているものも含めると、なんと18作品にも上ります。多い!シリーズものではありがちですけど、1作目から観るのがいちばんだとは分かりつつも、「そのシリーズにぐっと引き寄せられるような、すとんと落ちていくきっかけになる作品があるはず……」と思うと、そこから入ってずぶずぶと引きずり込まれたくなってしまうんですよね。というわけでこの記事では、これを読んでいるあなたに「どの公演がおすすめ?」と聞かれたとしたら、わたしがどんなおすすめルートを紹介するかを実際に答えていきたいと思います。本当は細かいところで区切ればたくさんのルートがあるのですが、今回は提示する率の高い3つのルートのみ取り上げてみました。まだ観たことがないという人にとって最初の1作目を選ぶときのヒントになれたら幸いですし、すでに観たことがあるよすっかりおたくだよという人は、これから誰かにおすすめするときの手法として参考にしてもらえるとうれしいです。では、あなたにとって大事な1作目を選ぶために、まずヒアリングさせてください!○■1 「まずは好きな役者や好きな刀剣男士を探したい!」という場合は……ライブで気になる役者・刀剣男士を見つけてもらう『推しルート』・「真剣乱舞祭2016」・「真剣乱舞祭2017」・「真剣乱舞祭2018」2.5次元は「原作の世界観や登場人物を現実世界で楽しめる」のが特徴であり楽しいところでもありますが、原作や2.5次元そのものをあまり知らないという人は、独特な設定や雰囲気についていけないかも……と最初は不安になるかもしれません。そういう人におすすめなのが、刀ミュが年末に開催しているライブ「真剣乱舞祭」(通称:らぶフェス)から入ってもらう「推しルート」。刀ミュは第一部がミュージカル本編、第二部がライブという二部構成で行われているのですが、このらぶフェスは二部のライブ楽曲を中心に展開される、文字通り年に1度のお祭り的なライブなのです。本公演に出演する役者たちが一堂に会する(そろわないときもあります……)ので、一気にいろいろな刀剣男士を知ることができるのがポイント。本公演の物語を通らなくても十分に楽しめるので、まず刀ミュの雰囲気や役者が演じるキャラクターたちを知ってもらうにはぴったりです。なんといってもライブだから、最高にかっこいい役者たちが最高にかっこいい歌とダンスで盛り上げてくれてめちゃくちゃ楽しい!!! そして何より、ライブでもきちんと刀剣乱舞の世界観を維持していて、役者もきちんとその刀剣男士としてパフォーマンスしているところがすごい。だから刀剣男士に対しても興味がわくし、もともとその刀剣男士が好きだった人も演じる役者のことがだんだん気になってくる……という仕組みができているように思います。そして刀剣男士たちの中には兄弟だったり同じ主の持ち刀だったりと、いろいろなつながりを持つキャラクターもいるので、そういった好きな関係性から推しを見つけてみるのもいいかもしれません。刀ミュには公演ごとに編成部隊、いわゆるチームが存在しているので(team三条 with加州清光、formation of 三百年など)気になった刀剣男士チームを見つけたら、彼らが出演している本公演をぜひチェックしてみてください!わたしがおすすめするルートの中でいちばん引きがいいのがこの「推しルート」なのですが、普段アイドルを追いかけている人にとっては相性がいいかも……? うちわの文化も他のアイドル文化とは違うところも多いので(刀ミュは2部やライブならうちわOKなのです!)この界隈はこういう感じなのか! というところも含めて楽しんでもらえると思います。さらに刀ミュの楽曲を提供された方にはアイドル楽曲の制作に関わった方が多いこともあり、この曲はあのグループっぽい……! という部分を探してみるといいかもしれません。個人的なおすすめは「真剣乱舞祭2018(らぶフェス2018)」。実は「真剣乱舞祭」という形での上演は2018年で区切りがついていて、2019年は「歌合 乱舞狂乱」と名前も形も変えて開催されました。実質最後のらぶフェスとなったらぶフェス2018なのですが、もうらぶフェス全体が山だとすれば、ここが山頂なわけです。ここにくるためにこれまでの刀ミュがあった……とご来光(のように輝く刀剣男士たち)に祈りを捧げたくなるほどの盛り上がる演出とパフォーマンス、そして刀ミュの圧倒的なパワーを感じてほしいです!○■2 「歴史上の人物が好き」という場合は……好きな歴史を題材にした作品から選んでもらう「歴史ルート」・源平(鎌倉)…「阿津賀志山異聞」「つはものどもがゆめのあと」・徳川(戦国〜江戸)…「三百年の子守唄」「葵咲本紀」・新撰組(幕末)…「幕末天狼傳」「結びの響、始まりの音」刀剣乱舞は「変えられてしまいそうな歴史を敵から守る」という目的を持っているので、刀ミュでもさまざまな歴史が物語の舞台になります。歴史や歴史上の人物が好きな人におすすめなのが、好きな歴史が舞台になっている作品から入るという「歴史ルート」。その歴史への思い入れもひとしおとなればストーリーの好みはあるかもしれませんが、刀ミュでは歴史の「if」を描いているので、これまでとは違った角度でその時代を体験できるかもしれません。今までに描かれたのは、源義経と武蔵坊弁慶の時代、新選組の時代、徳川家康の時代、そして島原の乱。それぞれの時代を前後篇のように2作で描いていますが、実は連続して上演されていません(たとえば源義経と武蔵坊弁慶の話は、1作目「阿津賀志山異聞」と4作目「つはものどもがゆめのあと」と間があく)。とはいえ、いきなり1作目のあとに4作目を観てもぜんぜんついていけない! ということはないので大丈夫です。むしろ「めっちゃメイク進化してない……!?」という驚きを体験してください。なにしろ刀ミュでは“刀とその主”との関係性が色濃く描かれるので、刀剣男士の「主を救いたい」「でも歴史を変えてはいけない」という葛藤に胸が苦しくなること必須です。身分や自身の葛藤と戦いながら、それでもかつての主とうれしそうに話す刀と、その主とのやりとり。涙なしでは観られません。作中でも折に触れて「どうして歴史を変えてはいけないのか」という問題に触れるのですが、そのたびになぜかを考えてしまうし、歴史とは何か、歴史を変えようとする歴史修正主義者とは何なのかという、刀剣乱舞を取り囲む大きな謎にも直面すると思います。考察が好きな人は、物語を追いつつこの々について考えてみるのもいいかもしれません。わたしがおすすめするのは、新選組の始まりと終わりを描いた、2作目「幕末天狼傳」と5作目「結びの響、始まりの音」。新選組という慣れ親しんだ題材だからというのもありますが、連作としても展開が儚くて美しく、2作目を経た5作目のラストがとにかく突き刺さるのです。最後に土方歳三が自分の持ち刀である和泉守兼定になんと声をかけるのか、ぜひその目で観てみてください。○■3「進化していく過程」や「物語をちゃんと追いたい」という場合は……やっぱり1作目から追う「王道ルート」・2015年…「トライアル公演」・2016年…「阿津賀志山異聞」「幕末天狼傳」「in 嚴島神社」「真剣乱舞祭2016」・2017年…「三百年の子守唄」「加州清光 単騎出陣2017」「つはものどもがゆめのあと」「真剣乱舞祭2017」・2018年…「結びの響、始まりの音」「阿津賀志山異聞2018 巴里」「加州清光 単騎出陣2018」「真剣乱舞祭2018」・2019年…「三百年の子守唄2019」「加州清光 単騎出陣 アジアツアー」「髭切膝丸 双騎出陣2019 〜SOGA〜」「葵咲本紀」「歌合 乱舞狂乱 2019」このルートは1作目から物語を追う「王道ルート」であり、他のルートをたどった人の終着点でもあります。なぜならシリーズの途中だけを観ても、どうしても刀ミュというコンテンツの成り立ちが気になってしまい、結局1作目へと戻ってイチから物語を追いかけてしまうからです。おかえり、ここがスタートでゴールだよ。刀ミュは途中の作品だけを観ても分かるようになっていますが、序盤の作品では刀剣乱舞そのものの世界観が分かるような演出も含まれているので、原作のゲームを通っていない初心者にもやさしいです。そして作品を追うごとに技術が高くなっていく舞台美術に音楽、メイク、衣装、役者そのものの表現に、やっぱり感動を覚えます。刀ミュというコンテンツがどんどん大きくなっていくのも、目に見えて分かるかと思います。刀ミュの進化や役者そのものの物語を追いかけたいという人は、ぜひ1作目から体験してください。そうすると、「厳島神社で奉納公演をやるようになるなんて……」「さいたまスーパーアリーナにも立つなんて……」「とうとう紅白歌合戦にも出陣するなんて……」「東京ドームで始球式までやっちゃうなんて……」と、活躍の場が広がっていく様子にほろほろと泣けると思います。また、途中から観ても分かるようになっているよと言ったものの、実は絶妙に連続性があるので、細かな物語も追いかけたいという人にも1作目から観ることをおすすめします! そしてだんだんと浮き彫りになってくる、刀ミュが描こうとしているこの世界観の謎と“ある刀剣男士”の存在に、一緒にぞくぞくしてほしいのです。○■劇場にまた戻れるようにちょうどDMM.comで無料一挙配信があったばかりなので、そこから刀ミュの世界に触れた人も多いはずです。どこから観ても間違いではないので、そこをスタート地点に刀ミュをもっともっと楽しんでもらえたら、イチおたくとしてとてもうれしく思います!もう刀ミュをすでに何度も観たことがあるよという人は、“わたしの考えた最強のルート”を考えてみるのもたのしいかもしれません。おたく同士で集まってプレゼンしあうとさらに盛り上がりますよ!そして映像を見ておもしろいと感じたら、次は絶対に絶対に、劇場で観劇していただきたい……! と強く願っています。「こんな世界があるのか」と、ステージの上から目が離せなくなると思います。きっとそんな瞬間が、約3時間の公演の中で訪れるはずです。2020年5月現在、新型コロナウイルスの影響で、さまざまな舞台が「中止」というとても悔しくて悲しい決断を下す状況にあります。刀ミュも新作公演が途中で中止になりました。でもきっと、刀ミュもそのほかの舞台も、必ずまた劇場で観られるときがくると信じています。刀ミュのプロデューサーでもある演劇プロデューサーの松田誠さんが「シアターコンプレックス」というプロジェクトを立ち上げて、舞台の火を消さないために前へ前へと進んでいるのを見ていると、大切なのは愛するものへの情熱を忘れないことだと気づかされます。だから私も、情熱を再確認し、より一層燃やすために、家で過ごす時間を使って刀ミュを最初から見直してみようと思っています。そして刀ミュを映像で知ったよという人と、いつか劇場で出会う日が来ることを信じています。■著者プロフィールあまりあテニミュから舞台にハマった2.5次元のおたく。年に100回以上は劇場で観劇している。
2020年05月27日新型コロナウイルス感染防止のためたくさんの舞台が中止や延期になっている。『刀ミュ』ことミュージカル『刀剣乱舞』もそのひとつで、最新作ミュージカル『刀剣乱舞』 〜静かの海のパライソ〜は東京公演が途中で中止、兵庫・熊本・宮城公演の全公演が中止になってしまった。5月15日から予定されている東京凱旋公演はいまのところ中止・延期の発表はないが心配なところ。急なお休みを余儀なくされているキャスト、スタッフの想いはいかばかりか。過去の『刀ミュ』を配信(dアニメストア/月額400円で配信のほか、24日20:00からDMM.comにて無料配信)で観てレビューすることで、想いを馳せてみたいと思う。まずはミュージカル『刀剣乱舞』 ~阿津賀志山異聞~のレビューを。なお、お読みになる方にはすでに舞台や配信でご覧になっている方も多いと思うが、刀ミュが気になっているけれど未見の方もいると思うので、基本的な情報は記し、かつネタバレし過ぎないように気をつけて書くのでご了承いただきたい。○■伝説の始まりを感じさせる導入『刀ミュ』とは、名立たる刀剣が戦士へと姿を変えた"刀剣男士"を率い、歴史を守るために戦う刀剣育成シミュレーションゲーム『刀剣乱舞』を原作にして制作された2.5次元ミュージカル。まず、2015年にトライアル公演を実施、それをアップデートした作品が16年、ミュージカル『刀剣乱舞』~阿津賀志山異聞~として上演され、以後、シリーズ化されている。第1部・刀剣男士が史実を守るべく闘う物語、第2部・刀剣男士たちが歌い踊り語るショー形式の2部構成がデフォルトである。『刀ミュ』は日本史を知っていると楽しめる。阿津賀志山とは日本史の「阿津賀志山の戦い」の舞台となった、福島と宮城の県境にある場所。鎌倉時代、文治5年(1189年)、源頼朝軍と藤原泰衡軍がそこで闘ったとされる。源頼朝軍と藤原泰衡軍の前に、有名な義経の物語があって、兄・頼朝のために働きながら、反感を買い、悲しき最期を遂げる。そんな彼に忠義を尽くし続けた人物が武蔵坊弁慶である。「阿津賀志山異聞」の冒頭は、鎌倉時代、源義経(荒木健太朗)と武蔵坊弁慶(田中しげ美)の壮絶な戦いの場からはじまる。刀剣男士6振りの登場はその後。6本の刀が大地に刺さり、そこから三日月宗近(黒羽麻璃央)、小狐丸(北園涼)、石切丸(崎山つばさ)、岩融(佐伯大地)、今剣(大平峻也)、加州清光(佐藤流司)が出現し、テーマ曲「刀剣乱舞」をまさに乱舞する。やがて伝説化していく刀ミュのはじまりにふさわしい登場の仕方である。舞台装置は舞台中央奥の大階段が場面に応じて2つに分かれるという、主に2パターンで様々な場面に対応している。大階段上、大人数で刀を振るうアクションは見せ場である。映像もふんだんに使用され、刀の残像が弓なりにしゅっとなる瞬間も鮮やか。刀剣男士はふだん、桑を振るって畑仕事をしているが、歴史修正主義者が暴れると、その時間、その場所へ向かって、史実を守るために闘う。今回は、新選組・沖田総司の刀だった加州清光が、主(声:演出を手掛ける茅野イサム)から隊長に任命され、阿津賀志山へ。メンバーは三日月宗近、小狐丸、石切丸、岩融、今剣だが、三条派と言われる彼らが加州清光には苦手で……。○■個性豊かな刀剣男士たちが登場加州清光は、新選組・沖田総司がもっていた刀で、ほかの5振りは鎌倉時代や平安時代の刀である。加州清光ひとりだけ、生きてきた時代が違うのである。物語は主に、加州清光が無茶な戦いをする新選組と共に生きてきたことと、いま刀剣男士となって感じることとの葛藤と、義経と弁慶を史実どおり死ぬ流れにもっていかなくてはならず苦しむ、今剣と岩融の物語の2本を主軸に進んでいく。三日月、小狐丸、石切丸は少し引いた視点で加州清光や今剣を見つめているふうに描かれている。史実では、義経の死後、頼朝の軍勢が藤原泰衡を滅すことになるが、歴史修正主義者たちによって、死んだはずの義経が生き返ってきた。この間違った流れを阻止することが刀剣男士のミッション。だが、今剣は義経に強い思慕があり、久方ぶりに会った義経を死なせることに迷う。今剣は、6振りの中で最も小柄。血気盛んなリーダー・加州清光、しゅっとして優雅な三日月宗近と小狐丸、戦が嫌いで祈祷師的な独特のスタンスを持つ石切丸、大柄で豪快な岩融の間を、軽快に動きまわり、その無邪気さが、主人への執着を無理もないものに感じさせる。今剣を演じる大平峻也は動きが機敏で、6振りの中のいいアクセントになっている。淋しげに「きらきら」を歌う場面はいじらしく、今剣と彼を支える岩融の関係性も切ない。○■ためらいが描かれた作品今剣の持ち主だった義経と岩融の持ち主だった弁慶は、刀ミュ以前からも人気である。歌舞伎にもなっていて、兄に愛されなかった義経の悲劇と、忠義の人・弁慶は長いこと日本人に支持されてきた。「判官贔屓」という言葉もあるほどである。「阿津賀志山異聞」ではいわゆる弁慶義経の話がたっぷり描かれない分、義経の刀・今剣と、弁慶の薙刀・岩融のブロマンスが描かれ、それによって義経と弁慶の関係もわかるようになっている。逆にその間接的な描写のほうが萌えるといってもいいかもしれない。後半になると、弁慶と岩剣の場面があって、「弁慶の泣きどころ」ネタに笑い、じゃれあうときの弁慶のためらいの間にキュンとなる。そう、「阿津賀志山異聞」には「ためらい」が描かれている。もともと、人を斬る武器として生まれた刀たちが、人間になったことで「心」をもち、人を斬ることにためらいが生まれ、それに悩む。三日月宗近と加州清光が歌う「矛盾という名の蕾」は、武器として生まれてきた最後の世代・加州清光と、もっと長い歴史を知っている三日月宗近が、互いの考えを語り合い、己の宿命を実感していく歌。「命 奪い合う『物』として生きるしかなくて」と言葉を噛み締めながら歌う加州清光、最後に歌を重ねる加州清光と三日月宗近。ふたりのファルセット気味の声の重なりが心に響く。ちなみに、配信版は20分ずつくらいにチャプターを分かれているが、そのたび停止になることはなく、そのまま次のチャプターに続くようになっている。歴史の中で悲劇の死を遂げた義経の気持ちに寄り添い、今剣の気持ちに寄り添い、自分たちの「役割」について想いを馳せながら、最初は苦手だった仲間とも歩み寄っていく加州清光。江戸時代、刀がその役割を終える最後の時代に立ち会った加州清光が、時代のなかで正しく消えていかねばならない生命に立ち合う仕事を行う者たちの隊長であることにも深い意味を感じながら、ラストの「キミの詩」を聞いた。○■舞台の愛おしさを感じるショータイム第2部は、6振りが歌って踊るショータイム。義経、頼朝、泰衡も参加して楽しめ、俳優たちに自然な笑いがこぼれるところも見られる。役と素が混ざった感じが2部の楽しさ。ここでは、客席も映り、観客が掲げたペンライト(推しのシンボルカラーがある)が輝き、俳優たちの一挙手一投足に反応する声も聞こえてくる。こういう映像は『刀ミュ』に限ったものではないが、新型コロナウイルスで無観客公演を配信するという試みも行われたいま、改めて観客ありの映像を見ると、演じる人たちと観客の両方でできている舞台を愛おしく感じる。もちろん、正規の上演ができないなか、無観客配信を行うことで、チケットを買ったにもかかわらず見られなかった人へのフォローになるし、スタッフやキャストの経済的なフォローになるかもしれないし、さらには新しい観客との出会いなど前向きに考えられることもある。だが、それはあくまでも現状の対案であって、観客ありの配信を見ると、観客の反応で同じ内容でもその都度変化がある、まさに“ナマ物”である演劇の尊さを改めて感じて、なんだか涙が出てしまった。いつかまた劇場で出会える日を祈り続ける。
2020年04月24日今年4月にKAAT 神奈川芸術劇場の芸術参与に就任した長塚圭史が、同劇場で手がける最新演出作『常陸坊海尊(ひたちぼうかいそん)』が本日12月7日より開幕する。この作品は、蜷川幸雄の演出で繰り返し上演された『近松心中物語』の劇作家・秋元松代の代表作で、1964年の発表当時、演劇界に衝撃を与えた戯曲として知られている。1997年には蜷川演出で上演されているが、長塚が「恥ずかしながら今回初めて読んだ」と明かすように、観たこと、読んだことがある人は多くはないかもしれない。タイトルの“常陸坊海尊”とは、歌舞伎の『勧進帳』にも登場する伝説の人物。源義経の忠臣として武蔵坊弁慶らと共に都落ちに同行するが、義経最期の場である衣川の戦いを目前に主を見捨てて逃亡。その後、不老不死の身となり、自らの罪を懺悔して、源平合戦の次第を琵琶法師となって人々に語り聞かせたとされている。秋元はこの伝説を背景に人間の“生”や“性”、そして格差や差別といった問題を描いている。物語は戦時中、少年・啓太と豊が東京から疎開先にやってきたことから始まる。ある日ふたりは、常陸坊海尊の妻と名乗るおばばと暮らす美しい少女・雪乃と出会う。その後、烈しくなる戦争で両親を失った少年たちは雪乃に魅かれていくが、啓太は母への恋しさから、おばばに母の姿を重ねていく。そして、16年後、成人した豊は、疎開先で消息を絶った啓太と再会するが……。海尊の妻と称すおばば役は、蜷川版にも同役で出演した白石加代子。その白石も「一筋縄ではいかない作品」と言うが、長塚との信頼関係から今回、自ら出演を希望している。また、おばばの孫で、その魔性で男たちを翻弄する雪乃には中村ゆり。そして疎開児童の啓太に平埜生成、豊に尾上寛之。ほか個性豊かな実力派キャストに加え、音楽は、ソロプロジェクトFPM(ファンタスティック・プラスチック・マシーン)をはじめ、DJ、プロデューサーとして国内外で活躍する田中知之が担当。田中が舞台音楽を手がけることにも期待が集まる。「生半可な劇ではない。しかし、険しい道の先にはきっと眩い光があるという確信に突き動かされる。これは現在の私たちの社会に痛烈に響く現代劇です」と話す長塚。初演から半世紀余を経た名作は、演劇界にふたたび衝撃を与えるか。12月22日(日)までKAAT 神奈川芸術劇場 ホール、1月11日(土)・12日(日)に兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、1月16日(木)に岩手県民会館 大ホール、1月25日(土)に新潟市民芸術文化会館 劇場にて上演。文:伊藤由紀子
2019年12月07日舞台『遙かなる時空の中で3』が12月6日から、東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAを皮切りに上演スタート。公演初日には、マスコミ向けの公開稽古が行われた。【チケット情報はこちら】原作はコーエーテクモゲームスがおくる、人気女性向けシミュレーションゲーム『遙かなる時空の中で』シリーズの第3作目。『遙か』シリーズは2008年から舞台化が展開されており、これまでに4作が上演。原作シリーズでもとりわけ人気を誇る『3』は、『遙か』シリーズ舞台化10周年記念として制作された。主人公・春日望美(吉川 友)は、“龍神の神子”として白龍(稲垣成弥)に導かれ、有川将臣(井上正大)・有川 譲(千綿勇平)と、源氏と平家が抗争を繰り広げる戦乱の時代に飛ばされてしまう。しかし、そこに将臣の姿はない。源九郎義経(早乙女友貴)、武蔵坊弁慶(石渡真修)と、黒龍の神子である梶原 朔(野本ほたる)、梶原景時(輝馬)ら、源氏軍と合流した望美は、平家が使役する怨霊を封印するために源氏のなかで戦うことになった。平家軍から逃れてきた平 敦盛(星元裕月)、剣の師匠となるリズヴァーン(村上幸平)らと、平家軍と対峙することになるが、還内府として平家を率いていたのは将臣だった――。さらに、平家の将・平 知盛(中村誠治郎)が大きな壁として立ちはだかり……。平家と源氏の争いの果てに、望美が選ぶ運命とは。オープニングから登場人物たちの激しいアクションが組み込まれ、その迫力に目を奪われる。ステージ全体を使い、入れ替わり立ち代わりで、ひとりひとりがアクションを披露していくさまは圧巻。劇中でも敵将や怨霊と対峙する場面でアクションを見せるが、男性キャラクターたちの見惚れてしまう雄々しい姿はもちろん、望美の“大切な人を守りたい”という気持ちが現れた、勇ましい立ち回りにも注目だ。自らが戦の前線に立ち、女性らしくも凛々しく戦う姿は目を見張る。客席通路を使用した演出も見られ、物語の世界に一気に引き込まれてしまう。さらに、九郎らと源氏として戦い、絆を育むなかでずっと会いたかった将臣は平家の総大将としている。その狭間で揺れる望美、といった女性向け作品らしいドラマチックなストーリー展開、それぞれの登場人物たちと心を通わせていく姿も見ものだ。各人に見せ場があり、注目のキャラクターの姿をしっかり目に焼き付けることができる。迫力あるアクション、心揺さぶられるドラマチックなストーリーは、ぜひ劇場で体感してほしい。公演は12月10日(月)まで東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA、14日(金)から16日(日)まで大阪・サンケイホールブリーゼ にて上演。大阪公演のチケットは発売中。取材・文:渡邉千智
2018年12月07日近江と琵琶湖の幸が並ぶ発酵食ガストロノミー「星野リゾート ロテルド比叡」は、京都と滋賀にまたがる比叡山にあって、琵琶湖の幸と近江の文化である発酵食“鮒鮓(ふなずし)”をなんとフレンチで楽しむことができるオーベルジュ。そして、延暦寺の敷地内から湧き出る「比叡山の霊水」を使ったスパや延暦寺の早朝のお勤め体験など、この立地だからこそのユニークなアクティビティもあります。天井までガラス張りで陽光が注ぐ開放的なロビーの入り口横には、京の都と琵琶湖・比良山系のモチーフが飾られています。また「サロン・ド・比叡」の中心に置かれた大きなテーブルも琵琶湖をモチーフにしたもの。ここでは、タルトや焼き菓子などと、最澄が持ち帰ったお茶の種子が由来という近江茶を焙煎したほうじ茶のアフタヌーンティーが無料で振る舞われます。(15:30〜17:00)比叡山の霊水スパに早朝のお勤め体験「星野リゾート ロテルド比叡」の比叡山の霊水を使ったスパは、軟水で柔らかい霊水を使いながら、経絡にそって気血を巡らせるオイルトリートメントで、心身ともにリフレッシュできます。延暦寺を開いた最澄が念じて水が湧き出たという言い伝えや、武蔵坊弁慶が延暦寺千手堂(山王院)での千日修行の際に仏前に備える水をここで汲んだという言い伝えもあり、今でも比叡山には多くの霊水が流れています。また、延暦寺の総本堂である根本中堂。国宝にも指定されている建物の中での厳かな早朝のお勤めは、「星野リゾート ロテルド比叡」に宿泊したゲストのみに許されている貴重な体験。凛とした空気の中で仏様に向きあえば、清々しい気持ちにひたれます。スポット情報スポット名:星野リゾートロテルド比叡住所:京都府京都市左京区 比叡山一本杉電話番号:0570-073-022
2017年04月24日三陽商会による「100年コート」の裏地と着脱可能なライナーを、歌舞伎の様々な衣裳に使われる「翁格子」を元に開発した「三陽格子」柄にカスタマイズ出来るオーダー会が9月19日から23日まで三陽銀座タワー6階にて開催される。人気演目「勧進帳」の武蔵坊弁慶役を始め、歌舞伎の様々な演目の衣裳として用いられる「翁格子」。名前にある“翁”とは老人のことであり、太い格子の間に何本もの細い格子が入れ込まれたデザインを、翁(老人)が大勢の孫をもつ姿に見立てたことに由来したと言われている。今回は、“世代を超えて永く愛される。”ことをテーマに製作された「100年コート」のコンセプトと、「翁格子」の持つ“老人と大勢の孫”の意味が合致したことにより、「翁格子」にフォーカス。伝統ある「翁格子」を元に、オリジナルの配色によって現代的に表現することで「三陽格子」が製作された。ベースには大徳寺の土壁の色である砂色が、格子の太い部分にはいぶし瓦の墨色を採用。さらに、アクセントとなる細い格子には三陽商会のカラーである紺青と柿色の2色が使われている。
2015年09月09日日本人であれば誰もが知っているような偉大な日本人はたくさんいます。外国人にはどんな人が魅力的に見えるのでしょうか。今回、日本に住む外国人20人にお聞きしたのは「好きな日本の歴史上の人物」。えっ!と驚く意外な人物も登場します。■福澤諭吉1万円の肖像として使われているから(ベトナム/女性/20代前半)既に幕末から世界をまたに掛けていた福澤諭吉。まさに日本を代表する人物ですね。外国のお札の人物、あなたは何人知っていますか?■織田信長・やることが大胆だから(インド/女性/30代後半)・外国人に対してオープンだった(オランダ/男性/30代前半)「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」。その豪快さは海外にまで知られているようです。そして海外と積極的に交流しようとする姿勢にも、好感を持たれているようですね。■豊臣秀吉農民として生まれたのに、関白まで出世したからです(スペイン/男性/20代後半)秀吉の生涯は大河ドラマ的サクセスストーリー。意外さと面白さを兼ね備えた彼の生き様は、万国に通じる一大活劇かもしれません。■徳川家康強いイメージがある(ペルー/男性/50代前半)信長、秀吉ときたら、やはり家康。この3人は鉄板歴史上人物セットですね。■上杉謙信武田に塩をおくる逸話が印象的だったからです(ロシア/女性/20代後半)謙信のこのエピソードはまさにサムライスピリッツを絵に描いたようなもの。日本人としても誇らしい史実です。■侍全体カッコ良くて怖い存在(イギリス/男性/40代前半)西洋人は侍好き、忍者好きがほんとに多いですね。だいぶ前にいなくなっているのに、いまだに日本の印象として根強いのですから、よほど興味深い存在なんですね。■源義経と武蔵坊弁慶、織田信長、宮本武蔵、坂本竜馬一生懸命に生き、一般の常識を越えた人たちで、他の誰にも見られない未来の可能性が彼らには見えていたのだと思います(イタリア/男性/30代前半)すごい!この方は日本の歴史にかなり興味があるみたいですね。それぞれの人物像もしっかりと思い描かれているようです。■明治天皇・好きというよりも、尊敬しています。日本を大国にしたスピードがすさまじかったです(ウズベキスタン/男性/20代後半)・日本の新しい時代を作った重要な人物のひとりだからです(エジプト/男性/40代後半)まさかの天皇登場です。明治天皇は日本を近代国家として作り上げた人物。日本国民から「大帝」と呼ばれるほど尊敬を集めたと言われています。海外の方は日本の近代史にも関心があるのですね。非常に興味深いです。■田中角栄日中友好の架け橋だから(中国/男性/20代後半)田中角栄は2012年9月で40周年を迎えた、「日中国交正常化」時の首相。2009年に中国メディアによって発表された「新中国に影響を与えた60人」のひとりとしてもあげられています。この60人には松下幸之助や小泉元首相、高倉健もランクイン。いろいろな意味で「影響を与えた」人物がピックアップされたようです。■松尾芭蕉昔、文学の授業で松尾芭蕉の俳句を詠んだことがあるため(台湾/男性/20代後半)外国の方に日本の俳句を知ってもらえていたなんてすてきですね。数年前、日本を訪れた台湾の李登輝(りとうき)前総統も、奥の細道をたどる旅をされていました。日本の情緒を感じていただけたのではないでしょうか。■夏目漱石素晴らしい作品をたくさん残したからです(ハンガリー/女性/30代前半)日本の近代文学の多くが翻訳され、世界に知られています。漱石の場合、「坊っちゃん」だけでも英語の他、フランス語、ドイツ語、中国語、ロシア語、アラビア語、ルーマニア語、カタロニア語、インドネシア語、タイ語、シェルパ語などに訳されています。福沢諭吉と同じく、お札になるだけありますね。みなさんの好きな人物は登場しましたか?外国人の方々は人物の名前を知っているだけでなく、その人物像や歴史などにも興味を持っていることが分かります。機会があったら深く語り合ってみても面白いかもしれませんね。【拡大画像を含む完全版はこちら】
2012年11月27日歌舞伎俳優の市川海老蔵が来年1月の『新春浅草歌舞伎』に14年ぶりに出演することが発表された。海老蔵は第1部で『寿曽我対面』の工藤祐経、初役で挑む『幡随長兵衛』の幡随院長兵衛、第2部で『毛谷村』の杣斧右衛門、『口上』、『勧進帳』の武蔵坊弁慶と全ての演目に出演する。海老蔵に現在の心境を訊いた。「浅草は若い俳優たちがやるフレッシュなお祭りであって欲しい」という思いもあり、はじめは出演を辞退したそう。だが「幡随院長兵衛はいつかはやる役。父(市川團十郎)が元気なうちに習っておきたいですから、それは今がチャンスだと思う」と前向きに答える。それでも侠客の元祖と言われ、度量の大きさをみせる長兵衛役については「気合を入れないとね。恥をかいてでも今やって、(いつかは)出てきただけで『ああ、やっぱり成田屋(海老蔵の屋号)の長兵衛だな』と思わせたい」と胸のうちを明かした。弁慶は1999年1月に同じ浅草歌舞伎で初めて演じた。「(初役の時は)すごかったんですよ、精神的に。そいういう思いに浸りながらできるのは感慨深いなと。まさかまた浅草でやらせてもらえるとは思わなかったので、一から考え直し、作り直して再構築しようと思っています」と語る。相手役の富樫は「ずっと前から一緒にやりたかった」という片岡愛之助が勤める。『口上』は「三が日なのでにらむ方向も視野に入れてます。基本は仕初式(しぞめしき)でしょうね」と話す。その来年は浅草のあと2月、3月に團十郎と一緒に『オセロー』に出演、4月以降も12月までスケジュールがぎっしり詰まっている。来年の抱負を訊くと「無事に生き延びる」ときっぱり。「(浅草歌舞伎は)『勧進帳』で締めくくれるということで、何か見つかるんじゃないか。休むよりかは出続けて(何かを)見つけたい、そして次に進もうかと」。公演は2013年1月2日(水)から27日(日)まで東京・浅草公会堂で上演。チケットは11月24日(土)より一般発売開始。
2012年10月23日染五郎38歳、松緑36歳、そして海老蔵34歳。歌舞伎の家に生まれ、伝統を受け継いで互いに切磋琢磨してきた3人が、12月の東京・日生劇場で強力タッグを組んだ姿を見せている。「七世松本幸四郎襲名百年」と銘打たれた本公演は、明治・大正・昭和と偉大な足跡を遺した名優の記念興行。そのひ孫に当たる3人の顔合わせの妙はもちろん、若手中心の勢いに溢れた舞台からは、歌舞伎の道を黙々と進む彼らの、曽祖父への決意表明のようなものが改めて伝わってくる。12月7日に幕を開けた場内は、30代ならではの3人がぶつかり合う様子に早くも熱気で包まれていた。『日生劇場十二月歌舞伎公演』チケット情報演目は昼が『碁盤忠信』と『茨木』、夜が『錣引』に『口上』を挟んで『勧進帳』。『碁盤忠信』は七世が明治44年に襲名披露で上演して以来、なんと100年ぶりの復活。こんなところにも伝統と進取の融合を図る染五郎らの想いが込められているようだ。伝説に基づいた本作は、源義経の忠臣・佐藤忠信(染五郎)が舅の小柴入道浄雲(松本錦吾)の裏切りに遭い、手近にあった碁盤を振りかざして応戦する場面が最大の見どころ。桜が咲き乱れる中、大鉄棒を持った横川覚範(海老蔵)が登場し、忠信と荒事の立回りを繰り広げる終盤は、若手らしい勢いに溢れて爽快のひと言。一方の『茨木』は、渡辺綱(海老蔵)に片腕を切られた鬼の茨木童子(松緑)が、綱の伯母・真柴に化けて腕を取り戻しにやってくるという物語。松緑は優しげな老婆のたたずまいから、たちまち鬼の本性を現す一瞬にゾクリとさせる妖気を絡ませて魅せる。夜の部では、各々のニンに合った役どころの『勧進帳』が楽しい。海老蔵の豪快で茶目っ気のある武蔵坊弁慶、松緑の思慮深く端正な富樫左衛門、そして染五郎のどこかこの世を超越したかのような風情の源義経と、三者三様の魅力が味わえる。花道を飛び六方で引っ込む海老蔵の勇壮さは、まさに弁慶役者の面目躍如。思わず客席から歓声が上がるのが、海老蔵という役者を観る楽しさだろう。その他、平家の宝を巡る悪七兵衛景清(染五郎)と三保谷四郎国俊(松緑)の一騎打ちが様式美を伝える『錣引』、黒紋付の染五郎と松緑、海老蔵が並んで述べる『口上』など、どれもここでしか観られないものばかり。昼夜通して荒事の多いラインナップとなったが、本来、荒事は江戸市民の災いを払う神性も担って演じられてきたとか。ならば本公演を観ることで、来年の息災を願うのも一興だろう。12月25日(日)まで日生劇場で上演。チケットは発売中。取材・文佐藤さくら
2011年12月08日