元主婦マーケティング会社経営。夫婦仲、恋仲に悩む女性会員1万3千名を集め、恋人・夫婦仲相談所 運営。所長を務める。「セックスレス」「理想の結婚」「ED」のテーマを幅広く考察。恋愛・夫婦仲コメンテーターとして活躍中。著作、講演、メディア取材多数。NHK離婚特集番組、セックスレス問題を考える番組等に出演。
「恋人・夫婦仲相談所」所長・三松真由美が妻の中に見出した“モンスター”の実際の事例を分類し、リアル・エピソードをべースにしたフィクション。すべての既婚女性に送る、女性のうちに秘めるモンスターの実態を解明。
読者の方からのセックスに関するお悩みをセックスレスカウンセラーで、まじめにセックスレス、ED問題に取り組む三松真由美がアドバイスします。
男女にまつわる数々のお悩みから、女性、とりわけ妻の中に“モンスター”を見出した「恋人・夫婦仲相談所」所長・三松真由美さん。その実態を明かした人気連載「モンスターワイフ」の続編「リアル・モンスターワイフ、再び」では、三松さんが実際に遭遇したモンスターワイフの身の毛もよだつリアルエピソード、そしてあなたのモンスターワイフ度を明らかにします。
数々のお悩みから、ドス黒い闇の共通点が女性にあると感じる「恋人・夫婦仲相談所」所長・三松真由美さんによる衝撃の考察。共通する闇とは? 全ての既婚女性に送る、女性のうちに秘めるモンスターの実態を解明。
「恋人・夫婦仲相談所」の所長として、さまざまな角度から夫婦仲改善のためのアドバイスをする三松さんによるシリーズ。離婚を選択したほうが幸せになれた、つまり『ポジティブな離婚』を選択した方の実例を紹介。
日曜午後はフットサルの練習試合だった。 桃香は応援に行った。鮎子を誘ったが「行きたくない」とそっけなく断られた。慎吾も前半は選手として試合に参加することになった。慎吾が走るとき少し脚を引きずることは誰も気にしなかった。 普通に慎吾にボールを渡し、和気あいあいとプレーが進んだ。元々プロ選手になりたかった慎吾の動きは息を飲むほど素早やかった。脚の怪我などハンデではないと桃香でもわかった。こぼれ玉を拾い、相手の油断したすきにボールを奪う機敏さは秀逸だ。 上半身を右へ左へ向きを変えながらも脚はまったく違う方向へボールを飛ばす。キャプテンの冬馬より技術的に優れているのは誰が見ても明らかだ。体育館の外の温度は低いのに、ピッチのすごい熱気がベンチまで伝わって来た。 真剣にボールを追う慎吾を見ながら桃香は胸が熱くなった。慎吾はボールと仲がいい。いっとき怪我でボールと離れたけれど今は元通り仲良く連れ添っている感じだ。休憩タイムに冬馬が桃香を呼び出した。 「桃香、話したいことがあるから、今日一緒に帰ってくれないか。車でうちまで送るからさ」 「え。でも慎ちゃんと帰る約束…」 「今日は俺の言うこと聞いてくれよ。頼むから」 いつになく強引な冬馬のまなざしが桃香を刺した。帰り際、慎吾に言い訳をした。 「慎ちゃん、冬馬がクラス会の打ち合わせあるらしいから、話しながら帰ることになった。慎ちゃん先に帰って」 なんで嘘ついてんだろうと桃香は自分を叱りたくなる。 「うん、じゃあ買い物して帰る。新しい機種のスマホ見たいから」 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週月・水・金曜日配信】 目次ページはこちら
2015年03月11日マリクレール通りから住宅街の細い坂道を抜けて歩いた。 普通の民家の横にウェディングドレスがディスプレイしてある店がある。アメリカンポップなシャツを吊っている店もある。ユニークなイラストのカードがウィンドいっぱいに張り付いている店もある。 民家が何軒か続き、さすがにもう店はないだろうと思っていると間口が狭い雑貨屋が一段下がったところに存在している。本当に自由が丘は期待を裏切らない街だ。慎吾がさりげなく聞いた。 「クリスマスさ、バイト代で何かプレゼントしたいんだけど、リクエストある? あ、高いのはダメだよ」 「まじで? 嬉しい。うーん、手袋かな。この手袋おととしに買ったやつで、毛玉できてるんだ」 「よかった。それなら買ってあげられる」 「あ、もしできるなら…」 「なに?」 「鮎子とお揃いにしたいな。オソロの手袋で通勤したい」 「へえ、乙女だね。いいよ。ふたつ買ってひとつは姉貴に」 その時、慎吾が初めて桃香の手を握った。 「毛玉ついてるなら、はずせば? 僕があっためてあげる」 子供っぽいと思っていた慎吾が大人に見えた。手袋をはずして、ふたりは手をつないだ。かじかんだ指先に慎吾の体温があたたかかった。恥ずかしがり屋の慎吾は目が合うとフっと横にそらす。そこがたまらなくかわいらしい。 道の向こうからも手をつないだカップルが歩いて来る。ニット帽をかぶってお下げ髪をした女の子はこの前読んだ恋愛コミックに出てくる主人公のように見える。雑貨屋の前で立ち止まってワゴンの中を楽しそうに覗いている。珈琲カップを見ているようだ。 彼氏の方がお下げ髪をひっぱったり、肩を抱いたり、ほほえましい。桃香たちもあの恋人達の仲間入りをした感じ。恋するカップルに自由が丘はとてもやさしい。しかし桃香は綱渡りをしているような不安定な気持ちで自由が丘を歩いた。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週月・水・金曜日配信】 目次ページはこちら
2015年03月09日脚は引きずっているが、前のように恥ずかしそうに歩いてはいない。どうどうとしている。 胸の中ではもやもやが巻いていたが、桃香は明るく声をかけた。 「慎ちゃん、専門学校行くんだってね。聞いたよ。すごいじゃない。次の目標が見つかったんだね」 「ねえさんが言ってた? おしゃべりだなあ。フットサル部の先輩達が仕事とスポーツ両立して楽しんでて、いいなあと思って。冬馬さんなんて、昼はデザイナー。夜はサッカー。そういうの、かっこいいし」 桃香はどきりとしたが、他の話題に切り替えた。 「紅茶、たくさんあるね。5種類くらい飲みたいよね。どんだけ味違うのかなあ。」 「違う種類頼んで飲み比べしよう」 顔を寄せ合い、メニューにずらりと並んでいる紅茶の種類を声に出して読む。ふたりはまわりから見ると仲が良い素敵なカップルだ。 「飲んだら、散歩しようか。で、ランチさ、ナポリタンだと、白いセーター汚しちゃうからさ。ケチャップ系は今度にしよう。ちょっと自由が丘の端っこのほうに歩いて行ってみない? 奥沢駅に向かう道に小さなフレンチとかちょこちょこあるんだよ。新しいお店もたくさんできたの」 「ok!」 陶磁のポットで出された異国のお茶はあたたかく、ふたりの距離をさらに縮めてくれる気がする。湯気の向こうに慎吾の嬉しそうな顔が見える。慎吾と一緒に異国を旅したら楽しいだろうなという思いがよぎった。するとそこに冬馬の顔がよぎる。背中にもたれかかってきた時の暖かさ。はじけるようなキス。桃香は紅茶のカップをじっと見つめる。言葉が消える。 慎吾が「どうかした?」とつぶやく。慎吾のはにかんだようなほほえみは、桃香の気持ちを惑わせる。男の子に対して言う言葉ではないが純粋にかわいくていとおしい。慎吾といれば慎吾が好き、冬馬といれば冬馬が好きなんて、ひどい女だと、自分が嫌になる。鮎子が怒るのは当然だ。 「あのさ、鮎子、なんか言ってた? 喧嘩…したんだ」 慎吾が驚いた顔で言う。 「そうなんだ。何も聞いてない。僕、夜中に帰るから会ってないんだ」 「そっか…」 「だいじょぶ?」 「うん、私が反省しなきゃいけないの。今度あやまる」 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週月・水・金曜日配信】 目次ページはこちら
2015年03月06日「無理? 今まで親身になってくれてたじゃない。私の弟だから無理してやさしくしてくれてたの?」 「ちがうよ。ちがう。慎ちゃんのこと、好きだよ。もっともっと元気になって欲しい」 「ほら、言ってることメチャクチャじゃない。てか、桃香、結婚願望なんか今までなかったじゃない。歌やってるから結婚はまだまだって言ってたよ。そりゃ慎吾じゃだめだよね。だってバイトの身分ですから。」 話が前向きに進まなかった。何を言っても鮎子の怒りに触れる。桃香は恋する気持ちにひたることが自分のわがままだと思えてきた。周りの人を傷つけてしまう。慎吾にやさしくしたのはたしかに好きだからだ。 その気持ちに偽りはない。冬馬があんなことを言うからクラリとしたのだ。冬馬とは昔のままの友達でいて、今まで通り慎吾と仲良くできればすべておさまる。 「鮎子、ごめん、私がおかしかった。自意識過剰のイヤな女になってたね」 鮎子は、目をそらしてまた歩き始めた。ブーツのかかとがカツンカツンと音を立てる。桃香は鮎子の背中を追いかけた。指の先がとても冷たい。そろそろ手袋が欲しいと思った。きっと鮎子の心も冷たく尖っているはずだ。 日曜日、自由が丘南口のシンガポール紅茶の店で慎吾と待ち合わせた。高級ホテルのラウンジのような高級な店構え。照明も控えめでしっとりした雰囲気。ほかのカジュアルカフェと違い、はしゃぎ声は少ない。 近隣に住む主婦層のアフタヌーンティーや、仕事の商談で使われることが多いのか。店名のロゴをおしゃれにあしらった紅茶缶が壁一杯にディスプレイされている。ふんだんな紅茶の品揃えを見ていると異国にいるようだった。ふわふわの白いセーターを着て桃香は慎吾を待った。ただ、胸の中には小さな渦巻きができている。 「桃香さん、今日は時間あけてくれてありがと」 慎吾が笑いながら桃香のいるテーブルに近づいて来た。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週月・水・金曜日配信】 目次ページはこちら
2015年03月04日翌日、会社の帰りに鮎子に揺れる気持ちを打ち明けることにした。 日が暮れるのが早くなり真っ黒な夜がそこまで来ている。街路樹は寒そうに北風に揺れている。ふたりはコートの襟を立てながら駅に続く道を足早で歩いた。桃香は今の気持ちを鮎子に話した。 鮎子はいつもとちがってしょんぼりしているようだ。桃香はひと息ついて話しかけた。 「慎ちゃん、私のこと好きなのかな? 私は好きだけど、恋っていうのかどうかわかんないんだ。怪我で殻に綴じ込もてったから引っ張りだしてあげたかった。お世話してあげたいっていう感じ。でも冬馬はグイグイ引っ張ってくれる感じで、こんな人の奥さんになると何かあっても安心なのかなあって思うの」 鮎子は前を見て歩きながら桃香の迷いを黙って聞いていたが、だんだん顔つきがこわばり、歩くのをやめて立ち止まった。 「いいかげんにしてよ。どれだけモテ女気取ってんのよ。冬馬君がいいか、慎吾がいいかなんて、人の気持ちをもてあそばないで。それでなくても慎吾はやっと明るさを取り戻したところなの。桃香が離れて行ったら、人を信用しなくなって暗いあの子に戻っちゃう。こんなことになるなら、最初から慎吾にやさしくしないでくれたほうがよかった」 「鮎子、そんな…そんなつもりじゃ」 「うわべだけのやさしさなんて、慎吾に見せないで。あの子は私たちが思う以上に怪我で傷ついてたんだから。夢を失いかけてたけど、桃香のおかげでゆっくり元気になろうとしてるんだから。今さら突き落とすなんてひどいよ」 「じゃあ、私に無理して付き合えっていうの?」 桃香の口から、絶対に言ってはいけない言葉が出てしまった。遅かった。冷たい空気が氷点に達し、ピリっと固まったような気配。頬を冷たい風がチクリとさしにくる。まずいと思ったが鮎子は唇をキュっと結んで怒りを抑えていた。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週月・水・金曜日配信】 目次ページはこちら
2015年03月02日桃香は、ボーカルレッスンで課題曲の恋の歌を歌うとき、ふたりの彼のことを思いながら声を出した。 はがゆい気持ち、切ない気持ちがクルクルと渦を巻いて空へ空へあがってゆく。立ちすくむ桃香は息もできないほど苦しい。胸の中で何かが暴れている。歌詞をひと言声にすると息が熱い。声が熱い。歌い終わるとカオル先生が、興奮したように言った。 「桃香ちゃん、変わったわ。また歌い方が変わってきたわ。音は、ずれたところがあるけど、恋に翻弄されてる女性の気持ちがしっかり歌に入り込んでた。最近嬉しくなったり、ブルーになったり、気持ちの揺れが激しいでしょ。心が年取るとそういう恋はできないけど、桃香ちゃんはラブバージンだから、純粋さが歌に出る。壊れそうなガラスみたいでいい感じよ。」 「え、そうですか。でもラブバージンって…」 桃香は恥ずかしそうにうつむく。 「楽しいことや悲しいことは歌を聴けばわかるって、前に言ったでしょ。歌は喉で歌うものじゃなくてここから絞り出される物だから」 とカオル先生は胸をトントンと手のひらで叩いた。桃香は自分の手のひらを胸にゆっくりあてた。カオル先生の大人の部分にちょっぴり近づいた気がする。 その夜、慎吾からメールが届いた。 「今度の日曜日、バイト休みなんだ。よかったらランチ行かない? フットサル誘ってもらったお礼がしたいから。あ、店は自由が丘で。ナポリタンが美味しい和風の店、見つけた。和風ってとこが落としどこ。Shingo」 とまどった。ふたりきりで会って長い時間を一緒に過ごすと、慎吾は自分に気持ちを寄せることはわかっていた。桃香も慎吾のことはずっと大切にしたい。そばにいないと崩れそうな危うさが慎吾にはある。 冬馬の思いに答えるべきか、慎吾と寄り添い続けるのか。キッチンに置いてあるピンクペッパーの小瓶。きれいな色をしている。自分が慎吾にスパイスを振りかけたのは、よかったんだろうかと思った。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週月・水・金曜日配信】 目次ページはこちら
2015年02月27日「気になる人? うん…まあ」 「同級生のカレかあ。キャプテンね。告られた? どんな人だっけ」 「久しぶりに会ったら高校の時よりずっとたくましくなっててね。デザイン事務所で働いてて、デザイナーの卵やってる。フットサルの時もリーダーシップ満点だし」 鮎子はホっと息を吐いて視線をそらした。 「そうかあ、しょうがないな。慎吾にはライバルは手強いって言っとくわ」 鮎子はさらっと答えたが、内心は気になっている。 「あのね、歌。恋や愛の歌、歌ってるけど、現実に好きだって言われると、なんて言うか、歌の世界とリンクして、ポーってなっちゃう」 鮎子は頷くように聞いている。 「ま、桃香は歌やってるぶん、感度高いでしょ。うちらよりずーっと。好きって言われて気分がよくなるのは女子の王道だからね。よかったね」 「仕事、戻ろう、おこられちゃう」 短いティータイム。桃香は慎吾が宙ぶらりんになりそうな不安を覚えた。あの日から、冬馬の言葉が耳の奥で何度も繰り返されている。 「俺、昔からお前のこと好きだから。今でもな」 高校の頃はただの友達と思っていた冬馬が、たくましい大人の男になって現れた。時の流れは人を変える。外見も考え方も恋愛観も。 仕事中、冬馬から飲みに行こうと誘いのメールが入った。すぐにOKした。なぜか冬馬とたくさん話をしたいと思う。仕事の愚痴や歌手になる夢を聞いて欲しいと。 歌入れのバイトのあと、桃香は冬馬が待つ品川のカフェダイニングに向かった。顔を突き合わせて話をするのは久しぶりのことだった。 「のどカラカラだよう。まずジンジャーエール!」 桃香は明るく切り出した。慎吾やフットサルのことはまったく話さず、高校時代の友達の今の様子ばかりを語り合う。小川が居酒屋の雇われ店長になってテンパってること、喧嘩ばかりしてた三瀬と佐野がくっついたこと。ふたりともが無意識にそんな話題を選んでいた。 単純に楽しい時間が流れる。桃香は肩にしょっていたコリのようなものが冬馬の存在でほぐされて、とれるような感じがした。慎吾といると自分がしっかりしなくちゃ、リードしなくちゃとやけに頑張ってしまう。等身大の自分よりちょっと大人のふりをする自分が出てくる。冬馬のまでは素直に弱いところを見せることができる。 「冬馬って湯たんぽみたいな人だね」 「は?」 冬馬が首をかしげる。 「どういう意味だよ」 桃香は自分の肩を撫でながら 「なーんか、このへんが楽になった気がする…」 とおどけた。 「肩こりか? 揉んでやるよ。俺、習ったんだよ。スポーツマッサージってやつ。肉離れの選手にしてやるんだ」 「いいよ。今時はさ、肩揉んでやるってセクハラおやじって言われるんだよ」 「うわっ。あぶねえー」 冬馬がおどけてテーブルの上に倒れるまねをする。桃香はおもいっきり大声でケラケラ笑った。カフェを出て駅まで歩く遊歩道、冬馬がふざけたように桃香の背中にもたれかかった。 「ああ、疲れた、そういや、昨日あんま寝てなかったんだ。ドっと疲れが出た」 心地よい重み、懐かしい香り。桃香の心が揺差ぶられる。その時、冬馬が前に立ちふさがり、突然キスをした。唇が触れただけの短いキス。桃香は驚いて立ちすくむ。 「はい、駅に着きましたよ、お別れですね、また会いましょう、お姫様」 冬馬がふさけたようにお辞儀をする。桃香はその様子をまっすぐ見つめた。 冬馬にキスをされた夜、熱いお風呂につかりながら考えた。当時の桃香にとって冬馬は恋の対象ではなかったけれど、今は考えるだけでドキドキする。慎吾と一緒にいる時とは違う、甘苦しいくすぐったい気分。 慎吾といっしょの時は、桃香がついていないとダメ、ひとりじゃ危ない、なんだか守ってあげたい気持ちになる。ひとりでほおっておけない。冬馬は逆に一緒にいると落ち着く。守ってもらえそうな気持ちになる。自分が弱っているとき頼ってしまいたい感じが慎吾とは正反対だ。 ジャスミンの香りのお湯に顔半分を潜らせブクブクと泡を吹いてみる。ほっくりした気分。幸せだ。冬馬に抱きしめられた身体を手のひらで撫でる。冬馬に触れられるなんて恥ずかしい、そう思ったとき、ふと、鮎子の心配そうな顔が泡のようにに浮かんでくる。 「わたし、何やってんだ? 慎ちゃんのこと好きなんじゃなかったのかな…」 「桃香ー。早くあがって寝なさいよ。先に寝るわよ」 母の声がした。桃香は頭をブルルと振って 「はあい。おやすみー」と返した。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週月・水・金曜日配信】 目次ページはこちら
2015年02月25日桃香が会社のパソコンの前でぼんやりしていると鮎子が小声で話しかけてきた。 「最近、仕事が上の空っぽいぞ。なんかあった? 慎吾が迷惑かけてない?」 「ううん、全然そんなことないよ。楽しくやってるよ。鮎子、給湯室行こうか。ここ乾燥しててのどがイガイガするから」 ふたりは、給湯室の壁にもたれかかり、立ったままあたたかい柚子茶をすすった。柚子茶を飲んだあと、カリン飴を舐めると、のどの調子がよくなる。冬は喉の乾燥に人一倍気を遣う。急に歌入れの仕事が入ったときに声がかすれていると、迷惑をかける。桃香は喉をいたわっている。 「鮎子、慎ちゃん、元気そうになったよね。バイトとフットサル両方充実してるみたいで」 鮎子はにっこり笑う。慎吾と口元の感じが似ていることに、桃香は初めて気づいた。仕事中はポニーテールにして髪をまとめ、黒ぶちの眼鏡をかけているので、まじめなOLさんだ。週末になると。巻き髪にして派手な色のワンピースに着替え、リップグロスを盛り塗りし、横浜や自由が丘に繰り出している。 「桃香には感謝してるよ、まじで。あいつ、昔みたいにしゃべるようになったし。冗談も言うようになったもん。それにね、ちゃんと就職するって、スポーツリハビリの専門学校探し始めたよ」 「そうなんだ! よかったね。フットサルの付き添い、もう行かなくていいかな」 「え、もう少しついててやってよ。慎吾きっと桃香のこと気になってるのよ。姉としてはお付き合いして欲しい気持ちだけどね。彼氏いないじゃない、桃香。」 桃香は口ごもる。 「…いないけどさ」 「気になる人がいる?」 一瞬、天井を見つめて考えた。慎吾のことも充分気になる。でも、先週の冬馬の告白が頭の中でローテーションしているのだ「昔からお前のこと好きだからさ」。青白い光とともに。愛の言葉を直球でぶつけられたことははじめてだった。歌の中ではロマンチックな歌詞がいくらでも出てくるが、現実にその言葉を投げかけられると、女性はこんなに嬉しいものなのかということにも気づいた。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週月・水・金曜日配信】 目次ページはこちら
2015年02月23日桃香は突然、目の前でピカっと稲妻のような青白い光が見えた。 「なに言ってんのよ。友達の弟だから、守ってあげてるだけ」 「守るって…。それ、恋とかいうのとどう違うんだよ。好きだから守るんじゃないのかよ」 「冬馬、なんでそんな真剣になってんの」 冬馬はあわててペットボトルの水をひと口飲んだ。ゴクンという音がはっきり耳に入った。 「勘ぐってゴメン。あのさ、俺、昔からお前のこと好きだから。今でもな」 その言葉が終わらないうちに、冬馬はピッチに向かって走って行った。慎吾は体育館の周りをゆっくりランニングしながら足慣らしをしている。桃香は意外な告白にとまどった。指先は冷たいのに頬がほてっている。 「なんか、冬馬、いま、光になって胸の中に入ってきた…」 カオル先生がレッスン室でターンした時のことを思い出す。 「ワインレッドじゃない。オレンジ色でもない。ピンクペッパーでもない。青白い光…発光体…」 桃香の感覚に冬馬が滑り込んだ実感がジワリと定着してくる。昔の冬馬とやっぱり違う。思っていることを言葉に出してグイっと迫ってくる。付いてゆきたくなる。手を引っ張ってもらいたくなる。そんな感覚。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週月・水・金曜日配信】 目次ページはこちら
2015年02月20日慎吾の変化は周りの目から見ると驚くようなことだった。 まず毎日、家で筋トレをするようになった。時間があれば腕立て伏せや腹筋をする。コミックカフェのバイトは前にましてまじめに取り組み、評判のいいスタッフになった。後輩バイトの面倒見もいい、気合いが入った接客をするので客にも褒められる。 店長から「このままがんばれば正社員いけるぞ」と言葉をかけられた。鮎子も両親も「桃香のおかげだあ。桃香は慎吾の女神さまだね。付き合っちゃえばいいのに」と食卓で話題にした。 試合が近い金曜の夜、桃香は会社を早めに出て練習を見学に行った。スマホでフットサル部の連中の写真を撮っていた。なぜだか自然に慎吾にフォーカスしてしまう。慎吾がいきいき動いているのを遠目で見る。 片付けや水の補給など雑務も嬉しそうにこなす。ボールに触る時は選手の顔になる。走っていると脚の不自由さはそれほどわからない。想像以上に速く走っている。なんだ、心配することないじゃないと桃香の胸につかえていたものがすーっと降りてゆく。 冬馬がベンチに座っている桃香に話しかけてきた。 「桃香も、マネージャーなればいいじゃん。練習にこんだけ付き合ってくれるんだから、仕事もしてくれよ。スコアつけたりとかさ」 「え? 無理無理。慎ちゃんのおねえさんの鮎子に頼まれたから、たまに慎ちゃんの様子見に来てるだけ。慎ちゃんが慣れたらもう来ないから。私、もっと、歌のレッスン時間欲しいからさ。」 冬馬はいきなりマジ顔になってつぶやいた。 「桃香さ、慎吾のこと、好きなのか?」 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週月・水・金曜日配信】 目次ページはこちら
2015年02月18日その出来事を冬馬から聞いとき、桃香は両手でガッツポーズをつくり、ピョンとジャンプした。 桃香は、残業や歌のバイトがないときは、フットサルの練習にできる限り付き合うようにした。幸い、会社はほとんど定時に終わる。歌の練習の時間が減るけれど、今は慎吾のために時間を使おうという気持ちになっていた。自分の夢を追うのも大事。でも、それと同じくらい夢を叶えてあげたい人、それが慎吾だ。 家で歌を歌っていても、ピアノを弾いていても、ときおりフっと慎吾のボールを追う姿が浮かぶ。愛の歌を歌う時は感情が入り込み、ひとり涙を流すこともあった。それでも慎吾のことを恋人として好きなのかどうなのか、はっきりわからなかった。付き合おうとかいう言葉はふたりの間には出てこない。ただ、一緒にいてその時を大事にしている関係。桃香は、親友の鮎子の弟だからやさしくしてあげたくなるのかな、と思ったりもした。 ボーカルレッスンの日だった。講師のカオル先生に会うと、心が華やぐ。いつもその日の気持ちを表す色を、洋服やアクセサリーの一部に取り入れるおしゃれな先生。 「今日は空色の気分。だから、ブルーのピアスとブレスレット」 と言って、つかみどころのない話題を提供してくれる。それがまた楽しい。 「空色の気分ってどんな感じですか」 女同士、話題はどんどん膨らむ。カオル先生のお洋服を見るのが楽しみだ。カオル先生がお手本で歌うとき、桃香は聞き惚れる。きれいなロングヘアをさらさら揺らしながら、メロディに気持ちを込める。桃香の憧れの女性でもあり、おねえさん的存在だ。桃香は発声練習を終えて、課題曲を歌う。 あなたのそばにいると 私は強くなれるから 悲しいことは 小さくちぎって 風に飛ばしましょう… ピアノのエンディング音が止まるとカオル先生が立ち上がった。 「桃香ちゃん、すっごくよくなってきてる。歌い方変わってきてるよ。恋したかな?」 今日のカオル先生は、ワインレッドの長い丈のフレアスカートをはいている。 「炎のように燃え上がるオレンジ色の恋。胸の中でしんしんと湧き起こるワインレッドの恋。ピュアな水色の恋。恋も色をイメージすると、納得できる気がしない?」 カオル先生がスカートをつまんで、お姫様のようにターンした。 「カオル先生、今、好きな人がいるんですね?」 桃香が早口で尋ねる。カオル先生はやさしく微笑む。女神さまのように見えた。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週月・水・金曜日配信】 目次ページはこちら
2015年02月16日2度目のフットサル練習日、慎吾はひとりでやってきた。 ひとりでサッカー関連の場所に足を向けるなど、引きこもっている頃は想像もしていなかった。 「今度からはひとりで行ってね」 という桃香の言葉にトンと押された気がしている。そうだ、気楽に戻ればいいのだと切り替えてみることにした。自分の脚のことは気になる。思い切り走るのは怖い。まずはチームの雰囲気に慣れるのがよいんだと…。慎吾はベンチで休憩している冬馬を見つけ駆け寄った。 「あの。このチームのマネージャーになりたいんですけど。」 冬馬は、オッと驚くような顔つきになり、すぐにニコっと笑った。 「もちろんマネージャーもして欲しいけど、練習の時って人数足りないから、パス出しとかやってくれないかな。軽く走るくらいはいいんだろ?」 冬馬はピッチへの復帰を促すような誘いをした。桃香は冬馬に、慎吾の過去をすべて話していた。殻に閉じこもってるから外に引き出してあげてね、と。 その時、誰かがキャッチミスしたボールが、慎吾めがけてすごい勢いで飛んで来た。咄嗟に身体を右にひねり、腰でいとも簡単に止めた。ボールが慎吾に猛威を止められ、ストンと足下に落ちてゆっくり回転している。 ボールが魔術にかかったようなシーンだった。慎吾は意のままにボールを従わせることができる。慎吾は、その力がいまだに身体のどこかに流れているのを感じ取った。冬馬は足下に転がり、ゆっくり回っているボールをじっと見つめた。一瞬の出来事を見逃さなかった。 「やれよ。慎吾!」 慎吾は冬馬の目をまっすぐ見て 「走る練習しますから、よろしくお願いします」と、いつもよりちょっとだけ力強い声で言った。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週月・水・金曜日配信】 目次ページはこちら
2015年02月13日慎吾が近所の公園でボールを足首に乗せる練習をしている時だった。後ろから声がした。 「おい、慎吾? 慎吾じゃないか」 昔のサッカー仲間だった。慎吾はドキっとした。あの事故以来、慎吾は引きこもりになったと噂を流した連中だ。表面では頑張れ、立ち直れと言っていたが、影で「もうあいつはおしまいだ」と言っているのを耳にした。それから慎吾は人を信じなくなっていたのだ。 「なんだ、サッカー復活したのかよ。すげえなあ。エースストライカーだったもんな。怪我、治ったんだ」 「おい、今、どっかの会社に所属してるのか?」 「てか、自宅療養してるって聞いてるけどな」 興味本位の質問が矢継ぎ早に飛んでくる。慎吾の心の窓が、またバタンと閉じようとしている。ボールを脇に抱えて、下を向いた。 「何か言えよ。どうしたんだよ」 体育会系のいかつい奴が声を荒げる。こんな奴らと一緒にサッカーをしていた自分が馬鹿みたいに思える。こぶしを握ると、桃香の艶やかな声が頭の中ではじけた。 "慎ちゃん、強くなんなよ。負けてない?" 慎吾は顔を上げて3人の男達をキっと睨んだ。 「今はフットサルをしてる。こいつと離れる事はできないって思ったから」 ボールを手のひらの上に乗せてスっと彼らの前に差し出した。 「お前らもフットサルやれよ。試合を挑むよ。絶対負けない自信がある」 3人は、黙って顔を見合わせる。 「…へえ…そうか。ま、いつかフットサルやろうや」 「あ、ああ。いいね、フットサル…」 その場を繕う言葉が続く。 「じゃあな、慎吾」 3人は背中を丸めて立ち去った。 「おにいちゃーん、ボール、おねがいしますー、そっちに転がったあ」 小学生の男の子がサッカーボールを追いかけて走って来た。 コロコロ転がってくるボールを足で止めて、 「おにいちゃんも練習に混ぜてくれよ」 と慎吾は笑った。 「ほんと? 教えてくれるの? おにいちゃんプロ選手でしょ」 男の子がニカっと笑う。 「なんで、プロなんだよ?」 「立ってるだけでわかるよ。ボール持って立ってる姿がチョー様になってる。ただ者じゃないって感じ」 「おもしろいこと言うなあ。チーム名教えてくれよ」 慎吾はボール二つを両手に抱えて男の子と歩き始めた。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週月・水・金曜日配信】 目次ページはこちら
2015年02月11日慎吾はコートから目を離さず食いいるように練習風景を見つめている。 時折やって来るこぼれ球を返すとき、必ずボールを手に取ってひと呼吸ついた。まだボールがなじんでくれない。「お前は俺を捨てたんじゃないか」とボールに責められているような気がする。 自分はボールを蹴ることで生きてゆく、世界中のコートでボールを蹴るんだと思っていたのに、なぜボールと距離を置くようになったのかいまだモヤモヤしている。サッカーから逃げた俺、仲間から逃げた俺。情けない自分像が浮かんでは消える。 今、目の前でボールを追っているメンバーたちは、こんな弱い自分を受け入れてくれるのだろうか。趣味で蹴っているのと、夢を託して蹴っているのでは全然違うんじゃないか、どういうスタンスで蹴ればいい? 今更、コートに戻って来てもいいのだろうか。悩めば悩むほどわからなくなる。 練習が終わり、冬馬が慎吾にチームの説明をした。 「2ヵ月に1回くらい他のチームと試合するから、それに向けてけっこうまじに練習してるんだ。よかったら参加してくれよ。そんな強くないんだけど」 慎吾は神妙な顔つきでうなづいた。そこまで決心ができていない。チラっと桃香の顔を見る。桃香は目で「がんばれ」と合図する。その様子を見て冬馬はちょっとだけ嫉妬した。帰りの電車の中で桃香は尋ねてみた。 「慎ちゃん、どうだった? 見学してみて。おもしろかった?」 「うん、なんかドキドキした。小学校の時、はじめて体育でサッカーの授業受けたとき思い出して」 「はーん、新鮮だったってことね。よかったじゃん。初心に戻って蹴ってみればいいよ」 慎吾は桃香の嬉しそうな顔を見ているとまだボールとなじめるかどうかわからないことを言い出せない。電車がカーブを曲がるとき大きく揺れた。倒れそうになった桃香を慎吾が抱きとめた。ギュっという音がきこえるようなできごと。目が合った。慎吾は照れてスっと視線を窓の外にそらした。夜の都会のネオンたちがビュンと過ぎ去る。時間が止まった瞬間を確実にふたりは感じ取った。 「慎ちゃん、来週は私、歌のバイトあるから慎ちゃんひとりで練習に行ってね。冬馬には頼んどくから」 桃香は照れ隠しに関係ないことをしゃべり始めた。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週月・水・金曜日配信】 目次ページはこちら
2015年02月09日「冬馬キャプテン! 元気そうだね! 今日は慎吾君連れて来たのでよろしくお願いします」 ペコリと頭を下げる。冬馬の胸の高鳴りは激しくなる。メイクのせいか? 目元がやけにきれいだ。くっきり描かれたアイライン、意思の強さを感じる。まばたきするたびにパチンと音がするような愛らしいまつげ。冬馬はしばらく見つめてしまった。数秒おくれて慎吾が 「初めまして。田所慎吾です。よろしくお願いします」 と小声で言う。冬馬は我に返って 「うわ、イケメンだな。こりゃ、うちのチームにファンがつくぜ。よろしくっ」 男らしいゴツっとした手のひらをを慎吾に向けて差し出した。慎吾はとまどいながら、冬馬と握手をした。チームのメンバーが続々集まってくる。 「ウィーっす。おっ? 女子マネージャーついに来たるってか?」 「やった。ついにチームのプリンセスが現れた」 みんなが歓迎してくれた。 久しぶりに桃香の姿を見た冬馬は動揺してぼーっとしていた。チームの連中とはしゃぐ桃香の笑顔はあの日のままだが、社会人になり、周囲に気をつかう大人っぽい仕草にハっとさせられた。外は冬が近づいていて冷えているのに、桃香の周りだけポっと暖炉であっためられているような不思議な世界だ。 桃香のほうも冬馬の成長ぶりに戸惑った。何年かの時を経て、子供っぽいニキビヅラの少年がシュっとした勇ましい顔つきの男になっている。腕も脚もほどよく筋肉がつき、ドキリとする。 「冬馬、なんかオトナーって感じになった」 「お前もだよ。勉強の合間によく歌ってたけど、プロになれそうなのか?」 「うん、ぼちぼちね。今は時々いろいろな音楽プロデューサーさんの仮歌をうたっているんだ。アーティストが曲を選ぶのに歌が入ってなきゃ困るでしょ? 曲が決まったら私の歌った歌がアーティストによって歌われる仕事なの。プロデューサーさん達は私の声を気に入ってくれてるんだ。だからといってすぐデビューできるとかじゃないけどね。なんてったって厳しい業界だから。でもあきらめないでしぶといの。私。めげないんだ。歌ってるとその世界に入り込めて楽しいから。今は、会社員と平行してやってるけど」 「桃香らしいよ。何ごとにもへこたれない。コンテスト落ちても何クソって思うんだろ。気が強かったよな、昔から」 歌でデビューする夢を捨てていないと言ったのが冬馬にとっては単純に嬉しかった。自分の夢は何だったっけと思い出そうとしたが、きっとあの頃の夢なんか大学受験合格程度のものだったのだ。 「俺も、こうなりたいって夢、持とうかな」 「ええ? 冬馬、夢なし男? つまんない奴だね」 桃香がひやかす。ふたりは昔のままの居心地のよさを感じ合った。慎吾がチラリとその様子を見たのを桃香は気づかなかった。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週火曜日配信】 目次ページはこちら
2015年02月03日フットサル部を作ったキャプテンは、藤川冬馬。桃香の高校時代の同級生だ。 サッカー部だがそれほど熱狂していたわけではなく、補欠どまり。気が向いたら部活に参加するチャラ部員。そんな程度の冬馬が社会人フットサル部を作ったのは、会社以外の仲間が欲しかったからだ。世間はJリーグで湧いていたし、サッカーを通じて気のいい男友達が増えるのも生活に彩りを与えた。 まったく違う世界で働いていてもサッカーを通じてわかりあえる。女の子と遊ぶときもサッカーをしていると言うと明らかに相手の顔が明るくなる。話題も倍膨らむ。サッカーをしているともてる。そんな自分理論を冬馬は確立し、高校の頃以上にフットサル活動に時間を割いていた。 冬馬は昔、桃香に淡い恋心を抱いていた。桃香が校舎の屋上で友達と一緒に歌を歌っている時、その澄んだ声に射抜かれた。身体中を耳にして聞き惚れた。桃香の声が空気に乗っかって屋上をくるくる踊り回る、そんなイメージをいだいた。その時から桃香のことが気になってしかたない。ただ告白まではいかず、図書館友達という関係だったが。 別々の大学に進んだためほとんど会うことはない、たまにメールでお互いの存在を示す程度。冬馬は現在、デザイン事務所でパッケージデザインの仕事をしている。朝から晩までデスクワークで運動不足というのもフットサル部結成の理由のひとつだ。 そんなある日、桃香から「冬馬、ゴブサタ! フットサルのチーム持ってるのよね。見学したい子がいるの。連れてっていい?」とLINEが入った。桃香と会っているわけではないが、LINEでゆるくつながっていることで、淡い恋心はとろ火のようにゆらめいていた。「今月は金曜の夜、大崎で練習してる。連れてきてOK」返事を返しながら、「ひさしぶりに桃香に会うのか…」と嬉しくなっている自分に気づいた。 フットサルの夜間練習の日、桃香がコートにやって来た。袖無しの赤いダウンをはおり、セミロングの髪の毛先がクルっと外巻きで揺れている。チェックのスカートがよく似合う。屋上で歌っていた頃の桃香より少し大人っぽい顔つきになった桃香が冬馬の方に向かって歩いてくる。 冬馬の胸の中で誰かがスキップしているように鼓動が早くなる。桃香の少し後ろを背の高い、高校生のようなあどけない顔をした男がきょろきょろしながら歩いている。左足を少しひきずっている。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週火曜日配信】 目次ページはこちら
2015年01月27日「慎ちゃん、なんでメールくれなくなっちゃったの?」 「…」 「フットサル誘ったから気を悪くした?」 「…」 「私、あやまらないわよ。嫌なら嫌だってはっきり言ってくれなくちゃ。プロの選手になれって言うんじゃないんだから、気軽に楽しめばいいじゃない。マネージャーになるんでもいいじゃない。」 「…」 「慎ちゃん、ほんとはボールと一緒にいたいんでしょ」 「ボールと一緒にいたい」という言葉に慎吾は、ハっと目が覚めたような気持ちがした。どうしてこんなに我慢しているんだろう。ボールと一緒にいることを。ボールを思い浮かべると胸が苦しくなるくらい寂しかった。だからわざと考えないようにした。サッカー友達とも縁を切った。 桃香の誘いは頑固な自分の殻をコツンとつついて割ってくれたようだった。サッカー選手になる夢はなくなってもボールと一緒にいることはできるんだ。その瞬間、するっと言葉が出ていた。 「桃香さん、フットサルの練習日、次はいつ?」 桃香は にっこり笑った。 「慎ちゃん、その前にさ、髪、へんだよ。ガオカはかっこいいイケメンいっぱい歩いてるんだから。そんなヘアスタイルしてると負けちゃうよ」 桃香は慎吾の頭のてっぺんにピョコンと立っていた鴨の毛を指で直した。慎吾は思いっきり恥ずかしそうに微笑んだ。 ふたりは普段歩かないような裏道を歩いた。3坪ほどの小さな香辛料専門店がある。さすが女性が愛する自由が丘。料理好きの女性は香辛料や隠し味にこだわる。それを知ってか、ここに来ると世界の料理がその味を再現できると思える品揃えだ。 棚を見回すとサラクワペッパーだのポナペペッパーだの聞いたことがない胡椒の名前を貼ってあるボトルが並んでいる。 「胡椒って、黒と白しかないと思ってたよ」 桃香がボトルを手に取ってじっと見つめる。 「桃香さん、僕に胡椒かけてくれた」 「はい?」 「じっとしてる僕が、なんか刺激されてピリってなった」 「おもしろいこと言うね、慎ちゃん」 「じゃあ、ピンクペッパーってかわいいから買ってみようかな」 お店のスタッフが「それほど辛くないんですよ。ほのかな香りで、色が美しいので、熱をくわえないで最後のひと振りにしていただくといいですね」 「僕、買う」 「鮎子に買って帰るの?」 「桃香さんに。僕に胡椒かけてくれたから。お礼」 「えー。おもしろすぎ。でもほんとかわいい名前だ。ピンクペッパー。半濁音がふたつはいてって、耳に残るね。知ってる? お菓子のヒット商品は名前にパピプペポのどれかが入ってるんだよ。愛されやすい音なの。とくにわかーい層にね」 「へえ、よく知ってるね。じゃあ桃香さんの歌にも入れればいい」 「ピンクペッパーの歌かあ」 「アイラブピンクペッパー…」 慎吾が小声で適当なメロディをつけて歌った。 「いけてない!」 桃香が背中を叩く。店員が、「とっても仲良しですね」と笑った。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週火曜日配信】 目次ページはこちら
2015年01月20日慎吾からすぐには返事がなかった。 慎吾は、サッカーに関係する事象を自分の中で封印したかったし、実際3年間はそうしてきたのだ。思い出すと胸が苦しくなる。それでも思い出さずにはいられない。ボールを蹴った時、足首にボールが一瞬吸い付いてピタっと止まる。 手の先から足の先から背骨から、どこからともなく湧いて出てくる力すべてがボールに向かって集まってくる。そしてターゲットを定めて豪速球と化したボールがゴールを割って入る。視線はボール追いかける。視線にも念を込める。 「飛べ。俺の定めたターゲットに向かって」と。 そしてネットが揺れた時の無性にスカっとする感覚。仲間にナイスパスを出すと全身で受け止めてもらえる嬉しさ。信頼感。ゴールを決めると、今までの苦しかったすべてのことが一気に帳消しになるかのような爽快気分。 でも今の自分は左足が思うように動かない。医師は運動をしていいと言うが、フットサルとはいえ走ったり蹴ったりは自信がない。自分の思い通りに足が動かないもどかしさにいらだつのではないか。仲間からあわれれみの目を向けられるのではないか。大好きな桃香の問いにどう答えればいい? 慎吾の胸の中を霧がかかったような不透明感が襲った。 1週間後、桃香は自由が丘の学園通りをブラブラしながらバイトを終えて出て来る慎吾を待っていた。ヘッドホンからは流行りのアメリカンポップス曲が流れて来る。肩を揺らしながらリズムを取った。通りには冬物の雑貨が色とりどりに並んでいた。 店の前の棚に積まれた薔薇の香りのソープ。女の子なら誰しも欲しくなるフルーツのイラストをあしらったハンドクリーム。チューリップの花の形をしたリップクリーム。今夜から部屋に置きたくなるようなアロマポット。 女の子の胸をくすぐるキューティーグッズが盛りだくさん。流行遅れかなと思えるようなチュニックも見たことない派手なプリント柄だとついハンガーごと自分の肩に当ててみたくなる。秋も冬も自由が丘はカラフルで楽しい。 知らない間に新しいショップが老舗の横に出現している。ちゃっかりできてしまいました、というような唐突な出店が面白い。桃香が中学の頃からある店と最近オープンした店、英語とフランス語がカタカナで書いてある看板が楽しげに連なっているところもガオカならではだ。 そんなことを考えていると慎吾のバイト先に着いた。店の前のサングラス屋のウインドウを覗き込みながら新曲を半分聞いた頃、慎吾がバイトを終え、ヌっと出て来た。髪の毛がボサっとしていて寝起きの小学生のようだ。桃香はヘッドホンをはずした。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週火曜日配信】 目次ページはこちら
2015年01月13日ふたりのメール交換が始まった。 ありふれた日常の報告。おいしいトルティーヤを食べたこと。新しいコミックが店に入ったこと。1時間、水を飲まずに歌ったら喉がかれたこと。コミックカフェでシャワーを浴びていたらお湯が急に冷たくなってびびったこと。仕事でヘマして鮎子とふたりで上司に怒られたこと。 そして桃香は自由が丘に行くたびに慎吾のバイト先を訪ねた。作曲家をめざす女の子が主人公のコミックを慎吾が見つけて薦めてくれた。店に行くたびにそのコミックを1巻読む。主人公の女の子が夢だけじゃ生きてゆけないと周囲の反対にあいながらも曲を作り続ける。作曲家で喰ってゆくなんてひと握りの奴しかいないと、くじけてしまうような言葉を投げつけられてもメジャーなメロディラインを心の五線紙に浮かべる。桃香は応援した。 「夢見たっていいじゃない。夢見る力がないと、作曲家や歌手なんてなれないんだから」 と。慎吾にも感想を聞いてみると、困ったような顔をしながらかわされる。慎吾は夢をあきらめたぶん、力強い未来を描くのが苦手だ。桃香は、 「慎ちゃんも新しい夢みっけようよ」 とまっすぐに見つめて伝えた。慎吾はジャケットのポケットに両手をつっこんだまま何も答えず上を向いた。 ふたりの関係は日ごと親密になっていく。鮎子は、心を閉ざしていた慎吾がだんだん自宅のリビングにいる時間が長くなるのを肌で感じていた。ソファの上にサッカー関連の雑誌が置いてあることもあった。 恋はカチコチに固まった心をやさしくほぐす。家族が踏み込めなかったささくれた部分に光を導く。「ありがとう、桃香」口には出さなかったが、会社で桃香に会うたびに感謝した。 ある日、桃香は詩を書いていた。「明日は晴れだよ」「音符がフルフル跳ね回るね」「ジャンプして、ハっとするようなブルースカイ」…コミックの主人公を励ますような言葉を考えているうちに、その対象が慎吾に変わっていった。 慎吾こそ、日差しがふりそそぐコートで好きなボールと一緒に走り回って欲しい。ブルースカイをバックにゴールに向かって右足でボールを蹴り入れる。しばらく詩を走り書きしたノートを見つめていたが、ヨシっと自分にだけ聞こえるようにささやき、慎吾にメールを書いた。 「慎ちゃん、サッカー、もうしないの? 私の高校時代の友達がフットサル部作ってメンバー募集してるよ。社会人、学生で月3回、夜の練習に来れる人って。下手でも歓迎だって!」 ドキドキしながら送信ボタンを押した。慎吾の傷ついている部分を、人差し指でそっと押して「痛い?」と聞くようなそんな心境だ。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週火曜日配信】 目次ページはこちら
2015年01月06日「慎ちゃん、クランベリージュースが口の周りについててドラキュラみたいだよー」 「ねえちゃんもあごにクリームつけてんじゃねえよ」 桃香は即興で 「なかよしなかよし、LALALAなかよしきょうだい。スイーツ食べてハッピーきょうだい」 と歌い始めた。 「すごっ! うちら姉弟のテーマソング!」 鮎子が叫ぶ。慎吾も目をキョロキョロさせて恥ずかしそうに笑う。慎吾とカフェに来るなんて久しぶりと言いながら鮎子はケラケラと笑う。ひとりっ子の桃香は目の前にいる仲の良い姉弟がうらやましくもあった。 桃香は慎吾に今日読んだ恋愛コミックの続きを読みたいからまた店に行く、アドレスをおしえてと話しかけてみた。慎吾は自分の携帯を白いジャケットのポケットから取り出そうとした。鮎子は気を利かし、 「あ、ショーウインドにメープルシロップ売ってたから買って来るね。おかあさんにお土産」 と言って席を離れた。アドレスを人と交換するなど何年ぶりかといった様子で慎吾はぎこちなく、恥ずかしそうにアドレスを送った。 「桃香さんの歌、聞いてみたい」 と斜め下にあるメニューを見ながら小声でつぶやいた。あざやかな赤色のクランベリージュース。グラスの中で氷がじんわり溶けていった。 「うん、じゃあ、今度うちにおいでよ。ピアノあるの。でもね、パパもママも歌いだしちゃうかも。そっち系の仕事してる人だから。3人で歌い始めるとうるさいよう。近所の人に注意されたことあるもん」 慎吾の瞳に桃香が映る。慎吾は足の怪我をしてうちにこもっていたが、本当は外に出たくてもがいていた。どうやったら元の世界に戻れるかずっと考えていた。サッカーがない世界には帰りたくない、そんなふうに考える子供っぽい自分にも腹が立っていた。ただ、どうしていいかわからなかったのだ。 最初の頃は家族にあたりちらしていた。家族は何も悪くない。でも、もどかしさをぶつけるのは家族しかいなかった。そんな自信がない自分をどうしていいかわからなかった時に桃香が現れた。底抜けに明るい、ちょっと強引な桃香。慎吾の錆び付いた心の鍵が数ミリ動く。 鮎子はショーウインドの前に立ち、遠目でふたりを見つめた。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週火曜日配信】 目次ページはこちら
2014年12月30日週末、桃香は鮎子と一緒に自由が丘にいた。 木枯らしが首筋を撫で、キュっと首をすくめたくなる。そろそろ冬の足音が聴こえる。 「かわいい帽子買って帰ろうか。おそろにしようよ。白いファーがたっぷりついたのどうかな。あったかいよ。うさぎになろうよ。二人で」 とガールズトークがはずむ。 買い物のあとは、慎吾のバイト先のコミックカフェ見学の約束だった。店に入ると慎吾は黙々と接客仕事をこなしていた。必要最小限のことしか話さないがまじめに取り組んでいる様子だ。客がコミックを探していると、一緒に棚を見回して一生懸命探している。狭い通路を行ったり来たり動き回っている。左脚が動きにくい事は、知っていなければわからない程度だ。 1時間だけふたりはオープンスペースで恋愛コミックを読みながら慎吾のバイト終了時間まで待った。コミックに出てくる瞳キラキラの恋する乙女に我が身を重ねて。作品のシーンに合わせたBGMが自然に桃香の頭の中を流れる。音楽にたずさわっていると音がないコミックでもまるで映画のように感動が広がる。 嬉しいシーンには小リスがどんぐりを持って弾むようなメロディ。悲しいシーンでは心を締め付けるマイナーなバラード。桃香は夢中でページをめくる。いつか自分もこんな恋をするのだろうという予感がした。慎吾のバイト終了後、桃香は自由が丘ツウのところを見せたくてふたりを誘った。 「パンケーキ専門店あるの。そりゃもう、こってりクリームやフルーツが乗ったすっごいパンケーキ! 食べようよ、3人違う種類頼めば3つの幸せじゃん!」 鮎子はバイト先にしか行かない慎吾にいろいろな所へ出かけて行って欲しかったが、この3年間は誘う事すら躊躇していた。桃香の誘いがきっかけで慎吾が外へ出ればいいと思った。 「行く! 慎ちゃんも行こう」 と慎吾の腕を引っ張った。慎吾は少し下を向いて考えたが 「ねえちゃん、おごってくれる?」 と小さな声で答えた。 「もっちろん、高給取りのOLですから。ゴチするわ」 と鮎子はうれしそうだった。 客層は女性100%のキラキラした店内。バニラの甘い香りが鼻先をつつく。3人はでかいパンケーキにキャアキャア言いながらさっき読んでいたコミックの話に花が咲いた。慎吾は休憩時間に女性向けのコミックも目を通しているので、ストーリーがだいたいわかる。 漫画家の名前や過去作品までスラスラ言う慎吾に 「慎ちゃん、それってオタクっていう領域よね」 と鮎子が突っ込みを入れる。桃香はやりとりを楽しく傍観する。 (続く) 【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週火曜日配信】 目次ページはこちら
2014年12月23日慎吾が桃香をバイト先に誘った? その時の鮎子と母のリアクションはそれこそ漫画チックだった。 鮎子はケーキのいちごをテーブルに落とし、鮎子の母はそそぎかけていた紅茶をソーサーの横にこぼした。そしてふたりで慎吾をじっと見つめて 「今、なんて言ったの? 慎ちゃん…」 と声をそろえた。 慎吾が恥ずかしがって部屋に向かって階段を駆け上がった瞬間、鮎子が堰を切ったように言った。 「桃香、慎吾と友達になってやって。慎吾があの事故以来、あんな言葉言ったの初めてよ。しかも、笑いながら。ねえおかあさん」 「そうね、おどろいたわ。久しぶりに慎ちゃんの笑顔を見たわ」 「鮎子、冗談言わないでよ。まわりがあまり気をつかいすぎるから心を閉ざしちゃったんじゃないの」 鮎子はウンウンと首を縦に振りながら 「たしかにね、サッカーの話題は絶対禁句って思ってた。事故でサッカー選手の夢を断たれたんだもん。それからは、就職関係の話もできなくなっちゃって」 桃香は紅茶をコクンと飲んでテーブルの上に飾ってある小さなスズランの花を指で撫でた。 「試合に出れなくてもサッカー関連の仕事すればって思うんだけどな。スポーツショップに勤めるとか。好きなことと寄り添えていいんじゃないのかなあ。走れないと辛いのかな?」 鮎子は身を乗り出して 「新しい! 新しい意見をありがとう。桃香!」 と叫んだ。 鮎子の母もうれしそうだ。 「そうよね。走れないわけじゃないのよ。ちょっと左足をひきずるけど運動はできるはず。普通の歩き方ができないのが慎ちゃんのコンプレックスになってるかもしれないわ」 「そうだね、その気持ちは本人にしかわかんないよね…」 鮎子もうつむく。 ケーキの上でイチゴがプルンと揺れた。桃香は慎吾のことがとても気になり始めていた。はにかむような表情が桃香の心にソっと入り込んだ。バイトと家のふたつしか世界がないなんてダメだ。夢を事故で邪魔されたからって言って閉じこもってちゃ、感動がない人生になっちゃう。そんな思いが桃香の頭の中をグルグル回る。 「鮎子、私、慎ちゃんとお友達になるね。おせっかいかもしんないけど、慎ちゃんがもっと笑顔になればいいって思うから…」 母が言う。 「桃香ちゃん、ありがと。あの子このままじゃガールフレンドもできないまま青春を終わらせるんじゃないかって心配してたの」 「おかあさん、青春なんて言葉、古いかも」 「あら、テレビドラマでも使ってるじゃない。おかあさんはね、気持ちはいつも青春時代のままよ。今度、自由が丘でランチしましょう。女子会っていうの? やりましょうよ」 3人で笑い合った。慎吾は2階の自分の部屋で何をしているのだろうか。桃香は階段の方にチラっと視線を移した。 (続く)
2014年12月16日鮎子とは就職してから1年の付き合いになるが、気がとっても合う。 プライベートでスパに行ったり女子会で遊んだり、自分が作った歌を一番先に披露するのも鮎子だ。恋の話では多いに盛り上がるいわゆる女子友。 鮎子には事故で左足が不自由になった弟、慎吾がいた。2歳年下だ。サッカー選手に憧れてサッカー三昧の日々だった。サッカーがうまく、かっこいいということで慎吾ファンクラブができたほどだ。グランドを走り回る慎吾はりりしく、女の子達の視線の到着点には常に慎吾がいた。 しかしある日、神様が何を思ったか慎吾を突き放した。慎吾はバイクの接触事故に巻き込まれて左膝を痛め、サッカーができなくなってしまった。3年前のことだった。事故の後から慎吾は人とあまり話さなくなった。リハビリをしたが元のように歩けない。左足を引きずってしまう。膝が思うように上がらない。 もちろんサッカーも辞めてしまった。笑顔すら消えた。サッカー仲間とも交流を絶って、一緒に遊びに出かける友達がいなくなった。大学は中退して今は自由が丘のコミックカフェでバイトをしている。「大学まで辞めなくても」と親にいさめられたが、サッカー部の連中と会いたくないという理由で貫きとおした。 脚を引きずりながら歩くのを見られたくないのか、バイト先と自宅の往復以外は出かけない。人が変わったようにおとなしくなった。人付き合いをしなくなり暗い性格になった慎吾に家族は気をつかい続けていた。そんなふうにひっそり暮らしていた慎吾が桃香にだけは心を開いた。 鮎子の家に遊びに行った時のことだ。家族で一緒にケーキを食べた。桃香が自由が丘のスイーツフォレストで買ってきたかわいらしいフルーツケーキ。洋梨と杏のコンポがジュレに包まれてのっかているおいしそうなケーキだった。ケーキを口に運びながら桃香は無口な慎吾にいろいろ話しかけてみた。 サッカーはいつ初めたのかとか、もうしないのかと、家族の間ではタブーな話題から切り出した。下を向いてむっつりしていた慎吾に畳み掛けるように話し続けた。鮎子も母親もハラハラしながら慎吾を見ていた。 桃香は気にもしないというように、バイト先が自由が丘なんて最高だとうらやましがり、コミックは何冊くらいあるのか、自分は恋愛コミックしか読んだことがないとか、歌手になる夢を持ってるとか一方的に話しまくった。すると、ケーキを食べ終えた慎吾が少しだけ笑顔を浮かべて意外な言葉を口にした。 「桃香さんが好きそうな恋愛コミックあるから、一度お店に来てください。自由が丘が好きなんでしょ。ありがと、このケーキすごく旨い。」 (続く)
2014年12月09日桃香は小さい頃から父親の影響でジャクソン5やMotownサウンド、アメリカンPOPを聴いて育った。 母親は趣味でジャズピアノを弾いていたので、ひと通り音楽の基本は教えてくれた。桃香は小さい頃、日常で起こったことをピアノに合わせて歌うのが日課だった。 「きょうのおやつはケーキだよ。小人と一緒に小さなスプーンでゆっくーり食べようね」 というような即興歌を小さい指で鍵盤を叩いて歌い、周りを楽しませた。父と母が桃香が歌うたびにハグして喜んでくれたせいか、歌手になりたいという小さな夢を持ったのもこの頃だ。高校時代はアメリカンPOPサークルに参加し、メンバー達とコピーバンドを結成した。 先輩に連れて行かれたライブハウスで自分が作った歌を歌った時、音楽関係のプロデューサーに声をかけられ、ちょっとハッピーなことが起こった。プロデューサーと組んで仮歌でCD制作に加わるチャンスをもらったのだ。それ以降、若手のプロデューサー達からアルバム造りのたびに声をかけられるようになった。 恵まれた音楽環境の中で、いつかデビューしたいという夢が膨らみ続けた。大学に入ってからは月3回ボーカルスクールに通い、歌を習っている。自分の部屋にいる時は音楽を聴くか歌を歌うかのどちらかだ。たまに大きな声でサビを歌い、階下に居る母親の美里から注意を受ける。 「ママー、ママだって、若いときはおうちでピアノ弾いて、おばあちゃんにうるさいって言われてたんじゃないの」 「そうね、そうだったわ。でも、今はお隣さんが近いから、そこはご配慮しなくちゃね」 「私が売れたら、お隣さんも花束持ってくるって」 桃香は音楽があふれる家で天真爛漫に育っていた。 1年前の春から働き始めた会社は横浜にある音楽機器の会社。音楽好きの社員ばかり働いているので常に音楽に触れていられる。定時で終わる日と土日のボーカルレッスンの後は必ず自由が丘に遊びに来ることにしている。 同僚の鮎子は「せっかく自宅が横浜にあるんだから横浜で遊べばいいじゃない。わざわざガオカに出かけなくても」とことあるごとに言う。 そう合理的に割り切れるものではない、自分にとって自由が丘が第2のホームタウンなんだ、この街にいるとうきうきするし、いやなことを忘れる。創作意欲も湧く。「感じいいモノ」が無数にある、その「感じいいモノ」を歌にすると、自分まで感じよくなる。そう信じていた。 (続く)
2014年12月02日スマートフォンで自由が丘に新しくできたケーキ屋の場所をチェックして視線を上に上げる。 決めメイクをした二人連れの女性がマスカラの話で盛り上がっている。どこのメーカーの製品が太さが出るとか、青いマスカラはどこに売っているとか。たしかに二人の目元はコミックに出てくる未来ガールのようにマツゲが太くて大袈裟にカールしている。 桃香は電車の中でガールズトークを盗み聞きするのが習慣になっている。東横線の電車はガールズ情報が泉のように湧いている。バッグチャームや携帯ストラップもポップなものを見かける事が多い。ついじっと見ていると買い物意欲がジュワっと湧く。 「次はー自由が丘ーー」 低い声のアナウンスが聴こえた。かわいらしい建物やパステル調の看板広告が窓から見える。桃香は女子高生の群れと一緒にホームへ降りる。様々な制服の女子高生達は皆、手にスマホを持ったまましゃべったり笑ったり、友達の腕をペシペシつついたり楽しそうだ。通学バッグには大きすぎるピンクの熊やキラキラにデコされたアクセサリーがゆらゆら揺れている。 桃香は自由が丘が好きだ。女性に人気の街と昔から有名だが、なぜたくさんの女性がこの街を訪れるのかなんとなくわかる。センスのいいカフェや雑貨屋さんが多いだけではない。街が小ぶりで、女性が歩きやすい。1日あれば路地裏の店まで覗き見ることができる。 「私の手の中にある街」感が魅力だ。仕事モードバリバリの緊張感ある街ではない。威圧的なビルもない。ビシっとしたスーツ姿で決める必要もない。カツカツと攻撃的な音が鳴るパンプスは似合わない。 お気に入りのゆるいファッションで鼻歌を歌いながら歩くには最適サイズ。友達と二人で歩けば、三メートルごとに「感じいいモノ」が視界に入って話題がはずむ「わっ、あれ、かわいくない?」と喜べる。歩きながらキョロキョロしてもおかしくない、おもちゃ箱の街。 桃香は少しでも長い時間この街にいたかった。iTunesで軽い曲を耳に流し込みながら街を見渡す。音楽と一緒だと街の色がワントーン明るくなる。いつか自由が丘を歌にしてみたいとふっと思った。 (続く)
2014年11月25日弁護士、医者、スポーツ選手etc…魅力的な肩書のうえ、イケメンであればさらにモテるはずの彼ら。競争率もトップクラスの「ハイステイタス」男子が結婚相手としてどんな女性を選ぶのか、本音のところを聞いてきました! 第1回「ハイステイタス」イケメン編 【左】海老原直樹さん(27歳)医師 身長:178cm 体重:72kg ひとり暮らし 趣味:サッカー、フットサル、酒 彼女:募集中 【左中】刈谷龍太さん(30歳)弁護士 身長:175cm 体重:70kg 実家暮らし 趣味:サッカー、フットサル 彼女:募集中 【右中】戸田有悟さん(35歳)大学職員 身長:170cm 体重:64kg 家族構成:妻と二人暮らし(既婚) 趣味:サッカー、音楽 【右】廣川貴司さん(28歳)広告代理店 身長:186cm 体重:64kg ひとり暮らし 趣味:テニス、読書 彼女:有 ステイタスの高いイケメンは、「ありのままの自分」を好きになってくれる古風な女性が好み!? ――今日は、イケメン男子たちの結婚観、恋愛観についてお話をお伺いしたいと思います。みなさん、医者、弁護士、広告代理店、元サッカー選手の現コーチと、なかなかのステイタスでいらっしゃいます。さっそくですが、未婚の男子3名は、今現在彼女はいますか? どんな人? 廣川貴司 (以下廣川、敬称略):僕は彼女います。年下のやさしい人。 海老原直樹 (以下海老原、敬称略):俺はいないです。いま彼女募集中です。 刈谷龍太 (以下刈谷、敬称略):僕も募集中です。 ――これはみなさんチャンス(笑)。恋が始まるとき、自分からアプローチすることが多い? それとも相手から好きなんですけどって言われることが多い? 廣川 :今までつきあった人は皆、女性から言ってもらいました。今の彼女は、友達づてに僕の連絡先を知りたいんだけどって言われて。 海老原 :俺は全く逆で、付き合った人は全部自分からアプローチ。おらおら系で攻めてます。 ――どんな女性が好み? 海老原 :難しいですけど、 お歳暮をしっかり出せるような、古風な人がいい です。「年賀状出しといたよ」とか、さりげなくやっておいてくれる人が好きですね。 ――もしかして、海老原さんのママがそういうタイプ? 海老原 :うちの父は仕事ばっかりで、母親が専業主婦で、家事とか家のやりくりは母親が全部やってました。 ――お母さんがやっていたことを、自分の奥さんに求めてしまう。 海老原 :そうですね。求めてしまう。 ――刈谷さんは、自分からアプローチするタイプ? 刈谷 :昔は全部自分からでしたが、弁護士になってから、女性から来てくれるようになりました。今でも自分から行きたい願望はあるんですけど。 ――ステイタスに寄ってくる女は嫌? 刈谷 :そうなんですよ。 もっと中身、ありのままの俺を見てほしい 。 戸田有悟 (以下戸田、敬称略):ありのまま(笑)。凍っちゃうよね、それは。本当の愛じゃないとね。 ――いい発言です(笑)。好きな女子のタイプは? ステイタスに惑わされない女のほかには? 刈谷 :よく笑うけど、あんまりグイグイこない人がいい。自分から話も振ってくれつつ、こっちの話したいことにかぶせて打ち消したりとかはしない。ちょうどいい案配の人。 戸田 :皆のところに連れて行っても、気を遣わなくていい子がよくない? 僕、 結婚したのは、それが決定打なんです。僕の仲のいい友達のところに連れてっても、僕が気を遣わなくてもいい 。 女性からのアプローチはアリだけど、しつこいのはイヤ!? ――だんだんハードルが高くなってきましたけど。女性からアプローチされて、良かった例、逆にイヤだった例を教えてください。 海老原 :イヤだった例は、暗に食事の誘いとかを断ってるのに、1週間とか1ヶ月空いてまた誘ってくるとかは、イヤですね。男側に気があったら、その日がダメですもこの日空いてるけどどう? とか、スケジュール調整するはずなので。 ――海老原さんは救命医のお医者さんなので、忙しいですよね。私は相談所をやってるのですが、お医者さんとお付き合いしている人からは彼氏が仕事仕事で、全然デートができない、どうしたらいいんですかっていう相談が圧倒的に多いです。彼女を放っておいたりすることはないですか? 海老原 :いや、たぶんすごくあります。でも、 仕事を含めて、自分をわかってくれる人じゃないと、その人とは縁がなかった って思います。 ――私、元旦那がお医者さんで、全然帰ってこなくて、育児も自分ひとりで抱えてキーってなって、離婚しましたから。お忙しい人と結婚するもんじゃないって、つくづく思った。これ、私の意見ですけど。はい次。 戸田 :ははは(笑)。 ■付き合う=結婚が前提! 女子の家庭力は付き合う前にチェック済み!? ――これから付き合おうというときは、結婚は意識しますか? ただ遊ぶだけとか、エッチするだけみたいな感じなのか…。 海老原 :俺は結婚したいなと思った人としか付き合ったことはないです。 刈谷 :付き合うときは結婚を考えますよ。結婚する気がない人と付き合うってあんまり聞かない気がします。そもそも付き合わない。 戸田 :ただ、向こうが付き合ってると勘違いしてる場合はあるかもしれないですね。 付き合おうっていう話をしてないのに、向こうが勝手に付き合ってると思ってる 話はよく聞きます。 ――本当に大事な人とは、付き合う=結婚。それ以外だったら遊びっていうことですね。お付き合い始めるときに、女性の職業とか年齢とか、重視することはありますか? 廣川 :理想はひとり暮らしをしていて、家事がある程度できる人。金銭感覚とか、生活のリズムとか、すごく大事なのかなって思っていて。 海老原 :俺、料理ができる人がいいですね。しょうが焼きと豚キムチですね。 戸田 :男ってそれでいいんですよ、がっつり系で。カレーとかね。食材にお金かけなくていいんですよ。別に成城石井とかで買わなくていいんです。普通のカレーが出てくればいいんだよね。小さい頃から食べてるものが結局欲しいんですよ。 ――こんな人とは付き合いたくないというのは? 廣川 :僕はですね、ムダ毛の処理をしない人がすごいダメなんですよ。 自分に気を遣えない人は他にも気を遣えない のかなって思っちゃいます。 戸田 :そいういう人は、きっとお歳暮は贈れないね。 海老原 :自分も一緒で、美容とかに気を付けてない人はダメですね。 ――それは洋服とか髪型とかだけじゃなくて、全て? 美容とかダイエットとか。 海老原 :そうです。ずっとドキドキさせてほしいです。 ――ひえ~。それは結婚無理!(笑) ■ハイステイタス男子は、家事育児を分担したくないのが本音!? ――奥さんは専業とワーキングウーマン、どちらがいいですか? 廣川 :僕はやっぱり子どもができたら専業がいいかなと思ってます。自分がそうじゃなかったので、鍵っ子がイメージできないんですよね。 海老原 :俺も専業主婦がいいですかね。 働きたいと思っているなら、自分の時間を活かしてやってもらう分には構わないですけど、それで家事とかがおろそかになるんだったら、しないで欲しい って言うかもしれないです。 刈谷 :僕はどっちでもいいですけど、専業主婦だとね、家でストレスがたまると思うんですよ。それを発散する場所がないと、結局自分に返ってくるから、家事とかにそれこそ支障が出ない範囲で、適度に外行って発散してくれたほうが。 ――家事に支障がない程度の働き方っていうのがまた難しいんですが。 刈谷 :そこは、分担するかどうかっていうのも話し合いなんじゃないですかね。 ――家事育児は分担したい? でも、廣川さんは分担じゃないよね。専業主婦希望だから。 廣川 :そうですね。でも、土日は逆に、僕が掃除機かけたりするはいいのかなとか。 ――平日はやってくれと、土日は手伝うぞと。海老原さんは、家事育児分担は? 無理だな。 海老原 :そうですね。 ――刈谷さんは? 刈谷 :僕もイヤです。自分からやるのはいいんですけど、分担となると、自分の役割が出ちゃうんで、やらされてる感出ちゃうじゃないですか。それがイヤなんですよ。やらなきゃいけないっていうのがイヤで、気が向いたときだけやらせて欲しい。 ――うわぁ、厳しい。 ■若い頃に遊び尽くした男性は、浮気しない!? ――戸田さんは結婚して4年目ということですが、普通の夫婦はマンネリ化して冷めていくけど、なぜ戸田さん夫婦はラブラブでいられるのか? まず、奥さんを選んだ決め手は何ですか? 戸田 :決め手は、僕の職業ではなく、僕を人として好きになってくれたことです。 ――奥さんと出会ったときは、サッカー選手だったから? 戸田 :当時はサッカー選手という肩書が好きで近寄ってくる女性が多くて、それがわかるともういいやって思う。でも今の奥さんは、サッカーを知らなくて、さらに友達のところに連れていったときに、自分が気を遣わなくてよかったっていうのがあって。僕はサッカーに集中したくて、彼女はダンスを頑張りたいっていう、お互いやりたいものがあったのも良かったです。 ――8年間付き合ってから結婚したんだよね。決め手は、サッカー選手というステイタスじゃないところを好きになってくれたから。結婚してよかった点は? 戸田 :よかったところは、常に味方がひとりいるってところ。上手くいかなかったときでも、何かあったときでも、自分のことをわかってくれる人がいる。 ――一緒に家事をやるの? 戸田 :お皿を一緒に洗ったりとか。あと、サイコロでちょっとゲームっぽくどっちがやるか決めたりとか。 ――ゲームができること自体、夫婦仲がいい証拠! 冷えてくるとゲームとかできなくなる。これから結婚相手を見つける人にアドバイスをお願いします。こんな男とは結婚しないほうがいいよとか。 戸田 : 若い頃、恋愛をあんまりしてなかった人と結婚すると…問題が起こりやすい 。若いころいろいろ遊んでた奴って、結婚すると結構上手くいってる人が多いような。なので、人との関わりも経験値が多い人の方が、こういうことしたら心痛むよねっていうのが分かってると思うので、僕はいいと思います。 刈谷 :旦那が浮気するパターンは「若い頃遊んでなかった」っていうのが多いです。弁護士としてそういう人をいっぱい見てきたから、若い頃遊んでた人がいいっていうのは同意かも。遊んできた人って、例え浮気をしたとしても、隠し方が上手いんじゃないかな。遊んでこなかった人は、初めて浮気すると、隠せなくて大騒ぎに。遊んできた人は浮気は遊びだと割り切って終了なのに、経験値が少ない人だと、結果的に離婚になっちゃうケースが多いです。 戸田 :それ、超説得力あるわ。 刈谷 :たぶんいろんな要素が絡み合って、結果的には若いとき遊んでた人がいいってことになる。 ――浮気する人は、一生しそうなイメージがあるけど。一生浮気する人と、途中でやめてくれる人との違いは? 戸田 :人の痛みがわかる人か分からない人かどうかかな。浮気を妻が知ったときに、どれくらいショック受けるんだろうなって思ったときに、じゃあダメだ、それで妻を失うのがイヤだって思える人なら浮気しないんじゃないかな。僕の場合は、もしかしたら、そう思うように妻に洗脳されているのかもしれないけど。だとしたら妻の方が上手ですね(笑)。 ――今日は、恋愛と結婚についての貴重なご意見をありがとうございました。 ■恋愛・夫婦仲コメンテーター二松まゆみさんがイケメンの恋愛&結婚観を分析! ――ステイタスが高いイケメンのみなさんは、奥さんは専業主婦だったり、ゆるく働く兼業主婦を希望していたので、正直、いまだにそうなんだ! と驚いたのですが、ハイステイタス男性は若い方でも、全般的にそうなのでしょうか? 二松まゆみ (以下二松、敬称略):はい、いまだにそうです。仕事のスタイルにもよりますが、ハイステイタスの男性は仕事量、人的交流が多いし、ストレス負荷もかかります。家事は有償で専門の会社に依頼する事で自分のパフォーマンスを保てるというひとり暮らしの人もかなりいます。 おかあさんが専業主婦の家庭に育つとますます「家事・育児・親戚との付き合い=妻の役割」という認識が強くなる と思います。母親がやっていたことを自分の妻ができないなんてこたあないだろうと。 「妻が働くのはかまいませんよ」とかっこつけて言いはするけれど、自分が帰宅したときに妻が留守でリビングが暗くて寒かったりするとイラっとする。彼らが幼少の頃にそんな状況はなかったから。いつもおかあさんがおやつや手作りハンバーグを作って待っていてくれた思い出がよぎるわけです。 「俺は100%出しきって仕事して、平均以上に稼いでるんだから家にいるときくらい癒してくれよ」 となるわけです。 私の運営する夫婦仲相談所にも「夫は私の事を家政婦と思っています。」という内容があとを絶ちません。特にハイステイタスというわけでなくても妻みずからが「私は家政婦」という言葉を口にしてしまうのが現実です。結婚するときに 「君も働き続けていいんだよ」という甘いささやきに決してだまされてはいけません。嘘です。 ――これからの時代、専業主婦でずっとやっていくには女性にとってリスクが高く、怖いな…とも思うのですが? 二松 :はい、リスキーです。激変する社会において、メンタルが弱い男性はバランスを保つために飲酒、ギャンブル、浮気、投資、などに走りがち。「こんな夫とは無理」と感じたとき、経済的自立をしていないと非常に苦しいものです。 ハイステイタスの男性にも何が起こるかわかりません。ハイステイタスなりのリスクはあります。挫折に弱いかもしれません よ! なので専業主婦はおすすめしません。 ――彼らのママレベルの主婦力が求められていて、若い世代の女性にとってはなかなか厳しいと感じましたが…? 二松 :厳しいと思います。女子力をあげる、モテる女になる、などメディアではいろいろアドバイスがありますが 「カレママ」と同レベルの家事力、包容力をめざすのが結婚への近道 でしょう。きれい&かわいいだけでは、長続きしません。 ――彼らを攻略するには、1 家庭力 2 人づきあい力 3 男性をたてる力 が必要? 古風な気がしますが、現代を生き抜くには、それにプラスしてどんな力が必要? 二松 :何かアクシデントがあったら自分が稼ぐくらいのタフマインドを持っておくと安心です。さきほども言いましたが、ハイステイタスな男性だからこそ落ち込みが激しかったり、リスキーな事業にチャレンジしたりしがちです。天狗になるおそれもあります。それをしたため、許し、寄り添うタフな精神を養いましょう。あ、お姑さんが人一倍厳しいかもしれません。そこも覚悟です。滝打ち修行か座禅でもしないと無理か?! それと、結婚の重要ポイント、「依存度」ですがこういう彼を求める方は「依存したい」気持ちが見え隠れします(特に経済面)。もちろん頼られたいという男のプライドは尊重しなければなりませんが、頼りすぎると重く感じられる。男とはやっかいなものです。 「依存度」を絶妙に使い分ける大人の女をめざさなければうまくいきません 。ちなみに、自立しすぎている女を彼らは好みません。本当は自立していても、「あなたがいないとだめ」というかわいい演技ができるくらいになっておきましょう。 ――ハイステイタスイケメンとの結婚を目指す人へ、二松さんからアドバイスをお願いします。 二松 :私は過去、それで失敗していますから、あれこれ言えます! 「たまたま愛した男性が年収1000万以上でイケメンでやさしかった」というプロセスをたどる人が真のシンデレラ です。謙虚が成功への鍵。つい、外見とステイタスでこだわって、本当に自分に合っているのかを確認せず結婚してしまうと痛い目に遭います。結婚前に、ステイタスとルックスをさっぴいても愛してると言えるのか、自問自答する事。彼が交通事故で顔に傷ができて、仕事も激減しても私、がんばる…と思えるように。 そして、 結婚前に二人でとことん自分の自信がない部分や嫌な部分をさらけだして話し合うといい でしょう。「えー! そんなとこもあるの? でもだいじょうぶ」と言えると、相手もそういう態度になってくれます。これからそういう彼を見つけたい方は、しょっぱなから「家事育児は平等」などという言葉は言わず、私も仕事は辞めないけど、なるべく家事もがんばる! くらいの「かわいげ路線」がいいでしょう。”仕事を頑張りすぎる女性VS俺の事、家庭の事を一番に思ってくれる女性" の図ですと彼らは後者にプロポーズします。 編集部まとめ ハイステイタスのイケメン男性との結婚は大変そうだなぁ……と感じた人も多いのではないでしょうか? しかし一方で大きな幸せを掴んでいる人も多いのです。大きな努力を払う分、幸せも大きく育つのも事実なのかも。 1.「ハイステイタス」イケメンは、ステイタスを魅力に思って寄ってくる女性には警戒心が強く、“ありのままの自分”を好きになってきちんと立ててくれる古風な女性を好む 2.「カレママ」と同レベルの家事力、包容力をめざすのが結婚への近道 3.「たまたま愛した男性が年収1000万円以上でイケメンでやさしかった」という プロセスをたどる人が真のシンデレラ。謙虚が成功への鍵
2014年10月14日