ついにその日はやってきた。そう、1カ月検診である。
息子が誕生してから1カ月。初めて外の世界に連れ出す日がやってきたのだ。
今までずっと家の中で暮らしていたものだから、外に出るだけでも何かと心配ごとが増える。
えーっと、お出かけするには何か必要なんだっけ?
オムツは何枚? おくるみも持っていった方がいいかな。
着替えは?下着と…帽子もあったほうがいいかしら。
泣き出したときはどうしたらいいんだろうなぁ…。
21歳のころ、初めてのひとり旅でタイとラオスに出かけた時よりも不安だ。自分一人で出かけるときと訳が違う。
外に出る前に、友達から借りていたスリングに息子をいれる練習をしてみる。
両手にすっぽり収まる小さな体。1カ月経ったとはいえ、頼りなく見える。
「わたしが守ってあげるよお~」。誰かに奪われるわけでもないのに、自然とそんな言葉が出て来てしまう。
スリングにくるまれた息子はなんだか安心したようで眠ったまま。
よし、このタイミングで出たほうがいいな。
予約しておいた時間に到着できるよう、余裕をもって家を出た。
ドアを閉め、前日用意した持ち物を念入りに確認し、いざゆかん! 1カ月検診へ!!
眠ったままの息子を抱きながら、駅までの道を歩く。目の前には昔通った小学校がある。
この道は、わたしが幼いころから何も変わっていない。
いじめられて泣きながら歩いたこともあったし、今は亡き愛犬と毎日のように散歩をしたこともあった。母と喧嘩をして家を飛び出したこともあったっけ。この道を何往復もして、わたしはここで育ったんだ。
いろんなことがあったけれど、そんなわたしも今こうして母親になったんだな。
産後体調を崩していたわたしは、外を歩いているだけなのにいろんな想いを巡らせて目頭が熱くなった。さんさんと太陽が輝く、とても気持ちの良い日。
息子を抱っこしたまま、電車とバスを利用して病院へ。
何をするにもいちいち気を使って緊張してしまい、40分の道のりがやけに長く感じた。
病院に到着するなり、入り口に立っていたおばあさんに声をかけられる。
「あらぁ、かわいい。こんなに小さな子、何十年振りに見るわぁ!」
「今日、1カ月検診なんです」わたしがそう答えると、ニコニコと「それはおめでとうございます」と答えてくれた。
きっと息子を抱いていなければ、話すことのなかったおばあさん。
“赤ちゃん”が持っているパワーはすごい。と感じた出来事だった。この子がいるだけで、誰かが笑顔になるなんて幸せだなあ、と思う。