連載記事:新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記
お父さんの、子どものころの話【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第6話】
あらためて文字にするとなかなか鮮烈なエピソードだが、子どもだった私にとっては何度聞いても爆笑モノで、渋る父にねだっては、繰り返しこのときの話をしてもらった。だって、自分にとっては立派な大人以外の何物でもない父に、実は私の知らないまぬけな子ども時代がちゃんとあって、おまけに私の中では、温和で、寡黙な印象しかない祖父が、元気に猛り狂ってビンタしているのだ。
そんなことがあったのかという驚きと、在りし日の父少年への親しみと、そして子ども心にもほんの少しのもの哀しさと。父の話を聞くたび、私の中にはたくさんの感情が湧き上がった。
あらためて思えばあのとき、まだたった数年しか生きていない幼い私は、初めて“今、この瞬間”から少しだけ距離を置くことを学んだのだ。自分と、その周囲を、今いる場所から一歩下がって俯瞰(ふかん)してみる。するとそこには、祖父から父、父から私へ、途切れることなく続いてきた、血の通った、長い、長い時間が存在していたのだ。
「ねえ、あの話しして?」
考えてみれば、母になった私はあまり子ども達に昔の話をしたことがない。
だから、子ども達にこんな風にせがまれたりしたこともそうそうない。……話さなきゃな、と思う。私がまだお母さんになる前の話。今のモーや夢見と同じくらい不器用だった、子ども時代の話。大人になって、ようやく笑い話にできるようになったけれど、それでもやっぱり、ほんの少しほろ苦い昔の話。何しろそれは、どんな素敵な絵本だってかなわない、私と子ども達だけの、特別な物語。彼らの“今”を形作る、特別な物語なのだ。
イラスト ハイジ
上手くなりたいと言うのに自主練しない。アドバイスも嫌がる息子に頭を悩ませている問題