息子は今のところ特別お絵描きが好きでは無い。それよりもブロック遊びがダントツで好きだ。
僕がイラストの仕事をしているせいで、友達と子どもの話になると意外だと言われることが多い。
でも本人が興味を示さないのであれば無理に教えることはしたくないので、好きなモノで遊ばせる。
そんな息子だからこれまでに手掛けた絵画作品は少なく、たまに筆をとった時には妻と共に固唾を呑んで制作を見守る。そうして出来上がった作品は家宝としてファイリングされる。
と、ここまでは良い。とても良い。息子のタチの悪さはここからで、自分で何かを描くよりも父母に指示通りの絵を描かせることに楽しみを見出し始めた。
そもそもこのイラストコラムのタイトルになっている「下請け」とは息子の発注者気質に由来している。
それでは、息子の発注を5つのステップで紹介します。(なんのこっちゃ)
ステップ1「動物を描く」
親に絵を描かせることを覚え始めた頃は、動物やキャラクターを発注してきた。
誕生日に息子にあげたスケッチブックを手渡される。
そして息子の記憶にある動物の容姿を描くことが求められるので、イメージを近づけるため注文を聞いて修正を重ねる。
ステップ2「シーンを描く」
動物単体に飽きるとシーンを描かせるようになった。
長い線路を走る電車、窓からはカエルやキリンが顔を出す。空席が目立つとNGなので、窓という窓に動物たちを配置する。。。
仕事かっ!これでは仕事じゃないか!何だ!?イメージを近づけるって!と僕は発狂寸前。
時々息子もマ−カーを握って僕が描いた動物の顔を紙に穴が開くまで塗りつぶす。
ステップ3「ゲームの舞台を描く」
次に池を泳ぐ魚の群れを描いてその池の周りに僕と妻と息子の3人が立っているという絵の発注が来た。
注文通りに描き終えると息子がおもむろにマジックを手に取り、「釣りしよっと」と言って池の周りに立っている3人の釣り竿に糸を描き足して魚につなぐというゲームを始めた。
どこまでも良いとこ取りをする息子だが、遊び方の引き出しは多い。
ステップ4「知らない友達の顔を描く」
この辺りまで来るともっと雲行きが怪しくなってくる。息子が保育園で出会った友達の顔を描けと言うのだ。
4月に転園したばかりでも息子はあっという間に友達の顔と名前を覚えてしまった。
自分のクラスどころか年長さんまで覚え始めているので「〇〇君のお姉ちゃん描いて」などと言われて手も足も出ない。。。
というか知らないから描けない。想像でいい加減に描くと大変怒る。
ステップ5「絵本を描く」
息子からの発注の最終形態。息子お気に入りの絵本のストーリーを絵で再現していく(再現しろ)という悪魔のような命令。
仕事並(否、仕事以上)にハードなご依頼である。
それでも「そんなもん描けるかあ!ぼっけえ!」とは言いたくない変なプライドがあり、こちらも意地になって食らいつく。
保育園の懇親会の日、親子で街のフリースペースに食べ物を持ち寄って遊んだ。
施設のおもちゃで思い思いに遊び始める子ども達。一人の女の子が僕の所におもちゃを持って近寄ってきた。
「ねえねえ、ウサギ描いて」ここでも始まってしまった悪夢のイラスト受注会。
この娘が中学生だったら「ご予算は?」と制作費の話でもしてあげたいところだが、相手は3歳。
磁石で絵が描けるお絵かきボードを手渡された僕は引きつっていたかもしれない満面の笑みでウサギを描いた。
僕の前に子どもが2人3人と集まりだして、背後からはママさん達ものぞき込んでいる。
やってきた男の子が「今度はカーズのスポーツカー!」とリクエストしてきた。
「まずは下描きを…」というわけにもいかず、一発描きに自信が無かった僕は辺りを見回した。窓際の棚にスポーツカーのおもちゃを発見。
絶対にばれないように思いっきりカンニングした。
つづく