連載記事:『みんなの学校』流「生き抜く力」の育て方

自分を表現すると嫌われる学校の現実。守りに入る教員をどう変える?【『みんなの学校』流「生き抜く力」の育て方 第4回】


■保護者が意見をして機嫌が悪くなる教師への対応は?

自分を表現すると嫌われる学校の現実。守りに入る教員をどう変える?【『みんなの学校』流「生き抜く力」の育て方 第4回】

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参加者:私は、小学校の支援学級(通級)の教員をしています。学校現場にいる者として発言させていただくと、教員の専門性を、教科指導(国語・算数・理科・社会といった「勉強」を教えること)だと思っている教員は多いのです。

そんな教員に対して、通級指導の教員である私たちですら食い込むのが難しいのに、保護者が食い込むのは、もっと難しいと思うのです。

木村:保護者が意見をすると機嫌が悪くなる先生は、たくさんいます。残念なことですが、それが現実です。その現実に対しては、水戸黄門の印籠を出すんです。「これが目に入らぬか!」と(笑)。そのセリフを、今日はお伝えしましょう。


私は、文部科学省の上層部の方から、「教員の仕事は、教科を教えることではない。教員の仕事は、その子が学びたいと思う学びを、その子が安心して学べる、そのための学ぶ力をつけることです」と教えてもらってきました。

いまは、このセリフ(言葉)を知らない教員が多すぎます。ですから、これからの社会に役立つような資質を持った子が、いまの学校現場では、排除されてしまうことも、現実的には多いんです。いまの学校は、4つの力を使わない方が、居場所を作ることができるからです。

たとえば、自分の考えを持ちさえしなければ、先生に文句を言うことはないでしょう。自分を表現しなければ、先生に怒られることもありません。

自分の意見を言う、文句を言う、「イヤという」、こういった自分を表現するということは、教員側から見ると「自分の好きなようにわがまま言っている」と見えることも多いわけです。


人を大切にするといっても、子ども本人が大切にされていないのに、どうやって人を大切にできますか? そんな環境で、どうしてチャレンジをしようなんて気持ちになれますか? でも、悲しいことに、いま、学校現場は、そんな場所になっているのです。

■学校が「すべての子どもに規則を守らせる」場となる恐ろしさ

自分を表現すると嫌われる学校の現実。守りに入る教員をどう変える?【『みんなの学校』流「生き抜く力」の育て方 第4回】

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参加者:でも、子どもに好き勝手なことをさせていたら、現実的には、困ることも多いのではないかと思うのですが…。

木村:その発想が、最初から大人が子どもを信用していない発想だと思うんです。「子どもは、悪いことをする」と思っている大人がいるから、そんなふうに期待されてしまった子ども(悪いことをするだろうと思われた子ども)は、悪いことをするんです。学校が「子どもに規則を守らせる」場になってしまうのは、ありえないと思いませんか?

参加者:だから、うちの子は悪いことするのか…(笑)。大空小では校則はなくて、「自分がされてイヤなことは、人にしない」という、たったひとつの約束があるだけ、と聞きました。それを破ったときは、みずから校長室にやり直しをしに行くと。

木村:校長とやり直しをするのではないんです。
やり直しをする場所が、校長室なだけです。これも、子どもたちが決めたことです。みなさん、「校長にざんげに行く」と思っていらっしゃるようですが、私にざんげに来られても、どうしたらいいかわかりません(笑)。

なぜなら、大空小でいちばん最初にやり直しをしたのは、私だからです。そんな人間にざんげされても、困ります。

■「この子さえいなければ」

木村先生が、大空小で「やり直し第1号」になるシーンを、ご著書の中からご紹介します。大阪市立大空小学校は、新設の小学校として2006年4月に開校しました。その、開校初日、始業式のシーンです。


「絶対、良い学校にしよう」
始業式の朝。私はもちろん、教職員の誰もが意欲をかき立てられました。引き継ぐ伝統も何もないゼロからのスタートです。(中略)

「わーっ、ぎゃーっ」
ひとりの男の子が講堂に入ってくるなり、大声を出しながら走り始めました。転校してきたばかりの6年生でした。始業式に転校を知らされたばかりで、私たちも会ったのはこの日が初めてでした。(中略)

「良い学校をつくろうと思っているのに、なんでこんなすさまじい子が入ってくるんや」
この子さえいなければ、良い学校をつくれるのに」(中略)

そう思ったのです。開校当初は、とてもいやな校長として、私は子どもたちの前に立っていました。
校長という立場以前に、大人として失格です。
この彼は、その後も、教職員を振り回し続けますが、ある日、彼を追いかけて足をすべらせ尻もちをついた女性教師のそばに寄りそうようにしゃがみ込みました。そのときに彼が取った行動を木村先生は、黙って見守ったあと、全校朝会で、こう切り出します。

「彼な、逃げられたのに、戻ってきて、痛いね、痛いねって先生をさすってあげたんやで。私はそんな彼のことをちっともわかってへんかってん

【『みんなの学校』流「生き抜く力」まとめ】

●「一生懸命やっているのに、何で通じないの?」と言う大人は、「子どもの前に立つ大人」として失格
●子どもに対して間違えた行動をとってしまったとき、謝ることができない教師はアウト
自分の考えを持たなければ、先生に何か意見を言うこともない。自分を表現しなければ、先生に怒られない。本人が大切にされていないのに、人を大切にできない。そんな環境でチャレンジしようという気にはならない



木村先生の言葉には迫力があって、毎回、痛快なドラマを見たときのような気持ちになります。
けれども、一方で、あまりに斬新な発想(言われてみれば『本当にそうだ』と思うのですが…)に、まだ気持ちがついていかない部分もあります。

ドキュメンタリー映画『みんなの学校』を作った真鍋俊永監督は、映画のパンフレットでの中で、こんなふうに言っています。
この映画の「みんな」が指しているものは、「児童と教職員と地域の人」を飛び越えた「すべての人」の事であり、私たち一人一人にとっての学校である「社会」を、「みんなで一緒に作り上げていきませんか」という、そんな思いを込めた作品を作り上げたので、映画を見られる方たちも自由に何かを感じ取ってほしい
この記事がひとつのキッカケとなり、社会にみんなで学び合えるような雰囲気が広がっていくことを心から願っています。

■今回取材にご協力いただいた木村 泰子先生の著書
『不登校ゼロ、モンスターペアレンツゼロの小学校が育てる 21世紀を生きる力』木村 泰子,出口 汪
不登校ゼロ、モンスターペアレンツゼロの小学校が育てる 21世紀を生きる力
木村 泰子,出口 汪/ 水王舎 ¥1,400(税別)

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