妻が稼いで僕が家事。思い描いた人生とは違うけど…ゆるくてヒリつく主夫エッセイ『今日も妻のくつ下は、片方ない』
■人生に思い悩んでいたある日、妻の妊娠が発覚して…
主夫としての暮らしは、それなりにやりがいを感じるものではあるけれど、妻の収入で生活することへの後ろめたさをどこかぬぐえない劔さん。
ときに、
“選ばなかった別の人生”に対して、悶々と思い悩む日々を過ごします。
そして、「子どもをどうするか?」について、妻と話し合う機会が増えたことで、さらに漠然とした不安が胸の内につのるのです。
『今日も妻のくつ下が片方ない』「往生際。」より
自分で決断してきたはずの人生なのに、選ばなかった別の人生に対して、ないものねだりをしてしまうのも、また人間の性。
劔さんも、そんな悩みのループを行ったり来たりしながら、日々をやり過ごします。
そんな悩み多き中年期を過ごしていた劔さんに、突然妻から妊娠したことを告げられます。
後日、2人で病院に行った帰り道、これから大きく変わる生活を前に
“最後の晩餐のような気分”にひたりながら、喫茶店でジンジャーエールを飲む劔さん。
決して不安な気持ちが一掃されたわけではないけれど、すがすがしさとともに、新たな人生を前向きに歩き出すことを決意するのです。
かつて、劔さんが願ったように、夢とか才能とか、ほしいものが全部手に入れられる人生も素晴らしいけれど、つまづいたり、失敗しながらも、自分らしく生きる人生もまた尊く、美しいもの。
未知数だらけの未来に人生をゆだね、その運命を甘んじて受け入れてみることも、人生にとってある種、必要なことなのかもしれません。
幸せの形は誰にも決められないし、幸福な未来を誰も約束はしてくれない…。
だからこそ、不確定な未来のなかで、悩みながらも、もがきながらも、わが道を進もうとする劔さんの姿が、なんだかじみじみ心に沁みて、思わず自分自身のこともやさしく慰めてあげたくなるのです。