この20年で約10万人の人口が増えた港区。その増加率は約6割にものぼります。地方創生が至上命題でもある日本にとって、羨ましい限り。それでも港区も、子どもの数は減っています。税収を維持しながら、無償化政策を進めていけるのか、再開発が今も続き、街としての「キラキラ」度が増している中、どんな港区を目指しているのか、清家港区長にお聞きしました。
お話を聞いたのは…
港区 清家愛区長1974年生まれ、港区東麻布生まれ。青山学院大学国際政治経済学部、国際政治学科卒業(現代ロシア論・袴田茂樹ゼミ)。産経新聞の記者として7年、主に社会部で事件、行政取材を担当。結婚・出産と仕事の両立に悩み、退社。フリーランスになるも、待機児童のため西麻布で子育てに専念。保育園にも幼稚園にも入れない港区の現状はおかしい!と、ブログ上で現場の声を集め、行政に提言する「港区ママの会」を発足。2011年4月、港区議会議員選挙5位初当選。3期連続トップ当選で、4期13年区議を務め、2024年6月港区長初当選。
>>港区・清家愛公式ページ
―この20年、港区は人口が増えましたが、それでも一番のボリュームゾーンである40代と比べると、10歳未満はその約2分の1。少子化は止まりません。今後の税収などを考えると、無償化を始め、港区の手厚い行政サービスを維持できるのか疑問があるのですが、その点はどうお考えですか。
清家区長:持続可能な社会をつくるために、子育てや少子化対策は投資として必要だと思い、無償化を進めているところです。とはいえ、今の状況だと、やはり子どもの数は減っていく一方なので、少子化対策の効果を検証して、政策立案に反映していかなければならないと思っています。
―具体的にはどのような方法で?
清家港区長:EBPM推進担当というのを新たに設置しました。Evidence-Based Policy Makingですね。客観的根拠に基づくデータの利活用によって、今後の政策を推進していくというものです。
―港区は、再開発があちらこちらで進んで、便利になる面と、住環境の変化をネガティブに捉える住民もいます。街の魅力としての再開発、それに伴う流入人口の増加などのメリットと、住民のQOLは、必ず一致するものでもなく、この二つのバランスは都市整備をする上で一番難しいところだと思います。この辺りはどのようにお考えですか。
清家区長:ターニングポイントなのかなと思っています。再開発はこれからも続きますが、歴史的な価値や文化を守るということが、港区の豊かさであり魅力だと思うんです。全て経済市場原理の中で、そういうものを失うと、何か心の喪失に繋がるのではないかと。
―私もそう思います。住んでいる人にとっては、再開発はもういい、って思っているケースもあるかと。
清家区長:今年度から、歴史的価値ある建造物や樹木を守る仕組みづくりというものについて、歴史的な文化財についての有識者などにも委員に入ってもらって、景観審議会の中で、歴史的、文化的価値を守っていけるような仕組みづくりを検討したいと思っています。
―港区は歴史的な建造物も結構多いですからね。
清家区長:そうです。あと、「港区緑を守る条例」で、敷地面積250平米以上の建築計画がある場合、敷地面積、延べ床面積などに応じて緑化をしてもらうというのを進めています。それによってエコロジカルネットワークを形成して、生物多様性の向上などに貢献する緑の保全創出を誘導しているので、今、緑被率は22.62%で23区中では3位と高い水準なんですね。
―新しい緑地と以前からある緑地では生物多様性の継承が可能なのかは、また議論のあるところだと思いますが。
清家区長:緑を増やす、ということだけではなくて、ある緑を守る、あるものを守るという心の価値観が豊かであることこそが民度の高さ、言い換えればシビックプライドに繋がることだと思うんです。港区だからこそ、やっていかなければいけないことだと思っています。
―心の価値観、いいですね。
清家区長:生きているもの、身の回りのもの、愛している者たちを守っていくっていうこと、大切にしましょうということを、子どもの教育でも言っているのに、大人がやっていることが違うのなら、嘘をついていることにもなる。ここは、私が今、一番大事にしているところです。
取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生
政治ジャーナリスト 細川珠生聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。