「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」のキャッチフレーズで、子育て層をターゲットに、さまざまな施策を展開し、人口増加率6年連続1位(全国792市の内)となった流山市。全国ほとんどの自治体が人口減に悩む中、特に地方都市の人口増は、稀有なこと。どのような市政運営をしているのか、井崎義治市長にお聞きしました。
お話を聞いたのは…
流山市 井崎義治市長昭和29年 東京都杉並区生まれ、千葉県柏市育ち。平成元年から流山在住。立正大学卒、San Francisco State University大学院人間環境研究科修士課程修了(地理学専攻)。昭和56年 Jefferson Associates- Inc.,Quadrant Consultants Inc., 昭和63年から住信基礎研究所、エース総合研究所を経て、平成15年から現職。
>>千葉県流山市 井崎義治市長 公式ページ
―市長にご就任されて、まず、市役所の中に「マーケティング課」を作られたそうですね。
井崎市長:マーケティングというほどのことでもないと思っているのですが、要は、市役所の職員が携わる仕事の一つ一つは、誰に向けての仕事なのか、ということを明確にすることに過ぎないと思っているのです。私は米国で都市計画のコンサルタントをしていましたが、都市計画はより良い住環境、都市環境を作るためにはどうしたら良いかということを考えています。そして民間のデベロッパーは、いかに売れるものを作るかという視点です。その中でメインターゲットというものが自ずと見えてくると思うのです。
―行政であると、メインターゲットを決めない、つまり、幅広く、みんなのため、赤ちゃんからお年寄りまでのことを考えないといけないと考えているように思うのですが。
井崎市長:それは言い訳だと思うんです。市役所の職員も、私が市長になった当初は、「メインターゲットを決めてしまっていいのですか」という反応でした。でも「あなたの仕事は誰のためにやるのですか」と考えたときに、単純に「市民」では括れないんですね。例えば、「高齢者」であれば、バス停まで歩ける高齢者なのか、歩けない高齢者なのか、あるいは「子育て世代」であれば、乳児、あるいは小中学生、家庭と距離を置いている子供を扶養している家庭とか、もうみんな違う。それなのに、「市民」と十把一絡げにすることによって、自分のこの業務が誰に向かってやっているかを認識しないでいた、ということだと思うんです。
―その意味からすると、流山市長になられて、子育て層をメインターゲットとされたのはなぜですか?
井崎市長:流山市は、つくばエクスプレス(以下、TX)が開通する前は、専業主婦が子育てをすることが多い街でした。それが、TXができたことにより、都心からの時間、距離が劇的に短縮されますから、DEWKs(デュークス、Double Employed with Kids) つまり、共働き子育て世代の方々に選ばれる街になるとみていました。私は都市計画コンサルタントとして米国に住んでいましたが、帰国するにあたり、その点はコンサルタントとしても着眼して、ここに住み始めた市民という立場から、DEWKsに必要な政策は何かということで政策を打ってきた、子育て世代の人口増はその結果であったということだったと思います。
―保育園の駅前送迎保育ステーションなど、子育て支援がとても行き届いています。最近、注力されている子育て支援策はどのようなものですか。
井崎市長:量の整備は概ね終わったので、今は質の整備を進めています。例えば、障害のあるお子さんや、医療的なケアが必要なお子さんの保育園入園の手続きを、一般のお子さんの手続きの前に、「要配慮児童保育コンシェルジュ」が中心となって行うということを、保育園に関しては昨年度から始めました。幼稚園についても、配慮が必要なお子さんの就園に不安を抱える保護者向けの就園相談を昨年度から始めています。
―どのような効果があったのですか。
井崎市長:配慮が必要なお子さんを持つ保護者は、それまではご自身で各園に、一件一件、受け入れてもらえるか問い合わせていたのです。そうすると、お断りされることが多く、それが5件くらい続くと、「自分は日本という社会からウェルカムされてないんだ。自分たちの居て良い場所はない」と思って、精神的に追い詰められ、その延長で自殺を考える方もいらっしゃる。それくらい辛い状況を日常的に経験されてきていたのです。そういった保護者の複数のグループから相談を受け、この体制を作りました。それによって、保護者の精神的負担が軽減され、希望するお子さんは全員保育園に入園することができました。
―それは素晴らしいことだと思います。受け入れる園も、対応を強化されたということですか。
井崎市長:そうです。まず建物の改修が必要になる場合もあります。また結局は人が必要になるので、受け入れるお子さんの数によって、一人当たり、保育園であれば、月10万、重度のお子さんの場合は、15万、幼稚園は時間が短いので5万を補助し、人件費に充ててもらうようにしました。今後は、小学校もさらなるインクルーシブ教育の環境を整えていきたいと思っています。
―今、子育て支援というと、無償化がトレンドで、「バラマキ」ではないかという批判の声もあります。その中で、流山市は、子育て支援のグランドデザインがあるように思うのですが。
井崎市長:DEWKs、つまり子育て世帯から選ばれる街ということを念頭に入れましたので、仕事をしながら子育てがしやすい・子育てもできるインフラ整備、そういう観点なんですね。「仕事をしながら子育てもできる」社会環境づくりというところが、流山の特徴だと思っています。
取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生
政治ジャーナリスト 細川珠生聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。