【精神科医・本田秀夫】ADHD子育ては「コツコツよりも一発勝負」!?「叱らないでサポート」が大切な理由
子どもの苦手に手を貸しているが……
ADHD(注意欠如多動症)の子を育てている親御さんから、
「家でも学校でも、うまくいかないことが多くて困っています」
「いろいろと言い聞かせていますが、効果がありません」
「どうすればいいんでしょう」
と相談されることがあります。
「苦手なことには手を貸していますが、いつまでも親がそばにいることはできません」
「このままでは大人になったときに、本人が困るのでは」
「この子のために、いまやっておけることはないでしょうか」
切実な話だと思います。
ADHDのお子さんは、一言で言えば「そそっかしい」です。一生懸命やっても抜けてしまうことがあります。落ち着いて行動できないこともあります。ADHDの特性というのは、そういうものです。
お子さんに「油断しないこと」や「コツコツやること」を求めていたら、本人も親も苦労します。それよりも、どうすればラクになるかを考えたほうがいいです。
Upload By 本田秀夫
「ミスをなくす」という理想に向けて全体を底上げしていくというよりは、ミスがありながらも「最後に帳尻を合わせる」というイメージでやっていくほうが、親子ともにラクになります。
多少抜けていても、重要な局面では親子で一緒に頑張って、最後に帳尻を合わせればいい。そうした経験やスキルは、子どもの将来に役立ちます。
基本はざっくり。大事なところではしっかり。そういうメリハリがつけられれば、お子さん本人も、ADHDの子育てもぐっとラクになります。
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「コツコツよりも一発勝負」の考え
私は、ADHDのお子さんやご家族には、「コツコツよりも一発勝負!」という考え方をお伝えしています。たとえ忘れ物を減らせるとしても、そのために毎日コツコツ120%のエネルギーを使い続けるわけにはいきません。
そうではなく、普段は手を抜いておいて、いざというときだけ「一発勝負!」で集中して頑張ればいいのです。
子どもに手抜きをさせることに抵抗を感じる人もいるかもしれませんが、エネルギーの使い分けを身につけられるかどうかが、ADHDのお子さんが健康に暮らしていけるかどうかを左右するポイントの一つになります。例えば、忘れ物やなくし物は、ADHDのお子さんによく見られる困りごとの一つです。学校で先生の話をよく聞いて、帰宅後に持ち物を準備して翌日持っていくというのは、けっこう難易度の高い作業になります。ADHDのお子さんには難しい場合も多いです。
子どもを叱っても事態が改善しないため、親が積極的にサポートして、忘れ物を防ぐケースも多いでしょう。
そうすると、
「こんなふうに手を貸していたら、子どもが自立できないのでは」
「もっと注意して、本人にやらせたほうがいいのでは」
と感じる人もいるかもしれませんが、対応としては、「子どもに手を貸す」というやり方でOKです。
どうしてそれでOKなのかというと、忘れ物やなくし物が多少あっても、本人があまり落ち込まず、毎日を楽しく過ごせていればいいのです。
子どもがたびたび忘れ物をしていると、親や先生は「もっとよく確認させなければ」と考えがちです。「大人になったときに本人が困るから」「この子のために」と言って、子どもに繰り返し注意しようとします。
しかし、まわりの人が子どもに忘れ物を指摘したり、確認作業をうながしたりすることをやりすぎると、本人が強迫的になっていく場合があります。忘れ物がないかどうか、何度も何度も確認するようになることがあるのです。
そうすると、忘れ物は減りますが、本人はそのために並々ならぬエネルギーを使うようになります。夜遅くまで確認したり、翌朝も早く起きて再確認をしたりします。
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どうして手抜きに見えるのか?
ADHDのお子さんは、親や先生からよく「手を抜かないで」「ちゃんとやりなさい」と言われます。確かに、ADHDのお子さんは宿題などをサボってしまうこともあります。
それを手抜きだと指摘して、注意したくなる気持ちも分かります。
しかし手抜きに見える出来事にも、さまざまなプロセスがあります。
「どうして手抜きに見えるのか」を考えながら対応していくほうが、子どもの行動を理解しやすくなります。これまでにお伝えした内容と重なる部分もありますが、ここであらためて「ADHD特性への対応」を整理しましょう。
ADHDのお子さんがなぜ「手抜きをしている」「サボっている」ように見えるのかというと、多くの場合、本人のなかで気分が乗らないからです。手抜きには「1.やりたくない手抜き」と「2.やったけどうまくいかない手抜き」があります。
ADHDのお子さんの親御さんは子どもに注意しながら、「もっと厳しくするのが本人のため?」と悩む場面もあるかもしれません。
しかし、どちらの「手抜き」であっても、厳しく叱っても効果はありません。
例えば、お子さんが宿題をサボっているような場面があったとします。
1.は気分が乗らない状態なので、叱って宿題をやらせても、本人はあまり集中できないでしょう。それではいい学習になりません。
2.は一生懸命やっているけど、不注意の特性が強くてミスが出ている状態です。「注意力が足りない」と叱っても注意力は上がりません。むしろ、その声かけによって本人をイライラさせて、注意力が下がる可能性があります。
叱らないでサポートをしよう
そそっかしい子に「ちゃんとやりなさい!」と言っても、基本的に効果はありません。本人は油断しやすいタイプだから困っているのです。
「ちゃんとやったほうがいい」というのは嫌と言うほど分かっています。
ADHDのお子さんを叱っても、ミスや忘れ物は減りません。問題は解決せず、むしろメンタルヘルスの悪化を招きます。ADHDのお子さんを叱っても、いいことはないのです。大人が考えを切り替えて、なるべく叱らないようにすれば、本人のメンタルヘルスの悪化を防げます。そのうえでサポートを心がければ、ミスや忘れ物が減っていく可能性もあります。ADHD特性への対応の基本は「叱らないでサポートをすること」です。
これは、ADHDのお子さんを叱ってはいけないという話ではありません。
例えば調理で刃物を扱うようなときには、子どもに声をかけて集中をうながす必要があります。安全を保たなければいけない場面では、しっかりと注意をしてください。
一方で、うっかりミスや忘れ物、片づけなどを毎日毎日注意していたら、メンタルヘルスの悪化につながります。叱り方にメリハリが必要だということです。
ほかにも例えば、明日が入学試験だというような重要な局面では、「今日は油断しないで確認しよう」と言っていいと思います。
そこで「注意しても効果はないから」と考えて本人にまかせていたら、致命的なミスをしてしまう可能性もあります。本人も頑張りたいと思っている場面、ミスをしたら取り返しがつかなくなる場面では、子どもに集中をうながしながら、大人も全力でサポートをして、できる限りの準備をしましょう。※この記事は、本田 秀夫 (著) フクチマミ(マンガ)『最新 マンガでわかるADHDの子どもたち』(バトン社)より一部抜粋・再編集しています。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。