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【新連載】「好き」をベースに他者との交流を楽しむ!TRPG活用の「余暇活動支援」で見えた「サードプレイス」の重要性(金子総合研究所/東京学芸大学・加藤浩平先生)

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余暇活動の場で、楽しくコミュニケーション!


日曜の午後、プレイルームで4~5人の子どもたちがテーブルを囲んでいます。テーブルの上にはダイス(サイコロ)やルールブックが用意され、各プレイヤーの前にはキャラクターシートと鉛筆や消しゴムが置かれています。進行役の「ゲームマスター(GM)」の青年がルールブックを広げて、「じゃあ、セッションを始めます。まずは……」と説明を始めます。子どもたちは緊張と期待が混じった表情でうなずき、自分の手元にあるキャラクターシートを確認したり書き込んだりしています。

冒険物語が始まると子どもたちのテンションも上がってきます。「ダンジョンの入り口だけど、どうする?」「ぼくが先頭を歩く!」「じゃあ、私は後ろからついていく!」「俺、帰ろうかな……」「なんでもう帰るんだよ!(笑)」と、元気なやり取りに変わっていきます。ダイス(サイコロ)の転がる音がして、成功すれば「やった!」と歓声が上がり、失敗してもみんなで笑い合います。
魔物と戦ったり、宝箱の中身を分け合ったりするうちに、お互いへの呼びかけや「ありがとう」「助かった!」という言葉が自然と増えていきます。セッションが終わる頃には、みんな笑顔になり、「次はどんな冒険になるかな?」と、もう次の活動を楽しみにしています。

はじめまして。発達障害のある子の余暇活動支援について研究と実践をしている、金子総合研究所・東京学芸大学の加藤です。

筆者(加藤)は、もともと編集者として、心理学・教育学系の専門書の企画・編集に携わっていたのですが、編集者としての取材を通して、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)などの発達障害の子どもや若者たちに出会い、しだいに「発達障害」と「余暇」の接点に関心を持つようになり、研究者として活動をするようになりました。現在は、編集者兼研究者として、冒頭で紹介したような、発達障害のある(あるいはその傾向のある)10~20代の子ども・若者を対象に、主にテーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)などの「コミュニケーションを楽しむ小グループ活動」を用いた余暇活動に取り組んでいます。そして実践を通じて、そこで起きるコミュニケーションや集団参加のあり方についての研究をしています。

また、TRPGについても、知らない方も多いと思いますので、簡単に紹介しておきましょう。
TRPGとは、ルールや語り手(ゲームマスター)の進行という「枠組み」のもとで、参加者がそれぞれの役割(キャラクター)を通して、会話によって物語を進めていく卓上会話型ゲームです。「ゲーム」ですが、勝ち負けを競うのではなく、参加者同士が語りあって物語を創り上げていく過程そのものを楽しみます(図1)。皆さんや子どもたちにも馴染みの深いコンピュータゲームの「RPG(ロールプレイングゲーム)」のルーツにもなっているゲームです。

【新連載】「好き」をベースに他者との交流を楽しむ!TRPG活用の「余暇活動支援」で見えた「サードプレイス」の重要性(金子総合研究所/東京学芸大学・加藤浩平先生)

Upload By 加藤浩平

筆者が運営するTRPG活動に集まっているのは、発達障害、あるいはその傾向のある10~20代の子どもや若者たち。年齢と性別はもちろん、個性も特性もコミュニケーションのスタイルも、それぞれ違います。それでも、キャラクターを作成し、セッション(参加者が集まってTRPGを遊ぶこと)が始まると、それぞれが「物語の主人公」となり、実際の年齢や立場をこえて物語の世界を楽しみお互いに語り合うようになります。

実際のTRPGの詳しい実践、そしてTRPGを遊んでいる子どもたちの姿については、改めて詳しく紹介していきたいと思います。

余暇は「余った暇」じゃない


そのような訳で、今回「発達障害」と「余暇活動支援」をテーマにコラム執筆を始めさせていただくことになりました。


そして、執筆にあたって、発達障害の子どもたちの余暇活動支援の研究者として、読者の皆さんにまずお伝えしたいことがあります――それは、「余暇は『余った暇』じゃない」ということです。

余暇は、「余暇」という言葉のせいか、生活全体から見て、「おまけ」や「すき間」のようなイメージがありますが、それは大きな間違いです。子どもたちが生活する場として、家庭を「ファーストプレイス(第一の場)」、学校(卒後は職場)を「セカンドプレイス(第二の場)」とするなら、余暇の場は、そのどちらでもない、本人が安心して自発的に集まれる「サードプレイス(第三の場)」という家庭や学校と同等の価値を持つ生活空間です。

筆者があえて「サードプレイス」としての余暇活動の場を強調するのは、それが障害の有無や程度に関係なく、子どもや若者たちの心身の健康維持、自己実現、そして社会参加などに不可欠な生活領域だからです。以前から、余暇や余暇活動は障害のある人たちのQOL(生活の質)の構成要素として中核指標の1つであることが、海外の研究などでも指摘されています。また、筆者の研究でも、余暇活動の場への参加が、発達障害のある子どもたちのQOLを高めていくプロセスを報告しています(加藤,2021)。

https://www.kanekoshobo.co.jp/book/b588463.html
【参考文献】 加藤浩平.(2021).発達障害のある子ども・若者の余暇活動支援.金子書房

何より、家庭とも学校とも違う、余暇活動という「サードプレイス」を居場所として得ることで、子どもたちは新しい自分の一面を見つけたり、心のエネルギーを蓄えたりすることができます。そして、自分の世界(趣味や興味)を少しずつ広げ、新しい仲間に出会っていくことにもつながっていきます。
余暇は「余った暇」ではなく、子どもの生涯発達の大事な「柱」の1つなのです。

余暇活動の場にどんな子たちが集まっているか?


筆者が取り組んでいる余暇活動の実践は、月に1回ほどのペースで行っています。毎回、発達障害のある(あるいはその傾向のある)子ども・若者が10名ほど集まり、ほかにボランティアのスタッフ数名が参加しています。年齢層や性別もさまざまで、小学校高学年のお子さんから上は30代の方まで参加しています。活動を始めた10数年前は10代前半の子どもたちが中心でしたが、継続して参加している方もいるため、結果として年齢層の幅が広がりました。なお、成長した参加者の青年たちの中には、スタッフとして活動の手伝い・サポートをしてくれている人もいます。

参加者はASD(自閉スペクトラム症)の診断のある子どもたちが多いですが、一方で、ADHD(注意欠如多動症)や限局性学習症(LD・SLD)、発達性協調運動症(DCD)など、さまざまな発達障害(神経発達症)のある子も参加しています。また、診断がなくても、発達特性が背景にあり特別な支援ニーズを持つ子も一定数います。
共通しているのは、コミュニケーションや集団活動に苦手意識を感じている子ども・若者が多く、不登校の経験がある方も少なくありません。

活動の場は、前述した「サードプレイス」としての原則を大切にしています(「サードプレイス」の原則の詳細については、また別の形でご紹介したいと思います)。家や学校のように役割や評価が先に立つのではなく、まずは「その子がその子らしく居てよい場所」として成り立つことを目指しています。

余暇活動で大事にしている2つのポイント


余暇活動を実施するうえでのルールもありますが、押しつけがましくならないように、できるだけ柔軟に運用しています。というのも、最初は不安だったり、警戒したりしている参加者の子が少なくないからです。筆者の運営する「サードプレイス」はNPOなどではなく、筆者の研究活動がきっかけで生まれた場のため、私の研究や実践を知った大人(教師や支援者、保護者の人たち)に連れてこられたお子さんが多いです。その場合、本人にとっては「いきなり知らない場所に連れてこられた」感覚が強いこともあります。だからこそ、まず大切にしているのは、安心して過ごせる環境づくりです。


具体的には、2つのポイントを重視しています。1つは「正しいコミュニケーション」よりも「楽しいコミュニケーション」を大事にする、ということです。いわゆる社会的多数派(ソーシャルマジョリティ)の社会に適応するための社交的なふるまいを求めません。とっさに言葉が出なくて時間がかかってもいい。長い沈黙があってもいい。言い直してもいい。たどたどしくてもいい。コミュニケーションには正解も間違いもありません。
自分の考えや思いを表現して相手に聞いてもらえる手応えと安心を感じること、それがコミュニケーションの出発点です。

そして、もう1つのポイントは、「その子の『好き』を決して否定しない」、もっと言えば、子どもに限らずその場にいるすべての人の「好き」が決して否定されない環境を保障することです。好きな作品やキャラクター、ゲームや鉄道、海洋生物などなど……。「好き」は言語の巧拙を超えて共有されやすく、他者との関係を結び直す入口になります。その「好き」の良し悪しは評価せず、「好き」があるという事実そのものを大切にします。「好き」はその人がその人らしく生きていくための原動力です。「好き」のエネルギーが少しずつ他者との関係をつなぎ、世界を広げていくプロセスを、余暇活動の場を通じて支えたいと考えています。

今後について


今後は、筆者が長年取り組んできた実践の1つ「TRPG」を題材にしながら、その活動の詳細や背景、子どもたちの参加の様子、活動を実施する際に工夫していること・大切にしていること、あと「起きそうなトラブル」を減らすための環境調整などについて、順を追って具体的にご紹介できればと思っています。また、TRPGだけでなく、好きな話題を言葉で共有する「趣味トーク」の実践などについても、別の機会に取り上げたいと思います。もちろんそれ以外の余暇活動の実践についても紹介しますし、「余暇」や「余暇活動」について、筆者の運営するグループの主な参加者である、「ASD(自閉スペクトラム症)」やその傾向のある子どもたちのことについてなど、活動自体の背景や根本についても触れていきたいと思っています。

家庭とも学校とも違う場、「サードプレイス」という場を発見したり創り上げたり継続したりするためには、その場をファシリテートしていくための工夫や役割分担、安全配慮などのことも気になると思います。そのあたりも含めて、このコラムが読者の皆さんを誘(いざな)う「地図」になっていければ幸いです。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

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