不登校・発達特性・親の不安…。精神科医さわ先生が見つけた親子の暮らしの守り方【精神科医さわ×発達ナビ編集長対談】
不登校で問われたのは、「学校に行くこと」だけではなく、親子の暮らしをどう守るかだった
発達ナビ牟田編集長(以下――):今日は、さわ先生のご家庭での経験を、専門家としてだけではなく、保護者としての言葉で伺えればと思っています。特に発達ナビの読者には、お子さんの行き渋りや不登校で、「自分の仕事をどうするか」「どこまで付き添うか」と悩んでいる方も多いと思います。
さわ先生:長女は小学校1年生の夏頃から「怖い」と言って行き渋るようになりました。私はシングルで働きながら育てていたので、隣県に住む両親に来てもらい、付き添い登校を手伝ってもらったこともありました。
一番つらかったのは、両親から「子どもが学校に行けていないのに、仕事している場合なのか」「仕事を辞めてでも学校に付き添っていくべきだ」と言われたことです。
もちろん、それは両親なりの愛情でもあったと思います。でも当時の私は、「自分が駄目な母親なのかな」「シングルマザーだから不登校になったのかな」「仕事を辞めるべきなのかな」と、本当に苦しかったです。
――保護者にも仕事があり、生活があり、人生がある。
仕事を辞めれば子どもが学校に行ける、という単純な話ではないですよね。
さわ先生:そうなんです。私の中では「仕事を辞める」という決断にはなりませんでした。1か月休んで付き添えば、3か月付き添えば、半年付き添えば、必ず学校に行けるようになるという保証があるわけではない。
もちろん、何が正解かは分かりません。でも私にとって、仕事をして患者さんと向き合うことも大切なライフワークでした。だから仕事は辞めず、休みの日に付き添ったり、両親に頼ったりしながら続けました。
そんな中、ある保護者向けのオンラインコミュニティで「留守番力をつけるといいよ」と教えてもらいました。
インターホンには出ない、火は使わない、何かあったらキッズケータイで連絡する。そういうルールを少しずつ決めながら、1人で家にいられる時間を伸ばしていきました。
――「登校する力」ではなく、「安心して家で過ごす力」を育てる、ということですね。
さわ先生:加えてその頃、勤務医を辞めて開業しました。娘が学校に行けないなら、学校に行くことだけをゴールにするのではなく、学校に行かなくても私も娘も安心して過ごせる形をつくりたかったんです。娘が不登校でなければ、あのタイミングで開業することはなかったと思います。
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「この子には本当に苦しい」――甘やかしにも見える支援を、家族にどう伝えるか
――長女さんは、幼い頃から強い癇癪や感覚の敏感さがあったそうですね。
さわ先生:長女が1歳頃のことです。
今振り返ると癇癪だったのだと思うのですが、本当にところ構わず泣き叫ぶことがありました。床にふんぞり返って泣いたり、オムツの肌触りが合わないと履けなかったり、音や匂い、光にも敏感だったり。
私も精神科医ではあるのですが、娘の特性が分かった当時は成人の患者さんを診ていましたし、初めての子育てだったので、何が普通で、どこからがそうではないのか、正直分からなかったんです。夜な夜な「1歳発達障害」「てんかん」などと検索していました。
――長女さんの幼い頃の様子を伺うと、感覚の敏感さや強い癇癪が、日々の暮らしの中でかなり大きな負担になっていたことが伝わってきます。発達ナビの読者にも、「これはわがままなのか、特性として受け止めたほうがいいのか」と悩む方は多いと思います。ご家庭の中では、そのあたりをどのように理解していったのでしょうか。
さわ先生:そうですね。
たとえば魚の匂いが苦手だったので、当時は家で魚を焼かないようにしました。雨に濡れるのもすごく嫌がったので、少しの雨でも傘を差す、抱っこするなどしていました。
私自身は「ちょっとくらい濡れても走ればいい」と思うタイプです。でも、私にとっての「我慢」と、娘にとっての「我慢」は、程度が違うのだと思いました。脳の特性として、本人にはすごく苦しいことがある。
父からは「もう少し我慢を覚えさせるべきでは」と言われたこともありました。でも私は、「甘やかしているように見えるかもしれないけれど、この子には本当に苦しいのだと思う。私はこうするから、合わせてほしい」と一つひとつ伝えていきました。
――子どもの困りごとを、本人の代わりに周囲の大人へ説明する。これは保護者にとっても、大きな負担だと思います。
さわ先生:子どもの困りごとは、外から見ると「わがまま」「甘え」に見えることがあります。でも、本人の中で起きているしんどさは、外からは見えにくい。そこを想像することは、家庭でできる大事な支援の一つだと思います。
――癇癪が起きたときは、どう対応していましたか。
さわ先生:スイッチが入ってしまったときは、もう何をしても難しいことが多かったです。車の中で鼓膜が破れるのではと思うほどの音量で泣き叫ぶこともありました。
だから、スイッチが入らないようにすることを意識していました。入ってしまったら、嵐が過ぎ去るのを待つ。そっと見守る。小学校3年生ぐらいになると、自分で寝室に行ってひとしきり泣いて、30分後にケロッと出てくることもありました。
長女の場合、無理に学校へ行かせなくなってから、癇癪の頻度はかなり減ったように思います。
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診断名だけでは分からない、姉妹のでこぼこ。支援される側・する側は固定されない
――お子さんたちと過ごす中で、「これは強みだな」と感じるところはありますか。
さわ先生:長女は「留守番力の天才」だと思っています。人と関わるのが得意ではないし、好きでもない。
でもその代わり、1人でご機嫌に過ごす力は家族の誰よりもあるんです。私が「構ってよ」と言うと、「私は今これをやってるんだから、ママも1人で仕事しなよ。原稿書きなさいよ」と言われることもあります(笑)。
――ASD(自閉スペクトラム症)、不登校、人と関わるのが得意ではない……と聞くと、どうしても“困りごと”として見てしまいがちです。でも、「1人でご機嫌に過ごせる」という見方をすると、それは生活力でもあり、自立の力でもありますね。
さわ先生:次女はADHD(注意欠如多動症)とLD・SLD(限局性学習症)があり、学習面では苦手さがあります。でも、とにかく明るくて元気です。長女がなかなか外に出たがらないときも、「お姉ちゃん、一緒にコンビニ行くよ」「薬局行くよ」と連れ出してくれます。
買い物では、計算が苦手な次女の代わりに、計算が得意な長女が担当する。お互いのでこぼこを補い合いながら、2人で協力している姿を見ると、本当に愛おしいです。
――すごくいいですね。実際の生活では、ある場面では助けられ、別の場面では助ける側にもなる。姉妹の関係の中でもそれが自然にできているところが素敵です。
「それは子どもの課題?それとも親の不安?」親も、自分の人生を生きていい
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――子育てを通して、ご自身の価値観が変わったことはありますか。
さわ先生:大きく変わりました。私は勉強も学校も好きで、「学校は行くもの」「勉強はするもの」と思って育ちました。教育熱心な家庭で、頑張らないと認められないという感覚もありました。
でも娘たちは、「そんなに頑張らなくてもいいじゃん」「もっと自分で生きようよ」と教えてくれた気がします。
あるとき、子どもがむせたので私が思わず「お茶飲みな」と言ったら、「お茶を飲むタイミングは自分で決めるわ」と言われたんです。確かにそうだなと思いました。お茶を飲むタイミングくらい、自分で決めますよね。
――親は心配だから先回りしてしまいますよね。私も、進路や学校のことになると「今、何かしておかないと後で困るのでは」と不安になることがあります。でも、その不安が本当に子どもの困りごとなのか、自分自身の不安なのかは、立ち止まらないと分からない。
さわ先生:親としては、自分が知っているレールに子どもを乗せると安心します。でも、その安心は本当に子どものためなのか。それとも、親である自分の不安を静めたいだけなのか。
子どものことで不安になったとき、「これは親の不安なのか、子どもの課題なのか」を分けて考えることが、とても大事だと感じています。
児童精神科医としても、診察室でみているのはそこです。診断をすることも大切ですが、親御さんや先生など、周りの大人の不安がどこにあり、子ども自身の課題がどこにあるのかを客観的にみること。それが大切な役割だと思っています。
――最後に、発達ナビ読者の保護者の方へメッセージをお願いします。
さわ先生:子どもの発達特性や不登校は、私自身も想像していなかった人生でした。みんなと同じようにできなくて、「なんでうちの子だけ」と泣いた夜もあります。
でも今思うと、娘たちに出会えたからこそ、自分になかった価値観を知り、主体的に生きる大切さを教えてもらいました。
つらいことがあったら、1人で抱え込まないでほしい。1人に相談して分かってもらえなかったとしても、諦めずに、いろいろな人に相談してほしい。そして、お母さん自身がリラックスする時間、自分のやりたいことをやる時間も持ってほしいです。
親が自分の人生を楽しんでいる姿を見せることは、子どもにとって「あなたも、あなたの生きたい人生を生きていいんだよ」というメッセージになると思います。
――子どものために親が我慢し続けるのではなく、親自身も自分の人生を生きていい。その姿を見せることも、子どもへの大事なメッセージになるんですね。本日はありがとうございました。
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2026/7/7発売予定
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。