グレーゾーン特有の困りごとと、就学後によくある落とし穴。必要な支援とは?【橋本 創一先生(東京学芸大学)講演レポート】

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1クラスに3〜4人?見過ごされがちな「支援のニーズ」


現在、学校現場において特別支援教育の対象となる子どもは年々増加しており、全体の約7.3%にのぼります。さらに、2022年の文部科学省の調査では、通常の学級に在籍する「発達障害などの疑いがある子ども」が8.8%いることが分かっています。これらを合わせると、1クラス(約30人)の中に、個別支援を必要とする子どもが平均して3〜4人はいる計算になります。しかし、担任の先生が1人で全員に個別対応をするのは非常に困難なのが現状です。その中で、特に支援から「こぼれ落ちてしまいがち」なのが、境界知能(IQ70〜84・85程度)の子どもたちです。

知能検査(WISCなど)の統計上、境界知能に該当する人は約14%いるとされています(※日本の環境においてはさらに多い可能性も指摘されています)。しかし、学校現場では「通級指導」を受けるためのIQ基準(85や90以上)を満たせず、かつ知的障害の基準(70未満)にも該当しないため、十分な支援対象に入れないケースが多発しています。

「ある時は黒、ある時は白」オセロのようなグレーゾーン


境界知能の子どもたちの特徴を理解する上で非常に分かりやすいのが、筑波大学 名誉教授の宮本 信也先生による「オセロのように、ある時は黒、ある時は白」という表現です。


境界知能の子どもたちは、「すべてができない」わけではありません。例えば、「数と計算」や、簡単な漢字の読みはできるが、 「書く」こと、割合や比例などの「数量関係(応用)」、起承転結のある作文などができないなどです。

「これはできるのに、あれはできない」というむらがあるため、学校の先生も親御さんも「もう少し頑張ればできるはず」「この学年の教科書についていけている」と誤解してしまいがちです。しかし、実際には抽象的な概念の理解やワーキングメモリ(情報を一時的に記憶して処理する能力)、手先の器用さなどに弱さを抱えており、見えないところで大きくつまずいていることが多いといいます。

発達障害(ASD/ADHD)の併発と「支援ニーズ」の違い


境界知能の診断や支援において重要なのは、「他の障害(ASDやADHD)を併発しているかどうか」で、子どもが抱える一番の困りごと(主訴)が変わるという点です。
    ●境界知能のみ(または軽度知的障害のみ)の場合: 時間の管理、理解力の低さ、作文の苦手さなど、「学習面」での困りごとが中心になります。

    ●ASDやADHDを併発している場合: 興味の偏り、癇癪(かんしゃく)、感覚過敏、切り替えの悪さなど、「行動・情緒面や対人関係」での困りごとが前面に出やすくなります。

「勉強についていけない」のか、「集団行動や気持ちのコントロールでつまずいている」のか。
子どもが持っている特性を丁寧に吟味し、支援の的を絞ることが大切です。

幼児期の「療育」によるIQ上昇と、就学後の落とし穴


幼児期(2〜3歳)に境界知能の疑いがあり、療育(児童発達支援など)を受けた子どもたちは、就学前(5歳頃)にIQが上昇する傾向があります。手厚いサポートを受けることで、知能の伸びが促されるためです。

しかし、ここに一つの落とし穴があります。数値が上がったことで、親御さんが「治った!」と安心してしまい、そのまま通常の学級へ進学。その後、学習内容が高度になる小学校高学年などで再びつまずき、結果的にIQが下がる(または周囲との差が広がる)ケースが多いのです。

決して「サボっている」わけではない。自己肯定感を守るために


境界知能の子どもたちは、学習や運動、集団参加において「全くできないわけではない」からこそ、「人一倍努力しないと周囲に追いつけない」という過酷な状況に置かれています。
学校での一斉指導だけで全てをカバーするのは限界があります。
習熟度別学習や少人数指導のように、「先生と1対1で向き合い、どこでつまずいているのかを把握してもらえる環境」が非常に有効です。

親御さんや支援者が最も気をつけなければならないのは、「やらせすぎ」による二次障害を防ぐことです。幼児期や小学生の段階から、「自分はダメなんだ」と自己肯定感を下げてしまわないよう、その子なりのペースを認め、学校外の機関(塾や医療、放課後等デイサービスなど)とも連携しながら、長期的な視点で寄り添っていくことが求められています。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。


知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。
今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

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