【W杯出場国】ノルウェーって、どんな国?「バイキング・ロー」に学ぶ ― みんなで動きをそろえると心が育つ
太鼓のビートに合わせて、選手もサポーターも、みんなで船を漕ぐように腕を引く。最初はゆっくり、だんだん速くなるリズムに乗って、スタジアム全体が「Ro(ロー)!」と声をそろえる。ワールドカップで世界を沸かせている、ノルウェー代表の応援「バイキング・ロー」です。あの一体感に、思わず見入ってしまった方も多いのではないでしょうか。
じつはあの「みんなで動きをそろえる」という体験、子どもの育ちという視点から見ると、とても興味深い意味を持っています。人と動きやリズムをそろえることが、幼い子どもの協調性や思いやりの芽を育てる。そんな研究が、いくつも報告されているのです。
今回は、ワールドカップの熱狂を入り口に、「動きをそろえる」ことが子どもの心に何をもたらすのかを、一緒に見ていきます。
家庭ですぐに試せるヒントもお届けします。
「バイキング・ロー」って、そもそも何だろう
バイキング・ローは、ノルウェー代表のサポーターが生み出した応援スタイルです。地面に座り、太鼓の音に合わせて、全員が船のオールを漕ぐように腕を前後に動かしながら「Ro!」と声を出します。Ro はノルウェー語で「漕げ」という意味の言葉。かつて海を渡ったバイキングたちが、一隻の船をみんなで漕いで前へ進めた。そのイメージが下敷きになっています。
おもしろいのは、これが古代の儀式をそのまま再現したものではなく、現代のサッカー応援として新しくつくられた演出だということ。太鼓のビートは、全員の漕ぐ動きをそろえるための合図です。
最初はゆっくり、少しずつ速くなるリズムに乗ることで、選手とサポーターが「同じ船に乗って、一緒に戦っている」という一体感が生まれます。
ワールドカップでノルウェーが強豪を破って勝ち進むにつれ、この応援は世界中で話題になりました。ピッチの上の選手も、スタンドのファンも、全員が同じリズムで体を動かす。その光景が、多くの人の心をつかんだのです。
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「動きをそろえる」と、子どもは仲よくなる
さて、ここからが子育ての話です。「みんなで動きをそろえる」という体験には、じつは人と人とを近づける不思議な力があることが、発達心理学の研究でわかってきています。
この研究では音楽をあえて使わず、「動きをそろえる」ことそのものの効果を調べています。つまり、歌やメロディーがなくても、ただ動きのタイミングがそろうだけで、子どもたちは相手と協力しやすくなる、ということがしめされました。(ワシントン大学、Tal-Chen Rabinowitch氏とAndrew Meltzoff氏)*1
考えてみれば、これはバイキング・ローで起きていることと、そっくりです。太鼓のリズムに合わせて全員が腕を引く。動きがそろった瞬間、見ず知らずの人どうしでも「私たちは仲間だ」という感覚が立ち上がってくる。あのスタジアムの一体感の正体は、こうした人間のふるまいの根っこにあるものなのかもしれません。
つい思いがち…「動きをそろえる」目線で言いかえると上手にできないと意味がないそろわず笑い合う時間も、立派なふれあい特別な知育をさせなきゃ手をたたく、一緒に歌う。それで充分一度やっても変わらない毎日、少しずつの積み重ねが根を張る
じつは、親子のあいだでも似たことが起きています。
目と目が合った瞬間に、赤ちゃんと大人の脳波がそろいはじめる。そんな研究もあるのです。
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一緒に歌って踊ると、「助け合い」が増える
動きだけでなく、「一緒に音楽をつくる」という体験にも、似た力があります。
ここで大事なのは、比べる相手のグループも、同じおもちゃで、同じ目標に向かって、同じように一緒に遊んでいたということ。違いは「歌や踊りや楽器があったかどうか」だけでした。それでも、音楽をともにした子どもたちのほうが、思いやりのある行動を多く示した。
歌や踊りには、子どもの心を「相手のほうへ」向ける働きがあるようです。
このように、昔から歌い継がれてきたのは、こうした理由もあったのかもしれません。
ポイント | 上手にできることより、「一緒にやっている」という感覚そのものが宝物。ずれても笑い合えたら、それでもう大成功です。
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続けるほど、思いやりは育っていく
さらに、こうした効果は一度きりで終わるものではありません。長く続けることで、じっくりと積み上がっていくことも報告されています。
しかも、その伸びは音楽の場面の中だけにとどまらず、日常のなかでも発揮されるものでした。(ケンブリッジ大学、Tal-Chen Rabinowitch氏ら)*3
この研究の著者は、思いやりの力は生まれつき決まっているのではなく、働きかけによって伸ばせるものだと語っています。そして、そのための方法が「とても楽しくて心地よいもの」であることも、うれしいポイントです。
とはいえ、遊んだからといって、すぐに劇的に変わるわけではありません。でも、親子で一緒にリズムをそろえる遊びを、日々のなかでちょっとずつ重ねていく。その積み重ねが、お子さんのなかにゆっくりと根を張っていきます。
おうちでできる、「動きをそろえる」遊び
むずかしく考える必要はありません。特別な道具も、広い場所もいりません。
今日から家庭で試せるヒントをいくつかご紹介します。
1
手をたたいてリズムをまねっこ親御さんが「タン・タン・タタタン」と手をたたき、お子さんに同じリズムで返してもらう。慣れてきたら、だんだん速くしたり、お子さんに出題してもらったり。バイキング・ローと同じで、「そろった!」という瞬間が、いちばんの楽しさです。2
一緒に歌って、体を動かす「アルプス一万尺」のように、向かい合って手を合わせる遊びは、リズムに乗って同じ動作をするうちに、自然と相手とのタイミングがそろっていきます。うまくいかなくて笑ってしまう時間も、ぜんぶがあそびの一部です。3
バイキング・ローごっこ親子で並んで座り、「Ro! Ro!」と声を出しながら、一緒に船を漕ぐまねをしてみる。応援している選手になりきって、だんだん速くしていくと、盛り上がります。ワールドカップを見ながら、そのまま親子でやってみるのも楽しいですね。
大切なのは、上手にやることではなく、「一緒に、タイミングをそろえる」その感覚を親子で味わうこと。ほんの数分でも、その時間はお子さんのなかに、確かに残っていきます。
ワールドカップのスタジアムで、何万人もの人が一つのリズムで体を動かし、心をひとつにする。あの光景がこれほど胸を打つのは、「人とタイミングをそろえること」が、私たちの心の深いところにある喜びだからなのかもしれません。
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その同じ喜びは、おうちのリビングにも、きちんとあります。お子さんと手をたたき合う、一緒に歌う、並んで船を漕ぐまねをする。そんなささやかな時間が、お子さんの「人とつながる力」を、そっと育てていきます。試合を見終わったら、ぜひ親子で「Ro!」と声をそろえて、漕いでみてください。
FAQ(よくある質問)
Q. うちの子はリズムに合わせるのがまだ苦手です。無理にやらせなくても大丈夫でしょうか?
A. まったく問題ありません。タイミングがそろうかどうかより、「一緒にやっている」こと自体に意味があります。ずれてしまって笑い合う時間も、立派なふれあいです。年齢とともに少しずつそろうようになっていくので、今できる範囲で楽しむことを大切にしてください。
Q. 何歳ごろから、こうしたあそびの効果が期待できますか?
A. 研究では4歳ごろの子どもでも、動きをそろえる体験のあとに協力的な行動が増えることがしめされています。もっと小さなお子さんでも、一緒にリズムを取ったり体を揺らしたりするふれあいは、親子の心地よいつながりの時間になります。厳密な「効果」を気にしすぎず、ふれあいそのものを楽しんでください。
Q. 音楽やあそびで、本当に思いやりのある子に育つのでしょうか?
A. もちろん、あそびだけですべてが決まるわけではありません。ただ、一緒にリズムをそろえる体験を続けた子どもたちの共感する力が伸びた、という研究報告はあります。日々のふれあいの一つとして取り入れることで、お子さんが人とつながる心地よさを知るきっかけになります。ほかの関わりと合わせて、気楽に続けてみてください。
(参考)
*1 Rabinowitch, T.-C., & Meltzoff, A. N. (2017)|Synchronized movement experience enhances peer cooperation in preschool children. Journal of Experimental Child Psychology, 160, 21-32.
*2 Kirschner, S., & Tomasello, M. (2010)|Joint music making promotes prosocial behavior in 4-year-old children. Evolution and Human Behavior, 31(5), 354-364.
*3 Rabinowitch, T.-C., Cross, I., & Burnard, P. (2013)|Long-term musical group interaction has a positive influence on empathy in children. Psychology of Music, 41(4), 484-498.
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