「甲子園ってなに?」は夏だけの魔法の質問。子どもの「はじめての言葉」に親ができるたったひとつのこと
夕方のニュースに、大きな文字が映ります。「甲子園、開幕迫る」。すると隣でアイスを食べていた子どもが、ふと顔を上げて聞いてきました。
「ねえ、こうしえんって、なに?」
高校野球の全国大会だよ、と答えたところで、ふと気づきます。あれ、なんで「甲子園」っていう名前なんだろう。いつから夏にやっているんだっけ。毎年当たり前に見てきたのに、聞かれてみると、意外と知らない。
でもこれ、じつはちょっと面白い瞬間です。
子どもの「なに?」をきっかけに、大人の側にも小さな「なんでだろう?」が生まれる。「一緒に調べてみようか」と言いたくなる。そんな入口が、夏の暮らしにはたくさん転がっています。
今日は、そんな子どもの質問とのちょうどいい付き合い方のお話です。じつは、子どもの質問に完璧に答える必要は、まったくないのです。
夏は、子どもが「はじめての言葉」に出会う季節
甲子園、お盆、迎え火、入道雲、土用の丑の日、帰省ラッシュ。
夏の暮らしのなかには、子どもが初めて出会う言葉があふれています。テレビから、おばあちゃんの家の会話から、スーパーの張り紙から。
幼稚園や学校では習わない言葉が、生活のあちこちから飛びこんでくる。それが夏という季節です。
だから、夏の子どもは質問が増えます。大人にとっては当たり前すぎて、あらためて説明したことのない言葉ばかり。「うなぎを食べる日ってなに?」と真顔で聞かれて、「え、なんでだったかな」と親のほうが考えこむ。そんな場面が、夏には何度もやってきます。
発達心理学の研究によると、子どもは興味をもって活動しているとき、平均して1分間に1回以上のペースで質問をすることがわかっています。しかもその質問の約7割は、甘えやかまってほしさではなく、純粋に「知りたい」という情報を求めるものだったのです。
(カリフォルニア大学マーセド校、心理学者ミシェル・シュイナード氏)*1
質問ラッシュは、困った行動ではありません。子どもの頭のなかで、言葉と世界がつながろうとしている音なのです。
思い出してみてください。去年は素通りしていた言葉に、今年は「なに?」と食いついてくる。それは、この1年でお子さんの世界がぐんと広がった証拠でもあります。
「正確に答えること」より、大切なこと
とはいえ、「せっかく聞いてくれたんだから、わかりやすく説明してあげたい」と思いますよね。その気持ちはとても自然なものです。ただ、頭ではわかっていることを子ども向けに翻訳するのは、意外と難しい。
そこで役に立つ研究があります。
2 〜 5歳の子どもが「なんで?」と聞いたあとの反応を調べたところ、子どもたちは、理由や説明が返ってきたときには納得してうなずいたり、さらに質問を重ねたりした一方、説明にならない返事(「そういうものなの」など)が返ってきたときには、同じ質問を繰り返したり、自分なりの説明を考え始めたりしたのです。(ミシガン大学、発達心理学者スーザン・ゲルマン教授ら)*2
注目したいのは、子どもが求めている「説明」のハードルの低さです。「高校生のお兄さんたちが、野球で日本一を決める場所なんだよ」。これだけで、子どもにとっては立派な説明です。甲子園の歴史も、地方大会の仕組みも、タイブレークのルールも要りません。大人が「わかりやすく」と悩んで盛りこもうとする情報のほとんどは、じつは要らないのです。
そして、名前の由来のように親も知らないことなら、なおさらチャンスです。
「なんでだろうね、一緒に調べてみようか」。この返事は、手抜きではありません。「わからないことは調べればいい」という、学び方そのもののお手本になります。
子どもの質問の約7割は「知りたい」という純粋な情報探索。そして自分の疑問から得た答えは、深く記憶に残りやすいことも示されています。子どもの「なに?」は、学びの入口がひらいた合図です。
文脈のなかで出会った言葉は、忘れない
もうひとつ、夏ならではのよさがあります。
「甲子園」という言葉を、国語ドリルで覚えたらどうでしょう。
おそらく、すぐに忘れてしまいます。でも、真夏のリビングで、アイスを食べながら、テレビの歓声と一緒に出会った「甲子園」は違います。ブラスバンドの音、白いユニフォーム、ママとの会話。そうした体験ごと、言葉が記憶に刻まれるからです。
考えてみれば、私たち大人が「甲子園」を説明抜きでわかっているのも、同じ理由です。誰かに定義を教わったからではなく、夏のたびに、あの音と映像と空気に触れてきたから。言葉は、意味を教わるだけでは育ちません。「いつ、どこで、誰と、どんな気持ちで出会ったか」という文脈と結びついたとき、初めて子どものものになります。
しかもこの学び方には、教材費も送り迎えも要りません。必要なのは、いつものリビングと、いつもの会話だけ。テレビの前のソファが、そのまま教室になります。
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今日からできる、たったひとつのこと
では、具体的に何をすればいいのか。ご提案したいのは、たったひとつです。
最後に、質問が来たときのご提案を、たったひとつだけ。
説明を始める前に「いい質問だね。どんなのだと思う?」とひとこと返してみてください。たとえば、こんな具合です。
こども「こうしえんってなに?」ママ「いい質問だね。どんな場所だと思う?」こども「うーん……おっきい公園?」ママ「近いかも! 野球場なんだって」
こんな、なんてことのないやりとりで充分です。これだけで、一問一答だった会話が、往復のあるキャッチボールに変わります。子どもは自分の予想を言葉にし、答え合わせをし、また次の質問を思いつく。この往復こそが、言葉と考える力を育てる土壌になります。
質問することは、それ自体が子どもにとって強力な学びの方法であり、知識の隙間を自分から埋めにいく力の表れだとされています。(ボストン大学、発達心理学者サミュエル・ロンファード氏ら)*3
予想が外れていても、まったく問題ありません。「おっきい公園」と「野球場」の距離を自分で埋めた経験が、その子の財産になるのですから。
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まもなく甲子園が開幕します。リビングに流れる中継の前で、お子さんはきっと、たくさんの「はじめての言葉」に出会うでしょう。甲子園、サヨナラ、アルプススタンド、延長タイブレーク。そのひとつひとつが、魔法の質問の種です。知らないことに出会ったら、親子で一緒に不思議がればいい。この夏、親子の言葉のキャッチボールが、何往復も続きますように。
FAQ(よくある質問)
Q. 同じ質問を何度も繰り返されます。答えているのに、なぜですか?
A. 研究では、説明として腑に落ちる答えが得られなかったとき、子どもは同じ質問を繰り返す傾向が示されています。「そういうものなの」で流していないか、一度ふり返ってみてください。また、納得していても「もう一度あの会話がしたい」という理由で繰り返す場合もあります。
Q. 「どんなのだと思う?」と返すと、「わかんない!教えて!」と怒られます。
A. 無理に考えさせる必要はありません。子どもが答えを急いでいるときは、素直に教えてあげてください。そのあとに「〇〇だと思った?」と軽く聞くだけでも、会話の往復は生まれます。逆質問は「余裕のあるときだけ使う道具」くらいに考えておくと、親子ともに楽です。
Q. 質問が連鎖して「なんで?」が止まらなくなります。途中で切り上げてもいいですか?
A. かまいません。「続きはお風呂で考えよう」「明日おばあちゃんに聞いてみよう」と、次につなげる形で区切れば、子どもの探究心は途切れません。全部に答えきることより、「質問すると楽しいことが起こる」という体験を残すことのほうが、ずっと大切です。
(参考)
*1 Chouinard, M. M. (2007)|Children’s questions: A mechanism for cognitive development. Monographs of the Society for Research in Child Development, 72(1), 1-112.
*2 Frazier, B. N., Gelman, S. A., & Wellman, H. M. (2009)|Preschoolers’ Search for Explanatory Information Within Adult-Child Conversation. Child Development, 80(6), 1592-1611.
*3 Ronfard, S., Zambrana, I. M., Hermansen, T. K., & Kelemen, D. (2018)|Question-asking in childhood: A review of the literature and a framework for understanding its development. Developmental Review, 49, 101-120.
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