上手な子には物足りず、苦手な子はついてこられないジレンマ、「みんな一緒」と「個別対応」のバランスを取る練習メニューはある?
学年が進むにつれ技術や理解力の差が大きくなってきて、同じメニュー設定だと上手い子には物足りず、そうでない子はついていけないというジレンマ。
全員でやる練習と、個別にチャレンジを促すような調整を入れたいが、どんなバランスでやるのがいい?と悩むお父さんコーチ。少年団やセレクションのないチームなど、同じ悩みを持つ指導者もいるのでは。
ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、具体的な練習の設定など3つのアドバイスを送ります。
(構成・文島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
<お父さんコーチからの質問>
はじめまして。担当しているのは U-11 です。
この学年になると、技術・体格・理解力の差がだんだん大きくなってきて、「いつも同じ練習設定・声かけ」だと、上手な子には物足りず、苦手な子にはついていけず、というジレンマを感じています。
そこでお伺いしたいのですが、「みんな一緒にやる練習」と「個別対応・差別化」のバランスをどのように取るべきでしょうか?
具体的には、練習中に「この子には少し簡単な変化を入れる」「あの子にはチャレンジ要素を足す」といった調整を入れたいと思うのですが、どのタイミングでどう判断すればいいか、教えていただけませんでしょうか。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
指導されている子どもたちは10歳以下なので小学4年生くらいでしょう。その年代であれば、一対一でどんどんチャレンジさせて、抜かれ続けていいと私は思います。
1つめ。私がよくやる方法でいうと、ゲームの時に「うまい子」と「まだ技術がおぼつかない子」を混ぜてうまく組ませましょう。
例えば、うまい子たちの中に、おぼつかない子たちを少しだけ入れます。各チーム均等の力に分けるのは難しいでしょうから、少々偏ってもいいです。
そのようにすると、混合チームのときは、仲間をどう使うかということを考えないといけなくなります。声かけも増えるでしょう。
そうやって他者に教えるほど、自分自身も上手くなります。これに対し、技術がまだおぼつかない子どもたちも、うまい子たちから「そこシュートできるよ」とか「フリーだよ」などと声かけしてもらえば、自分も何かやれることがわかってきます。
やっているうちに、攻撃の組み立てや、守備のカバーなど、さまざまなことを理解しやすくなります。
2つめ。
例えば「君たちは2タッチでプレーしてね」と言ってタッチ数を減らします。あるいは「相手をドリブルで抜かずに、パスで全部かわしてごらん」などと要求します。位置を変える、つまり移動するドリブルなどはOKですが、相手を抜くドリブルは禁止にします。
3つめ。一方で、うまい子が若干少なめなチームは、学年に関係なく「フニーニョ」をやってもらいましょう。ドイツの育成年代で導入されているフニーニョは、3対3の4ゴールゲームです。
この連載でも視野を広げるなどいくつかの狙いをもつ練習メニューとして、幾度となく紹介しています。英語のFun(楽しむ)とスペイン語の(子ども=Niño)をあわせたトレーニングの名称です。
このフニーニョ(3対3)にして、3人のうちの1人にうまい子を入れます。その子に「君は今回シュートなしね」と説明しておきます。そうすると、うまい子は他の仲間をどう使うかを考え「右に行って」「もっと上がって」「ゴール前に行って」などとポジションを言うなど、指示できるようになったりします。
それとは逆に、「君はシュートなしね」と言われて「なんでだよ!」と納得できなかったり、ひとりで攻撃したがったり、ドリブルで行こうとすることもあるでしょう。
そんなときは、呼び止めてしっかり話してあげてください。例えば、「君は今この中ではうまいけど、もっと強いチームと当たったらどうしますか?」と問いかけます。
そうすると、仲間にパスしたり、うまく使うことを覚えたほうがいいということに気づくことでしょう。相談者のチームは11歳以下なので、小学5年生が中心のようです。5年生であれば「プレーの幅を広げたほうがいいんだよ」という話を理解できるはずです。
それでもどうしても点を取りたいと言ってくるのであれば「君は連続でゴールすることはできません」と言ってください。自分が点を取ったら、次は他の人に取らせなくてはいけません。そうすれば、その子も点を取れます。
そんなふうに制限をつけながら、次のフェーズでは「君が点を取るためには、味方から来たボールを直接シュートしなくてはいけません」ダイレクトシュートの縛りを入れるなどしてもいいでしょう。
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
このように、さまざま条件を変えていくことを考えてください。個人の条件を変える。チームの条件としては、少人数制にしてバランスを取る。ルールの変化(制限)によって、うまい子とまだおぼつかない子とのバランスを取ることもできます。
このように個人によって次々と条件を変える、制限をつけることの意味を5年生なら理解してもらわなくてはいけません。このカテゴリーでそれがわからないと、その先がしんどくなります。
池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
全員でやる練習と、個別にチャレンジを促すような調整を入れたいが、どんなバランスでやるのがいい?と悩むお父さんコーチ。少年団やセレクションのないチームなど、同じ悩みを持つ指導者もいるのでは。
ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、具体的な練習の設定など3つのアドバイスを送ります。
(構成・文島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
<お父さんコーチからの質問>
はじめまして。担当しているのは U-11 です。
この学年になると、技術・体格・理解力の差がだんだん大きくなってきて、「いつも同じ練習設定・声かけ」だと、上手な子には物足りず、苦手な子にはついていけず、というジレンマを感じています。
そこでお伺いしたいのですが、「みんな一緒にやる練習」と「個別対応・差別化」のバランスをどのように取るべきでしょうか?
具体的には、練習中に「この子には少し簡単な変化を入れる」「あの子にはチャレンジ要素を足す」といった調整を入れたいと思うのですが、どのタイミングでどう判断すればいいか、教えていただけませんでしょうか。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
指導されている子どもたちは10歳以下なので小学4年生くらいでしょう。その年代であれば、一対一でどんどんチャレンジさせて、抜かれ続けていいと私は思います。
■アドバイス①ゲームの時にうまい子と技術がおぼつかない子を混ぜると双方が成長する
1つめ。私がよくやる方法でいうと、ゲームの時に「うまい子」と「まだ技術がおぼつかない子」を混ぜてうまく組ませましょう。
例えば、うまい子たちの中に、おぼつかない子たちを少しだけ入れます。各チーム均等の力に分けるのは難しいでしょうから、少々偏ってもいいです。
その組み合わせで、交代しながらメンバーを替えます。すると、うまい子たちが、まだおぼつかない子たちを使ってくれるようになります。
そのようにすると、混合チームのときは、仲間をどう使うかということを考えないといけなくなります。声かけも増えるでしょう。
そうやって他者に教えるほど、自分自身も上手くなります。これに対し、技術がまだおぼつかない子どもたちも、うまい子たちから「そこシュートできるよ」とか「フリーだよ」などと声かけしてもらえば、自分も何かやれることがわかってきます。
やっているうちに、攻撃の組み立てや、守備のカバーなど、さまざまなことを理解しやすくなります。
■アドバイス②うまい子と技術がおぼつかない子を対戦させる機会も設ける
2つめ。
次は反対にうまい子たちと、おぼつかない子たちを対戦させます。そのうえで、うまい子たちにいっぱい制限をかけます。
例えば「君たちは2タッチでプレーしてね」と言ってタッチ数を減らします。あるいは「相手をドリブルで抜かずに、パスで全部かわしてごらん」などと要求します。位置を変える、つまり移動するドリブルなどはOKですが、相手を抜くドリブルは禁止にします。
■アドバイス③うまい子が少なめな時は3対3の4ゴールゲーム「フニーニョ」がおすすめ
3つめ。一方で、うまい子が若干少なめなチームは、学年に関係なく「フニーニョ」をやってもらいましょう。ドイツの育成年代で導入されているフニーニョは、3対3の4ゴールゲームです。
この連載でも視野を広げるなどいくつかの狙いをもつ練習メニューとして、幾度となく紹介しています。英語のFun(楽しむ)とスペイン語の(子ども=Niño)をあわせたトレーニングの名称です。
このフニーニョ(3対3)にして、3人のうちの1人にうまい子を入れます。その子に「君は今回シュートなしね」と説明しておきます。そうすると、うまい子は他の仲間をどう使うかを考え「右に行って」「もっと上がって」「ゴール前に行って」などとポジションを言うなど、指示できるようになったりします。
それとは逆に、「君はシュートなしね」と言われて「なんでだよ!」と納得できなかったり、ひとりで攻撃したがったり、ドリブルで行こうとすることもあるでしょう。
そんなときは、呼び止めてしっかり話してあげてください。例えば、「君は今この中ではうまいけど、もっと強いチームと当たったらどうしますか?」と問いかけます。
そうなっても「1人で全部何でもできますか?」と聞きます。
そうすると、仲間にパスしたり、うまく使うことを覚えたほうがいいということに気づくことでしょう。相談者のチームは11歳以下なので、小学5年生が中心のようです。5年生であれば「プレーの幅を広げたほうがいいんだよ」という話を理解できるはずです。
それでもどうしても点を取りたいと言ってくるのであれば「君は連続でゴールすることはできません」と言ってください。自分が点を取ったら、次は他の人に取らせなくてはいけません。そうすれば、その子も点を取れます。
そんなふうに制限をつけながら、次のフェーズでは「君が点を取るためには、味方から来たボールを直接シュートしなくてはいけません」ダイレクトシュートの縛りを入れるなどしてもいいでしょう。
そうすると、ダイレクト以外はノーゴールになるわけです。
■個人やチームの条件を変えることでバランスをとってみて
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
このように、さまざま条件を変えていくことを考えてください。個人の条件を変える。チームの条件としては、少人数制にしてバランスを取る。ルールの変化(制限)によって、うまい子とまだおぼつかない子とのバランスを取ることもできます。
このように個人によって次々と条件を変える、制限をつけることの意味を5年生なら理解してもらわなくてはいけません。このカテゴリーでそれがわからないと、その先がしんどくなります。
そこを指導者側もぜひ肝に銘じてください。
池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。