「花まるエレメンタリースクール」校長で、ファッションブランド「ノットイコール」代表、農業×ビジネス教室「みんなビレッジ」主宰。
近年は、「(地元の)学校に通うことだけが選択肢ではない」といった視点が主流になりつつあると話すのは、花まるエレメンタリースクールの校長“はやとかげ”こと、林隼人先生。子どもが学校に行かなくなった時に親がどうすればいいのかお話を伺います。 ■子どもが学校に行かないのは母親のせい? 楢戸 :子どもが「学校に行きたくない」と言いはじめたとき、ママは「私の育て方が悪かったからではないか」とか「辛い気持ちに気がついてあげられなかった私が悪い」と、 自分を責めてしまうことも多い と思います。 はやとかげ :そんなことは、全然思わなくていいですね。まったく‼ こう僕が声を大にして伝えたいのは、 「学校に行けない子どもに遠慮している親御さん」 に数多く出会ってきたからなんです。 「学校に行きたくない」と言われれば、誰もが不安になるでしょう。でも「学校に行けない」という問題はあるかもしれないけれど、 卑屈になる必要はまったくありません 。「そうか、学校に行きたくないんだね」と、落ち着いて 事実を受け止めて欲しい と思います。 不登校の根底の原因 は、多くの場合は 人間関係 です。人間関係での傷は、 人間関係でしか癒やせない んです。だから、 お母さんひとりだけで抱え込んでどうにかなる話ではない ということは、心しておいて欲しいと思います。 楢戸 :では、親は何もできないのでしょうか? はやとかげ :何かできるとすれば、 お母さんの失敗談や辛かったとき のことを話すのがいいと思います。たとえば、「お母さん、小学校のときにグループのなかで仲間外れにされたことがあってね。そのことを高校生のときまで誰にも言えなかったんだ」。こんな話をしてあげられたら、子どもは安心して、もしかしたら本音が出てくるかもしれません。 ■不登校の理由に嘘をつく子ども はやとかげ :一方で、もうひとつお伝えしたいことがあります。それは、 子どもの言うことをすべて真に受けない ということです。 楢戸 :子どもが言うことを真に受けてしまうのは、良くないのでしょうか? はやとかげ :時には クリティカルシンキング(批判的思考) も必要だという話です。 たとえば、不登校の「表向き」の理由で多いのは、「うるさい音が苦手」や「先生と合わない」といったことです。音に対しての感覚過敏や先生という理由は、 子どもにとって言いやすい んです。「何と言えば大人が納得するのか」ということを、子どもは真剣に考えています。 僕らは子どもたちと接するときに多大なリスペクトを持っていますが、 「子どもは嘘をつく」という大前提 も忘れてはいません。だから、「これは、嘘だな」とわかるんです。 楢戸 :子どもは嘘をつく!? はやとかげ :僕も「元・子ども」なので、よくわかります。子どもの頃は、その場逃れの大嘘をよくついていました。僕の周囲にいた友だちだってそうです。そして、(嘘をついていることを) 気づいてもらえると、じつはホッとしたり もしていました。 だから僕らは子どもと接するときに、本当にド直球で「それ、違うだろ」と真実を突いて、 彼ら・彼女らを解放してあげる こともあるんです。 これは、子どものためです。子どもの側も、嘘を見抜いてもらえないと大変です。最初は少しごまかすつもりが、気づいてもらえないと、雪だるま式に嘘をつき続けなければなりません。想像してみてください。 嘘に嘘を重ねていく時間の重さ を。真実を突いてもらえれば、そんな時間からは解放されます。 だから、僕らが気づいてあげて、「いや、お母さん。これはそんな大きな話ではなくて、シンプルな話です」と実情を話しつつ、状況を整理していくこともあります。 昔は、子ども同士で結構そういうことをやっていたんです。リーダー格の子が、「お前、嘘つくなよ」などと言ってくれた。それに似た感覚で、真実を突き、本人を解放してあげることで状態が良くなる子もいます。 ■学校を休む目安は? 楢戸 :今みたいなエピソードを伺うと、「たしかにママだけでは難しいな」と感じます。「(学校以外の)他の選択肢を探す」という段階と、「ちょっと学校を休ませて、少し様子をみてみる」という段階。この時期の見極めは、どうしたらいいでしょうか? はやとかげ : 1ヶ月半をひとつの目途 にしてください。学校を休んでゆっくりさせたのは良かったけれど、1ヶ月半を過ぎてくると、 「ここからはコンディションが下がってしまう一方」 みたいな段階が来ます。 楢戸 :学校に行かない期間が長引くと、保護者にも焦りが出てくると思います。 はやとかげ :1ヶ月半が経ってしまう前から、 (学校以外の)他の選択肢に目を向けはじめる という感覚を持てていると、楽ですね。 「地元の学校に通う」ということが野球だとしたら、スポーツはサッカーやバスケット、バレーやテニスなどいろいろある、そんな感覚です。継続的に通うかどうかは一旦置いておいて、 学校以外の居場所 に見学に行ってみることもおすすめしています。 学校に「行く」「行かない」という 2択の中で子どもを追いつめる のではなく、他の選択肢があることを知るだけで、「やっぱり学校に行くわ」と言い出す子どももいます。「海外に行ってみたら、日本の良さがわかった」というのに似たイメージかもしれません。 視野を広げるという意味でも、家に閉じこもりっきりになるのではなく、 さまざまな教育機会に触れる のは良いことだと思います。 【POINT】 不登校はけっして本人やママのせいではない! 学校に行きたくない理由は嘘をつくこともあるので、クリティカルシンキング(批判的思考)も忘れずに。最初の1ヶ月半の間に学校以外の居場所を探してみよう! 経験値に基づいたはやとかげ校長の言葉には、説得力がありました。次回は、ママやパパがテンパらないために大切なことをまとめてご紹介します。 【花まるエレメンタリースクールとは?】 花まるエレメンタリースクール(通称・花メン)は、学校に行かない選択をした子どもたちのためのフリースクールです。写真は実際の花メンの子どもたち。全員が不登校の経験があるとは信じがたい、生き生きと自信にあふれた表情です。 ●「花メン」の日々の様子: インスタグラム 林 隼人(はやし はやと)プロフィール 花まるエレメンタリースクール校長、ファッションブランド「ノットイコール」代表、農業×ビジネス教室「みんなビレッジ」主宰。元中学校教諭、サッカー日本代表 川島永嗣と立ち上げたグローバルアスリートプロジェクト学長を経て、高濱正伸との運命的な出会いがあり現在に至る。親と離れて暮らす社会的養護の子どもの人権活動にも取り組んでいる。
2024年08月29日夏休みも終わりが見えてきました。お子さんは、2学期を楽しみにしていますか? じつは、この時期は「学校に行きたくない」と言いはじめる子どもが多い時期でもあるのです。 もし、子どもから「学校に行きたくない」と言われたら、どうしたらいいのでしょうか? 学校に行かない選択をした子が通うフリースクール「花まるエレメンタリースクール」の校長“はやとかげ”こと、林隼人先生にお話を伺いました。 林 隼人(はやし はやと)プロフィール 花まる学習会の30年のノウハウが詰め込まれた「花まるエレメンタリースクール」校長で、ファッションブランド「ノットイコール」代表、農業×ビジネス教室「みんなビレッジ」主宰。元中学校教諭、サッカー日本代表 川島永嗣と立ち上げたグローバルアスリートプロジェクト学長を経て、高濱正伸との運命的な出会いがあり現在に至る。親と離れて暮らす社会的養護の子どもの人権活動にも取り組んでいる。 【花まるエレメンタリースクールとは?】 花まるエレメンタリースクール(通称・花メン)は、学校に行かない選択をした子どもたちのためのフリースクールです。写真は実際の花メンの子どもたち。全員が不登校の経験があるとは信じがたい、生き生きと自信にあふれた表情です。花メンでの学びについては、連載3本目でご紹介します。 ●「花メン」の日々の様子: インスタグラム ■「学校に行きたくない」は誰にでも…!? 不登校の現状 楢戸 :子どもに「学校に行きたくない」と突然言われたら、保護者は驚きます。そんなとき、まずはどんな声かけをするのがいいのでしょうか? はやとかげ :大前提として最初に知っておいて欲しいことは、 「学校に行きたくない」という状態は、誰にでも起こりえる ということです。近年、不登校は増加の一途で、社会的認知も進んできました。 楢戸 :たしかに、そうですね。内閣府の資料(※1)にもあるとおり、 不登校の子どもたちは約30万人 に達しており(令和4年度)、 前年度から約22%も増加 しています。小学校35人学級で考えてみると、不登校・不登校傾向の子は4.5人、約12%を占めることになります(※2)。特別支援教育が必要な子どもたちよりも数としては多いのですが、これまでは可視化されてきませんでした。 はやとかげ :大人は、子どもが「学校に行きたくない」と言いはじめたら、理由を探したくなりますが、 本人も理由が言語化できていない場合も多々 あります。 「社会に出たら、嫌なことはいっぱいある。頑張って学校に行きなさい」などと励ますお父さんもお見受けしますが、いまの時代、 (地元の)学校に通うことだけが学びの選択肢ではない ということは知っておいて欲しいと思います。 ■国が認めてる「学校以外」の選択肢 楢戸 :国の方向性を知っておくことも大切ですね。少し難しい話となりますが、大切な部分なのでご紹介すると、2017年に施行された通称「教育機会確保法」(※3)では、国や自治体に下記の措置を求めています。 ●学校以外の場における不登校児童生徒の学習活動、その心身の状況等の継続的な把握に必要な措置 ●学校以外の場での多様で適切な学習活動の重要性に鑑み、個々の休養の必要性を踏まえ、不登校児童生徒等に対する情報の提供等の支援に必要な措置 要は、教育機会確保法成立以後は、国の登校支援の考え方が「学校復帰が前提」から、 「学校に行けない子どもに休養を与え、学校以外の場での学びの重要性を認識していく」という方向に変化 しているんです。 【POINT】 (地元の)「学校に行く」一択ではなく、「いろんな場での学び方を試してみる」という選択肢を国が認めていることを知っておく。 ■学校を休ませたら癖にならない? 楢戸 :国の方向性を理解した上で、具体的なケースで考えてみます。「おなかが痛くて学校を休みたい」と本人が言っていても、親なら明らかに仮病だと気づく場合もあります。そんなとき、 「1回休ませたら、それが連続するんじゃないか」 という不安はあると思います。 はやとかげ :ひとつ言えるのは、「おなかが痛いから休みたい」と言っているときは、 子どもにとってはすでに結構ギリギリのSOSだ ということです。 「仮病でしょう」などと言って本人の気持ちを真っ向から否定するのではなく、まずは 「どうしたの? 何があったの?」 と聞いてみて欲しいと願います。 ■不登校の理由を一番知られたくないのは? はやとかげ :たくさんの不登校だった子どもと出会ってきた肌感覚から話をさせてもらいます。最初の面談で、「どうして学校に行きたくないの?」と聞いたときと、子どもが元気になってから本音を聞けたときとでは、 学校に行きたくない理由が違う んです。 本音を聞いている僕らからすると、 学校に行きたくない理由の根底には、人間関係の問題 があります。でも、子どもの立場からすると、人間関係で苦しんでいることを 一番知られたくないのが、お母さん なんです。自分がいじめられている、仲間外れにされているということを、子どもは隠します。 楢戸 :本当の理由を言ってくれない場合もあるのですね。 はやとかげ :当初は、言ってくれない場合の方が多いかもしれませんね。だからこそ、子どもに「学校に行きたくない」と言われたら、ひととおり理由を聞いたあと、いい意味で深追いはせず 「うん、じゃあ、今日は休もうか」 。最初のひと言は、これがいいと思います。 【POINT】 子どもが「学校に行きたくない!」と言ったら、「どうしたの?」と理由をひと通り聞いたあと深追いはせず、「今日は休もうか」と第一声は子どもの気持ちを受け止める。 今回は、国の登校支援の方向性を理解した上で、初動について伺いました。次回は、百戦練磨のはやとかげ校長に、子どもの心の内を伺います。 ※1:出典 文部科学省「 令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果 」 ※2:出典 内閣府「 総合科学技術・イノベーション会議 資料 」 ※3:出典 文部科学省「 教育機会確保法 」
2024年08月28日