■猫を飼っている人は、さらに対策を
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犬と比較すると、猫のほうが「パニック時に速やかに確保して避難する」ことが難しい、と平井さん。
「その上、隙間に入り込んだらどこにいるかわからない。キャリーバッグに入れて避難できたとしても、トイレやごはんはキャリーバッグの中だけで完結しないので、課題はいろいろあります。
犬ならケージがなくても係留しておく、リードがなくてもひもやロープを使うということができますが、猫はそういったソフト面でのカバーが難しいんです。だからいざというときに逃げ込める場所を作ったり、次の預け場所を考えたり、ハードの方で工夫しなくてはいけない。
例えば、生のエサを食べる爬虫類は、支援物資にフードは入ってこないのでもっと大変なんです。
自分が飼っている動物が、災害が起こったときにどうなるか、飼い主がそれぞれ具体的にイメージしないと、対策はできないと思います」
また災害時、ペットを飼う人にとって心配なのは
犬や猫たちが迷子になってしまうこと。特に猫はなかなか見つけるのが難しいそう。
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「猫は一回逃げると大変で、避難先での場合はさらに難しい。対策として、首輪や迷子札、マイクロチップなどもありますが、それもペットたちが見つからないと読み込むことができません。
『ドコノコ』などのアプリを使うのもおすすめです。『ドコノコ』は居住エリアの避難所を登録することができ、迷子になったときにはすぐにポスターを作ることができたり、登録済みのユーザーに迷子情報がいって、目撃情報を共有できるもの。災害時にも、共助で迷子対策ができてすごくいいなと思います」
■ペットと一緒に「逃げてもいい」
長年、被災地に赴き、
ペットを飼う被災者たちの話を聞いてきたという平井さん。最近の「ペット防災」に変化を感じているそう。
「一番大きな変化は
考え方です。ペットを飼っている人は、元気で健康な人ばかりではなく、高齢者や障害者、妊婦もいます。
動物たちが受け入れられないからといって放したりすると、群れたり、壊れた家の中に入って排泄をしたりします。地域の衛生環境や財産を守ったり、事故を防ぐ意味でも、ペットは飼い主が管理できるようにしておかなければいけない。動物愛護だけではなく、
被災地での混乱をなくすためにも、動物たちを受け入れる対策、避難できる対策が必要、という考え方になってきていますね。
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飼い主はペットを守る責任もありますが、その子たちが社会に迷惑をかけないように備えるという
社会に対する責任もあります。だから、当然飼い主たちも備えなきゃいけないし、行政側も『ペットと一緒に避難できる体制の整備が必要だ』というのが、環境省の取り組みです。人の安全を確保するために、ペットに対する考え方が変わってきていると思います」
避難所にペットと一緒に入れたとしても、
飼い主力が問われるといいます。
「例えば、
西日本豪雨のときは40度近い猛暑のなか、ペットと一緒に
屋外にいた方がいたんです。そのままだと健康上危険なので、ブルーシートを買ってきて避難所の教室の床だけでなく脇の壁にまで立ち上げて貼って、『これなら室内の汚損は防げますよね』と見せたら中に入れてもらえた、というケースがあるんです。
単に『教室にペットを入れたい』と希望を言うだけだと『汚れるからダメ』となり、交渉するのが難しくなるけれど、飼い主さん同士で協力して
“マナーを守ることを示す”と
“理解”につながるんですよね。
ブルーシートやビニール紐などを避難グッズとして用意しておき、飼い主さん同士が協力して飼育スペースを作り、避難所側に交渉するのが現実的です。『やってほしい』と言っても向こうもパニックで、そこまで丁寧に対応できない状況です。まずは飼い主たちが
自主的に提案すること。それがきちんとしていることだったら、やってもらった方が助かるというのが、実際のところだと思います」
■さあ「アクションカード」を作ろう
被災時は誰もが
頭が真っ白になるもの。「慌てないように
「アクションカード」を作り、家族それぞれが持っておくとよい」と話す平井さん。
『猫と一緒に生き残る 防災BOOK』(日東書院)より
「まず、ガスの元栓を締めて、電気のブレーカーを落として、ペットの水とフードを山ほど置いておいて、とりあえず子どもと避難しましょう、と単純なことなのですが
“その行動だけをする”ということを書いておく。
特に規模の大きな災害のときには、書いておかないと本当に何もできなくなります。
ご自宅で家族と一緒に作って、
視覚的に見せるとわかりやすいです。
お子さんと一緒に話すだけでも意識が変わりますよね。
例えば、自宅や旦那さんの携帯電話、会社の電話番号なども、いざとなると言えなくなるので、自分のライフスタイルに合わせてアクションカードに記しておく。
連絡の取り方や
どこに集まるのかということも決めておいたほうがよいです。
平井さんが作る『ペット防災BOOK ~大切な家族のために今できること~』(発行:公共社団法人東京都獣医師会 1,000円 税込)には、アクションカードの作り方も。
避難所を決めておけばいいと思いがちなのですが、東日本大震災のときには、同じ避難所にいたお母さんと子どもが会えたのは翌日だったというくらい大混乱していたので、
『避難所のこのあたり』と、より具体的な場所を決めておきましょう。
『移動する場合は、その旨を記した張り紙を貼る』というルールを決めておくだけでも、
再会の可能性はすごく上がるんです。また、自分の住んでいる地域以外にいる親戚を『緊急連絡先』に決めておいて、そこにみんなが安否を知らせる方が、災害伝言ダイヤルよりもわかりやすい。
細かく作る必要はなく、
まず生き延びて、連絡が取れて、安否が確認できることを、目標に決めればよいと思います」
■猫1匹、子ども1人のわが家の場合
筆者も本書に沿って、シミュレーションをしてみました。
横浜市在住の私は、フリーランス。自宅作業がほとんどですが、ときどき都内や遠方に取材に行くことがあります。夫は都内勤務。子どもは4歳で徒歩圏内にある保育園通い。やや太めの猫1匹と暮らしています。一戸建てに暮らし、水や軍手、懐中電灯、缶詰といった最低限の非常用グッズは用意しています。
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もし
在宅避難する場合。今まで準備していなかった必要なことを書き出してみました。
・猫に迷子札とマイクロチップをつける
・食器棚に扉をつける
・避難グッズの一部を車にも用意しておく
家族の食事や猫用フードはストックがあり、カセットコンロもあるため、家が大丈夫であれば、電気やガス、水道などのライフラインが止まってしまったとしても、なんとか過ごせそうです。
同行避難する場合。猫をつかまえて避難準備をしますが、一人では猫を抱えて歩くことが難しいので、今あるキャリーでどう運ぶのか、またはほかのものを用意するのか、
考え直すことが必要そうです。
・猫のための非常用持ち出しグッズを準備する
・猫用のケージを購入する
・キャリーに慣れさせる
・人に慣れさせる
・簡易テントの購入を検討する
・猫の預け先を考える
夜間に発生したときは、家族が揃っているので協力し合えますが、一番心配なのは、
昼間の外出時。見守りカメラや、シェルターになるスペースを作っておくことを検討したいと思います。
また、以下のことを書いたアクションカードを作り、
夫婦で共有しました。
・私の携帯番号
・夫の会社の連絡先と携帯番号
・子どもの保育園の連絡先
・近くに暮らす義父母の固定電話の番号
・遠くに暮らす両親の固定電話の番号
・避難場所の詳細(どの場所で待ち合わせるか)
・避難時にすること
アプリの『ドコノコ』をこれを機にダウンロードし、愛猫の写真や情報と避難所を登録しました。猫に負担を掛けないように、猫の体重と同じ重さにしたペットボトルを入れたキャリーを持って、実際の
避難ルートを一度歩いてみて、さらに必要なものやことについて、家族で話し合ってみたいと思います。
子どもとペットを持つ筆者は、特にしっかりとした準備や周りへの配慮などが必要だと思いました。被災時だけでなく、避難所に行くことになったとしても、いろいろと対応しなければいけないことがほかにもありそうです。
■“助けてもらえないマイノリティだ” という考えは捨てる
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最後に、ペットと暮らす子育てママ・パパたちに伝えたいことを平井さんに伺いました。
「災害が起こったあと、地域をもとに戻す
復興力は、支援の人だけによるものではなく、
自分たちも動いていくことなんですよね。ちゃんと自分たちで街を復興していこうという『自立支援』に持っていくことが、災害対策ではすごく大事なポイントだと思っています。
だから動物と暮らす飼い主さんは、“助けてもらえないマイノリティだ”という考え方は捨てて、“自分がサバイバルしていく”という気持ちになってもらいたい。公助(行政の支援)がなかなか届かなかったとしても、飼い主同士、親同士が協力し、なんとか乗り越えていけるような力を、飼い主としても、親としても持ってほしいです。
それには、公助が来るまで、個人や家族、地域単位で助け合ってしのいでいくことも必要です。動物ならペット仲間、お子さんがいる方なら親御さん同士のネットワークを作っておき、情報を共有しあう。ペットの飼い主とお子さんがいる方では、同じような協力の仕方ができると思うんです」
『猫と一緒に生き残る 防災BOOK』(日東書院)
いろいろなケースを示してくれる平井さん監修の『猫と一緒に生き残る 防災BOOK』は、災害に備えて
想像力を働かせるきっかけになるはず。
被災直後にするべきことや、猫の応急処置などもしっかり書かれていて、とても参考になります。猫を飼っている方はもちろん、他の動物を飼っている人もぜひ一読して、
わが家のオーダーメイドの災害対策を考えてみましょう。
取材協力:
NPO法人アナイス
『猫と一緒に生き残る 防災BOOK』
『ペット防災BOOK ~大切な家族のために今できること』
いぬねこ うちのこ。