いま地震がきたら、保育園にいる子どもはどうする? …働くママにとって地震をはじめ、台風や豪雨などの自然災害は心配の種ですよね。
イラスト:アベナオミ
先ごろ発売された
『全災害対応! 子連れ防災BOOK 1223人の被災ママパパと作りました』は、離れているときに子どもを災害から守るためにどうすればよいかのヒントがいっぱい詰まった1冊。被災パパママの声をもとに作られたリアルな防災本です。
右:ママプラグ アクティブ防災事業代表の冨川万美さん。左:『全災害対応! 子連れ防災BOOK 1223人の被災ママパパと作りました』ママプラグ著(祥伝社)1,404円(税込)
災害から子どもの命を守るためには、物を備えるハード面に加えて、
災害時の行動のルールを作るソフト面もとても重要だそう。本を手がけたNPO法人ママプラグ代表の
冨川万美(とみかわ まみ)さんに詳しい話を聞きました。
NPO法人ママプラグ
クリエイティブな視点で家族の未来を設計する事業型NPO法人。自ら考えて動く「
アクティブ防災」を提唱し、全国で防災講座を展開するほか、女性のキャリアを豊かにする「キャリア事業」などを中心に活動。企画した書籍に『被災ママ812 人が作った子連れ防災手帖』(つながる.com)、協力した書籍に『被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40』(アベナオミ著)など。
https://web-mamaplug.com/
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@active_bousai
■親は子どもを守れない?!
子ども一人で対応するスキルとは
「子どもは自分が守ろうと思っている」。 YESか、NOか。
イラスト:アベナオミ
「この質問は全国の防災講座で、ママたちにいつも聞くんですが、毎回100%手が挙がるんですよ。でも、本当は違っていて、
『あなたはお子さんを守れないかもしれません』。そう話すとみなさん、“どういうこと?”という顔をしますが、実際子どもが手の届くくらい近くにいるのなんて1日のうちのほんの数分くらい。同じ部屋にいても地震の揺れがひどければ動けませんし、自分がケガをしてしまうかもしれません。
子どもの名前を呼んだら、お母さんに近寄ろうとしてうっかりガラスの上を歩いてケガをしたという子もいました。ただこれは、
ガラスの上を裸足で歩くと危険だと知っていれば防げたケガなんですよね。親としては、子どもが自分で自分を守れるように
知識を与えて、体で覚えさせることが大切です」
イラスト:アベナオミ
子どもと離れ離れになったとき、子どもが一人で対応できるスキルがあれば、生存の可能性も高まります。一例として、頭を両手で抱えてまるまって身を守る
「だんごむしのポーズ」は小さな子に教えるのにもおすすめ。ポーズと合わせて、頭をケガすると危ないということも伝えましょう。教えるときは恐怖心を与えないよう遊びの中で一緒に練習するのがよいそうです。
このほかにも今すぐ簡単にできるのは、
トイレをがまんしないこと。子どもはギリギリまでがまんしがちですが、行けるときに行っておく習慣をつけておくと災害時にも役立ちます。
■災害時はトラブルが3倍に!
「家族の問題」が顕著に現れる
イラスト:アベナオミ
災害時には、
心や身体にさまざまな問題が出ることも認識しておきたい点です。
DMAT(災害派遣医療チーム)/DPAT(災害派遣精神医療チーム)/日本赤十字医療センターメンタルヘルス科/半蔵門のびすここどもクリニック副委員長の河嶌譲先生は、本の中で次のように語っています。
「子どもが、突然の意識消失を引き起こしたり、頭痛や腹痛をうったえたり、手足が動かなくなったりするなど、さまざまな身体症状が現れることがあります。年齢にそぐわない甘え方をしたり、わがままになったり、現実にはないことを言い出したりします。これらはすべて
異常な状態に対する
正常な反応です。ムリにやめさせようとせず、子どもの言葉に耳をかたむけるようにしてみてください」
災害時は誰もが心の余裕がなく、トラブルは
平時の3倍程度になると心得ておくとよいのだとか。親は「いきなり性格が変わった」と感じるかもしれませんが、普段からストレスに感じていたことが、大きな災害によるストレスで
表面化するだけ。
これは災害時に限らず
学校のトラブルなどでも起こるので、普段でも子どもに大きな変化があれば「学校で何かあったのかな」など、気づくきっかけにもなります。
人間関係のトラブルも同じで、ママ友や夫婦間のぎくしゃくも災害時は
増幅するそう。実際に「震災によって家族のきずなが強まった」という家族もいれば、「夫婦仲が悪くなって離婚に至った」という家族もいます。日頃から気になっている人間関係は、解決しておけるとよいですね。
■災害時の家族のルールは、より具体的に決めておく
イラスト:アベナオミ
避難所は、明かりも消せないし、いつもと違うことばかりで落ち着きません。震災後のストレスで子どもが泣いたり騒いだりすることもあり、子連れファミリーが過ごすには、実はとても
過酷な場所。子連れの場合、やはり
自宅避難が基本となることが多いと冨川さんは言います。
「家屋が倒壊の恐れがあるなど、やむをえない事情で家に帰れないこともあると思いますが、避難所に長く生活するというのは、子連れには難しいと思ったほうがいいですね。被災地の外、たとえば実家などに避難することも考えたほうが気持ちに余裕ができます。
罪悪感やセキュリティの不安などから被災地に残る人も多いのですが、非常時は
なにかを割り切る必要がありますね。 “パパは仕事や復旧のために残るけれど、子どもとママは○日経ってもライフラインが復旧しなかったら実家に帰る”など、なるべく
具体的に決めておくとよいと思います」
非常時に冷静な判断をするのは難しいですし、家族の意思や決断の
ズレは夫婦の溝を深め、ときとして離婚につながることも。災害時の
家族のルールを決めることは、家族で防災に関して話し合い、意識を高めるきっかけにもなります。
■保育園へ迎えにいけないときはどうする?
イラスト:アベナオミ
働くママは、1日のかなりの時間を子どもと離れて過ごしています。自分が会社にいて、子どもは保育園。そんなときに災害が起きたらどうすればよいのでしょうか。
東京都では大規模地震が発生したとき、みんなが一斉帰宅をすると緊急車両の通行の妨げ等になることから、災害時は72時間帰らない
「一斉帰宅抑制」を推進しています。つまり、帰りたくても帰れない、ということも起こりえます。
「パパもママも都心で働いている場合は、ムリをして帰宅しないことも大事。保育園にも3日間は帰ってこられないかもしれないということを話しておく必要がありますね。夫婦どちらが迎えに行きやすいかは話しておいて、どちらも難しいときは誰が迎えにいってくれるのかを考えておく。
保育園ママでも職場が近いなどの理由で迎えに行ける人はいるので、やっぱり
ママ友ネットワークは大事ですね。日頃からLINEグループなどでつながって、“こういうときはお願いします”とお互い協力しあえるように話しておくとよいですね」
イラスト:アベナオミ
本にはこのほかにも具体的な
家族の防災ルール作りのポイントや医療従事者による災害時のアドバイスなど、知っておきたいのにこれまであまり情報がなかった
子連れ防災のノウハウが満載。レジャーの延長線上で防災意識を高める
防災ピクニックや
防災キャンプのポイントも紹介されています。
「ピクニックやアウトドアなどは防災とリンクする知識が多く、
キャンプをやっている家庭は災害にも強いですよ。震災のときもキャンプ気分で楽しんで子どもが泣いたりしなかったというファミリーもいます」
親子のアウトドアはいい思い出になるし、パパの活躍シーンもいっぱい。ママ友と家族ぐるみで防災を意識したピクニックやキャンプを楽しむのもよそさそうです。
「子どもを守るためにパパやママがやっていくべきことは、恐怖におびえながらストイックに防災に取り組むのではなく、
“楽しみながら、日常生活の質を底上げすること”」と冨川さん。この本を読むと、防災が「ちょっと面倒くさそうなもの」から「やってみようかな」というものに変わります。
『全災害対応! 子連れ防災BOOK 1223人の被災ママパパと作りました』
NPO法人ママプラグ(祥伝社)1,300円(税別)
「子連れ」に焦点を当て、防災バッグの考え方や必要なグッズはもちろんのこと、防災に強い家族になるために必要な、家族間の連携を図るための方法や遊びながら防災力を身につける方法などを、イラストを交えて楽しく紹介。全災害に対応日本に暮らすすべての子連れ家族に役立ててもらいたい1冊。
子どもを救う防災