2021年11月12日 20:00
“痛みの記憶”を共有する、緊迫の75分 ―NODA・MAP番外公演『THE BEE』
野田秀樹の傑作、と出だしから絶賛では興醒めかもしれないが、本当にそう実感する衝撃の舞台『THE BEE』、その日本版が9年ぶりに上演中だ。野田が9.11アメリカ同時多発ゼロに触発され、ロンドン演劇人とワークショップを重ね、筒井康隆の小説『毟りあい』を下敷きに、初めて英語戯曲(コリン・ティーバンとの共同執筆)として発表した作品である。“報復=暴力の連鎖”をキーワードに、人間の奥底にある暴力性や残虐性、差別意識などを露呈させる戦慄のドラマは、2006年のロンドン初演からワールドツアーを経て、世界各地の観客に興奮と恐怖を味わわせて来た。
今回の日本版では、これまでの『THE BEE』全公演で出演も兼ねて来た野田が、初めて演出のみに専念。事件に巻き込まれるサラリーマン“井戸”役に阿部サダヲ、脱獄囚“小古呂”の妻とリポーターを演じる長澤まさみ、百百山警部・シェフ・リポーター役に扮する河内大和、そして“小古呂”とその子ども、さらに刑事“安直”とリポーターまで巧みに演じ分ける川平慈英と、演劇好きにはたまらない魅力の布陣が、野田の緻密な采配のもとに新たな衝撃を生み出した。
ごく普通のサラリーマンである井戸は、脱獄囚の小古呂に妻と子供を人質にとられ、自宅を占拠される。