久しぶりの笑顔【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第4話】
「新しい! 新しい意見をありがとう。桃香!」
と叫んだ。
鮎子の母もうれしそうだ。
「そうよね。走れないわけじゃないのよ。ちょっと左足をひきずるけど運動はできるはず。普通の歩き方ができないのが慎ちゃんのコンプレックスになってるかもしれないわ」
「そうだね、その気持ちは本人にしかわかんないよね…」
鮎子もうつむく。
ケーキの上でイチゴがプルンと揺れた。
桃香は慎吾のことがとても気になり始めていた。はにかむような表情が桃香の心にソっと入り込んだ。バイトと家のふたつしか世界がないなんてダメだ。夢を事故で邪魔されたからって言って閉じこもってちゃ、感動がない人生になっちゃう。そんな思いが桃香の頭の中をグルグル回る。
「鮎子、私、慎ちゃんとお友達になるね。おせっかいかもしんないけど、慎ちゃんがもっと笑顔になればいいって思うから…」
母が言う。
「桃香ちゃん、ありがと。
あの子このままじゃガールフレンドもできないまま青春を終わらせるんじゃないかって心配してたの」
「おかあさん、青春なんて言葉、古いかも」
「あら、テレビドラマでも使ってるじゃない。おかあさんはね、気持ちはいつも青春時代のままよ。今度、自由が丘でランチしましょう。女子会っていうの? やりましょうよ」
3人で笑い合った。慎吾は2階の自分の部屋で何をしているのだろうか。桃香は階段の方にチラっと視線を移した。
(続く)