ヘチマとシャネル【彼氏の顔が覚えられません 第5話】
朝。ラジオから流れるのは、毎年お馴染みの曲。「マライア・キャリーで“恋人たちのクリスマス”。さて、今夜はクリスマスですよ、みなさん! 一年、はやかったぁーっ!」DJが、テンション高めに紹介する。
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整理する、記憶を。昨日の日記を書く。そうするのは、いつも朝と決めている。
ユイから借りたDVD。
カズヤのメガネ姿。なんとなく思い出した高校時代、野球部のコたちにからかわれたこと。心理学の授業、穴開けパンチ。あと、カズヤからのLINEメッセージ。
なんか、だいぶ偏ってるな。ま、いいか。日記に全部は書けない。大切な出来事の優劣には、個人差がある。
あ、でもこれぐらいは足さなきゃ。実家から届いた封筒。母親の書いた手紙と、1枚の写真。
「私たちの顔、すぐ忘れちゃうだろうから。写真を付けておきます」
四隅に、クレヨン画みたいなかわいいスズランの絵が印刷された便せんには、そう書かれていた。忘れちゃうんじゃなくて、覚えられないんだってば。母親も、私の病気のことがよくわかってないっぽい。
写ってるのは多分、母親とおじさん。
こんな写真の顔、がんばって覚えても、また会うときはぜんぜん違う顔してるんだろう、きっと。写真と実物じゃ、私にとってはキュウリとヘチマくらいぜんぜん違うのに。