イブの夜と社畜【彼氏の顔が覚えられません 第6話】
「よっ」
キャンパス内、スペイン語の授業に向かう途中。目の前に立ちはだかった男性の顔を見つめてる。
画像:(c)xy - Fotolia.com
黒マジックで、顔にラクガキされてる。口の周りには、カールおじさんみたいなヒゲ。額の方にも、なんか文字。
しらないひとだ。
そう思い、彼の脇を抜けていこうかとしたら、「おい、待てっ」と、手をつかまれた。覚えがある感触。
よく聞いたら声も。マジか。
「カズヤ?」
「一応、そのつもり」
歯切れ悪い。でも、カズヤなんだろう。
「なんの冗談?」と、右手の人差し指で顔を指さす私。
「昨日、2年の先輩の家に泊まって…寝てる間にヤラレタ。こうすれば、彼女もちゃんと顔わかるだろって」と、左手の人差し指でほほをかくカズヤ。
だからって…額に「イズミの彼氏」って。
恥ずかしい、恥ずかしすぎる。
「教室行く前に落として」
「ムリ。登校前にもがんばって落とそうとしたけど」
頭がクラクラする。
「じゃ、せめて隠して」
カバンから箱詰めのマスクを取り出す。あと確か、ばんそうこうも…あった。幅広で、長方形っぽいやつ2枚。