イブの夜と社畜【彼氏の顔が覚えられません 第6話】

「おぉ、さんきゅ。イズミって、マメだね」

前日に言ってほしかったこと、こんなタイミングで言われる。

まぁ、マメというか、実際はその逆。ズボラで、なんでも詰めちゃうから。私のカバンはいつも、旅行者みたいにパンパンだ。

「そもそも、なんでイブの夜、私を放ってサークルの飲みとか行くかな」

マスクをし、額にばんそうこうを貼るカズヤに言う。それでもだいぶアレな見た目だけど、少しはマシ。

「しょうがねぇじゃん、付き合いでさ」

会社員みたいな返事。
これゼッタイ、社畜になるパターン。なんでこんなの彼氏にしたのか。

「ってか、飲みの後、会いに行く予定だったんだよ。なのに、『ムリ』とかさぁ~。俺もショックだよ」

「だって、いきなり部屋は」

散らかってるし。その言葉を飲み込んで、私は続ける。

「一応、聞くけど。アルコールは?」

「飲んでない。
未成年だし」

そんなとこだけマジメかっ。だったら一次会で帰れっ。

そんな会話してるうちに、チャイムが鳴る。「やば、急ごう」と、私の手を取り駆け出すカズヤ。

「お、イズミー」

校舎に入り、廊下でふっくらした女性とすれちがう。

「あ、ユイおはよー」

彼女の隣の女性も、私を見て「おはよう」と言う。マナミかな、たぶん。

「お、カズヤ?」「夫婦仲いいな、ヒューヒュー」

男性たちも声をかけてくる。
同じスペイン語クラスの生徒か。たぶん私は、カズヤと付き合ってなきゃ、彼らに声もかけられなかったろう。そう思うと、少しうれしい気もする。

ただ、これから先も私は、彼らの顔を覚えることはないだろう。カズヤの顔を覚えられないのと一緒で。

教室に入る。「Hola」と、先生。その挨拶がなければ、それが先生だとも判断できない。
彼はまだ教壇の位置におらず、生徒も全員は席に着いてない。

「Lo siento」律儀に謝る私。授業は、もう始まってる。

(つづく)

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