ありのままの自分とごみ袋【彼氏の顔が覚えられません 第10話】

どうしよう。いっそこのまま、どうもしないとか。これが「ありのままの自分です」とか言って。カズヤ、案外大丈夫かもしれない。わりとテキトーな性格してるし…。

いや、ダメだ。カズヤが許しても、私自身が許せない。キッチンから大きめのゴミ袋を持ってきて、目に付くもの、手当たり次第にがーっと入れる。
荒々しいやり方だけど、もう時間がないんだからしょうがない。パンパンに膨らんだ袋の口をきゅっとしめたら、押入の中にぶち込む。

明らかにいらないものだけは、2秒で判断して、ゴミ箱へ。こういうときに役立つ手だ。2秒考えて「捨てよう」と決められるものは、あとで思い出したとしても、「しょうがないか」とすぐあきらめられる。3秒後には「捨てたら後悔する」なんて無駄な恐れが湧くので、できるだけその前に行動へうつす。

そうやって作業を繰り返していくと、意外に部屋は片付いていく。しばらく見なかったフローリングの床とも、再会を果たせた。
やればできんじゃん、断捨離。

…いや、押入にたまった袋の数見たら、前言撤回。どうせカズヤが帰って、またこの中身ぶちまけたら元のもくあみだろうなとは思うけど。とりあえずは忘れよう。しばらく私は、ありのままの自分であることを捨てる。片づけ上手なファッション大好き乙女の皮をかぶって、彼を迎え入れよう。

最後の仕上げの雑巾がけを終えた時刻は、午後2時ごろ。お腹が空くのも気づかず掃除してしまった。
頑張り屋さんじゃん、私。「本来は年末にすべきことなんだけどね」って、ユイなら言いそうだけど。

すっかり片付いた部屋を見る。私の心もすっかり片付いたような気がする。ん、ハッタリでもいい。私は一歩新しい自分にシフトしなきゃいけないって思う。私とカズヤの関係を、シフトさせるために。

さあ行かなきゃ、カズヤに会いに。


(つづく)

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