時間が止まった瞬間【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第12話】
慎吾はコートから目を離さず食いいるように練習風景を見つめている。
(c)milatas - Fotolia.com
時折やって来るこぼれ球を返すとき、必ずボールを手に取ってひと呼吸ついた。まだボールがなじんでくれない。「お前は俺を捨てたんじゃないか」とボールに責められているような気がする。
自分はボールを蹴ることで生きてゆく、世界中のコートでボールを蹴るんだと思っていたのに、なぜボールと距離を置くようになったのかいまだモヤモヤしている。サッカーから逃げた俺、仲間から逃げた俺。情けない自分像が浮かんでは消える。
今、目の前でボールを追っているメンバーたちは、こんな弱い自分を受け入れてくれるのだろうか。
趣味で蹴っているのと、夢を託して蹴っているのでは全然違うんじゃないか、どういうスタンスで蹴ればいい? 今更、コートに戻って来てもいいのだろうか。悩めば悩むほどわからなくなる。
練習が終わり、冬馬が慎吾にチームの説明をした。
「2ヵ月に1回くらい他のチームと試合するから、それに向けてけっこうまじに練習してるんだ。よかったら参加してくれよ。そんな強くないんだけど」