頭の中ではじけた声【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第13話】
慎吾が近所の公園でボールを足首に乗せる練習をしている時だった。後ろから声がした。
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「おい、慎吾? 慎吾じゃないか」
昔のサッカー仲間だった。慎吾はドキっとした。あの事故以来、慎吾は引きこもりになったと噂を流した連中だ。表面では頑張れ、立ち直れと言っていたが、影で「もうあいつはおしまいだ」と言っているのを耳にした。それから慎吾は人を信じなくなっていたのだ。
「なんだ、サッカー復活したのかよ。
すげえなあ。エースストライカーだったもんな。怪我、治ったんだ」
「おい、今、どっかの会社に所属してるのか?」
「てか、自宅療養してるって聞いてるけどな」
興味本位の質問が矢継ぎ早に飛んでくる。慎吾の心の窓が、またバタンと閉じようとしている。ボールを脇に抱えて、下を向いた。
「何か言えよ。どうしたんだよ」
体育会系のいかつい奴が声を荒げる。こんな奴らと一緒にサッカーをしていた自分が馬鹿みたいに思える。
こぶしを握ると、桃香の艶やかな声が頭の中ではじけた。
"慎ちゃん、強くなんなよ。負けてない?"