湯たんぽみたいな人【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第19話】
高校の頃はただの友達と思っていた冬馬が、たくましい大人の男になって現れた。時の流れは人を変える。外見も考え方も恋愛観も。
仕事中、冬馬から飲みに行こうと誘いのメールが入った。すぐにOKした。なぜか冬馬とたくさん話をしたいと思う。仕事の愚痴や歌手になる夢を聞いて欲しいと。
歌入れのバイトのあと、桃香は冬馬が待つ品川のカフェダイニングに向かった。
顔を突き合わせて話をするのは久しぶりのことだった。
「のどカラカラだよう。まずジンジャーエール!」
桃香は明るく切り出した。慎吾やフットサルのことはまったく話さず、高校時代の友達の今の様子ばかりを語り合う。小川が居酒屋の雇われ店長になってテンパってること、喧嘩ばかりしてた三瀬と佐野がくっついたこと。ふたりともが無意識にそんな話題を選んでいた。
単純に楽しい時間が流れる。桃香は肩にしょっていたコリのようなものが冬馬の存在でほぐされて、とれるような感じがした。
慎吾といると自分がしっかりしなくちゃ、リードしなくちゃとやけに頑張ってしまう。等身大の自分よりちょっと大人のふりをする自分が出てくる。冬馬のまでは素直に弱いところを見せることができる。
「冬馬って湯たんぽみたいな人だね」
「は?」
冬馬が首をかしげる。
「どういう意味だよ」
桃香は自分の肩を撫でながら
「なーんか、このへんが楽になった気がする…」
とおどけた。
「肩こりか? 揉んでやるよ。俺、習ったんだよ。スポーツマッサージってやつ。
肉離れの選手にしてやるんだ」
「いいよ。今時はさ、肩揉んでやるってセクハラおやじって言われるんだよ」
「うわっ。あぶねえー」