約束とバスターミナル【彼氏の顔が覚えられません 第15話】
「恋って、いつか終わりがきちゃうって思っちゃうときがあるのよ。たとえどんなに幸せでも。ううん、幸せなときこそよけいに」
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ユイがいつか言ってた。何ヶ月か前のカフェでだったかもしれないし、年末に新宿駅西口のバスターミナルでつきそってあげてたときかもしれない。シチュエーションは重要じゃない。スタバかドトールか、何番乗り場かなんてどうでも。言葉だけハッキリ覚えてる。
「イズミは恋愛初心者だから教えてあげる。
こんな恋、たいがい長続きしないから。そんなこと考えてる時点で、あきらめモードに入っちゃってるってわけ。ずっといっしょにいられるわけないっていう、ね。だから…」
“だから”、そのあとユイは、なにを忠告しようとしてくれていたのだろう。ちょうどそのタイミングで、店員が温められたベーコンサンドを持ってきたか、待ってたバスがきたかして、話が中断されてしまった。
続きをすぐにLINEで聞けばよかったのか。いつでも聞けると思ってた。いつもつながってるって思ってたから、いつのまにか関係が断ち切れたことに気づけなかった。
冬休みで地元へ帰っただけだと思ってたのに、ユイはあれから大学へは戻らなかった。LINEもブロックされていた。理由を知ろうにも、共通の知り合いはあのいやな子豚ちゃんしかいないし、仕方なく生徒課まで尋ねに行った。
「自主退学されてますね」
言われて、言葉が出なかった。
理由はわからない。大学に飽きたか、ほかにやりたいことが見つかったのか。あるいは、実家で何か不幸ごとがあったのかも…お父さんが亡くなって授業料が払えなくなったとか。いずれにしても、ユイは言ってくれなかった。
黙って私の元から去った。